黝簾石の道標   作:赤辻康太郎

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機動戦士ガンダムSEEDFREEDOMナタル生存if二次創作小説です。
劇場版のネタバレを多分に含みますのでご注意ください。


落日の天使

C.E.74、二度にわたる地球、プラント間ーーナチュラルとコーディネーターの戦争はようやく終息の道を歩んでいた。しかし未だにナチュラルによる反コーディネーター、コーディネーターによる排ナチュラル運動とそれに伴うテロは後は絶えない。また各地でユーラシアからの独立運動もその勢いを増し戦火が途絶える暇もない。オーブ軍所属准将キラ・ヤマトも戦争が遠のいて久しい今もまだ、戦いの渦中にいた。

オルドリン自治区での戦闘を終え、キラを隊長とする世界平和監視機構コンパス所属のMS部隊、通称ヤマト隊は補給と報告のため戦艦アークエンジェルに乗艦していた。

「キラ・ヤマトーー准将以下四名、乗艦許可を願います」

「乗艦を許可します。お疲れ様」

慣れぬ准将の肩書を名乗るキラをマリュー・ラミアスは柔らかく迎え入れた。キラの後ろでは隊員のシン・アスカ、ルナマリア・ホーク、アグネス・ギーベンラートがキラと同じ様に敬礼し、マリューの後ろにはアークエンジェルのMSパイロットのムウ・ラ・フラガと副艦長のナタル・バジルールが控えていた。

「どうだ? 新型にはなれたか?」

「ええ、まあ」

気軽に聞いてくるムウに、シンは正直複雑な心境だったが無難に返答した。正直に答えてしまうと、ルナマリアからまた呆れられてしまう。

「皆、ご苦労だった。報告もあるが、しばらくは休んでくれ」

ナタルがキラたちを労う。階級はキラの方が上なのたが、彼の申し出により、マリューたちはキラと以前と変わらぬように接している。立場上それはどうなのかと思ったが、上官からの『命令』なので大人しく従うことにしている。

「はい。ありがとうございます」

慣れない肩書のある生活で昔の様に相手をしてくれるマリューやムウにキラ感謝している。

「それで、被害の状況は?」

和やかなムードも長くは続かず、キラは気持ちを切り替える。

オルドリンではダガーやウィンダムの他にデストロイまで現れた。それだけでも甚大な被害が予想されるが、一転攻勢に出たザフトがカナジにも攻撃を仕掛けようとしたのだ。その分、被害状況は悪くなる。政治的軋轢も生まれるだろう。

「詳しい状況は不明瞭だが、現段階で死傷者は二百人超。民間人にも被災者が出ている」

「行方不明者も多数出ているわ。たぶんもっと増えるわ」

ナタルとマリューの報告に、キラは顔を曇らせる。

「今回も母艦はなし、MS部隊だけで一気に奇襲だ」

このところのブルーコスモスの襲撃は、全て同じ作戦だった。MS部隊での特攻。ミケールの名を騙った釣り出し。兵も物資も湯水の如く使い潰す無謀な策。

「最初っから帰還を想定してない作戦なんて、パイロットも機体ももちませんよ!」

シンが怒りを顕にする。彼らの目的は戦闘そのものではなく、ザフトに国境侵犯をさせることだ。それを皮切りにユーラシアとプラントの対立が激化し、再び世界はナチュラルとコーディネーターに二分し戦争が起こる。彼らの狙いはそこにあった。とどのつまり、口実と大義がほしいのだ。コーディネーターを滅ぼすための。

「けど続いてる。だから、問題なんだ」

キラは内心焦っていた。戦っても戦っても好転しない現状に。平和を謳い、その実争いに身を置く自分に。愛する人の望む世界を与えられない己の無力さに。霧の中を手探りで歩くような不安を、キラはその胸中に独りで抱えていた。

「今回も大活躍でしたね。キラは」

ミレニアムに帰還するヤマト隊を操舵席から見送りながらアーノルド・ノイマン大尉がナタルに話しかける。ノイマンはキラがストライクに乗っていた頃から彼の戦闘を見ているので、コンパスに所属してからのキラの活躍にますます拍車がかかっていると感じていた。

