物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
あたくしは、ミーア殿下の指示を受けてレックスさんと共同の事業をおこなうことになった。
話そのものは、順調に進んだと言って良い。特に詰まるようなところはなかったし、レックスさんから信頼されているのも伝わってきた。
おそらくは、そう大きな失敗をすることはないでしょう。最悪の場合でも、施設が潰れるという程度。事業がひとつ失敗して終わり。外に被害が出ることは、まずない。
レックスさんの魔法を組み合わせた監視網さえあれば、破滅的な被害を出すまでに敵対者の計画を潰せる。
最低限の成果は、実質的には保証されたと言っていいでしょう。それも、レックスさんの手によって。
「こうしていると、レックスさんとの差を思い知らされるものね……」
あたくしの成果につながるものは、ほとんどがレックスさんの存在あってのもの。仮にレックスさんが敵になれば、どうあがいたところで破滅的な被害は避けられない。
無いと分かりきってはいても、公爵家として受けた教育が未来予測をさせてくるのよ。
それで、よく理解できてしまう。あたくしの実力と思われていることも、ほとんどはレックスさんに依存しているだけ。
レックスさんがあたくしを評価していることすら、ほとんどは彼本人の力によるもの。せいぜいが、配下の力と言える範囲に広がる程度。
ハッキリ言ってしまえば、レックスさんなくして成り立たないことが多すぎるのよ。
「レックスさんは多くの国を事実上支配していて、強さでも飛び抜けている」
あたくしのいるレプラコーン王国ですら、ミーア殿下に簡単に指示を出せてしまう。レックスさんが本気で嫌がるようなことは、事実上不可能に近い。
他の国とて、同じことでしょう。政治も経済も武力も、あらゆる面でレックスさんに依存している。
もはや、バカげているわ。世界の命運は、ほとんどひとりの存在によって左右されるのだから。
闇魔法が強いのか、レックスさんが特別なのか。敵になった闇魔法使いの存在からして、後者ではあるのでしょうけれど。
だからこそ、とても厄介。レックスさん個人に依存した世界なんて、狂っているのだもの。
あたくしたちは、誰もがレックスさんの力を借りて多くの試練を乗り越えてきた。その結果が、これ。
「対するあたくしは、たかが公爵家の当主。たかが
レックスさんに対して、何ができるというわけでもないわ。力を貸すと言っても、あたくしでなくても構わない程度。極端なことを言ってしまえば、あたくしは居ても居なくても変わらない。
そんなあたくしでも、レックスさんは必要としてくれる。大事にしてくれる。だからこそ、手が震える瞬間があるわ。
レックスさんがいなくなってしまえば、あたくしは終わり。そんな現実が、突きつけられているようで。
「政治でだけ勝つというのも、こうなってしまえば夢物語よね……」
レックスさんがよほど周囲の足を引っ張り続けない限り、あるいはそうしてすら負けるのが現実。もはや現在のレックスさんがどの程度の能力であるかに関係なく、ただレックスさんがあたくしに反対するだけで負けてしまう。
いつなら、レックスさんと対等だと思えていたのでしょうか。あるいは、最初から自分が下だと知っていたのかもしれない。
違う。下だったとしても、構わなかった。いつか追いつくことを、追い越すことを夢見ていられた。
実際のところは、ただ差をつけられるばかり。あたくしが全力で走っても、比較にすらならない速さで置いていかれるだけだった。
レックスさんに殴りかかったところで、いなされて終わり。たとえ殺しにかかろうとも、脅威とすら思われないでしょう。
魔法を使って武力で攻めようと、政治的立ち回りで潰しにかかろうと、どちらでも同じこと。もはや、勝負という概念すら成立しないほどになってしまった。
「総合力なら勝てるのかと言えば、答えは明らか」
むしろ、余計に差が広がるだけでしょう。あたくしの全力など、蚊が止まった程度にしか思われないことは必然。
