志村転弧:アナザー   作:如月SQ

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林間合宿

 林間合宿前夜。

 引率の先生でもある俺は暫くはパソコンに触れないからと、ソロでLOLに潜っていた。

 相変わらずの終わった治安に毎回苦笑し、暴言を吐くプレイヤーを通報しながら、たまに起きるナイスなプレイに称賛を送る。

 黙々、黙々と自分の役割をこなしてプレイしていく。

 ここでの俺は突出した個を持たない。

 キャラ同士のの相性はあれど、誰もが同じ条件でプレイしている。

 画面の向こうにいるのがオールマイトだろうと、ここでは等しく平等だ。

 ……たまにレートのバランスがおかしいマッチに放り込まれるのもまた、ご愛嬌だろう。

 試合後にチームに【GG】とチャットし、【nice】の文字を一瞬だけ目に入れてから、即座に次の試合に移る。

 そろそろ日も越えるからな、次くらいで終わりにするかな……?

 

「次のお相手は……と。お?『回転スピン』さんだ。今ログインしたのかな?」

 

 先程までフレンド欄にはいなかったような気がするが……まぁいいか。

 キャラは……スピンさんが真ん中、俺が上か。

 スピンさんとぶつかるのはどうやら、集団戦が起きてからのようだ。

 

「さあて……今回はヒーローになれるかな?」

 

 相手にとってはヴィランだろうがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲームはあちら有利に進んでいたものの、突如相手チームの一人が暴走を始めたようで、バラバラになった隙をつき此方側の時間が経てば強くなるキャラが育ちきった事で勝利した形となった。

 名前しか知らない奴らと勝手に組まされる事になる、LOLじゃあよくある事だ。

 『回転スピン』さんは育っていたようで、俺のキャラも何回も倒されたが、それで仲間が生きて育ちきったので役割は果たせたと言えるだろう。

 

 GGの嵐のチャット欄を抜け、チラリと時間を確認すれば既に0時を回っていた。

 林間合宿の中心は生徒達とはいえ、引率が欠伸するのは心証が悪い。

 そろそろ寝ようかとカーソルを移動させていると、ポロンと音が鳴り、『回転スピン』さんから個別チャットが届いていた。

 

【こんばんは、GG。序盤有利だったのにくやし~!】

 

「ふっ……」

 

【こんばんは、GG。惜しかったですね。やはりそっちのjgの暴走ですか?】

 

【そう!勝てたゲームだったのにな~!】

 

 一頻り愚痴を連ねた『回転スピン』さんに苦笑が漏れる。

 本当にあるあるな話で、こんな経験はLOLをしている上でごまんとある。

 それでもやめれない辺りに業の深さを感じるな……。

 

【あ、そんで『F0Ⅹ』さんはまだやる?やるならデュオしねえ?】

 

 と、お誘いか……お誘いは嬉しいが……。

 

【すみません、明日から遠出のうえに泊まりなので、そろそろ寝ようかと。なので暫くインも出来ないですね】

 

【そっかー。残念。俺もこれから暫く仕事が忙しくなってIN出来なくなりそうなんだよなぁ。まあ、仕方ないか。また都合があったら遊ぼーぜ】

 

【はい、その時は是非】

 

 ……ふぅん?『回転スピン』さん仕事見つかったんだ。

 IN率とか見るに引きこもりかニートだと思ってたんだが……働き始めたのから良い事だな。

 

【お仕事、頑張ってくださいね、応援してます】

 

【おう!この社会に、俺という存在を刻んでやるぜ!】

 

 ははは、大袈裟な人だな。

 大言壮語な感じ、変わらないなぁ。

 

【それでは、失礼します】

 

 俺はそう打ち込み、ゲームを停止させ、パソコンを落とした。

 黒く染まった画面の前で一つ伸びをすれば、パキパキと音がして、なんとも言えない気持ち良さに気の抜けた声が漏れる。

 

「っくぅうぁぁ……」

 