「ああ。だが、少し不安でもある」

ナタルはノイマンの言葉を肯定しつつ、一抹の不安が残ると言う。

「不安、ですか?」

「不安と言うより、危うさと言った方がよいかもしれん。兎も角、彼の今の戦い方は危険だ」

ナタルの表情が少し険しくなる。ナタルの言う危うさがノイマンにはいまいちピンとこなかった。

「そりゃあ最近連戦続きなんで疲れは出てると思いますよ。プラントにもここ一月程帰ってないみたいですし」

「そうではない。何と言うか、気負い過ぎなんだ、ヤツは」

疲れてがあるのは間違いないだろう。だがナタルはそれではない何かを感じ取っていた。それは、かつて自分が背負っていたモノと同じ気がしてならなかった。

「昔の少佐みたいに、ですか?」

「ノイマン大尉!」

図星を突かれて怒鳴るナタル。ノイマンは「おお、こわ」と肩を竦ませる。

「まったく……」

呆れて再び空を見る。そこにはもうフリーダムの姿はなかった。

数日後、マリューを通してオーブ政府からアークエンジェルに通達があった。コンパス総帥ラクス・クラインが、ファウンデーション王国女王アウラ・マハ・ハイバルの要請を受け国内のブルーコスモス討伐作戦に参入するという。ファウンデーションはブルーコスモス、ミケールの詳細な情報も有しておりその見返りとしてファウンデーションのコンパス参加を要求していた。

「ファウンデーションって、つい最近ユーラシアから独立した国ですよね?」

「ああ。そのせいで他の小国も次々にユーラシアからの独立を目指している」

「ファウンデーションショックね」

「でもって、彼方さんはユーラシア時代からの情報も持ってるって話よ」

コンパスとしてはブルーコスモス、特にミケールの潜伏先の情報は是が非でも欲しいところではあった。ラクスはオーブ連合首長国代表カガリ・ユラ・アスハや恋人であるキラと相談した上で、ファウンデーションの案に乗ることにした。目的は勿論、一日でも早く戦いを終わらせることだ。

「それで我々も作戦に参加することになったわ」

「まあミレニアムが来て俺たちが行かないって訳にもいかないわな」

コンパスの主戦力はMS部隊と二隻の戦艦、アークエンジェルとミレニアムだ。アークエンジェルは地上、ミレニアムは宇宙を主戦場としているが、今回はラクス直々にファウンデーションに赴くのでミレニアムも地球に降下してくる。また作戦も大規模になることが予想されるため戦力は多いにこしたことはない。

「了解しました」

ナタルとノイマンは敬礼し了承の意を告げる。 出立は明後日、ミレニアム降下に合わせてとなった。

「今度こそ、ミケールを捕らえられますかね?」

ナタルに尋ねるノイマンの声に少し熱がこもる。久々に攻め手となる作戦に彼は些か興奮気味なようだ。

「どうだろうな。そうだといいが」

対してナタルはいたって冷静に答えた。捕まえられるにこしたことはない。たが、最後まで何が起こるか分からないのが戦いだ。つまらなさそうに「そうですね」とぼやくノイマンを、ナタルは肘で小突く。ナタルの足音とノイマンの呻き声だけがアークエンジェルの廊下に響いた。

 

それから暫くして、アークエンジェルはファウンデーション王国の首都イシュタリアを望む湖の上空を飛んでいた。王宮のある古城は中世の趣を残しつつ、イシュタリアには近代的なビル群が建ち並び今昔の様相が不思議と溶け込んでいた。美と豊穣を司る女神の名を冠する都市はまさに壮観といえる。

「綺麗な国ですね」

艦橋の窓から見える景色に、ノイマンが思わず感想をこぼす。マリューもそれに「ええ」と同意した。まさに絵になる風景だった。

「油断するな、大尉」

ナタルがピシャリと釘を刺す。無事ファウンデーション領内に入ったとはいえ、テロ組織に国境は関係ない。いつ何時奇襲されるか分からない。特にブルーコスモスは。

「分かっています」

ナタルの指摘にノイマンは苦笑しつつも顔を引き締めた。それが可笑しくてつい吹き出してしまったマリューをナタルが睨む。慌ててマリューも笑みを引っ込めた。

アークエンジェルとミレニアムは地上からの指示で湖に着水。派手に飛沫を上げながら滑るように入港した。アウラ陛下への謁見は主賓であるラクスと護衛としてヤマト隊一同、アークエンジェルからマリューとムウが参列した。ナタルやノイマンは艦に待機し艦のチェックと不測の事態に備える。

