志村転弧、いや今は相澤転弧だったね。
以前一度やりあった時も思ったけど、やっぱり戦闘センスが良い。
身のこなしが良くて見切りも早いし、五指に触られれば一撃必殺……。
かといって手だけでがむしゃらに戦う訳じゃなく、蹴りや肘なんかも使ってくる。
身体能力では圧倒してる筈なのに、まったく当たりもしない。
『流石は個性を消すだけであらゆるヴィランと渡り合ったイレイザーヘッドの養子。個性なしの戦闘訓練も相当積んだと見える。
自身の個性を囮に有効打を与えようとしてくるし、こっちの右腕には触りもしない。最初に義手のギミックを見せたのは明確なミスだな。
視線でも活発にフェイント入れてくるし、かといって触れたら終わりの手からも意識は反らせない。蹴撃もいちいち急所狙いだし、本当に優秀――』
「ブツブツ五月蝿い、なっ!」
ブンッ!
此方の思考を咎めるように放たれた大振りの蹴撃を、大袈裟に身を翻してかわす。
……あえて大振りにして、密かに手で触れる事を狙っていたからね。
「ちっ……」
危ない危ない、油断も隙もない。
『おっと、声に出てた?失敬失敬』
少し距離を取り、その離れた間合いを活かして黒鞭で牽制しようと構える。
が、出そうと力を溜めてる間に即座に間合いを詰められてしまう。
『ちぇっ……』
「あの黒い奴は出させねぇ」
うーん、出す為に少し溜めが要ることも見抜かれてそうだな……。
僕の持ってる個性、いくつもの個性が発揮出来るのだけど……中に意思のようなものが残っていて、それを捩じ伏せないと使えないんだよね。
身体能力強化は複数個性が溜まった結果だから大丈夫なんだけど……『黒鞭』なんかは便利だけど使うのにはどうしても溜めがいる。
『発勁』や『変速』なんて戦闘にまともに使えやしない。
『煙幕』と『浮遊』は便利だけど直接戦闘には使えなっ――!
「おらぁっ!」
ブオンッ!
『危なっ!』
うわっ!ギリギリだった!
直前まで起こりに全然気付けなかった!
『危機感知』がなかったら顔面に食らってた!
本当に強いなテンコ君さぁ!マジで気が抜けないよ!
『いやぁ、強いなぁ!やっぱりさ、
「一度、断った、だろっ!」
『ダメ元って奴だよ!それに、やり合ってよくわかるけど、君は
ヒーローは縛りが多いだろう?こっちなら、君の気の向くままに好きなだけ好きな事をすれば良い!
そっちじゃあ、君はいつまでも抑圧されたままで、自由になれないじゃあないか』
「はっ!おあいにく様、俺は今の自分が気に入ってんだよ!
ヒーローとして、先生として過ごす日々が、なっ!」
ドガッ!
うぐ、重い……!
避けきれず蹴りを受け止めてみれば、想像以上の威力に顔が歪む。
本当に身体能力強化個性なしか疑わしいレベルで強いなぁ……。
やれやれ、彼への謳い文句は本気なんだけどな。
彼がこっちに来てくれれば、計画の進みは良くなるだろうし……彼の経歴を考えたら先生はきっと喜ぶ。
ただ……。
「ふっ!」
『おっと!』
彼の目には光が灯ってしまっている。
清く正しいヒーロー……と言うにはスレ過ぎているけれど、清濁合わせ飲む覚悟を持ったダーティヒーローといったところか。
イレイザーヘッドの養子として育った事が、どうにも自己肯定に繋がっているようで……僕程度の言葉じゃ揺るがない。
それこそ、
まぁ、誰もが彼みたいな覚悟を持てる訳じゃない。
むしろ自分の個性に押し潰される人間の方が多いだろう。
色んな要因で……個性社会から弾き出されて。
ヒーロー社会、超人社会の暗部……自分を強く持てる人がどれだけいるか。
それこそ――。
ブルブルブル
……と。思考を止めよう。
懐に入れていた物が震えた……合図か。
彼と遊び続けるのも楽しかったけれど、いつの間にやら大分時間が経ってたみたいだ。
オッケー了解。
それじゃあ……効果は薄いかもしれないけど、ちょっとトラウマでも刺激して、遊びは終了としようか。
『はははっ』
「……?」
突然笑いだした僕を怪訝な表情で見返してくるテンコ君へ……無造作に飛び込んでいく。
一応拳は振りかぶって、大振りで、当たれば人体を粉々にするようなパワーで。
……とはいえ当然、こんなテレフォンパンチが当たる訳もなく。
容易く受け流され、そして、僕の腹部にテンコ君の五指が、触れた。
『ぐ……!』
「なっ……何のつもりだ……!?」
あからさまに、自分から当たりに行ったような僕の行為に、テンコ君の顔が驚愕と困惑に彩られる。
そんな素振りを見せつつも、手を離さないのは流石だね。
殺す、その意思に嘘も偽りもないらしい……まったく、ヒーローらしからぬヒーローだと改めて思うよ。
テンコ君の個性が条件を満たした事で発動し、僕の身体を崩壊させていく。
ふむ、自分の身で食らって思うけれど……耐久力、丈夫さを無視して壊すこの個性は、凶悪の一言だ。
加減が効かないことが唯一弱点だろうけど、相手を殺して良いなら、これ程強力な個性もそうそうないだろう。
そして今、彼は殺すつもりで、その覚悟を持って僕に個性を行使している。
顔は何か痛みを堪えるように歪んでいるけれど……彼ならやり遂げるという信頼がある。
僕の身体が塵になるまで、その手を止めることはないだろう。
……けどまぁ、もうそんな事関係ないんだけどね。
『目的は果たした』
「何っ!?」
身体の半分程が塵になった時、僕の身体はどろりと溶けた。
『じゃあね、テンコ君。また、どこかで遊ぼう』
耐久限界を迎えた、トゥワイスの個性で複製された僕は、そう言い残してドロドロと溶けた。
さあて、後は……皆の活躍を期待してるよ。
ヴィラン連合、開闢行動隊のみんな。
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「くそっ……あいつ、偽物だったのか……!?」
やられた……!
