転移系個性対策として、あまり転弧くんから離れることなく警察署で過ごすことになったが、その間の時間は転弧くんから話を聞いて情報を入手することに専念した。
「剣心兄ちゃんなら信頼できる」と言った転弧くんが私に話してくれた様々な情報。
オールフォーワンの協力者であるドクターとやらの外見的特徴も教えてくれた転弧くんの情報から警察が行った調査。
その結果、蛇腔総合病院理事長の殻木球大がドクターなのではないかと考えた警察は、潜入捜査を行うことにしたらしい。
殻木球大がドクターである決定的な証拠を掴むまでは、それなりに時間がかかりそうだった。
警察署での転弧くんとの共同生活が1週間を過ぎた頃、警察署を襲撃しに来た脳無とやらの集団。
今は私の個性無効化範囲を一定の範囲に抑えて、警察署を丸ごと覆う程度にしてあるが、どうやらその範囲の外から脳無達を転移させたようだ。
現れた黒い脳無達6体全員に、オールマイトさん並みのパワーが与えられているようで、警察署の外で戦っているヒーロー達だけで勝てる状態ではない。
このままでは確実に死人が出ると判断した私は警察署の窓から飛び出し、空中を蹴って加速するとヒーロー達を襲う脳無の1体に接近。
そしてその勢いを止めることなく、脳無の頭部へと黒警棒の一撃を容赦なく叩き込んだ。
私の黒警棒の一振りで頭部が潰れて、完全に破壊されたことで動きが止まった1体の脳無。
頭部を完全に潰せば動かなくなるということが判明したが、個性無効化範囲内でも弱まることのないパワーを持つ脳無は、まだ5体残っている。
脳無のパワーは個性を用いない技術を使った肉体改造によるものであるようで、私の個性無効化範囲内でも無効化できていなかった。
そして個性によって異形化している訳ではなく肉体改造による変化であるので、個性無効化範囲内に入ったとしても、脳無の身体が元になった人間の身体に戻ることもない。
脳無は死体を素材として作られていると警察から聞いていた私は、容赦なく脳無達の頭部を潰していく。
止まることなく連続で6体の黒い脳無を倒したが、倒した脳無を個性無効化範囲から外しても、完全に破壊された頭部が再生することはないみたいだ。
何の躊躇いもなく脳無達の頭部を潰した私を見ていたヒーロー達は、ドン引きしながらも「お、おう、ありがとな」と感謝をしてくれたが、ひきつった顔は隠せていなかったな。
しかしこれで戦いは終わりという訳ではないようで、黒い脳無の身体に仕込まれていたスピーカーから音声が流れ出す。
「流石だね、ブレイドハート。やはり上位の脳無で数を揃えても、きみの相手にはならないか」
脳無の胴体に仕込まれていたスピーカーは、声を発している相手と直接繋がっている訳ではなく、録音していた音声を再生しているだけなのは間違いない。
「そんなきみには特別なプレゼントを用意してある。2年前にきみが倒したマスキュラーを回収して、改造した特製の特別なハイエンドさ」
空を飛び此方に向かってきている1体の黒い脳無の身体からは筋繊維が溢れ出していて、マスキュラーの面影が残っている。
「元々筋肉増強の個性を持っていたマスキュラーは、肉体改造とも相性が良かったようでね。素の身体能力だけで、オールマイト以上の力を与えることに成功したんだ」
ハイエンドとやらが近付いている最中も、録音されていた楽しげな声は、まだ止まることなく語り続けていた。
「きみに随分と執着していたマスキュラーの意思も、ハイエンドには残っているよ。悪趣味だとでも思うかい。僕にとってはワインと同じさ、踏みにじってしぼり出すんだ」
「きみの為だけに僕が丹精込めて用意したプレゼントだよ。是非とも受け取ってもらいたいね」
楽しげな声がようやく止まると同時に、空から降り立った筋肉質なハイエンドとやらが地を砕く程の勢いで踏み込み、瞬時に此方との距離を詰めて繰り出す拳。
「血ヲ、見セロ!」
言葉を発するハイエンドが放つそれは馬鹿正直なストレートパンチだが、オールマイト以上のパワーとスピードで放たれたパンチとなると周囲に巻き起こす被害も甚大だ。
握った黒警棒を使って受け止めたハイエンドの拳が引き起こした凄まじい風圧。
その風圧は、ハイエンドの動きに全く反応できていなかった近くのヒーロー達を軽々と吹き飛ばす。
6体の黒い脳無相手に苦戦していた彼等では反応できない速度で動けるハイエンドは、パワーも尋常ではない。
このハイエンドの脳無に対抗できて戦える存在は、この場には私しかいないだろう。
「あなた達は近場の人々の避難誘導をお願いします。こいつは私が相手をしておきますよ」
吹き飛ばされていったヒーロー達に、大きな声でそう伝えて黒警棒を構えた私にハイエンドの拳が連続で放たれた。
「ケ、ケンシン!ケンシン!ケンシン!ケンシン!ケンシンンンン!」
雄叫びを上げるように此方の名前を何度も呼びながら、拳による連打を繰り出すハイエンド。
「そう何度も呼ばなくても1度で伝わりますよ」
私の名前を連呼するハイエンドに言い返しながら、周囲への被害を最小限に抑える為に、放たれ続けるハイエンドの拳の弾幕を黒警棒で受け止め続ける。
恐竜が踏んでも1ミリも曲がることのない黒刀と同じく、歴戦を経て黒く染まった黒警棒でなければ、流桜無しで耐えられる威力ではない拳の連撃。
黒警棒の凄まじい頑丈さで、それら全てを受け止めてから弾き上げて前に進んだ私は、折れず曲がらず歪みもない黒警棒による一撃を繰り出す。
「一刀、流刃」
