俺生産系オタクに戻ります 作:微睡
第二章 過去回想
一般的に小学生は多くの知識や常識を漫画やアニメから得ている。
男児がコ〇コ〇コミックを読んで、うんこの偉大さを思い知り、女の子の方はりぼ〇を読んで恋愛について学んでいる。特に最近のJSなんて芸能界の裏事情をテーマにしたダークサスペンスな漫画を愛読しているらしい。
こんな感じに、小学生は何かしら漫画やアニメから様々なことを学んでいくし、その趣味嗜好は性別や年齢などによって千差万別だ。
俺、秋葉清十郎はどうだったか?
俺も寸分違わずメディア作品を好んだ。それがビジュアルノベルである点を除けばだが。
* * *
ビジュアルノベル、要するにストーリーとCG、サウンドで魅せるゲームの総称であり、1990年代から2000年代にかけて爆発的大ヒットを起こした。泣きゲーやギャルゲ、エロゲといえば伝わるだろ。
そんなビジュアルノベルを愛読?愛プレイ?し始めたのが小学4年の時。父さんの書斎にあった泣きゲーを偶然プレイして、泣き腫らしたことがきっかけ。これがもしギャルゲやエロゲだったら違った結果になっていただろう。いや、もしそうなら父さんとの関係も危ぶまれるが。
お前はどうなんだって?俺はそういうのはスマホとパソコンに隠している。パケ版も捨てがたいが、名誉のため、家族との絆の為だ。
それはさておき、当時は読みたくても読めない事情があった。うん、中学受験。毎日塾に通っていたからな、なかなか読むことができなかった。どうして中学受験したかって?こう見えて勉強は好きだったのと、頭の回転だけは当時秀でていたからな。四月生まれの特権というやつだ。本当の天才、例えば補助線をパット見で引けるほどじゃなかったけど、反復を繰り返してコツをつかんで必死に食らいついていたよ。んで、最低点ギリギリながら、無事第一志望に入学。中学生になってからは毎日のように読むようになった。アレだ。抑圧されてきた子供が自由を得るとぶっ壊れるみたいな?
泣きゲーからギャルゲ、ミステリーなど幅広い作品を読んできた。あと神に誓って言うが、エロゲはやっていない。うん。おいそこ怪訝な目で俺を見るな。俺の部屋にエロゲのパケないだろ…いや今さっきパソコンに隠してるの言っちゃたか。ほんと俺の馬鹿。
話を戻すぞ、でそんな中学1年を過ぎたころ、俺は唐突にシナリオを書きたくなった。今でもどうしてなのか分からない。どの作品に感化されたのかすら分からん。
ただ一心不乱に自作ノートに設定・シナリオ・分岐√を書き連ねていった。
小学生女児が学習帳や自由帳に漫画やイラストを描くことと全く変わらない。その点でいえば、当時の俺は幼かった。
何故かって?
そりゃ、もし今そのノートを見返したなら黒歴史は確定。本当に賢いやつは黒歴史になることを予想してまず書かない。
誰かに見られたら人生終了しちゃうような、命よりも大切な自作ノート。
これを失くしたことが全ての始まりだった。
2018/04/01 13:25
「これは君のだよね?中等部2年3組の秋葉清十郎君」
突然声を掛けられた。いや正確に言うなら「この学園で一番関わってはいけない先輩」から声を掛けられた。それも彼女がいるはずもない俺の教室で。
政界から経済界、メディアや芸術その他日本の中枢で活躍する人物を輩出する名門英秀学院。
幼稚舎から始まり中等部、高等部、大学までストレートに進めば、人生安泰がほぼ確実に保証されている。芸術分野の有名人を多く輩出している通り、普通科だけでなく芸術科、理数科、工学科、その他と幅広い学科を擁する英秀は、日本の中でもトップクラスの人材を育成する。
そんな魔境とも呼ばれる英秀の中でも、彼女の名は学院ないで知らない人はいない。
私立英秀学院高等部一年、飛鳥井《あすかい》紫《ゆかり》。
百貨店など大手小売り業を中心に、金融、建設などを手掛ける飛鳥井グループの御令嬢にして、英秀学院の理事である祖父を持つ彼女は噂によれば「関わった人間みんな退学に追い込んでいる」とかなんとか。
いや、ほんと生きているレベルが違う。所詮中等部編入の俺と比べる方がおかしいのだが。
冗談抜きで絶対に関わりたくないけど、現にこうして今俺の眼前に立ちながら、一冊のノートを携えている。
見覚えがある、っていうか見覚えしかないんだけど...ほんと今更だけど、どうして俺はこんな大事なノートを学校なんかに持ってきたんだよ!俺のバカ!
