ウロボロスの毒にかかる   作:レイジー

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第二話 自立と油断に苛まれて

「で、具体的にどうします? てかどうなると思います?」

「そうだね。まず食糧だったりを売っていたお店はすぐに荒らされるだろうね」

「あとはホームセンターとかですね。発電機がありますし、色々揃えられますし。武器的なのも」

「ああ。……もうどうせ店も使えないんだし、仲間なんだから素で話してくれたまえ」

「あっそ」

 

 お互い、スマホとパソコンで調べながら話し合う。

 

「ん~、やっぱり危険だってわかってから外の情報が出ねぇな。アホなユーチューバーが配信してたりしそうなんだが……ホントにいたわ。って、食われてただの時間制限付き定点カメラと化してやがる」

「どうする? 食糧を取りに行くかい?」

「……犯罪者になっちゃいますぜぇ?」

「もはや所有権を主張する者も、その声も届かないのだろうから使う方が良いと思うんだがねぇ」

「だったらウチの店の肉でも米でも食いますよ。まだ店長権限って方が気が楽だし」

「それもそうだね」

 

 口ではそういうが、2人ともよほど困窮しないかぎりはそのつもりはない。

 現状の備蓄は職場で期限間近として配布していた保存食のパン3缶に水5本、加えて米10キロ×2とパスタ5キロ×2、レトルトカレー5袋×2、パスタ用トマトソース1缶+使いかけ、ゼリー5つ、フリーズドライ味噌汁3箱、食パン2袋、ジャム2瓶、カップ麺12個などある程度揃っている。

 

「お酒あんじゃん。なんで常温?」

「親が引っ越すから処分って渡してきた。俺酒飲まないんよねぇ。欲しいならあげる。――そうだ、USBのタイプAとかBとかマイクロBとかCとかライトニングとかはそこの箱に詰めてあるから充電してドーゾ。切れてたら適当な変換噛ませてね」

「なんでそんなに持ってるの?」

「なんで、って。現代人だし、それくらいは……」

 

 高校時代はコンピュータ部所属ではあったが、そこは全く関係がなく、完全に個人の要因だ。

 貰い物のスマホやタブレット。現代は契約のためにタダ同然で端末を渡すこともあるためそれが親から。

 そうして得た端末を使うには様々なケーブルが必要だった。

 それだけである。

 

「そういえば、すぐそこの高校って屋上にソーラーパネルあったな。避難所としても使えたはずだし明日見に行くか」

「避難所ってことはそこを守る必要があるのか。そっちの小学校も避難所だっけ?」

「ああ。ただそっちにはソーラーパネルないんじゃないか?」

「まあ、広さからしても高校の方が優先度が高い、か」

 

 SNSで情報収集をするが、やはり目ぼしいモノはなく。

 けれど阿鼻叫喚としているだけ。

 そして不意に外から建物の壊れる音がした。

 

「……少し遠いけど、放置すりゃヤベーかもな」

「どうする?」

「はぁ、そういう運命だ。行くわ」

「じゃ、私も」

「……ほら、コート。せめて夜闇に紛れるようにこれ着とけ。俺と違って死んで終わりなんだから」

「……はぁ。一言余計、普通に心配とでも言っておきな」

「じゃ、そういうことで」

「はぁ……」

 

 俺は全身黒のジャージを。

 初春は元々来ていた服に上から俺のコートを羽織る。

 加えて防御用などに腕にタオルを巻き、マフラーを持ち。

 そうして闇に解け、外へと出た。

 

「ちなみに、運動経験は?」

「中高と陸上部だ」

「へぇ。大会出場は?」

「記念で一度。つまり成績は良くはないさ」

「最低限動けるなら良いよ。てか運動部続いてたなら俺よかマシ。俺なんて入部してすぐにイジメで抜けてっからな」

「笑えないトークは止めたまえよ」

「知ってっか? イジメの話は既に気にしてないから話すんだ。気にしてりゃ話さん。だからその手の悲しいエピソードとやらを俺が話した時は基本笑えよ」

 

 そんなタチの悪い冗談を交えつつたどり着く倒壊した建物。

 離れた位置から様子を窺うと、そこには棒を持ったゴブリンの姿が。

 ゲラゲラと笑い、棒を倒壊した建物に向け、そこから炎が放たれる。

 

「っ――ちょっくら行ってきますかぁ。俺が引きつけるからその間に巻き込まれた人間がいるかの確認、あとどうせ延焼するだろうから近場の人間の避難誘導。場所的に小学校だな。空いてないだろうけど校門よじ登ってどうぞ!」

