俺生産系オタクに戻ります   作:微睡

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2 お兄ちゃんはお兄ちゃん

 玄関の扉を開けたら出てきたのが見知らぬ可愛らしい女の子でした。それも、挨拶がてらに愛の告白をしてきました。

 いや、普通に考えてそんなラブコメみたいな展開現実世界で普通あるわけねぇだろ!

 脳内選択肢で①「美少女が空から落ちてくる」を選んだら、本当に落ちてきました、みたいな展開よりかは確率高いだろうけどさ!

 えーと、まず誰?そもそも柊が来る予定だったはず。もしかして葵のやつ晴れてTSして記憶喪失とか…はないか。うん冗談。決して最近、おにまいを見ていたとかそういうのではない。

 とはいえ何か言わないといけないし、場が持たない。だから意を決する。

 ここは大の大人らしく丁寧に振舞わなくちゃな。よし!

 

「え、えっとどちら様でしゅか?」

 

 やっべ、思いっきり嚙んじゃったわ。恥ずかしさで頭沸騰しそう。

「嚙みまみた!」なんて蝸牛の少女のように、笑いを取ればいいのか?

 頭の中が混乱してきた。アニメならふらついてバタっとお約束展開のように倒れているに違いない。アナザーなら死んでたわ。

 けど俺はこんなに可愛い女の子なんて知り合ったこともないし、そもそも女の子と話した記憶が漆黒の封印されし右腕レベルのリアル特級呪物ものだから、女子との会話で挙動がおかしくなるのもしょうがない。

 小学生時代にクラス全員の女子から嫌われ総スカン喰らったら黒歴史にそりゃなるよね。しょうがないしょうがない。と脳内反省からの脳内開き直りを行う。なんとか自分の対人能力の低さが露呈したことへの羞恥心を抑えることにしよう。気休めでしかないけど。

 名前も知らない彼女もようやく気が落ち着いたのか、俺の返答に答え始めた。

 

「自己紹介が遅れました。私、柊美雪です。柊葵の妹になります。日頃から愚兄がお世話になっています」

 

 おやキチンとした挨拶じゃないか。落ち着いたのかな。俺よりしっかりしてるの?

 えっとアレ?今聞きなじみのある名前が聞こえたような・・・

「おい美雪。誰が愚兄だ。今日、お前が大好きな先輩の所に連れてきてあげたのはどこのどいつだ?感謝しろよ。あと清十郎、ほら土産だ」

 そういって妹に苦言を呈しながら、柊葵は目の前の少女の後ろから割りみながら、俺にレジ袋を投げてくる。中身はいつも通りポテチだろう。見なくても軽さでわかる。

 コンソメかうすしおかで毎回茅野と柊と3人で論争になるのだが…まぁ今日はこいつの好きなコンソメだろうな。

 いや、そんなことよりも、俺は今初めてお前に妹がいることを聞かされたんですけど!

 そしてその妹さんに告白までされたんですけど!

 お前マジでどうやったらこの状況で笑っていられるんだよ。俺は柊、いや柊だと兄妹区別できないから葵か。葵を睨みつけ、視線で「説明しろ」と訴えかける。そんな俺の視線に気づいたのか、葵はこちらを向く。

 その顔は依然として、いやさっきより一層ニヤニヤとしたイラつく顔だった。

 うん、あいつ後で絞めよう。

 葵の憎たらしい顔から目を背け、妹さんの方を向く。妹さんは落ち着いていたものの、あれ以来喋ることなく、ただ俯いている。いや、正確に言うならチラっとこちらを向いて、俺と視線を合わせるなり、すぐに頬を染め下を向く。いや、なにこの可愛い小動物?お持ち帰りしてもいいですか?義兄さん?

 一瞬だけ見ることができた顔は、兄の葵同様に美形。髪も兄同様に明るめの茶髪。髪型は少し短めのボブ?というやつか?マジで女の子の髪型わかんない...