 さて、準備は終わってるし……さっさと寝て明日に備えるとするか……。

 ゲーミングチェアから立ち上がって、のそりとした足取りでベッドへと向かう。

 ベッドに寝転んでアラームを確認して、電気を消した。

 あとは眠るだけ……脳裏に不意に浮かぶのは自分の時の林間合宿……。

 

ゾクリ

 

 当時の苦労を思い出して、思わず走った寒気に身を震わせた。

 滅茶苦茶大変だったからな……俺とまったく同じ目にこそ合わないだろうが、相当苦労する事だろう。

 プロヒーローにしこたましごかれる事に生徒達に、同情してしまう。

 明日からの生徒達の受ける事になるだろう受難に、俺はただただ生徒達の無事を祈るしか出来なかった。

 

 入学からヴィラン襲撃やら色々あったが、今回は情報をしっかり制限し、警備にも力を入れている。

 だからそっちの方向では心配せず、安心して挑んで貰いたいな。

 そして願わくば、数々の受難乗り越えて更に成長した姿を見せてくれ。

 

「プルスウルトラ……」

 

 そう小さく呟いて、眠りにつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 さあて、林間合宿だ。

 いきなり適当な駐車場に下ろされて、土砂に流されて山の中を進む事になった時は流石に面食らったけど、成る程これはキツイ。

 思わず『黒鞭』や『浮遊』が出そうな程には、『緑谷デク』じゃ大変な道程だった。

 

 そして下宿先にたどり着き、宣言されたのは『個性』を鍛え上げる事だった。

 入学してから色んな経験をしてきたものの、それは人間的成長が主。

 肉体的、何よりも個性的にはそこまで成長してるとは言い難い……との事。

 それもまた成る程と思った。

 

 誰もかれもが雄英高校入学までに、ある程度自分の個性と向き合い、使いこなそうとしてはいる。

 けれど個性の使用が基本的に禁止されている現代、個性を思い切り使える場なんてものはほとんどない。

 個性をひけらかして悦に浸るような輩はそもそも雄英に入れるような頭がないし、個性と向き合わない者が生き残れる程ヒーローの道は甘くない。

 爆豪君のような例外はいるけれど、入学したばかりの僕達の中での『強さ』とは育ちに左右されるといっても過言じゃない。

 轟君と八百万さんがその筆頭で、芦戸さんや上鳴君がその答えだろう。

 全員が優秀な個性に恵まれているものの、親がヒーローだったら金持ちだったりで、個性を思う存分使える機会と場所に恵まれた前者と、一般人でしかない後者。

 個性の習熟に差が出るのは当然といえる。

 だからまぁ、個性をひたすら使って鍛えるこの合宿自体は、とても理に叶ったものだと思う。

 思うけれど……まったくもって、どしがたい話だ。

 

「歪なもんだね……」

 

 個性社会の弊害と言えるだろう。

 個性をまともに扱う機会を設ける事なくただ自制を求め、やっと使う機会に恵まれた個性の使用にアレコレと文句をつけて。

 上鳴君のザマを見て欲しいもんだ。

 なまじ強個性を身につけていて、性分が善良だからしっかりと決まりを守り、個性の鍛練を怠った結果、体育祭でアホ面を晒してしまった。

 勿論彼がアホなのは自己責任だろうけど、個性を自由に使える場があれば、あそこまでの醜態を晒す事にはならなかったんじゃないだろうか?

 エリート揃いの雄英ですら、それら現状の社会の歪さが垣間見えるように思う。

 

「?デク君、なにか言った?」

 

「ん?ううん、洸汰君……だっけ、ちょっと心配だなぁって」

 

 そんな現状だ、性に合わず溢れる者は出る、自分の欲求に従う奴も出る。

 別にヴィランに心底悪な奴はいないなんて性善説を振りかざすつもりはないけれど、こんな社会の成り立ちなら歪みから産み出された存在は無数に存在する事だろう。

 ヴィラン連合でもマスタード君なんかはそのタチかな?