上段の構えから烈火の如く刀を真正面に振り下ろして一撃を放つ、一刀の技の一つである流刃。
本来は真正面から相手を真っ二つにする時に使う技だが、今回使っている武器は黒警棒であり、斬るつもりもないので、素早く殴打を叩き込んだといったところだろう。
反応速度も並みではないハイエンドは瞬時に両腕を交差して、此方の一撃を受け止めようとしたが、ハイエンドの両腕を押し潰しながら突き進んだ黒警棒による一撃が頭部へと到達。
ハイエンドの頭部すらも潰して破壊した黒警棒により、地面に倒れ込んで完全に動きを止めたハイエンド。
「この音声が再生されているということは、きみにハイエンドは倒されたようだね」
どうやらハイエンドにもスピーカーが仕込まれていたようで、録音されていた音声が再生され始める。
「まずは、オールマイトすらも越えるパワーとスピードを持つハイエンドを倒したことを讃えよう。流石はヒーロー、ブレイドハート」
ハイエンドが倒された時に再生されるように設定されていた筈の音声は、楽しげな声のままであり、相手の余裕は崩れていない。
「ああ、そうだった。きみへのプレゼントはハイエンドだけじゃない」
「ハイエンドが無事に届いたのなら、一緒に届いている筈だ。勿論それも受け取ってくれると思っているよ」
「ヒーローは守るものが沢山あって大変だね」
頭部が潰れたハイエンドの胴体に仕込まれていたのはスピーカーだけではなかったようだ。
ハイエンドの内部に埋め込まれる形で爆弾も仕込まれていて、録音された音声が止まると同時に始まった爆発。
「一刀、若火」
爆発で巻き起こった凄まじい爆炎が周囲に拡がるよりも速く、炎を斬る一刀の技である若火で、瞬時に爆炎を微塵に斬り裂いて爆発による被害を抑えた。
爆弾が仕込まれていたハイエンドの身体だけが破壊される程度で済んだが、爆炎を微塵に斬り裂ける技を私が持っていなかったら、被害を最小限に抑えることが出来なかっただろう。
ハイエンドすらも使い捨てにする相手は、他にも様々な手を使ってくるに違いない。
そう考えて気を引き締めた私は、他の脳無にも爆弾が仕込まれていないか確認しておくことにした。
見聞色で念入りに確認してみたが、私が倒した6体の脳無には爆弾が仕込まれていたりはしないようだ。
とりあえず今のところは大丈夫かと思っていると、避難誘導をしていたヒーロー達が増援を呼んで来ていたようである。
増援として現れたヒーローの中で先頭に立っていたのは、エンデヴァーさん以上の火力を持つヒーローであり、エンデヴァーさんの息子でもあった。
ヒーロー名は、バーストエンド。
バーストエンドは蒼い炎を操るヒーローとして有名で、本名は轟燈矢。
「さあ、俺を痛めつけてくれそうなヴィランは何処だ!待ちきれないぜ!」
そんなバーストエンドくんはマゾヒストなヒーローとしても有名であるらしい。
バーストエンドくんとはヒーローになる前から知り合いだが、初めて彼を見た時、自分の炎で身体に火傷を作りながら身悶えて悦んでいる姿を見てしまったのは衝撃的だった。
とりあえずその時は火傷の手当てをしてからバーストエンドくんの実家まで行き「お宅の息子さんがマゾヒストになってしまっていることはご存知ですか」と御家族に聞いてみることにしたんだったな。
「何がどうしてそうなったんだ燈矢ァァァァァッ!」と頭を抱えて叫んでいたエンデヴァーさん。
それ以外の轟家の面々も一緒に頭を抱えていたのは間違いなかった。
話す内容が長男のそういうアレでも、結果的に轟家が家族全員で話し合うことになったのは、悪いことではないのだろう。
言いたいことを言い合える普通の家族になれたと、轟家の子ども達は喜んでいたからだ。
まあ、轟家の家庭環境が改善されても、轟燈矢くんがマゾヒストなことは変わらなかったので、それなりに苦労はしたらしい。
それでもヒーローになるという夢を叶えた燈矢くんは、今度は父親のエンデヴァーを越える為に努力している。
ひた向きに努力を続ける彼の姿に勇気を貰う人々も居るようで、ヒーローとしての評判も悪くはないバーストエンド。
ちなみに一部の人からは罵倒されることもあるらしいが「罵るがいい!それが俺の糧となる!」と悦んでいるバーストエンドくんは、ある意味無敵だったな。
そんなことを思い出しながら私は、ヒーローとして増援に来てくれたバーストエンドくんに「多分今日はもう、敵は来ませんよ」と伝えておく。
「殴られ損ねたァァァァァ!」
膝から地面に崩れ落ちて悔しそうにそんなことを叫び出したバーストエンドくんは相変わらず、いつも通りの平常運転だった。
燈矢くんがマゾヒストになってしまいましたが、この作品ではそういう感じのアレに目覚めてしまったということでお願いします
ちなみに燈矢くんことバーストエンドは、子どもに見せてはいけないヒーローランキングで上位にランクインしていますね
見たい番外編があれば選んでください
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志村菜奈世代に転生
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オールマイト世代に転生
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緑谷くん世代に転生
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最終話の続き