 にしてもほんと兄貴そっくりだな。違いがあるとするなら、小動物と先ほど形容した通り、身長が160ぐらいの小柄の身長なぐらいか。それでも女性としては平均ぐらいだけど。

 茅野が綺麗な美人系ならこっちは可愛い系に分類されるのだろう。女の子を分類するというのもこれまたおかしな話だが。

 あと茶髪ということは大学生か?兄が俺同様大学二年生だから、今年から大学一年といったところか。

 

「葵ありがとな。そして初めまして。美雪さんでいいかな?俺のほうこそ、君のお兄さんにはお世話になっています」

 

 彼女は俯きながらも頷く。

 にしてもうん、当たり障りのない返答すぎるよな。これでいいのかと自問自答したくても発言してしまったものは取り消せない。

 

「立ち話もアレだから早く家に入ろう。茅野のやつも中で待ってるからさ」

 

「ん、おけまる水産。美雪も早く入れよ。憧れの先輩と話ができるぞ」

 

「ちょ、ちょっと兄さん、辞めてよ、恥ずかしいから」

 

 2人を中に通す。おけまる水産は古いだろというツッコミはなしだ。話がややこしくなる。

 それと一旦今は美雪のことは置いておく。まずはあの部屋にどうやって入れるべきか。俺とか茅野、柊あたりなら汚部屋でもいいし、そのことを承知で葵も第4の人物を呼んだと思っていた。が相手が妹さんなら話は別。さすがにあの部屋に入れるのは如何かと思う。

 

「えーと、美雪さん大丈夫?俺の部屋かなり汚いんだけど…」

 

「大丈夫ですよ。秋葉先輩。兄の部屋で慣れていますから」

 

 靴を脱ぎ、美雪は後ろの俺の方を振り向きながらニコっと笑う。。ようやく俺の目を見て答えてくれた。もう既に部屋に入っている兄のほうからは抗議の声が聞こえるがシカト。可愛らしい外見には似つかわしくないドライさだが、まあ世の中の兄妹なんてこんなもんなんだろう。俺は妹には激甘だし、妹もここまで俺に対してドライじゃないけど。

 にしても玄関の中で改めて美雪を見れば見るほど可愛らしいことに気づく。兄同様垢抜けている。これは相当モテるタイプに違いない。

 にしても、俺のことを先輩呼びしてくる女の子に会ったことないからなぁ。普通にときめきそうになる心を落ち着かせる。

 これだから陰キャはダメなんだ。すぐに勘違いして、傷つく...いや、今回は信じてもいいっすか、いや信じちゃうぞ。

 そんなことを考えながら美雪に続いて自分も部屋に入る。三人でギリギリな部屋は四人もなんとか収容できるがやはり圧迫感は否めなかった。

 にしても改めて立ち上がり俯瞰すると、一段と部屋の汚さに気づく。折り畳み式の雀卓とそれを囲んでいる四つの椅子。その横に設置されているベッドとその上に置かれているお菓子。床には色々物が散乱している。足の踏み場がないとまではいかないけど、汚いことには変わりない。

 もっと片づけておくべきだったと悔いてももう遅い。しょうがないから、そのまま入ってもらおう。少し狭いけど、四人でも座れるだろ。

 

「で、そちらの可愛いお嬢さんは誰かしら?と聞くのはきっと野暮よね。さっきドア越しに会話聞いていたから。私は茅野凛よ。よろしくね、美雪さん」

 

 茅野が自己紹介をする。ほんとこいつはキザな台詞を自前の低音ボイスで吐く。カッコいい奴がカッコいい声で言うと様にしかならないな。その声帯取り換えっこしてぇ。

 

「初めましてです、茅野先輩。私、柊美雪です。茅野先輩のことを兄からよく美人な方だと伺っていたのですが、本当にすっごく美人さんですね!あとお洋服も可愛い!先輩はどこで買っているんですか?」

 

 男どもを差し置いてガールズトークを始める二人。

 そもそもネット通販で全てを済ませる俺には、メンズのブランドさえ殆ど分からない。ましてやレディースなんて分かるわけがない。

 おい、誰だ。お前には服を買うような友達が居ないのかと笑ったやつは?

 正解だよ、こんちくしょ!

