物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
王女姉妹の動かす事業において、最終的にはいくつかの拠点を持ちたいという話になった。とはいえ、俺から出せる人員がサラとシュテルのふたりである以上、いきなり多くを運用するのは難しい。
それに、信用できる相手から順番に事業を進めていきたいということもある。そこで、公爵家の当主であるルースの名前が挙がった。
俺としても納得できるので、こちらからも話を通すことになった。王女姉妹から話は受けている段階とのことで、それを前提に通話をしていく。
ひとまず、関係あるとのことでルースの右腕であるスミアも。
「ルース、スミア、久しぶりだな。その会話が仕事というのも、寂しい気はするが」
「ふふ、もっとあたくしを恋しく思っても構わなくってよ?」
「レックス様とお話できるのなら、とっても嬉しく感じちゃいます!」
ルースは以前のように不敵に、スミアは元気いっぱいに返事をしてくれる。とりあえず、声を聞く感じでは元気そうだな。
「旧交を温めたいところではあるが、さっそく本題に入ろうか」
「ミーア様の計画に、あたくしの領地を使いたいという話ね。良くってよ」
やはり、そこはスムーズに進むようだ。というか、おそらく根回しは済んでいたんじゃないだろうか。土地の確保なんかも含めると、それなりの期間は必要だろうし。
とりあえずは、確認すべきことをひとつひとつ確認していこう。
「ああ。それで、一時的な責任者を俺のところから派遣したくてな。サラとシュテルだ。覚えているか?」
「もちろんだわ。あたくしとも交流があったもの。楽でありがたいことね」
「人が育つまでは、私が引き継いじゃいます! レックス様も、安心できますよね?」
俺からは長期で出せないというところまで、話が通っている様子。なら、問題が起こることは少ないだろう。
サラとシュテルは学園に通っていた頃のクラスメイトでもあるのだし、ある程度はお互いに人となりを知っているからな。
それに、思ったよりも早くサラたちは帰ってくるかもしれないな。どこまで事業が順調かにもよるが、引き継ぎのことまで考慮してくれているのは助かる。
とりあえず、事前に潰せそうな問題は潰しておきたいところ。今のうちに話せることは、一通り話しておこう。
「そうだな。スミアなら、うまくやってくれるだろう」
「あたくしにできることは、基本的には管理になるでしょうね」
ルースは当主としての仕事もしているし、ひとつの事業にかかりきりになるのは難しいだろうな。スミアもあくまで中継ぎとしての仕事に収まるのだろう。
ということで、安定するまではサラとシュテルの仕事はなくならないはず。その安定をどこまで早くするのかが、今後に影響してくる形だな。
まあ、一日二日で済む話ではない。どれだけ急いでも、数ヶ月は見るべき事業だ。魔法で設備生産なんかがショートカットできるとはいえ、それでも。
といっても、逆に数年間帰ってこない可能性は少ないだろうな。別に一流になるまでの期間は必要ないのだし。
言ってしまえば、求められているのは初動が安定するまで。そこからは、ルースたちの腕が求められる部分になる。
まあ、大きすぎるトラブルが起きなければの話ではあるが。
「成果を急ぎすぎても、失敗するだけだろうしな。割と気の長い話になりそうだ」
「身の程をわきまえないようであれば、思い知ってもらうまで。あたくしは、甘くなくてよ」
罰則はある程度は有効ではあるが、行き過ぎると逆にミスが増えるんだよな。遅刻して罰金という仕組みを作ったら、逆に遅刻が増えたという話まであるくらいだし。
公爵家の当主が分かっていないとも思えないが、一応口には出しておくべきか。
「まあ、必要な罰則であれば実行してくれ。あまり厳しくしても、反発を招きそうではあるが」
「ええ。アメとムチは理解していてよ。成果には、相応の対価を支払いましょう」
きつい仕事であったとしても、報酬さえ高ければやる気が出る人は多い。そういう観点から言えば、命の安全さえ守られていれば報酬の優先順位はかなり高そうだ。
事故が起こらない仕組みを作ってしまえば、自然と発展していく部分ではあるだろうな。
「ルースには、言うまでもないことだったな。余計なお世話で悪いな」
「構わなくてよ。他者の視点というものも、穴を見つけるきっかけになるのだもの」
「レックス様が心配してくれているのは、伝わっていますよ! 安心しちゃってくださいね」
ふたりとも、特に腹を立てたというような声色ではない。実際に受け入れられていると見て良さそうだな。
まあ、逆の立場なら分かる。当たり前と思っていることこそ、案外抜けているものだ。ミスをしないかと気をつける部分よりも、成功して当然と思っている部分での失敗の方が大きくなりがちだからな。
それでも余計なお世話というものはあるのだろうし、話を聞いてもらえるのは助かるところ。
「ありがとう、助かるよ。細かい話は、責任者と詰めてもらった方が良いか」
「そうね。サラさんとシュテルさんが相手なら、話しやすくてよ」
「ルース様のお知り合いで、レックス様の部下。しっかりと、仲良くしちゃいますよ!」
スミアは愛嬌もあるし、すぐに仲良くなれそうだよな。狂信者じみているシュテルも、まあ俺がいないところでは普通みたいだし。
サラは普通に気づかいが得意なタイプだから、スミアとの関係で問題が起こるとも思えない。
そもそも、スミアは後ろ暗い仕事もできるタイプだから、少なくとも表向きの感情は隠せるだろうからな。どうなったとしても、表面上は仲良くできるはずだ。
一時的な関係になるのだし、そのラインが安定しているのであれば不安はない。
「スミアなら、きっと気も合うと思う。大事にしてやってくれ」
「過保護なことね。だからこそ慕われている部分もあるのでしょうけれど」
「私も、レックス様のお優しいところは大好きです!」
「なら、良かった。ルースたちなら、安心してサラたちを任せられるよ」
「レックスさんの積み重ねた技術も、存分に学ばせてもらってよ。追い抜かれて、悔やまないことね」
ルースらしい物言いだ。俺を積極的に超えようとするあたり、本当に向上心が高い。学園に通っていた頃も、魔法で俺に勝とうと全力でぶつかってきていたからな。
そういうまっすぐな人だからこそ、信じられるんだ。
「ルースがもっと活躍できるのなら、嬉しいだけだよ」
「そ、そう。本当に、レックスさんは甘いことね……」
「ルース様が嬉しいことは、ちゃんと伝わっていますからね!」
ルースが俺に親しみを覚えてくれていることくらいは、いくらなんでも分かる。ちょっと口では冷たいところはあるものの、それも魅力ではあるよな。
なんだかんだで、情が深いタイプだと思っている。そうでもなければ、何度も俺を助けてくれはしないだろう。
「スミア、余計なことを言わないことね」
「はは、仲が良くて何よりだ。ふたりの連携に、期待しているよ」
ひとまず、最低限の形は決められたと思う。後は、実際に動いてどうなるかだ。