ノーダメ縛りの男、神ゲーに挑む 作:ハンター
「──のどかだねぇ」
「ですねぇ」
とある昼下がりの土曜。
とある公園にてのんびりと過ごす時間。
腰掛けたベンチ。そこに並んで座る俺ともう1人の少女。
「それで?意中の殿方と進展はあったのかい?」
「……ふぇ!?いや、あの、その……!」
「だはははは!慌てすぎ、ウケるー」
アワアワとする彼女を横目に手にしたペットボトルの麦茶を開ける。そのまま飲み口に口をつけ茶色の液体は喉へ。
日差しが強い晴れた日に染み渡る冷たい飲み物。全身にいきわたるのを感じる。
「もう少しで夏休みだっけ?」
「あ、もう今日から夏休みですね」
「あらほんと?いやはや、歳とってからというもの時間が経つのは早いねえ」
「お兄さんもまだ"21歳"じゃないですか」
「20越えればもはやジジイなんだよ」
それを最後に少しの間が空く。
雀の声。公園で遊ぶ子供の声。親たちの談笑がかすかに耳に入る。
「……シャンフロ」
「……ん?」
「その、好きな人が"シャンフロ"始めたんです」
「おお、レイちゃんもやってなかったっけ?」
「はい。"岩巻さん"が気を利かせてくれて……」
「岩巻の店長さんねぇ……」
あの人、脳みそお花畑クソピンクだもんなあ。
生粋の乙女ゲー愛好家。故に他人の恋路には人一倍敏感だ。余計なお世話がうざい時もあるが……今回は幸をなしたって感じか。
「はい、なので、この夏休みの間、シャンフロで何とか距離を…!」
「おー、がんばえー」
シャンフロか。
【シャングリラ・フロンティア】通称シャンフロ。
登録者数3000万人超えのフルダイブ型VRゲーム。このゲームを一言で言うのであれば"神ゲー"だろう。
システムもストーリーも文句なし。
アンチがわこうものならその数十倍の数のファンから袋叩きにされるから実質的にアンチは存在しないレベルの高評価を得たゲーム。
最も多くのプレイヤーに同時にプレイされたとかで世界記録に認定されたんだっけ。
神ゲー、かあ。
「お兄さんはシャンフロやらないんですか?」
「んー、やってもいいが……どこも在庫切れだもんなあ」
まあ探せばある。そりゃ知り合いの店に頼めば取り寄せして寄せといてもらえるだろうし。
ただ………なんか流行りのゲームって手を出したら負けな感じしない?
みんなやってるから。人気だから。じゃあ俺もやろー、ってのはすごく負けた気分になる。子供っぽい?なんとでもどうぞ。
「ま、見かけたら買うよ。そのうち始めるさ」
「……そう言ってもう一年近く経ちますけどね」
「あら、もうそんな時間が経ってたのか。歳をとると時間が経つのは早くてねぇ」
「そのくだりはさっきやりましたからもういいですよ」
そんなことをジト目で言われるが何処吹く風。
立ち上がり、飲み終わったペットボトルをゴミ箱へ。帰りに岩巻の所に寄ってみるか。
「そういえばお姉ちゃんが早くシャンフロ始めろっていつも文句を──」
「聞こえなーい聞こえなーい」
"あのパイセン"め。まだ諦めてないのかよ。こっわ。しつこさは世界一だな。
耳を手で塞ぎ、急ぎ足で公園を出る。
なんでこう、俺の知り合いは変人が多いんだろうか。コレガワカラナイ。
▷▷▷▷▷
「よっす、岩巻元気してるー?」
「おや、君か」
手を挙げ挨拶をすると帰ってくる声。
カウンター越しに手を振るのはこのゲームショップの店長。"岩巻真奈"。
「最近のゲームライフは充実してる?」
「一昨日買っていったあの死にゲー、無事に初見ソロノーダメ裸縛りでクリアしたよ」
「うっわぁ……相変わらずの変態。よくやるねぇ」
「俺の収入源でもあるんで、俺ちゃんはやる時はやる男なわけよ」
それにしてもあれは肩が凝った。さすがにリスポーン前提で動きを覚えていく攻略が普通のあのゲームで初見で見極めてさらにダメージを喰らわないようにするなんて集中力ががが……まさか一戦ごとに2時間の休憩を挟むことになるとは思わなんだ。
「息抜きがてらなにか別のゲームしたいけど……」
「それならシャンフロは?」
……さっきも聞いたなそのタイトル。
そんなことを露知らず、彼女は壁に貼られたポスターを指さした。
夏休みキャンペーンか……始める人も多いよな。
「入荷したばっかで即売れて行ったけどね……ま、ちょうどひとつ残ってるんだ。どう?」
「……………」
まさかの展開。