 まぁ彼はただの学歴コンプレックスの逆恨みでもあるけど。

 

「ふふっ……」

 

「……?どうかしたかな?」

 

「ううん、やっぱりデク君は優しいね」

 

「そうかな?まぁ、麗日さんがそう言うなら、そうかもね」

 

 それにしても出水洸汰君、か。

 今回僕達の伸びた鼻っ柱を折る為に雇われたプロヒーロー、『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』の『マンダレイ』の甥っ子。

 二年前に凶悪なヴィランと戦い市民を守る為に殉職したプロヒーロー『ウォーターホース』夫妻の忘れ形見。

 悲劇にまみれた悲しき少年。

 今彼は五歳くらいだろうか?

 確か僕が『僕』を認識したのは四、五歳くらいの頃だったかな?

 だからまぁ、その歳で親がいない寂しさみたいなものは多少はわかる……ような気がする。

 ちょっと気になるし……話しに行ってみようかな。

 そう考えて、僕は目の前のカレーを一先ず平らげた。

 

「おかわりおかわり……っと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カレーを持って姿を消した彼を探せば、まぁそう間も無く彼の姿は見つける事が出来て。

 秘密基地だという場所でカレーを差し出せば、最初はツンケンしていたけれど腹が鳴ればまぁ素直なもんで、パクパクと食べ始めていた。

 僕はそれに背を向けて、諭すように言葉を紡ぐ。

 

「まぁ、君の気持ちはわからなくもないよ。でも他人に当たるのは良くない。暴力に訴えるなんて持っての他だよ。

 爆豪君……あの人殺してそうな目付き悪い奴、彼みたいになっちゃうよ」

 

「む……」

 

 スプーンを咥えて口を尖らせた洸汰君はひどく不満げだった。

 まぁ殆どヴィランみたいって言われたようなものだからね、そんな反応も仕方ない。

 彼は口の中のものを飲み込んでから、口を開いた。

 うーん、育ちの良さを感じられるね、愛されてたんだろうなぁ。

 

「お前に何がわかるんだよ!」

 

「僕も両親がいないからね。まぁ、顔も知らないから君とはちょっと違うけど……この世に独りぼっちの感覚くらいはわかるよ」

 

「っ……お前、も……」

 

 そう言ってみれば、彼は気まずそうな顔で俯いてしまった。

 うーん、生来の善性が滲み出てるね。

 プロヒーローの子供らしい、実に良い子だ。

 僕は僕で持ってきたカレーを頬張り始める。

 ……うんうん、大自然の中で頬張るカレーは美味しいね。

 少し冷め始めてるから口に油分が残るけど、それでも充分に美味しい。

 暫しカチャカチャと僕がカレーを食べる音だけが響き、やがて残り数口となった所で、洸汰君が口を開いた。

 

「……なぁ、お前は……」

 

 洸汰君は目線を反らしながら、絞り出すように問い掛けてくる。

 

「なんで、ヒーローになろうと思ったんだ……?」

 

「なんで、か」

 

カチャリ

 

 食べ掛けのカレーの皿に、スプーンを置く。

 そうして、あえて少し間を空けて、静かにそれを言葉にした。

 

「成り行き、かな」

 

「成り行き!?」

 

 その言葉にはいくつかの感情が込められていた。

 例えば、成り行きでヒーローを目指してる僕への呆れ。

 例えば、成り行きにも関わらず、ヒーロー育成最高峰の雄英にいる僕への嫉妬。

 例えば……ヒーローをバカにしてるような言動の僕への怒り。

 成る程、と内心で納得しつつ、それらに気付かない振りをして言葉を続ける。

 

「僕はほら、孤児でさ、親の顔も知らないし、おまけに無個性で孤児院でも馴染めなかった。

 学校に行っても孤児で無個性なモブ顔の僕なんか相手にされなかったし、いじめこそなかったけど別に楽しい思い出もなかったよ」

 

「っ……」

 

 つらつらと述べる言葉に、洸汰君は返す言葉が見付からないようだった。

 僕はそれを気にする事なく言葉を重ねる。

 

「けどまぁ、孤児院には世話になったし、せめて体は鍛えて、働いて返そうとしてたら……ちょっとしたいざこざの後、遅咲きで個性に目覚めてね」

 

バチッ!