 そんな俺を置き去りにして、二人は男禁制のゆりゆりフィールドが展開されていく。

 葵はその光景をにこやかに眺める。こいつにしては珍しく茶々を入れないな。珍しい。

 美雪の方は緊張が解けたのか嚙むこともなく楽しそうに駄弁っている。

 にしても、あそこだけ何かいい匂いがするのも相まって別世界と言っても過言じゃない。

 何故だろう、女の子っていい匂いがするよな。男らはワキガに汗臭さ、年を取れば加齢臭に悩まされるというのに。なんだ、この差は。

 なんか白いふわっとした花弁がたくさん舞っているのが見える。

 

「それにしても美雪さん、あなた男を見る目がないわよ。この男のどこがいいの?こんな腐った魚の目…いや腐敗しきったシュールストレミングなんかに」

 

 おい待てこら。

 誰が世界一臭い缶詰だ。毎日風呂に入っているし衣服も洗ってるつーの。ってか今そのことについて内心悩んでたんだからそれ以上は辞めてください。お願いします。

 っつーか、最初目が腐っている話だったのに最後ただ俺が臭いっていう悪口じゃん。

 あと、その話を持ち出すと——

 

「い、いや、あ、あれは先輩のことが好きとかじゃなくて...いやき、嫌いでもないんですけどとにかく、ぜ、全然違うんです」

 

 やはり美雪は案の定、嚙みモードに入ってしまった。

 顔を赤くしながら、あたふたしている様子は可愛いけども。

 えってか俺のことが好きじゃないの?

 もしかして俺の自意識過剰妄想恋愛症候群とか発症しちゃってましたか?

 目線が合っただけ、挨拶しただけで、自分に気があると錯覚してしまうあの病ですか?

 なんか顔が赤くなってくる。ほんと俺のバカ。

 

 「私、先輩のクロノスが大好きなんです!」

 

 その言葉からワンセコンド。

 俺は思いがけず聞き返してしまった。

 

「うん?」 

 

 俺の一言で部屋の空気が凍る。無意識だったせいか意図せず強い口調となってしまったらしい。

 美雪に至っては顔面蒼白状態で固まっているし…いや、本当に申し訳ない。

 いやそれより、今「先輩のクロノス」って言ったか?

 どうして美雪は、五年前に俺が作った同人作品《クロノス》の名前を知っている?

 俺のこの黒歴史を知っている奴は、茅野と葵を除けば、俺の家族と先輩達だけだ。

 誰が美雪にそのことを教えたんだよ、なぁ答えろよ、葵。お前なんだろ。

 俺はキっと葵を睨みつける。葵の方はこちらを見て、気まずそうにする。目を閉じ数秒黙考した後、未だ凍りついた空間を融かそうと口火を切った。

 

「えーと、ごめん。俺と清十郎でお茶持ってくるから、二人はそこで待っていてくれ」

 

 そう言い終わった葵は俺に顔を近づけ「さっ行くぞ、上で説明させてくれ」と耳元で呟いた。お前の顔でそれをされると、同性でもドキっとしそうだから辞めてくれ。俺に変な趣味ができたらどうしてくれんだ。

 あーもう、ダメ。さっきまで燃えていた怒りが消えちゃったじゃん。ほんとさ。

 もう反抗する気も失せた俺は素直に従う。

 葵はと俺は部屋のドアを開け、二階の台所へ向かう。

 部屋を出て階段の方へ向かいながら「なぜ妹さんに教えた」と葵に尋ねる。

 葵は階段を一段ずつ登りながら、ため息をつき、話しかけてきた。

 

「俺だって言うつもりはなかった。お前の話を聞いて、これは話しちゃいけないことだなって思ったから。けどよ、あいつが何度も何度もクロノスを読み返しいる姿や、俺に勧めてくるのを見ていたら、真実を伝えたくなっちまった」

 

 言い終わると同時に、階段を昇り終わった。

 俺は冷蔵庫を開け、葵に綾鷹とグラスを渡す。

 葵は四つのグラスにチャポチャポと注ぎながら続けて語る。

 

「あいつ、本当にクロノスのストーリーが好きで好きで仕方がないんだ。批判したことなんてないし、アンチレスに殴り込みに行くレベルだ。あいつはネットのやつらと違う。お前の味方だよ」

 

 一杯目を注ぎ終わり二杯目にとりかかる。

 俺は何も言えず、唯々聞き入れることしかできない。

 

「お前が俺と凛に語ってくれたことは殆ど話した。お前が創作活動を一切行っていないこと、その理由、五年前に何があったのかを含めて。お前には申し訳ないと思っている。本当にすまない」