えっマジ、これ見られたら人生終了する。それよか持っている人が最悪だ。クラスメイトと同学年に渡って流出するのも嫌だけど、それ以上にこの人はいかん。
綺麗な顔と雪のような白い肌、流れるような黒髪、プロモデルも真っ青なプロモーション、人を引き付ける目。話には聞いていたけど、本当に綺麗な人だな、と思ったのも一瞬。
俺の生存本能がフル作動してすぐに離れろって伝えてくる。
神のように光り輝く美貌を兼ね備え、悪魔のような残虐性(伝聞推定)をその完璧な表情の裏に隠し持っているとか、この人ガンバのノロイかなんか?俺あれを小学校低学年の夏休みに父さんと一緒に見て、トラウマになったんだけど・・・
とにかく余計なことを言わずに、ブツを受け取ってすぐにこの場から離れた方が良さそうだな。
人当たりのいい、まっすぐな笑顔を先輩に向ける。なるべく好感度を稼ぎつつ、厄介ごとからは一目散に逃げさせてもらう。
「昨日図書館で勉強していた際に落としてしまって探していた所なんです。届けてくださりありがとうございます!」
半分嘘。春休み、生徒がおらず貸し切り状態の図書館でシナリオを書いていたらノートを忘れただけ。勉強なんてしていない。
図書館の落とし物BOXに事務室無かったから教室も一応点検しに来たのは本当だけど。
そういえばなんでこの人は平然と中等部の教室に居座っている?
落とし物を拾ったなら図書館、事務室へ行けばいいし、わざわざ俺のクラスに届けに来たとしても待っている必要はない。うーん分らん。
とはいえ考えたところで意味はない。精一杯の笑顔、社交辞令じみた返答。これ以上の対応などできやしない。
「うん、どういたしまして。それでさ、渡す前に一つ聞きたいことがあるんだけど、今いいかな?」
先輩はなんてこともないように気軽に聞いてくる。
それこそ「ヘイ、彼女、一杯お茶でもどう?」みたいなフランクさだったぞ。
あまりにも自然すぎて、つい「はい」って言っちゃたじゃん。
やべぇ、嫌な予感しかしない。
「この中のシナリオを書いたのは君?」
はい、来ました。
やっぱり見られていたか…顔が恥ずかしさで赤くなるのを感じる。いや、今はそんな暇はない。次にどう話が展開するのか予測しなくちゃ。
一番ラッキーなのは嘲笑されること。ただ俺が恥をかくだけで済む。
だが、本当にそれだけか?
この先輩が人を、それもなんの関わりもない後輩を馬鹿にするためだけに時間を使うとは到底思えない。もっと最悪な事態が待っているかも。
けどここで否定することはできない。ノートには僕の名前が書いてある、どう考えたって俺のものだ。
俺は声を発さず首を小さく縦に曲げる。
「やっぱり。うん、やっぱりそうだよね」
目の前にいる先輩は、自分の予想が当たったことを喜ぶかのように、先ほどより笑顔になる。
不覚にもその愛いらしい笑顔に心を射抜かれそうになる。
それ男子には反則ですよ…
そんな不純なことを考えていると、先輩は息を吐いて、再び俺の方を向く。
真剣な眼差しを俺に向け、そしてゆっくり口を開いた。
「私と一緒に同人サークルを作って、一緒にゲーム作らない?」
「・・・は?」
これがこの日俺が一番感情を露わにした瞬間だった。
「えっいや待ってください、飛鳥井先輩」
頭が混乱する。先輩は今なんて言った?