「立食パーティー、ですか?」

一通りの作業を終えたところでマリューから連絡が入った。アウラ陛下が歓談の席を設けてくれるというのだ。立食形式で希望者は皆参加できるとのことだ。

「どうします?」

ノイマンがナタルに尋ねる。ナタルは一考の後、参加することにした。

「私も一度、陛下やタオ閣下にお目通りしておきたい」

ファウンデーションの短期間復興を成し遂げたオルフェと彼を重用するアウラ、彼らがどの様な人物なのか実際に会って確かめたかった。

「君も来るか?」

「そうですね。少佐が行かれるのでしたら」

「決まりだな」

さすがに艦を空にはできないので最低限の人員を残し、ナタルやノイマンもパーティーに参加した。

アウラは「ささやか」とは言っていたそうだが、これはナタルの知っているささやかとは大分かけ離れていた。広大な室内はシャンデリアから注がれる柔らかな光に満ち、楽団の奏でる優雅な調べに着飾った男女が舞う。見るからに高級と分かるクロスで覆われたテーブルにはところ狭しと豪奢な料理が並んでおり、壁際では政界、財界の要人たちが華やかに談笑している。ナタルの見識では、贅を尽くしたとしか言い様のない場だった。

「貴国のご繁栄はかねがね耳にしておりましたが……」

ラクスの感嘆が決して世辞でないことはマリューの後ろから聞いていたナタルにもわかる。ざっと見渡すだけでも調度品の質、来賓の所作から気品の高さがうかがえる。これ程までに豪華絢爛な場をナタルも初めて経験する。

「我が国は出身や年齢を問わず、優秀な人材を登用しておる。ナチュラル、コーディネーターに関わりなくな」

アウラの言葉にナタルは人知れず嘆息した。確かにざっと見る限りでもここにいる人々の年齢、性別、人種はバラバラだ。彼女が偽りなく様々な人を登用しているのは間違いないだろう。能力如何ではあるのだろうが。

オルフェがラクスの手を取りダンスフロアに踊り出たのでその場は一時お開きとなった。ナタルも少し喉が渇いたので飲み物を取りに料理のテーブルに移動した。

「どうぞ」

「え?」

テーブルに近づくと突然グラスを渡された。驚いて持ち主を見ると、ノイマンが微笑んでいた。雰囲気に飲まれたのか少し顔が紅潮していた。

「大丈夫、オレンジジュースですよ」

「あ、ああ。ありがとう」

渡された橙色の液体を一口飲む。ほのかな酸味と柑橘の爽やかな香りが鼻から抜ける。確かにアルコールは入っていなかった。

「……美味いな」

「ですよね。俺も飲んで驚きました」

ジュース一つとっても、彼女の知る味とは格段に違う。ノイマンの方を向くと、彼はカップを傾けていた。湯気から香るその香りからコーヒーだと分かる。この距離でも分かるほどだ。よほど品質が良いのだろう。ナタルに気づいたノイマンも、少しおどけた様にカップを上げてみた。

「キッチンに優秀なバリスタでもいるんですかね? こんなコーヒー飲んだことないですよ」

「虎のよりもか?」

「アレはまた別です」

コーヒーのブレンドが趣味な疵の男を思い浮かべてノイマンは苦笑する。

飲み物でこのクオリティだ。料理など言うまでもないだろう。別のテーブルに目をやると、そこではシンが勢いよく料理を平らげていた。

「それで、どうだった?」

ナタルがノイマンに鋭い視線を送る。グラスに口をつけたままだから、傍からは談笑している様に見える。

「どうにも。ここに来ているお偉い様がたは誰も優秀なようですよ」

多少の皮肉を交えてノイマンが答える。ノイマンとて本当に遊びに来ているわけではない。来賓と談笑を交えながら、少しでもブルーコスモスやファウンデーションの情報を聞き出そうとした。

「皆アウラ陛下やタオ閣下に迎合しているわけではなく、各々が自らの責務を真摯に熟しているようです」

「それもタオ閣下の采配か」

オルフェは必要なポジションに相応しい人材を送り国を発展させてきた。臣民は自分の能力を存分に発揮し国の繁栄に貢献できる。まさに官民一体の理想的な社会といえる。

「けど、どうにもきな臭さは抜けませんね」

彼らの言の葉には高い知性と熱意が感じれた。しかも彼らは皆、手放しでアウラとオルフェを誉め称える。彼らが二人に多大な敬意を払うのは理解できるが、少々度を超しているようにも見えた。

「これだけ短期間での復興がめざましいんで、悪どいことの一つや二つやっててもおかしくないんですけど」

「それが見えない、か。本当にやってないか上手く隠しているかは判断できんな」

「ですね」

どちらにせよこれ以上の情報は聞き出せそうにない。あとは向こうからボロを出してくれるのを祈るだけだ。

「しかし、見事なものですね」

「うん?」

「彼女ですよ」

ノイマンの視線の先には、オルフェと共に優雅にワルツを舞うラクスの姿があった。

「さすが元アイドルなだけありますね」

「……そうだな」

ナタルの声色が少し不機嫌になる。ノイマンがほかの女に見惚れているのを見るのは、やはり気持ちの良いものではない。醜い感情に蓋をしようにも隙間から溢れでてくるそれをどうしようもできない自分。分かってはいるが感情ほど厄介なものはないなと、ナタルはその度に思いしらされる。無意識に、左手にはめられた指輪を撫でていた。