いや、だがこれは俺から求めた訳ではなく岩巻が進めてきたから。そうこれは押し売りだ。それを俺は断れないだけ。そうさ。そうだろ?ブラザー。
「……じゃあ1つ」
「はいまいどー!」
買っちまった。
いや、これは押し売りだ。そうさ、押し売りなんだ。
そんな誰に向けたでもない言い訳を心で呟きながら、シャンフロ片手に帰路に着く。
ひとまず腹減ったし、飯食うか。
▷▷▷▷▷
飯も食い、風呂に入り、俺の前には巨大な椅子が1つ。
いや、椅子では無いか。いや、椅子ではあるか。
………どっちだよ。
一見すれば豪勢なゲーミングチェア。
しかし、これもまたひとつのVR機器なのである。これでもちゃんころは稼げてる。だからこのうん百万もする機材も取り寄せられるのだ。ふはは、これが勝ち組なのだよワトソンくん。
「……テンション上がってんなあ」
我ながらそう思う。
今からやるのはシャンフロだ。そりゃテンションも上がる。誰だって上がる。
まあ、これは押し売りされちゃったからね。買ったならやっとかないと勿体ないもんね。はああ、しょうがないしょうがない。
早速座り、目元に機材を取りつける。
そのままスイッチを押せばチェアは横に。体全体を覆うようにカプセルの中に収まる。
そのまま意識を委ねれば──
「──うっわ、真っ白」
辺り一面真っ白の世界。
その中で浮かぶのは目の前のシャングリラフロンティアと書かれたタイトルロゴ。
ログインIDとパスワードを入力し、新規キャラクター作成をポチッとな。
「まずは職業かあ」
様々な職業。
騎士や傭兵。戦士といったどのゲームにでもあるジョブ欄。
更にそこからスタイル。例えば二刀流、例えば槍使い等々。枝分かれ方式に分かれたジョブ欄。
「……まあ、これかな」
俺が選ぶのは【侍:(弓使い)】
やはり日本人たるものSAMURAI Spiritを忘れては行けない。侍あれば選ぶよね。うん。
さてなぜここで俺が弓使いにしたのか。
ぶっちゃけ刀使いと悩んだ。まあ、恐らくおいおいサブジョブとかで解放できるからそこまで悩む必要は無いんだろうけど。
ただ、俺はこう見えてゲームプレイの動画をネット投稿している男だ。
そのプレイスタイルがノーダメ縛り。相手の攻撃を回避、もしくはカウンターしていくことでダメージを受けないようにする戦い方を主軸にしている。
そうなった時、まず近距離より遠距離の方が楽なのだ。距離を空けられる分、相手を観察する余裕ができる。近距離でもできない訳じゃないが、やはり初見時には行動を覚えてないと反応しきれない攻撃とかもある。
初見ノーダメをするには遠距離が安定。そんなわけでジョブはこれにした。
「お次は出身地……はえー、出身地で伸びやすいステータスとかが変わるのね。しゅごいねぇ……」
となれば防御はまずいらない。HPも別にだ。
いや確かにこのふたつガン上げの超タンクの戦い方も好きだけど、やるならノーダメ縛り。
つまり俺に必要なのは攻撃力だ。パワーこそ力。やはり力が全てを解決するのだ。
とはいえ攻撃力はこのゲームは武器依存だ。ステータスであげることが出来るとすればクリティカル。
クリティカルに関するパラメータは……
「……彷徨う者とか良さそうだな」
ドロップ関連も上がるっぽいし、これで行くか。
さてお次は……キャラメイクときたか。
あまりこだわりは無いんだけどなあ。
まあ、リアル寄りでいいか。髪色とか変えとけば分からんべ。
「……いや、知り合いに見られたら即バレするなこれ」
なんかアクセとかつければ何とか。
お、この目隠しとか良さそうじゃね?どっかの最強の術師が着けてそうな黒い目隠し。
あ、これ、この段階で初期装備売れんだ。しかも定価の3倍ってマ?売っちゃえ売っちゃえ♪
「…………」
そうして出来たのはパンツ一丁の髪色を変えた俺が目隠しされてる姿だった。
なんてこった、これじゃあ変態じゃないか。
なんかアブノーマルなプレイしてるのかな?とか思われるちゃう。
さすがに足装備はつけてズボンは履いときましょ。上裸は……この際致し方なし!金欲しいし!上裸はまだ許容範囲だ!
「ま、これでいいか」
あとはお名前を入力。
いつもは裸でノーダメしてたから【ハダカ】でやってたけど今回は装備無しはキツそうだしな……まあいいや。名前は統一しとこ。
さて、いよいよスタートだ。
お兄さん、張り切っちゃうぞー。
あ、プロローグはスキップで、さっきトリセツで読んだ。
衝動的に書き始めた。
好評なら続く……かなぁ?