なんかの個性か!?だとしたら強すぎる!
「ぐっ……」
奴の攻撃をいなした腕が、擦った体が、蹴りつけた脚が、鈍い痛みを訴えている。
本物と見間違える……いや、ほとんど本物と同じ。
個性も使えて、意思もあり、恐らく身体能力もそのまま……。
あまりにも強すぎる個性だ。
途中で溶けたのはなんでだ?
時間制限か?それとも損壊割合でか?
……いや、疑問は一旦捨て置け。
どちらにせよ、死柄木弔の力を持った個体を無視する事は出来なかった。
あいつと戦って一応は勝ったと言えるが、一歩間違えれば俺の死体が転がっててもおかしくなかったんだ。
偽者だったとしても、生徒達と死柄木がぶつかれば……想像したくもない。
今更になって、死柄木の目的が俺の足止めだったと気付くが、もう手遅れか。
まんまと時間を稼がれてしまった。
そして、まだ行けない。
「う……」
ふと声がして見下ろせば、土に汚れたマンダレイが倒れたままだった。
死柄木と戦っている時も一応それとなく庇っていたが……とりあえず無事みたいだ。
ただ、意識は戻らない、か。
……このまま放ってはおけないよな。
「よっ……」
指で触れないように横抱きにして……っと。
まずは安全なところに避難させねぇとな……頭を打ってるから出来るだけ安静にして……。
……結局何も出来てない事に無力感ばかりが募り、思わず顔が歪む。
……ヒーローは縛りが多い。
そんな死柄木の言葉に頭に過る。
決まりがあって、ルールがあって、あらゆる物にがんじがらめで、守らなくちゃいけない物ばかり。
でも、だからこそ、ヒーローは負けない。
生徒達もヒーローの卵だ、簡単にはやられない。
俺も、マンダレイを避難させたらすぐに戻る。
だから、今も戦ってるだろう生徒達。
無責任な先公で悪いが……頑張ってくれ。
きっと、みんな無事に再会出来る事を……期待してる。
「っし……!」
そして俺はマンダレイを抱えて、踵を返した。
死柄木との戦闘で正直疲れ果てているが、泣き言は言ってられない。
地面を強く蹴り、全力で駆け出したのだった。
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【雄英高校ヒーロー科1年生、夏の林間合宿にて、ヴィラン連合に襲撃されるという事件が発生しました。
その際、講師として招かれていたプロヒーロー『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』の『マンダレイ』と『ピクシーボブ』が負傷した模様です。
また、ヒーロー科1年生の生徒達も大多数が負傷。
依然として意識が戻らない生徒もいるとの事です】
【襲撃犯であるヴィラン連合のうち、ヴィラン名『マスタード』と『ムーンフィッシュ』の二人を無力化、逮捕されました。
ただし、襲撃犯である他数人のヴィランは、ワープの個性にて逃走した模様です。
また、『脳無』と呼ばれる怪人の姿も確認されたとの事です。
保須市に続いて発生した襲撃に、ヴィラン連合への警戒と対処を強めるべきだとの声が出ています】
【そして、プロヒーロー『ラグドール』1年A組『爆豪勝己』の二人が、ヴィラン連合に拉致され、行方不明となっています。
詳細は不明ですが、現在捜査中との事です。
雄英高校の警戒、管理に問題がなかったか、現在保護責任も含めて問われています】