 

 近くの小学校を指さし、そのまま加速する。

 足音に気づいたゴブリンが俺の姿を探すが、街灯の乏しいこの道では黒ずくめの俺を即座に見つけるのは難しい。

 

「ふっ!」

 

 拾った砂利を投げつけ、妨害しながら一度横に逸れる。

 あえて投擲のさいに声を出すことでその方向へ意識を集中させておき、続く砂利で動揺させ、そして声を発さないことで居場所を誤認させ。

 握ったマフラーを振るってゴブリンの首に巻きつけ、引きつけた。

 体勢が崩れたゴブリンの背に包丁を指す。

 

『ゲギャギャギャギャギャッ!』

「しまッ!?」

 

 第二のゴブリン。

 それは同様に棒――杖を握り。

 その先端を俺へ向けていた。

 ゴブリンの胸が、続く肩が、腕が光粒を放ち。

 光流が杖へと流れ込む。

 収束する赤の光。

 それは杖の先端から少し浮いた場所で圧縮され、炎に変じる。

 

『ギャギャッ!』

 

 放たれる炎の塊。

 咄嗟に伏したゴブリンの首を鷲掴みにし、炎の塊へと投げた。

 位置にして魔術を発動させたゴブリンから2メートル先で2つが衝突し、炎が爆ぜる。

 

「素直にとんずら!」

 

 咲く炎。

 先の姿は見えない。

 今のうちにと距離を取る。

 

「ほらほら、来いよ!」

 

 手を打ち鳴らし、存在をアピールする。

 そうして枯れた火の跡を踏んでゴブリンが現れた。

 

(被害を受けたのは親子か。もう大丈夫か? ……オーケー、じゃあやりますか)

 

 救助完了を確認し、拳を構える。

 包丁はさっきのゴブリンに刺さったままだ。

 

『ゲギャギャギャッ!!』

「きたねえ声しやがって……」

 

 ゆっくりと近づくゴブリン。

 僅かに退くと、それに伴って近づく。

 

(なるほど。魔術の射程は10メートルちょいくらいか? いや、当てるために近づいてるとしたら射程はもう少しあるのか。試すか)

 

 あえて攻撃はせず、魔術の発動を待つ。

 光の出現から、射出まで約2秒。

 俺はそれを見て横へ逸れつつ距離も取る。

 

(大体倍か? そこが制御の限界なのか、それとも無意味と判断して爆発させたのか。ともかく20メートル程度は届くって考えた方が良いな)

 

 そんなことを考えているうちにも次の魔術が発動。

 今度は砂利を散弾のように放ち、ぶつける。

 衝撃に弱いのか、形状が一定以上に崩れると制御ができなくなるのか、衝突が起爆条件なのか。

 呆気なく破裂する。

 

「あでッ!?」

 

 放った砂利が爆風に弾かれ、その一つが腹部へ突き刺さる。

 傷はないが痛みはあった。

 

(まあいい。色々試したいけど今は合流して避難させるのが先決)

 

 ジリジリと近づき、約10メートル。

 魔術の発動の兆候、光を見た瞬間に加速する。

 見て、加速。

 反射神経が特別良いワケではない俺は発動前に殺す、なんてことはできなかった。

 だが、標的を絞らせないことで攻撃を受けないことはでき、7メートル進んだところで斜めに軌道変更することで狙いを外し、すれ違いざまに首を掴んでそのまま地面へ叩きつける。

 

「死ね」

 

 まず、杖を蹴り捨て。

 そして首を踏み潰す。

 動きが完全に止まる。

 

――――――――――

 

 【ゴブリンメイジの黒杖を入手】

 【魔石(ゴブリンメイジ)×2を入手】

 

 【魔力との接触を確認 能力補正項目・魔力の解放率が5%に上昇】

 

――――――――――

 

(……てことはこれまで項目としてあるだけで使えなかったのか? まあ良いや)

 

「あれ、なんでまだ校門? ……空いてんのな」

「待ってようかと思って。……いないと不安かな~って。さっきの親子たちは中にいるから」

 

 小学校に着くと校門の辺りで初春が待っていた。

 そして校舎を見ると一階、職員室が光っている。

 

「中にモンスターは?」

「いないみたいだね」

「1人で調べたのか?」

「残ってた先生の1人が軽く見て周ったみたい」

「オケ。じゃ、とりあえず合流すっか」

 

 門扉を閉め、中に入る。

 この事態だ、警備会社は動かないだろうが、それでも不法侵入にならないのは気が楽だ。

 

