物語の途中で殺される悪役貴族に転生したけど、善行に走ったら裏切り者として処刑されそう 作:maricaみかん
レックス様とルース様は、とてもお似合いだと思っていました。ふたりの結ばれる姿を見ることは、間違いなく私の幸せ。そう言い切れるほどに、素敵だなと。
ただ、思っていたほど道は順調ではありませんでした。レックス様がいつの間にかスコルピオ帝国の皇帝になって、段々と影響力を広げていって。
いつしか、ルース様から見てすら雲の上と言えるほどの存在になってしまったんです。公爵家の主なんて、ただの民には触れることすらできないのに。
ルース様が気を揉む姿を、私はずっと見ていました。冷静に仕事をこなしているように見えて、心の中には焦りがあったんだと思います。ときおり遠くを見る姿や歯を食いしばる姿が、印象的でしたから。
私も、似たような気持ちでした。レックス様が遠くに行っちゃったらどうしようって。夜空を見ながらため息をつく瞬間だってあるくらいでしたから。
そんな折にあったのが、ミーア殿下から与えられた事業。レックス様と手を取り合っておこなうもの。私にとってもルース様にとっても、千載一遇の機会と言えたでしょう。
私たちはお互いに話をすることになって、おおよそ問題も起こらずに事業についてをまとめられました。
「レックス様は、私たちに対する態度を変えちゃったりはしませんでしたね」
通話が終わった後、ルース様がこっそり息を吐いていたのを見ていました。やはり、不安だったのでしょうね。
私にも、分かる気持ちでした。大好きなレックス様だからこそ、変わってほしくない。だけど、変わることが普通と言える状況でもありましたから。
言ってしまえば、レックス様が上で私たちが下。見下されても高圧的に出られても、何もおかしくありませんでした。
「とても偉くなったので、変わっちゃうかもとは思いましたけど」
けれど、そうはならなかった。私たちを大切にしてくれるレックス様のままでした。
他のことなんて、どうでもいい。そう言ってしまえば過言ではありましたけれど、心の上では本音でもあります。
ミレアルとの戦いに勝つこととか、平和な世界でどうやってルース様とレックス様をくっつけるかとか、領民をどうやって治めていくかとか、考えることはたくさんあります。
けれど、私もルース様も、たったひとつのことだけを願っていたんです。レックス様と、同じ時間を過ごすこと。それだけが、私たちの望みでした。
他のことは、あくまで役割。私たちが本当の意味で手に入れたいのは、レックス様の真心だけだったんです。
だから、レックス様が変わらないままで良かった。きっと、望む未来につながりますから。
「安心して、ルース様との関係を応援できちゃいます!」
ルース様には素直になれないところもありますけれど、レックス様は純粋に受け止めてくれます。ルース様に釣り合いが取れる家柄であることが、まず珍しいのに。
だからこそ、ルース様はレックス様を絶対に逃がしてはいけないって思いますね。
「レックス様と結ばれたら、ルース様は幸せになれるでしょうからね」
ルース様は自分を追い込みがちなところもありますけれど、レックス様に追いつくためですから。結ばれさえすれば、納得できるはずですよ。
女としての魅力で落としてしまえば、それで釣り合いが取れると言っても過言ではありませんからね。
古今東西、恋は惚れた方が負けるんです。今はルース様が負けているから苦しんでいるだけ。いずれ勝ってしまえば、すべてが報われるでしょう。
ルース様ほどの魅力があれば、きっと大丈夫。残酷なところはありますけれど、それはレックス様もお互い様ですからね。
まっすぐな努力家で、家柄も美貌も才能も持っている。そしておそらく、尽くす女だと思うんですよね。
ルース様とレックス様が結ばれたら、朝から晩までレックス様は満たされるはずですよ。
だから、お互いに幸せになれる道だってこと。素敵な二人になれますよ。
「私の仕事を頑張って、ルース様との距離を近づけちゃいます!」
