私が7歳の年齢だった頃、ちょっと散歩をしてみようと思って、こっそりと夜に家を脱け出してみたことがあった。
警察に見つからないように気をつけて移動し、夜空を眺めながら散歩をしていると、通りかかった公園。
その公園のベンチには暗い顔をした女性が座っており、明らかに疲れているのが理解できる。
尋常ではない様子の女性が心配になって見聞色で心の内を確認してみると、女性はヒーローでありながら公安直属の殺し屋のような仕事をさせられているらしい。
現在のヒーロー社会に存在していると不都合な相手を殺害して消す仕事を続けてきたことで、疲れきってしまっている女性の心。
いつ心に限界が来てもおかしくはない女性を、このまま放っておいて帰るのは良くないことだろう。
とりあえず女性に話しかけてみることにした私は「こんばんは」と挨拶から始めてみた。
「こんばんはじゃねぇよ、子どもがこんな時間に何してんだ。早く家に帰れ。家の場所わかんないなら交番までは連れてってやるけど」
精神的に疲れているとしても、子どもである私を心配してそんなことを言ってくれる女性が優しい人なのは間違いない。
「ちょっと散歩をしたくなってこっそりと家を脱け出してきただけで、自分の家の場所はわかってますので私は大丈夫ですよ」
「受け答えしっかりしてるし、もしかして身長低いだけでガキじゃなかったりするのか?」
私の子どもとは思えないような冷静な受け答えに、女性は私が本当に子どもなのか疑問に思ったようで、確認するかのように聞いてくる。
「残念ながら私は7歳ですね」
「へぇ、7歳にしては落ち着いてんな」
あまりにも落ち着いた様子で話す私を怪しく思ったのか、警戒し始めた女性は鋭い眼差しを此方に向けた。
右腕をライフルにする個性を持つ女性は、混ぜて練り上げることで硬化して弾となる2色の毛髪に手を添えており、いつでも撃つ用意ができるようにしているようだ。
私が子どもらしくなかったことで女性には警戒されてしまったが、自分を偽ることが苦手な私が無理に子どもを演じても直ぐにボロが出たのは確実なので、どの道警戒されてしまっていたかもしれない。
既に私を単なる子どもだと思っていない女性の警戒心は強く、このままではまともな会話もできないだろう。
こういう時は1度戦ってみて、互いに本音で話せる状態に持っていくのが1番だが、戦うには理由が必要だ。
「貴女は、人を殺したことがありますね。そして今日も人を殺した」
という訳で女性にとっては見逃せないことを言ってみると反応は劇的で、右腕を素早くライフルに変えた女性は銃口を此方に向けてきた。
「それを知っているなら、あんたが本当に子どもでも生かしてはおけない」
ダークブルーとピンクという2色の毛髪を、エポキシパテのように混ぜて練り上げて作り出した弾をライフルに装填した女性。
子どもであろうと殺さなければいけないということに更に暗い顔をしていた女性が、構えた右腕のライフルの銃口から弾を放つ。
放たれた弾は正確に此方の眉間を狙っていたが、見聞色で把握していた私なら容易く避けられた。
近距離で放った弾を避けられたことに内心では驚いていた女性だったが、表情を動かすことなく次弾を放ってくる。
手慣れた様子で弾を連続装填しライフルを連射してきた女性。
放たれ続けるダークブルーとピンクの2色が入り交じった弾。
2色の毛髪を素材として、好きな形に形成できる弾を惜しみ無く撃ち出す女性は、此方の急所だけを狙っているみたいだ。
曲射というレベルではないほどに曲がり、此方を狙う弾を撃つ女性の技術は素晴らしいものだったが、流桜だけではなく3色の覇気も全て身につけている私には通用しない。
見聞色で避けるだけではなく、公園の木から落ちた枯れ枝に武装色を纏わせて硬化し、黒く染まった枯れ枝を振るって弾を打ち落とす。
「一刀、浅打」
連続で放たれ続けた弾を全て打ち落として前に進んで女性の前に立った私は、一刀の技を放つ。
一刀の技の中でも、相手を殺さない手加減用の技である浅打は、刀では峰打ちで放つ技だ。
浅打は相手を気絶させる程度の打撃を繰り出す技で、打つ部位は相手の頑丈さによって決まるが、頭部では頭をカチ割ってしまいそうなので今回は腹部にしておくことにする。
私の武装色により黒く染まった枯れ枝で腹部を強烈に叩かれて、女性は完全に気を失った。
とりあえず気を失っている女性をベンチに寝かせておき、起きるまで待ってみたが、使ったのが手加減用の技であった為、小一時間もしない内に目覚める女性。
「起きましたか」
「何でわたしを殺さなかったんだ。お前なら殺せただろ」
「私には貴女を殺す理由がありませんし、実際に貴女の口から知りたいこともありましたから」
「知りたいことって何だよ」
「貴女の心が、疲れてしまっている理由ですね。あんなに疲れた暗い顔をしていた貴女を見ていると心配になります」
嘘偽りのない私の真剣な気持ちを言葉にすると、それが伝わったのか目を丸くしていた女性。
「自分を殺そうとしてきた相手を心配して、そんなことを知りたがるなんて、物好きな奴だな」
そう言って笑った女性は、初めて私の前で笑顔を見せてくれる。
「やっと笑ってくれましたね」
それから私と女性は互いに自己紹介し、女性の名前が筒美火伊那さんということがわかった。
筒美さんの口から直接聞いた話によれば、公安の秘匿命令に従って沢山の人を殺してきたが、誰かを殺してまで今の社会を維持することに疲れていたらしい。
「ファンです、握手してくださいって言ってくる子どもの手を、わたしは握れなかった。差し出された手を握ろうとしたわたしの手が、血に塗れて見えたのさ」
個性によってライフルと化す自身の右手を見ながら語る筒美さん。
「超人社会を維持する為の歯車としての役割をこなすことに、わたしは疲れてしまっていたのかもしれない」