 

 そこで注ぎ終わったグラスを一旦置いて、葵は俺に頭を下げた。

 こいつが誰かにここまで謝罪する姿を俺はこの四年の間見たことがなかった。

 その姿を見て、俺は蛍火のように微かに燃えていた怒りのオーラを脱ぎ捨て「分かった、頭を上げろよ、バカ」と答える。

 その返答を聞いて葵は俺の目を見て再び謝罪の言葉を口にする。

 相当悪いことをしたと思っているみたいだ。

 まぁ、友人の秘密を勝手に漏洩しちゃったもんな。公的機関なら逮捕もんだ。反省はしろ。

 顔を上げた葵が俺に問いかける。なんでお前はこんなに簡単に許してくれるのか、俺はお前に殴られる覚悟はあったのにと。

 なんで俺がお前を許すかって?

 そりゃ自身がお前の立場になった時、友人の秘密であろうとも、言わない選択を必ず取るとは限らないからだ。

 妹とか弟の為なら何でもしてしまうのがお兄ちゃんなんだよ。悲しいことにな。俺だって、妹の為なら世界ぐらい敵に回す覚悟がある。

 だから怒らない。あんな可愛い妹がいたらしょうがないよな。俺に一言相談ぐらいしろとは思うけど、謝罪は受けたし、怒ったところで既にどうしようもないこと。殴って欲しいなら、殴らせてもらうけど。

 そう俺は答える。

 俺の返答に葵は目を見開き、ありがとう、と小さな声で呟いた。

 お、お前かわいいところあるじゃん。頼むから、いつもそんな態度でいてくれ。

 俺はその様子を見て、こいつはやっぱいい奴だと再確認した。

 同じ妹を持つ兄として親近感が湧いたのと、妹のために友人を売る姿勢、そして友人に謝る潔さに人の好さを感じた。まぁその売られた友人が俺なのは思うところがあるが。

 やっぱりお前は妹思いのいい奴だな、そう言いかけた瞬間、俺よりコンマ一秒早く葵が口を開く。

 

「やっぱ、お前も美雪のこと可愛いと思ったんだな!なぁなぁ、俺の妹はどうよ、真剣に交際とか考えないか?パイも大きいしさ、絶対優良物件だぞ」

 

 とニヤついた顔で葵はとんでもないことを大声で言いやがった。

 うん、前言撤回!

 こいついいやつだけど、真正のアホだわ。

 俺の温かいほっこりとした気持ちを返せバカ野郎。ってか俺はなんと答えればいいんだ、人様の妹だぞ。俺ならお前が俺の妹にガチ恋した瞬間、お前のことぶん殴ってんぞ。

 もし可愛いとか思っていても言えねぇよバカ。思い返せばかなり可愛い子だと思うし、確かに胸も大きかったなとは思うけどさ。

 

「声大きい、下に聞こえるっての。バカ。アホ。エロ猿、へんたいふしんしゃさん!」

 

 思いつく限りの悪口を吐かせてもらう。

 なんか最後のやつは群馬県みどり市観光大使でいらっしゃる声優さんの声で脳内再生されたが、まぁ別に問題はない。

 別に作者の出生地が群馬県太田市で、桐生市とかみどり市に縁があるとかそういうんじゃないんだからね!

 

「そんで、俺は彼女に何をしてあげればいい?そもそも俺がクロノスを書いた証拠も何もないし、公式サインとかもできないし」

 

「いや、俺は何も知らん。あいつが今日来たいって言ったから連れてきただけ。お前とあいつで仲良く喋ればいいんじゃね?てか四つ注ぎ終わったしそろそろ下に戻ろー、あいつら多分待ってるぞー」

 

 などと無責任なことを言って、グラスを二つ持った葵は階段を下りて行く。いつの間にか残る二杯にも入れていたようだ。

 ちょ待てよ、俺の話終わってねぇよ(vcキムタク)

 なんだよそれ、結局俺がどうすればいいのか、教えてもらってないんですけど。

 俺は残された二つの綾鷹が注がれたグラスを見ながら「やっぱお茶は綾鷹に限るな・・・」と呟くことしかできなかった。

 

 

 ぜってぇこの馬鹿野郎は後で絞めてやる!!!

 

 

 

 

 

 

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