私と一緒にサークルを作って、ゲームを作れ、だと。
聞き間違えの可能性があるし、先ほどの会話を反芻しても頭の中の疑問符は取れることがない。とはいえ、こちらも何か喋り出さなきゃいけない。
メダパニにかかった俺は、人との会話で分からない時やすぐに言葉が出てこない時は"pardon"を言えって英検の対策で習ったのを思い出す。
ありがとう、ミスターナントン。
「申し訳ありません、よく聞き取れなかったのでもう一度お願いできますか?」
"pardon"の完璧な日本語訳だな。これで自分の聞き間違えを正すことができ———
「うん!えっともう一度言うね。私と一緒に同人サークル作ってノベルゲー作らない?いや作ろう、作りたいよね?」
やっぱり聞き間違えじゃなかった!
この人、同人サークル作りたいの?
先輩なんでそんな「同人」なんて単語知ってんだよぉ。
あんたお嬢様じゃないのか?普通お嬢様キャラは俗世に対して無知なのがいいんじゃん。
あとなんか語尾が変わってきてない。「お願い」だったはずなのに、俺がやりたいという仮想の前提に置き換えられているんだけど。
やべぇ。早く断んなくちゃ。
「えっと、お誘いはありがたいのですが、お断りさせていただき…え?」
先輩がスマホの画面を見せてきた。
写真だ。
よく見るとそれは何か紙のような何かだった。
いや見覚えしかないノートの一部分だった。
* * *
『クロノス』
① あらすじ
魔術が存在する世界が舞台。
魔術師見習いの主人公は不気味な洋館を発見し、魔術の痕跡を発見し、確認のため敷地の中に入る。そしたら急に空間が移動し、目を開けると記憶喪失状態の少女が隣に眠っていた。脱出を試みるも結界が貼ってあり抜け出せないため、少女と二人で内部を探索し結界の源を破壊しようとする。
しかし館の中には正体不明の化け物が徘徊していて、二人は惨殺される。そして次の瞬間主人公が目を覚ますと先ほどの空間に転移(=タイムリープ)
何度も襲われて死にながらも、怪物の弱点を調べ、徐々に探索範囲を広げていく。その過程でヒロインを助け、助けられながら、主人公はヒロインに対して好意を抱いていく。
館を探索する中で、この館の歴史、少女の正体、不条理な現実を目の当たりにする。
しかし、絶望に打ちひしがれながらも、希望を捨てずに彼女を守り通そうと決意する。
② キャラクター(概要、詳細は⑤以降のキャラクター詳細を参照)
【主人公(仮)】
特徴:魔術師(C級魔術師・得意魔術:吸収)十五歳の男の子。魔術師としては見習い。エネルギー(生きている生物からは不可)を吸収、放出する魔術を扱う。(しか使えない)人智を超えた奇跡を顕現させることを目的とする魔術師としては、現代の文明に依存しすぎているため評価されない。
ゲーム内に出てくる怪物に対しては魔力放出で吹き飛ばすことで対応。
性格は省エネ主義を語るほど自堕落。だがこの異常事態でヒロインから助けられたことで、昔描いた人を助けるかっこいい魔術師になりたいと思うようになる。
【ヒロイン(仮)】
特徴:記憶喪失の女の子。十四歳。魔術を使える主人公とは異なり、使うことができない。
見知らぬ、閉ざされた館に取り残され、目が覚めると隣に見知らぬ男(主人公)が。
性格は温厚、基本無口で喋らない。しかし、人一倍他人を思いやり気遣う)館には彼女と似た怪物(似ているが、体はゲル状に溶け、自我は崩壊している)が闊歩しており、ショック(ここの心情描写は必須)を受けるも、自分の正体、この館の正体を解き明かそうと立ち上がる。