「こんばんは、はじめまして。重見宥宕です」

「はじめまして。ここの教師をしています、佐藤猛(さとうたける)です。貴方があちらの3人を救助した重見さんですか」

「ええ、まあ。といっても実際に助けたのはあっちの如月さんですね。僕は未知の怪物を引きつけ、倒しただけなので」

「怪物……倒した……。SNSでそういう話があるのは知っていましたが、可能だったのですか?」

「すべてがすべてネットで見るような怪物ではないですからね。僕が倒したのはゴブリンメイジという魔術を扱う存在でした」

「ゴブリン……魔術……」

「ははは、やっぱり信じられませんよね」

 

 現れたのは比較的若い、が俺よりも年上。

 ちょうど初春と同じくらいの歳の男性教師。

 初対面ということでお互いに少しギクシャクしながら会話をし、非現実的な言葉に彼は反応を見せた。

 

「まず、前提として共有しておきたいのは。あの怪物――モンスターを殺すとステイタスという存在が解放されることです。そして、その上でこのゴブリンメイジの黒杖とゴブリンメイジの魔石、というモノを手に入れました。状況としてはステイタスがウィンドウとして現れるのですが、それと同じようにアイテム名が表記されるという感じでしょうか」

「ゲームのような雰囲気ですね。それを『手に入った』と表現しているということはもしかしてそれこそゲームのようにモンスターの死骸は消滅したのでしょうか?」

「お察しの通り。死んだあとは肉体が光の粒となって消え、基本は魔石を残します。他にも倒したところ、こっちの杖のようなドロップアイテム的なモノは確定ではない、ということはわかっています」

 

 ちなみにだが。

 2回目の時、地下駐車場で殺して手に入れたドロップアイテムは引き継がれなかった。

 恐らくはインベントリが解放されていないからだろう。

 もっとも、それが解放されたからといって引き継げるかは未確定だが。

 

「なるほど。ああ、ちなみに僕もゲームなどは結構するタイプなので説明はそういう感じで大丈夫ですよ」

「それは楽ですね。で、なのですが。佐藤さん、貴方は戦う気はありませんか?」

「……守る戦力になってほしい、と?」

「ええ。ネットで情報を収集しているのならわかっていると思いますが、今の日本は壊滅的な状況です。今のところはまだライフラインが生きていますが、それが断たれるのも時間の問題でしょう。そして現状を放置すれば悪化の道しかない。であれば立ち上がるしかない。かといって僕一人じゃどう足掻いても日本を立て直すなんて無理です。一度救っても、モンスターがいれば去った街が危機に見舞われる。だからすべては救わずとも、居場所くらいは守れる人がいて欲しいんですよ」

 

 幸い。

 日本は島国だ。

 外部から無制限にモンスターが流れ込むことも、難民がやってくることもない。

 増えるにしてもその速度は抑えられる。

 であれば、環境としては恵まれているだろう。

 部分的に取り戻し、コミュニティを強固にし、そのうえで着実に進めればいい。

 

「……1つ聞かせてください」

「なんですか?」

「どうして戦おうと?」

「……まあ、理由は色々ありますけど。救えるなら救いたい、ですかね?」

「なるほど」

「断ってもらっても構いません。誰もがその道を選ぶ必要はない、それ以外に適した役目があるのならそこに生きる方が良い。あくまでも大人という最低限の条件を満たしたから尋ねただけです」

「……少し待ってもらっても良いですか?」

「ええ。もちろん」

 

(てか、そもそも期待してねーんだよなぁ。体裁上言っただけだし。そのあたりの人心掌握系統はぜーんぶ初春にポイ捨てするわ)

 

「とりあえず校舎の周り見てくるわ。どうする? 通話しておく?」

「ふむ……では繋ぐだけ繋げておいて基本は放置。一応5分ごとに私から声を掛けるからその都度反応をしてくれればいい。何かあればそちらから声を掛けてくれ」

「りょーかーい」

 

 初春に声を掛け、その場で通話を繋げてから黒杖片手に校舎を出る。

 近くの出入り口から出て、そのまま左へ曲がって校舎裏へ。

 木々が一列に並ぶ校舎裏。

 剪定された低木も並び、そしてその中に紛れるようにゴブリンがいた。

 

『ゲギャッ!?』

「フッ!!」

 

 これまでの戦いと比べて圧倒的なリーチ。

 左手で作った輪の中を杖が滑るように突き進み、ゴブリンの胸を抑えた。

 