いつから、こうなっていたのでしょうね。胸の奥が張り裂けそうだなんて、笑い話にもならないわ。
「実質的には、レックスさんに勝つ道はないと言っても過言ではないわ」
それどころか、負け方を選ぶことすらできない。レックスさんに挑んだところで、傷ひとつつけられないのだから。
レックスさんの気分に、あたくしのすべては左右される。少なくとも、今のあたくしでは。きっと、未来ですら。あるいは、いえ、永劫すらも当然のこと。
「だからといって、諦められるものですか。あたくしを信じてくれる人と、並び立つことだけは」
レックスさんだけが、あたくしの努力を見てくれていた。輝くものに向ける目を、見せてくれていたのよ。
それを失うことだけは、何があったとしても耐えられはしない。たとえ全身を焼かれようとも、レックスさんに捨てられる苦痛に比べれば昼寝と大差ないのよ。
だって、そうでしょう? 生きる意味を失って、前も見えないままに生き続ける。その方が、死ぬよりもずっと怖いのだもの。
なら、まだ並び立つための努力だけは止められない。止めてはならないのよ。あたくしが、生きている意味を見失わないために。
「ここに至っては、ひとりで勝つことは諦めましょう」
それにこだわっていては、また差をつけられるだけ。もう、現実と向き合わないことには何も始まらない。
きっと、星々に手を伸ばすような話。つかめないものだと知っていても、あたくしは輝きに目を奪われたの。
だったら、翼が燃え尽きるまで進み続けるだけ。そうするしか、ないのだもの。
「少なくとも、スミアの手は借りなければ話にならないわ。あたくし個人では、何もできない」
ホワイト家の力を結集して、初めてブラック家の一部に対抗できるという程度でしょう。だから、まずはホワイト領を徹底的に支配しなければならない。きっと、今回の事業で使う孤児たちも。
それでようやく、わずかに傷を与えられるという程度になるのでしょうけれど。
「認めましょう。あたくしの弱さを。頼りなさを」
レックスさんには、勝てない。あたくしは、レックスさんより下。明確に劣っている。それを受け入れなければ、何も変われはしない。
あたくしが捨てるべきは、誇りそのもの。誰の靴を舐めてでも、レックスさんと競い合うために。
たとえすべてを捨てたところで、きっと本当の意味では対等になれないのでしょうけれど。
「それでも、負けない。王国の中だけでも、連帯で上回るのよ。たとえレックスさんの友達ばかりだとしてもね」
あたくしが手を回して優位に立てるのは、ミーア殿下とリーナ殿下。そして、王国の貴族たち。
ブラック家に近すぎる派閥を除いたとしても、あたくしが優位に立てる場面はあるわ。
本当の意味でレックスさんの敵になるのであれば、きっと誰もがあたくしの敵になるのでしょうけれど。そうだとしても、構わない。
あたくしの願いは、レックスさんと並び立つこと。敵として打ち破ることではないのだから。
「いえ、レックスさんの仲間だからこそよ。身内での圧力となれば、有益だわ」
レックスさんは、大切な人だからこそ意見を無視できない。そうなるように、少しずつ根回しをする。あたくしの目指すべき道の形は、見えてきた。
あたくしの意見を無視できなくなれば、より交渉の機会は増えるでしょう。協力する機会も、同様に。
「あたくしは、レックスさんより広く手を借りましょう」
どれほどのことでもしましょう。あたくしの持てるすべてを使って、あたくしの意見を聞く価値があると思わせる。そうして初めて、あたくしはレックスさんの隣に立つことができるのだから。
「そのための担保として、あたくし自身の力を高める。合一の先も、公爵家の拡大も」
ふたつの道を同時に進むなど、愚か。そう思われることもあるのでしょう。ですが、それこそがあたくしの道。
ただ正攻法を選んでいて勝てるほど、あたくしに才能はない。ならば、薄い可能性にすべてをかけるしか無いのだもの。
「あたくしがレックスさんと並び立つための、きっとただひとつの道よ」
だから、レックスさん。
あたくしを忘れることだけは、しないで。