孤児たちをしっかりと教育して、使えるようにすることからですね。簡単ではありませんが、有効な手段というものはあります。
相手の人格を詳しく知るのが一番強くはあるんですが、時間も限られていますからね。現状では、多くの人に有効な手段を取っていきましょう。
「ふふ、人に慕われるために必要なことは、よく分かっていますからね!」
そうでなくては、暗部でなんて生きていけません。私の明るい振る舞いも、作られたものなんですから。
誰にでも笑顔で接することで、気分よく話させる。それが心得というもの。
ただ、正攻法だけでは足りませんね。やはり、時間の問題は大きいですから。
「あえて失敗させて、しっかりと慰めてあげちゃいますよ!」
失敗して、周囲に責められて。それでも味方になる誰かを、人は簡単には嫌えません。というより、感謝ができない程度の存在なら邪魔なだけですからね。
人に助けられて逆恨みするようなら、それはもう不良品でしかないんですよ。
「どうしても私を慕わない人は、慕っている人に排除させれば一石二鳥になっちゃいます!」
それだけの好意は、狙えば作れるものですからね。特に私は美人ですから、男を落とすのは比較的楽です。
ちょっと笑顔で楽しげに話を聞いていれば、大半の人が勝手に好意を持ってくれますから。
後は、誰にでも言えるような褒め言葉を言い続けるだけ。かっこいい、知識ある、感性がいい。そのあたりで、適当に。
人間というものは、思っているよりも単純なんですよ。
「私のために、熱心に頑張ってもらっちゃいますよー」
それが成果につながれば、ルース様にとって素晴らしいこと。私の役割は、ルース様を支えることですから。
ミレアルとの戦いにも、役立ってくれるでしょう。そうなるように、全力で。
「うまくいったら、レックス様にも褒めていただけたりして……」
というより、成果が出ていて会う機会さえあれば、褒めてはいただけるでしょう。
レックス様は、なんだかんだで甘い人ですからね。必要な時にすら厳しくできないんじゃないかと疑うほどには。
だけど、だからこそまぶしい。私たちと同じように闇を知っていて、それでも甘さを持っているのだから。
「ルース様が一番ですけど、私も混ざりたいですし」
私だって、自分の幸せを考える瞬間はあります。ただ、普通の夫を手に入れて子供を生んだところで、真っ当に愛することはできないでしょう。
どういう形であれ、私の仕事はつきまといますから。その状況でも大丈夫な人は、限られます。
「私の裏の顔を知っていて、それでも好きでいてくれる人……」
ルース様は、もちろん私を大事にしてくださいます。汚れ仕事をする相手だからと軽んじず、真剣に意見を聞いてくださいますし。
レックス様も、ずっと私を大切にしてくれていました。暗殺だってできると知っていて、それでも。
「たぶん、孤児たちには裏の顔を見せた時点でダメですからね」
仮に好かれたとしても、口が軽い時点で論外ですから。もっと言えば、弱みになる程度にスキだらけでもダメです。
レックス様は、そのあたりの条件をすべて満たしているんですよね。個人的感情を抜きにしても、結ばれるならレックス様以上はいないでしょう。
「でも、まずはルース様の仕事をしっかりこなしちゃいましょう!」
そこを手抜きすることは、ありえません。私の望む未来のためにも、確実に仕事をこなすのが大事なんです。
「レックス様もルース様も、真面目に働く人が好きなのは分かりますからね」
といっても、真面目に余計なことをする類の人は嫌いでしょうけれど。まあ、無能が好きなのは特殊な人だけですし、気にする意味もないですけれど。
どうあれ、成果を出せば私にとっても利益がある。それで良いんです。
「そして、少しでもおこぼれをもらえるように、ですね」
レックス様なら、きっと私の暗いところも受け止めてくれますから。他の人の話を聞いていても、分かります。
「私が積み上げてきたぜんぶ、おふたりのために使っちゃいますよ!」
まずは、おふたりを幸せにしてみせます。
そのおふたりに、私も混ぜてくださいね。