「あ~、あ~、聞こえるかね~? そこにいた教員――猛だっけ? その人に、ゴブリン殺す勇気あるなら押さえてるから包丁持って校舎裏来るように言って。あ、駅見える方ね」

『わかった、聞いてみる――今行った』

「ほ~ん。――来たわ」

「それが……さっき見た時はいなかったんですが……」

「来たってことは殺せるってことで良いんですよね? こっちはあくまでもさっき話したステイタスの証明で呼んだだけなんでこれが防衛力うんぬんには関わらないんで安心してください」

「……ありがとうございます」

 

 抜き身の包丁を持って現れた猛。

 走って来たらしく少し呼吸が荒れている。

 そしてゴブリンを見て驚き、その切っ先をゆっくりと胸に向け、勢いよく突き刺した。

 

「本当に……いえ、疑っていたわけではないですけど……」

「ま、こういうことですわ。現実としてステイタスも魔術もある。ただ変な生物が現れただけじゃなくて世界そのものに異変が起きている。じゃ、そういうことで俺は見回りに戻るんで」

 

(……あ、一人称僕にするの忘れてた。ま、いっか! どうせそんな深い付き合いにならないだろうし、なるとしても他の人間に任せるわい)

 

 そうして猛から離れる。

 

「――めんどくさ…………」

 

 日本からモンスターを駆逐する、あるいは最低限社会を形成し直すのは確定事項。

 だから手間だろうとやり遂げる。そもそも逃げることが許されていない。

 きっと、何もせずに人任せにして、死ねば膨大な無為の時間ののちに滅びの直前へと戻ってくる。

 であれば、やる。

 けれど、他者に時間をかけてまで奮い立たせる気はない。

 未来のために人生は費やしても、魂までは売らない。

 善性で他者を導く勇者になりたくはない。

 それに相手は大人だ。

 ただひたすらに『自分で立て』としか思えない。

 仮にも教員。仮にも導く立場。

 滅び、その地位を失うとしても、その道を選んだ事実は消えない。

 導かれる立場に立った者が、俺に道を左右されるなどありえない。

 だから、嫌気がさした。

 

「……タバコ吸うヤツの気分って、こういうのなんだろうな」

 

 無性に何かに逃げたくなった。

 リストカットで負の感情をリセットするかのごとく、自傷(さけ)自虐(タバコ)で負を吐きたくなった。

 

(そういえば……棒キャンディーがあったっけ。アレで気ぃ紛れるか?)

 

『やあやあ、どうだい?』

「ねみぃ……夜勤ない日って基本早く寝てるから……」

『夜勤……たしか郵便局だったかな?』

「よう憶えとりますなぁ。正解。南の方にある郵便局で荷物の仕分けしてた感じ」

『郵便局にも泥棒が出そうだねぇ……荷物多いだろう?』

「ははッ。健康サプリばっかですぜ。あとはビールとかプロテインとか、他はなんだったっけかな? たまに歯医者の歯の模型? があったり、あとは税務署宛ての荷物があったり。……ああ、あとは大量のシャンプーだかコンディショナーだかが纏めて送られてきて重いっていう」

『働いている人間の生の言葉だねえ』

「そんな長くねぇがな――少し静かに」

 

 校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下を横切り、校庭へ出たところで不意に何かの音が聞こえた。

 初めは何かわからず動きを止めて耳を澄ませ。

 2度目の音でその正体がわかる。

 

「上かッ!」

 

 空にいたのは鳥。

 大きく、翼の長い鳥。

 無数の羽が舞い落ち、それが不意に宙で止まる。

 

(何を――)

 

 警戒するが、既に周囲を羽が取り囲んでいた。

 杖の先端で押すが、動かず。

 未知のモノに気安く近づくワケにもいかず、中心で羽と鳥に警戒を向け。

 そして突然、羽が俺へと向かって飛んで来た。

 

(――っぁ)

 

 無数の羽。

 それは鋭く、全身に刃のごとく突き刺さる。

 首を、胸を、腹を。

 当たった場所全ての肉を穿ち開ける。

 そして最後に急降下してきた鳥によって首の骨を折られた。

 

――――――――――

 

 【輪転:清算】

 【クエスト:ストライクバードの幼鳥】:ストライクバードの幼鳥の討伐(0/100)

 

――――――――――




 ぶっちゃけ読み手はかなり選ぶ
 なにせタイムリープするから
 世界の認識と、主人公の認識が違ってくるからね
 どれだけ仲間を作ろうと、戻ればそれもなくなる、っていう
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