 

 握った拳に走る緑色の閃光。

 脈動する筋肉に、洸汰君の目が見開かれる。

 

「しかも結構な強個性で、それを生かせる仕事をと考えた時、無個性じゃ無理だと思ってたプロヒーローが候補に上がって……正直憧れがなかった訳じゃないから、折角だからと一番上を目指してみた……僕が雄英のヒーロー科にいるのはその程度の理由だよ」

 

 僕の()()()()()来歴に、洸汰君はどう感じたかな?

 なかなかのサクセスストーリーだろう。

 さらっと流したとはいえ、一般的には哀れだと思われる経歴だろう。

 親がいない、特にその一点で彼はシンパシーを感じているようだし、同情も感じる。

 やっぱり、素直な良い子だね。

 

「そんな僕の言葉なんて右から左でも構わないけど……そうだね、君の怒りの矛先……それだけは少し違うんじゃないなと思うんだ」

 

 雄英体育祭では準優勝し、この合宿で更に力をつけて、ついでにヒーローに対して憎悪すら抱く少年の心を救う……実にお誂え向きだ。

 ついでにヴィラン連合には、洸汰君因縁のヴィランもいる……。

 ここは一つ、後々の布石の為にマッチポンプと行こうかな。

 それと……個性は優秀っぽい、将来有望な彼に……()を植え付けておこう。

 さてさて……どう転ぶかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君の怒りは最もだよ。君の両親は立派だった……でも、幼い子供を独り遺して逝くくらいなら、死に物狂いで生きるべきだった」

 

「何故彼等が生きる選択肢を取れなかったのか……それは今のヒーロー社会の弊害だと思ってる」

 

「『ウォーターホース』だって歴戦のヒーローだ、相対したヴィランに勝てない事なんて、わかる筈なんだ」

 

「それでも彼等はあがき……そして殺されてしまった」

 

「彼等がヴィランと相対し負けが頭に浮かんだ時、逃げ出さなかった理由……背後に市民がいた事も一つ、それを守る為に奮闘した事も一つだろう」

 

「だけど一番はきっと、それが『ヒーローらしくない行い』だったからじゃないかなと僕は思うんだ」

 

「きっとその時彼等が逃げてたら、永遠に後ろ指指されていただろうね、ヴィランから逃げ、市民を見捨てた臆病者、ってね」

 

「……君のお父さんとお母さんを否定する必要はないよ、二人は立派だった、素晴らしいヒーローだった」

 

「自己犠牲……その身を犠牲に人々を守った、最高のヒーローだ」

 

「だけど」

 

「その時彼等はヒーロー『ウォーターホース』でしかなく、君のお父さんとお母さんじゃなかったんだろうね」

 

「そして……それを強要させたのは、この、歪なヒーロー社会だよ」

 

「ヒーローはヒーローたれと、群衆の曖昧なヒーロー像を押し付けられ、少しでも外れれば叩かれる」

 

「救って当然、守って当然、出来なかったら批判否定」

 

「それが当たり前のように罷り通るこのヒーロー社会で生きるプロヒーローは、自分達でも知らないうちに、『正しいプロヒーロー像』に囚われている」

 

「……そう、君のお父さんとお母さんを殺したのはヴィランだけど、追い詰めたのは……ヒーロー社会だよ」

 

「君が怒るべきは、今のこの、ヒーロー社会さ」

 

「……僕はね、今のヒーロー社会の在り方が嫌いなんだ」

 

「こんな歪な形なのに、平和と嘯き、トップヒーローに『平和の象徴』という重荷を背負わせて酷使して、ヒーローにヒーローとして正しくあれと求め、それが当然だと思って、何も疑問に思う言葉をすらなく、ただただ持続させようとしているこのヒーロー社会が、ね」

 

「だから」

 

「僕が立つ」

 

「そして全てを変えてやる」

 

「こんな世界、ぶっ壊してやる」

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