「大丈夫。俺の一番は貴女ですから」

さらりと紡がれるキザったい台詞にナタルは頬を染めた。真面目な顔をしてしれっと言ってくるから本当にたちが悪い。いっそのことムウの様に普段から軽率な言動をしてくれれば。ナタルは顔の火照りを冷ますためグラスの残りを一気に飲み干した。

「おかわりいりますか?」

「いや。私もコーヒーを貰おう」

「じゃあ取ってきます」

ノイマンは空になったグラスをナタルから奪うと通りかかった給仕にコーヒーを二つ頼んだ。ほどなくして湯気の立つカップを二つ引っ提げてノイマンが帰ってきた。

「気に入ったみたいだな」

「ええ。貴女も気に入ると思いますよ」

どうぞと渡されたカップとソーサーをナタルは素直に受け取る。少し息で冷ましてからカップに口をつけると、確かに虎のコーヒーとは別ものだった。

「作戦、上手くいきますかね?」

「分からん。たが、上手くやらねばな」

これで終わってくれればどれ程良いか。そんな期待をナタルはコーヒーと共に飲み込んだ。

 

そして、ミケール捕縛作戦の決行日となった。今回の作戦はコンパス、ファウンデーション、ユーラシアとの合同作戦だが、実際に戦闘をするのはコンパスのみ。特にユーラシアから来た二名の将校は戦闘区域に釘を刺すだけのほぼ戦監役だ。作戦前の会議でもエルドア地区以外の立ち入りを固く禁じてきた。それに応じてか、ファウンデーションも周辺地域の避難誘導と取り零した残党の後始末だけに留まるこことなった。

よほどファウンデーションを敵視しているのだろう。それでなくても、ユーラシアはプラントが出資しているという点でコンパスも信用していないのだ。境界を越えれば直ちに国境侵犯と見なすとまで言ってきた。

前線にアークエンジェルを置き、作戦部隊はエルドア地区に入った。ほどなくして、地上から対空ミサイルが飛びアークエンジェルや戦闘機形態のムラサメに降り注ぐ。ブルーコスモスの攻撃だ。

「迎撃! ヘルダート、ウォンバット撃てー!」

「イーゲルシュテイン、バリアント起動、撃てー!」

マリューとナタルが迎撃を指示。ムラサメ隊もMSの無力化に出る。

「シン、アグネス、ヒルダさんはMSの無力化を! 僕ははミケールの指事所に行きます!」

「了解!」

「シキシマ隊はジャスティスとギャンの援護! マホロバ隊は俺に続け!」

キラとムウの指揮が飛ぶ。一行は対空戦力を無力化しつつ進軍する。

デストロイの台頭、ブルーコスモスによるエルドア市民の爆殺などのアクシデントはあったものの、作戦自体は順調に進行していた。だがミケールの姿は一向に確認できない。アークエンジェルクルーにも「またか」という空気が流れ始めたその時、事態は急変した。

「フリーダム転身! 国境付近に移動を開始!」

「え?!」

フリーダムが急速に移動を開始。ユーラシア国境に向けて猛進していったのだ。

「キラどうしたのです? キラ?」

「ミケールが居た! 今度こそ捕まえる!」

キラはミケールを発見したと言うが、彼が目指す場所にはユーラシア軍の国境守備隊が駐屯しているだけだ。ラクスの停止も聞かず、ユーラシア側の警告も無視。それどころか警備していた軍の警告射撃を敵側の迎撃とみなして蹴散らしていく。

アークエンジェルもファウンデーションもキラの暴走を唖然と見ることしかできなかった。

「キラを……止めてください……」

「ラクス?」

苦渋の末、ラクスはオルフェにキラを止めるよう懇願した。通信から聞こえてくるラクスの悲痛そうな声。それが悲劇の始まりだった。

「作戦開始だ」

オルフェの冷徹な号令によりファウンデーション軍がコンパスに牙をむいた。

シェラの繰るブラックナイトスコードシヴァ、グリフィンとリデラードのブラックナイトスコードルドラがフリーダムを襲う。コクピットのアラートで正気に戻ったキラも応戦するが数でも性能でも向こうが上だ。あっという間に窮地に陥った。

