寒空の咎人   作:摩虎羅

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等身大の彼

 

「あつい〜あつくて干からびそうだよ〜」

「涼しい森の中ですらもそのレベルならドラゴンスパインにでも行くしかないよ、あと少しは身なりを正したらどうだい」

 

腹と脚が剥き出しになるラフな格好で転がり回ると注意される。

声をかけてきた相手と会話をしようと身体を起こし、目を見る形で胡座をかき座る。

 

「ドラゴンスパインは不便だから嫌だよ、それにこの格好もティナリの前でしかしてないよ」

 

そういうとティナリは苦い顔をする。まるで何か言いたげだ。

 

「...はぁ、この前コレイが顔を赤くしながら君の部屋着について報告しに来たんだけど?」

 

あれ?そうだっけ、コレイの前で見せたっけ...

 

「あぁ、野菜が冷えてなくて川まで持って行った時か。あの時は着替えるのが面倒だったんだよね〜」

 

野菜と果物は冷えてないと食べても美味しくないし、部屋着以外は着るのに手間がかかるのしか持ってないからね。

 

「はぁ、君はもう少し容姿に自覚ってやつを...」

「ティナリ、ため息を吐き過ぎると幸せが逃げるよ?」

「誰のせいだと...まぁいいよ、というか野菜を冷やしたいなら元素力を使えば良いだろう?」

 

ふむ、確かに僕は氷元素の神の目を持っているとも、だから相性の悪いドラゴンスパイン行きたくないっていうのもあるんだけどそれは置いといて。

調整が面倒なんだよね、集中しないと家ごと凍らせそう...とまではいかないけど霜焼けは確実なくらい冷えてしまう、あと野菜は凍らせると解凍が面倒くさい。

 

「ので、却下」

「何も説明聞いてないんだけど、君のその言葉足らずなところは直すべき欠点だと思うよ」

「そんな僕も愛らしいだろう?」

「君のその自信はどこから来るんだか...」

 

うーむ、ティナリは全くと言っていいほど僕の容姿を認めないな。

しかしそういうところが接しやすかったりするんだが。

そんな折、1つの人影がティナリの家の入り口を入ってくる。

 

「師匠、今日の課題のことなんだけど...」

「やぁ、コレイ」

 

久しぶりに会った気がする、いつもは寝ぼけてる時か誰かと話してる時に見かけるぐらいだったから声をかけて話をするのは久しぶりだ。

 

「あぁ、シヘイ来てたのか...ってうわぁ!?」

「ん?どうかした?」

 

あ、そういえば言い忘れていたが僕は名前を偽っている。璃月での名前だと璃月出身って分かりやすいし、あと僕の噂を広めてる人の中に僕の本名知ってる人がいないとも限らないしね。

 

「そ、その服...」

「服?あぁ、散々隠せって言われたから胸も隠すようにしたんだ。どうかな?褒めても良いんだよ?」

「全部隠せバカッ!!!」

 

「はぁ、こうなると思った」

 

何故だろう...

 


 

今日はティナリ先生に『一般的な社会倫理について』という授業を受けた。

何故先生呼びかって?だってすごい『先生』って感じがしたんだもの。

そこで教えられたことは「局部はもちろん、お腹や太腿などの部分も人には見せないもの。」「それは男女問わず老若問わず然るべきもの」ということだった。コレイが隣でうんうん頷いていた。

僕にとっては衝撃だった、数千年変わらずにいた倫理観を否定され上書きされたのだから当然だ。最近は『男も胸を出した格好をしてはいけない』ってだけで衝撃だったのに。

そしてコレイが脚を出しているにも関わらずその指摘をされたのだから殊更だ。あれぐらいの露出なら許されるということか?