タイムリープを繰り返す主人公とは異なり、記憶を引き継ぐことが出来ない。その為、主人公と話が噛み合うことがない。ただ、作中終盤、主人公がヒロインを大事に思うようになったことに気づき、ループ前の自分がどうしてここまで、主人公と仲良くなったのか疑問に思いながらも、主人公に心を開いていく。
彼女の正体=十年前、この館で起きた吸血鬼による一家惨殺事件の被害者。被害を免れたヒロインの兄(A級魔術師・固有魔術:限定的な時間遡行)が彼女を助けるために、タイムリープを数千回と繰り返す。しかし、このことで、彼女が存在する(+死亡する)=世界が止まり続けてしまう、という因果が構築される。
世界の時間が止まり続けることに対処するために、世界(ガイア)が、タイムリープを繰り返し続ける館の一日を仮想空間(例えるならコンピューター、実際の肉体はなくただの電気信号orエネルギーの世界)へと昇華させる。彼女の存在が現実世界から消えたことで世界の時は動き始める。そのことで、ヒロインは現実世界での「死」が確定する。
しかし、一方仮想世界で彼女(+吸血鬼(黒幕))は、自分が死ぬ一日を誰にも観測されることなく延々と繰り返されることになる。(彼女が死亡するor元々死亡する予定の時刻(24:00)に到達する→次の一日がリプレイ)
兄が行ったタイムリープとは異なり、不完全なタイムリープであるため、前の世界・自分が殺される記憶を保持してしまう。そのことで繰り返される自分の死によって、精神が摩耗、人格が破綻、俳人となる。その後、体が自分を守るために記憶を消去するようになる。
館に蔓延る怪物は、この不完全なタイムリープの副産物。吸血鬼に血を吸われ、不完全な吸血鬼(怪物)に成れ果てたものが、システムのバグにより数千回に一回の確率で次世界に持ち越されたもの。
最終的にこの事実に気づいた主人公は、彼女は生きても死んでも辛い目に遭うだけという、不条理な現実を突きつけられる。
しかし、主人公はヒロインを殺せる(楽にしてあげられる)一つの方法を閃くと同時に、彼女を救う方法がないか探し、苦悩することとなる。
* * *
え、これもしかして僕脅されているのか?
手伝わなければ、この厨二感全開の痛々しいシナリオ《クロノス》を、クラス・学年・全世界に発信する準備は整っているんだぞと…
「今、何か言った?」
「い、いえ、なんでもないっす」
え、マジ怖い。この女、ほんと何考えてんだ。この瞬間に歴代遭遇したヤバいやつランキング更新されたぞ。
ちなみに旧一位は中学受験のために通っていた塾の先生。盗撮で捕まったクソ講師。何より捕まった時に「男子小学生のパンツを見たかった」と犯行を供述したのをテレビで見たときの気持ち悪さは異常だった。
男子小学生のパンツを見たがっていた事実と、俺自身撮られていたかもしれない恐怖。ほんとアレは怖かった。うーん、そう考えると違うベクトルのヤバい奴だな。やっぱあのクソ講師より上はないか。
うん、晴れて同率一位にしてあげよう。
「で、返事を聞いてもいいかな、秋葉清十郎君?」
やべ嫌な記憶思い出していたら猶予の時間使い切ってた。
否定が許されないこの状況で俺が唯一出せる返答は
「えぇ。是非ともやらせてください」
唯そのお願いを了承し、服従することだけだった。
苦虫を踏み潰した顔とはこういうものなのだろうと、俺は鏡を見ずにそう思った。見なくたって分かる。多分相当酷い顔をしているはず。
脅されて自分の意に反したことを誓った挙句、碌な未来が見えやしない。
対照的に先輩の顔は明るい。いや明るいというより、悪だくみを覚えた子供のような笑顔だ。ほんとどうなるんだ、俺。
こうして俺は先輩の提案、もとい命令を受け入れることとなった。