物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
王女姉妹の計画として、孤児に魔道具作成の仕事を任せることになる。そのために、学校もどきのノウハウを活かしたい。
そうなってくると、挙げられるのはほとんど限られた相手になってくる。少なくとも、学校もどきの関係者。
秘書組であるジャンやミルラに任せるのは、さすがにブラック家が傾いてしまう。ただでさえ負担の大きい仕事をいくつも任せている中核で、ブラック家の要。離れられたらマズい。
そうなってくると、次の候補は学校もどきの生徒だった人たちになる。それも、重要な仕事を任せていた相手。
だが、そちらも重要な仕事をいくつも任せている。どこまで凍結できるかも含め、まずは相談が必要だ。
ということで、話の場を設けることになった。相手は、サラとシュテル。
目の前で真剣な顔をしているふたりに、すぐに話していく。
「サラ、シュテル。負担が大きすぎるなら断ってくれても良いと前置きしておく」
「レックス様が不安になるくらいだと、聞かないとなんとも言えない」
「いかなる指示にも従います! レックス様がお望みになる限り!」
サラは素直な反応をしてくれている。無理なら無理と言ってくれるような態度は、かなりありがたい。なんだかんだで抱え込みがちに見えるから、注意は必要だろうが。
対するシュテルは、本当に狂信者としか思えない。本当に不安になってくるので、困る。
いや、慕われていることそのものは嬉しいが、無理をされて倒れられたら一番悲しい。それに、現実的な負担としても急に人手不足になるのは困るからな。
つい、サラに目を合わせてしまう。相変わらず、淡々とした顔に見える。
「サラ、本当に頼むぞ……。大変なのは分かるが……」
「レックス様!? 私が信用なりませんか!?」
目を白黒させながら、シュテルは叫ぶ。
まあ、正直なところ信用という意味では微妙に答えづらい。俺を裏切らないという意味では、絶対だと思える。それこそ、物理的に洗脳でもされない限りありえないと言い切っていいだろう。
だが、仕事という意味では過激なスタンスで妙なことをしないとは言い切れないんだよな。
これは、なんと答えたら良いものやら。
「シュテル、レックス様は現実的な手段を望んでいる」
「そういうことだ。気合いを入れすぎれば、最悪死んでしまうからな。何があっても避けたいところだ」
「レックス様……!」
シュテルは感極まったように、両手を握っている。ちょっとした気づかいでそこまで感激されると、逆に発言に困ってしまうんだよな。
たぶん、あまりにも信心が深すぎる相手は宗教組織でも持て余すんだろうな。なんというか、実感できてしまう。
「抱っことナデナデがあるのなら、大抵の頼みは聞く」
サラもいつも通りの態度だ。対価が少なすぎることもあって、これはこれで不安ではあるのだが。ただ、サラは率直な物言いをする方ではあるので、本当に無理なら無理と言ってくれるだろう。
とりあえず、まずは相談しないことには話にならない。
「じゃあ、本題だ。ミーアたちが、孤児に魔道具作成の仕事を与えたいらしくてな」
「学校もどきと同じようなことでしょうか。であるならば、私たちというのも理解できます」
「魔道具運用の仕事を休めば、可能。両立は難しい」
魔道具を使ってブラック家を防衛する仕事の責任者でもあったからな。いくらなんでも、別々の場所で行われる複数の仕事の責任者を兼務するのは不可能か。
まあ、ミレアルと戦うまでに期間はあるから、優先順位としては孤児の方が大きくはあるだろう。
それに、もともとサラとシュテルの負担が大きすぎたからな。そのあたりの代わりができる人材も必要だ。
となると、引き継ぎの期間も含めて動くのが妥当だろうな。
「そうなるか……。王国にも人材はいるだろうから、最低限の形を整えるまででミーアたちを説得したいところだ」
「レックス様に仕えるのが、私どもの役割です! 引き抜きのような形になるのなら、たとえ殿下といえど……!」
「言い方はともかく、同感。私たちは、レックス様のしもべ」
シュテルは必死な様子で詰め寄ってくるし、サラも真顔で俺のことを見ている。その忠誠心に応えるのも、大事なこと。
ふたりが俺のもとで働きたいというのなら、そうできるように状況を整えるのが俺の仕事だ。
「ありがとう。ふたりの気持ちに応えられるように、話を進めておくよ」
「感謝いたします! やはりレックス様の心は、大空よりも広く澄み渡っています……!」
「抱っことナデナデ、倍。それでいい」
ほぼ無償で受けられかねないのは、普通に不健全だとは思う。とはいえ、金銭くらいしか対価は渡せないんだよな。領地を任せるとかそういうのは、できたとしても断られそうだ。俺と遠ざけるだけになるから、さっきの話にも反するし。
となると、まあふたりに委ねるしかないのか。主としては情けなくもあるが、何も渡さないよりはマシか。
「俺にできることがあれば、なんでも言ってくれよ」
「な、なんでも……。ごくり……」
「シュテル、レックス様への敬意を忘れてる」
「はっ、申し訳ありません、レックス様! しもべが過分な望みを……」
顔を真っ赤にしたシュテルが頭を下げてくる。サラの言葉からして、主にねだるには難しいことを想像したのだろう。
まあ、大抵のことなら許すつもりではあるが。死ねとか言ってくるふたりではないのだし。
「気にしなくて良いからな。むしろ、言ってくれた方が助かるくらいだ」
「抱っことナデナデ以上を求めても良いのなら、妾にでもしてほしい」
サラは真顔でとんでもないことを言ってくる。シュテルも目を見開いていた。
それでお礼になるという価値観は、ちょっとビックリする。慕われているのは分かるから、完全に理解できないほどでもないとはいえ。
「サラ……! 私より先に、なんてことを……!」
「シュテル、本音が出てる。レックス様は、言うだけなら構わないと言った」
シュテルはサラの袖をちょっと強くつかんでいる。これはおそらく、シュテルの代わりに言った側面もあるのだろう。
普段の態度がほとんど抱っことナデナデだからあれだが、サラはかなり気が回るタイプなんだよな。
たぶん、俺に抱っこやナデナデをねだってくるのも、あまり多くの報酬はいらないという遠慮でもあるのだろうし。
サラの気持ちが本音だというのなら、応えない方が不誠実ではあるか。他にいくらでも要求できる中で、わざわざ言ってくれたのだし。
というか、かなり言いづらいことを言ってくれたからな。雑に扱うことは許されない。
「そうだけど……! いくらなんでも、過分すぎないかしら……?」
「結婚相手との関係もあるから、確約はできないが……」
「それで十分。たぶん、私たちの想像している相手なら認められる」
「候補は思い浮かぶものね……。ということは、レックス様……!」
淡々と話すサラと、顔が華やぐシュテル。やはり、本心であるようだ。結婚相手も、まあ俺の知り合いにはなるだろうからな。許可が出そうな相手は、確かに多い。
「そこまでして求められて、嫌とは言えないな。ありがとう、ふたりとも」
「やる気いっぱい。できるだけ早く、レックス様のところに戻ってくる」
「そうね……。レックス様に、お認めいただいたのだもの……」
サラは拳を握って気合いを入れているし、シュテルは頬を染めてボーっとしている。
未来の一部が決まってしまったようだが、そのくらいでふたりの忠誠に答えられるのなら安いものか。
しっかりと、覚悟を決めておかないとな。