ならばどの辺りまでが許されるのだろうか、今度試してみようかな。

 

考えていたら眠くなってきた。

『眠くなったら寝る』

璃月にいた頃は味わえなかった贅沢だ。

昔も寝てはいたが殺気を感じてすぐに起きたりしていたからな、十数時間だろうとたっぷり寝れるのは理想郷でしかない。

 


 

意識が落ちる。

 

目の前に黒が広がる。

 

堕ちて。堕ちて。堕ちて。

 

意識が堕ちる。

 

 

 

記憶が掘り起こされる。

 

瞼に光が映される。

 

それは『夢』と呼ばれるものなのだろう。

 


 

『お父さん...お母さん...どこ...?』

 

『寒いよ...』

 

戸が開く。月光が漏れる。

 

『お母さん!』

 

母と呼ばれた者は足並みが揃わない歩き方で我が子の前に歩み寄り、倒れる。

 

『お母さん...?』

 

応えてはくれなかった。

ただ一つ、冷たくなった手が、いつものようにそっと、精一杯の愛情を込めて、頭を一撫でしただけだった。

 


 

 

 

意識が戻る。

 

意味を理解する。

 

夢であると認識し、それでも尚辛かったと心に深く傷を残した。

 

「嫌な予感がする」

 

僕があの夢を見る時、決まってそういう時は故郷で不幸な出来事が起こる。

1番最近にあの夢を見た時は璃月に戻った時、女の子が大勢の魔物相手に戦おうとしていた。

魔物を倒した後、手紙を少女に持たせて留雲借風真君の近くに置いていった。

女の子には「翠色の人か喋る鶴に会ったら手紙を渡してくれ」と言っておいたから大丈夫だと思う。うん、あの人は割とお人好しだから大丈夫。

 

とにかく、今回もこの前のような悲劇が起こる可能性が高い。

だから璃月に帰りたいんだが...どうティナリ達に説明しようかな。

そのまま伝えたら心配させるし、かと言って旅に出ると言っても信用されるような生活してないし。

2人といるのが嫌だから、と言ったらそれこそ本末転倒だし。

うーむ、どうしたものか。

 

そうだ、授業から逃げ出した体にしよう、それなら帰ってきた時に怒られるだけで済む。

いや、やっぱ怒られるの嫌だな。むしろ帰ってきた時に呆れられるぐらい間隔を空けてしまうか?

呆れられるのも嫌だが怒られるよりはマシだろう。

そうとなれば早速決行だ。

 

帰ってこないつもりと思われると家具を廃棄されるかもしれないから日用品とかを諸々置いていって必要最低限の装備だけ持って行こう。

服は...旧友に会うと気まずいのでバレにくいので行こう。

フードとスカーフで容姿を誤魔化して、一応戦闘が出来つつ上着の中に仕舞える軽装を身につけて...完成!!

 

まだ日が登り始めだけど故郷の璃月目指してしゅっぱ〜つ!

 

「そっくせん♪そっけ〜つ♪そっくせん♪そっけ〜つ♪」

 

「ふ〜ん、何を決めたんだい?」

「ぴぇ」

 

お、起きてたんですかティナリさん。

 

「うん、ガサゴソ聞こえてきたからね」

「あ、あの心読まないで頂けると...」

「顔を隠してても分かりやすい君が悪いよ」

 

あー耳絞ってるね、怒ってるねこれ。

こうなったら...

 

「さらば!」

「あっ待て!」

 

逃げるしかないからね、仕方ないよね。

僕は元素力で作った鶴の背に乗り飛び立つ。

ふははは、空までは追ってこれないだろう!球を作って放り投げたり矢にして放つだけの獣耳とはワケが違うのさ!

 

あ、待って、矢を撃ってくるのはなしじゃない?

人に向けたら危ないからそれ。

いったぁ!?当たった!今当たったから!軽装中に来てなかったら痛みで落ちてたから!

鶴ちゃん!全速力だよ!行ってくれー!!

 


 

ふぅ、酷い目に遭った。

しかし撒けた、撒けたぞ。

フフフ、もう僕に怖いものはないさ。

 

さて、何か人集りが出来てるね。何かのお祭りかな?

あ、そうだ、そういえば今日は迎仙儀式か。すっかり忘れていたよ。

なら人混みに紛れて少し覗いて行くとしよう。

岩王帝君の姿は久しぶりに見るなぁ、ワクワクする。

なんか空飛ぶフワフワとそれを連れた見慣れない服装の女の子がいたが気にしないでおこう。

うん、きっと小説に出てくる英雄の服装を真似た幼子が風船でも持ってるだけだ。

でないと仙力も元素力も使わずに飛べる人型生物がいることになるからね。

さて、儀式が始まったしそろそろ帝君が来る頃かな?空模様も変わってきた。

 


 

 

その時、空から帝君が降りて...いや、()()()きた。

 

 


 

「帝君が殺害された!この場を封鎖しろ!」

 

へ?

 

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