「罠だわ!」

事態を察したマリューがフリーダムの援護をすべく前進。しかしそこに二機のMS、そして飛翔するミサイルが見えた。

「CLCMマーク70巡航戦術核ミサイル! ユーラシア軍からです!」

チャンドラの報告に艦橋内に動揺が走る。

「ユーラシアの報復?」

「いや違う、これはっ!」

ノイマンの疑問をナタルは即座に否定した。報復というなら先にユーラシアから抗議がくるはず。それもなしにはありえない。ましてや核など。それに先ほどからの通信障害とブラックナイツ。どう考えても無関係ではない。

「艦長!」

「分かっています!」

悪い予感は当たるというもの。ルドラがアークエンジェルを強襲した。マーズとヘルベルトのゲルググが慌ただしく発進するが、フェムテク装甲に阻まれ敢えなく撃沈した。アークエンジェルもゴットフリート、ヘルダート、イーゲルシュテインを失いこれ以上の戦闘は不可能となった。フレア弾でミサイルの雨を誘爆しつつ、どうにか戦闘から逃れようとマリューとナタルが必死に声を張り上げる。

「エンジン被弾! 弾薬庫に延焼します!」

「エンジン切り離し! 艦を放棄します! 総員退艦用意!」

ついに敵の砲火がエンジンを捉えた。艦内に火の手が上がり、マードックが怪我人を運びながら隔壁を閉める。

「総員退艦用意! 大尉!」

「分かってます!」

ノイマンはアークエンジェルが入りそうな谷間を見つけると艦を滑り込ませる。

「衝撃に備えて!」

胴体着陸の衝撃で艦が大きく揺れる。クルーは何とか手近なとこを掴んで耐えたが、それでも衝撃でどこかを打ち付けた。

「急げ、ブラックナイツが来るぞ!」

痛みを上げる身体に鞭を打ちナタルはクルーの退艦を誘導する。

「艦長!」

「先に行って! ナタル、皆をよろしく」

「……ご武運を」

マリューに敬礼を送り、ナタルはノイマンらと艦橋を後にした。

マリューがそれを見届けホッとしたのも束の間、感傷に浸る間すら与えずルドラのモノアイがアークエンジェル艦橋を捉える。

「っ!」

マリューが咄嗟にキャプテンシートを強制排出させ階下に降りた。その空席となった空間を、1本のビームが貫いた。その後、無数のミサイルがアークエンジェルに降り注ぐ。

「急げ、ここから脱出する!」

「分かってます! けどこれじゃあどこに行けばいいのか!」

アークエンジェルから降りたナタルたちは搭載されていた地上移動用ジープで戦闘域から離脱した。散り散りになった他のクルーも気がかりだが、通信障害のせいで連絡はおろかナビすらろくに機能しない。しかも先ほど轟いた二種類の轟音。ひとつはアークエンジェルが撃墜されたものだろう。ならもうひとつはーー。想像したくない現実にナタルは顔を歪ませる。

「ーーーーか?」

「え?」

ジープにナタルたち以外の声が響いた。ノイズ混じりではあるが、確かにスピーカーから誰かの声が聞こえる。

「アークエンジェルの皆さん聞こえますか?」

相手は明らかにアークエンジェルを相手に通信していた。ナタルはトランシーバーのマイクを引ったくる様に掴んだ。

「こちらアークエンジェル所属、ナタル・バジルール。応答を願う。」

「バジルール少佐! よくご無事で! こちらターミナルのメイリン・ホークです」

通信してきたのはルナマリアの妹で諜報機関ターミナルに所属しているメイリンからだった。彼女はターミナルの特殊回線で妨害を掻い潜り繋いだと言う。

「今から言う座標に行ってください。キャバリアーで皆さんを収容します」

「けどナビがこの状態じゃあ」

「大丈夫です。少しお待ちください」

その少しの間もなく、ジープのナビが復旧した。現在地と、メイリンが指示したポイントが点滅している。

「ナビをハッキングしてターミナルの衛星通信とリンクしました。これなら問題ないはずです」

メイリンの良すぎるほどの手際にナタルもノイマンも舌を巻く。今はありがたいが、彼女の手腕には末恐ろしいものが光る。

かくしてアークエンジェルクルーはメイリンと合流。キャバリアーに乗り込み戦闘域を脱出した。キラを救出したアスラン・ザラのズゴックとドッキングすると、河を潜航してファウンデーションから離脱した。

その最中、キャバリアーを衝撃が襲う。ブラックナイツが仕込んだ三発目の核ミサイルの爆発が先ほどまでナタルたちがいた地点で炸裂したのだ。これで、全ての物的証拠が消え失せた。

二度の大戦を潜り抜けた大天使の最期は、無情なまでに呆気ないものだった。

 




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