心の中に抱えていた悩みを誰かに話したことが初めてだったのか、スッキリとした顔をしていた筒美さんは、悩みが無くなった訳ではなくても心が軽くなっていたようだ。
筒美さんの話を詳しく聞いて私が思ったことは、ヒーロー公安委員会の現会長が明らかにまともではなく、人を使い捨てるように扱っているのが問題なのではないかということだった。
過去を変えることができないとしても、これからの筒美さんが、もうつらいことをして苦しまなくもいいようにしたいと思った私は、筒美さんの為に何ができるかを考える。
とりあえず今回の負傷でしばらく休業することになる筒美さんから、ヒーロー公安委員会で現会長の次に権力を持っている相手が誰であるかを聞いてみた。
翌日、現会長が居なくなれば次に会長となるであろう女性と接触してみると、私を単なる子どもとして扱うことがなかった女性。
どうやら女性は現会長の命を転がすやり方に不満があったようで、正式な手順で現会長を失墜させる為の証拠を集めている最中だったみたいだ。
「私の個性は、個性の無効化ですが、個性ではない力で相手の思考を読み取ることもできます」
これまで誰にも明かすことのなかった見聞色の覇気について女性に教え、試しに女性の思考を読み取って答えてみて私は見聞色の有用性を示す。
筒美さんを自由にする為に女性に協力した私は、時間さえあれば見聞色の覇気を用いて現会長の思考を読み取り、現会長にとって不都合な情報を大量に入手して、ひたすら女性に提供していった。
そんな日々を続けていると数週間もしない内に、現会長にとって不都合な情報を有効活用した女性によって、ヒーロー公安委員会の現会長は秘密裏に犯罪者として牢獄に送られることになる。
新たな会長となる女性に私が協力した見返りは、これまで筒美さんがしてきたことを罪に問わないことと、筒美さんを公安直属から解放することであり、その約束は破られることなく果たされたようだ。
病院の個室で療養中だった筒美さんは新会長直々に公安直属から解放することを伝えられたらしい。
それでもヒーローとしての活動は続けてほしいと新会長に頼まれたそうで、これからの筒美さんは、ただのヒーロー、レディ・ナガンとして活動していくようである。
入院中の筒美さんのお見舞いに行った私に、落ち着いた様子で話してくれた筒美さんは、とても穏やかな顔をしていた。
「まあ、なんだ、その、ありがとな剣心」
そう言って嬉しそうに笑ってくれた筒美さんが、とても綺麗だったことを私は、きっと忘れることはない。
そんな過去の出来事を思い出しながら、今現在目の前で起きていることを見てみると、忍野さんと筒美さんが私の自宅玄関前で言い争っている姿が見える。
「えっちなことをするなら年齢的に若い子の方が、きっと先生は喜ぶでござる!という訳でそちらの年齢が40代に近い人は回れ右して帰ればいいでござるよ!」
「剣心がガキに手を出す訳ないだろ。ああ、付き合いが短いからわからねぇんだな。短い付き合いで知った風な顔してるガキ見てると恥ずかしくなるから止めてもらいたいもんだ」
休日の朝っぱらから互いに煽るような言い争いをしている2人。
「こんな朝からどうしたんですか2人とも」
とりあえず止めた方が良いかと思った私は2人に話しかけてみる。
「先生!先生は拙者の方が良い筈でござる!」
「剣心、このガキに教えてやりな。ガキには手を出さねぇって」
この2人は休日の朝から何てことを話してるんだろうかと頭を悩ませたが、一応答えておくことにした。
「いや、教え子に手を出すような奴は教師ではないでしょう。先生は学生の忍野さんには何もしませんよ」
正直に思ったことを素直に答えた私に「そうでござった先生は、まともな大人でござる。やはりここは強引にでも拙者が」と言いながら両手をイソギンチャクのように動かして、にじり寄る忍野さん。
「大丈夫でござる。それは、とても気持ちいいことでごさるよハァハァ!」
などと言いながら息を荒げて此方に接近する忍野さんの背後を取った筒美さんが「無刀、浅打」と素手の手刀で放つ浅打の技。
浅打の一撃で、かなり頑丈な忍野さんを気絶させる威力が出せるようになっていた筒美さんは、私が技を教えてからも、欠かさず鍛練を続けていたらしい。
かなり長い付き合いの筒美さんには、素手でも使える無刀の技を幾つか教えており、ライフルが使えない近距離でも充分戦えるようになっている筒美さん。
「とりあえず、気絶させといた変態は、わたしが運んで寝かせとくから場所貸してくれ剣心」
「わかりました」
筒美さんが運んだ忍野さんはソファに寝かせておいてもらって、私に用が有って自宅まで訪れた筒美さんと話をすることにした。
とりあえず、長い話になりそうなのでお茶を用意しておくとしよう。
常無剣心の無刀の技を身に付けているレディ・ナガンは近接戦闘も強いので、変速と発勁が使えない状態のデクくんだと、ワンフォーオールで身体を壊すくらいの威力を出さないと勝てなかったりします
ちなみに今回忍野さんがレディ・ナガンに気絶させられた理由は変態を止める為と、話を聞かせない為でもあります
見たい番外編があれば選んでください
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志村菜奈世代に転生
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オールマイト世代に転生
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緑谷くん世代に転生
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最終話の続き