淪落の聖女   作:R_echan387

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ビスクドールのおままごとⅤ

5.

「入学金出してください」

 けろっとした笑顔でスレッタはミオリネに両手を差し出した。

「入学金?」

 何の。という気持ちが表情に出ていたのであろう。スレッタは「復学できることになったんです」とアスティカシア高等学園と書いてあるパンフレットをミオリネに見せた。

 久しぶりに純粋なスレッタの笑顔を見たような気がしてミオリネはそのパンフレットをぱらぱらと捲る。学園長の名前のところに、グエル・ジェタークの名前があった。

「あいつ、アスティカシアを再興させたってわけ」

「そうみたいなんです。もともとアスティカシアに通っていた学生たちには全員復学意思確認書を送付したって言ってました」

 そういえばそんなものも見たかもしれない。まさかグエルが再興しているとは思っていなかったが。とっくに学園で習う範囲は履修済みで特に復学する利点もなかったミオリネは、どちらの意思も提示することなくゴミ箱にダイレクトメールを放り込んだ記憶がだんだんと蘇ってきた。

「入学金って言わないか。復学金?」

 とにかくお金出してください。とスレッタはミオリネに言った。まるでミオリネが一考するとは思っていないような物言いで、出会った頃のスレッタは確かこうだったような気がすると今更ながらに考える。

「プロスペラは?」

 一応、ミオリネは確認する。出し渋るとかそういう話ではなく、保護者が存命なら基本的に保護者が出すことが多い。プロスペラが反対するというのなら、スレッタは学校に通わないほうがいいのかもしれない。リハビリが終わった後は、ミオリネが用意した家で待っていてくれたらいい。

「お母さん終活しているので、連絡取れないんです。でも反対はしないと思います。復学したいって以前然話したときにリハビリ頑張らないとねって言ってたので」

 いつ振りか明るく前向きな発言に、ミオリネは分かったと頷いた。パンフレットには全寮制と書いてあったので、入学したらスレッタは一年間入寮することになる。そうするとミオリネとしてもいろいろと動きやすくはなるので、もしかしたらタイミングが良かったのかもしれない。

「楽しみです。地球寮の皆さんも一緒なんですよ」

「は?」

「はい?」

 ミオリネの素っ頓狂な声に、スレッタは首を傾げた。地球寮の面々は株式会社ガンダムの社員たちだ。復学するなんて相談は誰からも受けていない。

「社員全員復学がするの?」

「全員かは聞いてないんですけど、少なくともリリッケさんとアリヤ先輩は復学するって。多分男子たちもすると思うって言ってましたよ」

「まじか……」

 これは本格的に再始動する前に資金だけ集めないといけないなと、ミオリネは頭を抱える。

「あ、でもペトラさんのガンドアームの義足をする手術には立ち会うって言ってました」

 多分学校に通いながら皆さんお仕事するんだと思います。とスレッタは自信気に続けた。

「ところでこの意思確認書とやらを見る限り、スレッタはパイロット科で復学するの? 別の学科じゃなくて?」

「グエルさんにも言われたんですけど、そうしようと思ってます。メカニック科と迷ったんですけど、やっぱり私はエアリアルのこと大好きだから」

 スレッタ一瞬何もない自分の腰あたりを見る。ミオリネは「ふぅん」と頷いて復学金の振込口座を確認した。

「わかったわ。お金は出すから、ちゃんと卒業してよね」

「もちろんです!」

 ふわふわと笑うスレッタの笑みを、ミオリネは久しぶりに見たような気がする。自分が知っているスレッタに戻ったような気がして、ミオリネはスレッタに笑い返した。

 

* 

 

「制服、新しいデザインに変わってました」

「操縦技術はやっぱり落ちちゃいましたね。ちょっと思うとおりに機体を動かせることのほうが少ないんです」

「考査一位取れたんですよ」

「新しい友達も増えました」

 

 スレッタからは一日一通、その日の感想の様な、日記のようなメールが送らえれてきた。ミオリネはそれを見てスレッタがしっかりと学生生活を謳歌で来ているようで安心する。

 ミオリネとスレッタと言えば、スレッタが全寮制の学校に復学したことで実際に合って話すことはウィンターホリデーかサマーホリデーかというところになっていた。

「グエルさん、時折学校にも顔を出して気にかけてくれるんです」

 スレッタは注がれたドリンクを眺めながら口を開いた。

「忙しいのにマメな人ですよね。なんだかちょっとだけ、申し訳なく思う時もあります」

「グエルが好きなわけ?」

 ミオリネはスレッタの指先を見た。ミオリネが送った豪奢な指輪はスレッタの指には今ついていなく、日焼けの跡もない。日常的につけているわけではないようだ。

 グエルに浮気しているんではないだろうか。不埒な考えが頭を過る。自分には浮気を懸念しておいて、自分たちはこっそりと逢瀬を交わしているのかもしれない。

「私はミオリネさんに私を幸せにしてもらおうと思ったんですよ。なんでそんなこと言うんですか」

「あんた、私が送った指輪してないじゃない」

「あんな指輪つけてたらやっかみにあうから、大切に保管しているんです」

「まぁそれもそうか……」

 穏やかなスレッタの雰囲気が霧散して非難する声に、ミオリネはひやりとして慌ててミオリネはスレッタの言うことを肯定した。確かに学生という身分がつけるにしてはその指輪は豪華すぎるものだ。

「一応確認するけど、浮気なんかしてないんでしょうね。あんたはあたしの婚約者なんだから」

『どの口が言ってるんだか。スレッタはそんな不義理なことしないから、つまらない喧嘩を小姑の前でするのやめてくんない? 聞いてて気分が悪いんだけど』

 それまで黙っていたエリクトが口を開いた。ミオリネとエリクトの仲は改善されることはなかった。エリクトは些細なことでミオリネに正論でちくちくと攻撃してくる。それでも一緒にいたのはエリクトが嫌味以外はほとんど話さなかったからだ。ただ、なんとなく見張られているような感じがして居心地の悪さを感じる。確認したことはなかったが、逐一ミオリネの動向をスレッタに知らされているような気がした。

「たまには姉妹で話したら? 席外すわよ、あたし」

 ミオリネの端末が小さく震えた。メッセージの受信を確認して送信した相手を確認してから口を開く

「……それもそうですね。たまには姉妹で話すのもいいかもしれません」

 スレッタはミオリネに気を使ってくれたのだろう。ミオリネはキーホルダーをテーブルの上に置いて席を外す。

『最近そっちはどうなの』

「普通だよ。特に何もなくて、むしろお母さんのほうが心配」

『あー、最近てんで連絡ないしねぇ』

 なんてやり取りが聞こえる。プロスペラの名前に治りきった指先が痛むような気がしたが、それ以上は聞かずにミオリネはその場から離れる。久しぶりにひとりという空間を味わったような気がして、大きくぐっと伸びをした。

 連絡は、サビーナからだった。シャディクのテロに加担していた五人は出所後、打ち合わせの通りに株式会社ガンダムの社員として、ミオリネのボディーガード兼秘書として働いてくれている。

 シャディクの言うとおりに、彼女たちは優秀だった。下手に誰か雇うよりもよっぽど使い勝手が良かった。

 しかし、送られてきたメッセージにミオリネは顔を顰める。刻一刻と猶予がなくなってきているのを実感して、いまだ目途のたたぬシャディクのクワイエット・ゼロ計画の冤罪の証拠を集めに歯噛みした。

 

 

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