志村転弧:アナザー   作:如月SQ

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襲撃後

「……貴方には助けられちゃったみたいね」

 

 マンダレイはベッドの上で上体を起こしながら、微笑みを浮かべていた。

 頭には包帯が巻かれ、手当ての跡が残っていた。

 

 頭を強く打って気絶していた彼女だったが、幸いにも大事はなく、無事に目を覚ましていた。

 

「いえ、無事で良かったです」

 

 助かった、とは言われたが怪我をする前に助けられたかもしれないことを考えると、あまり素直には喜べなかった。

 

「……それより、大変な事になっちゃったわね。

 私達(プロヒーロー)がいながら……不甲斐ない限りだわ」

 

「それを言うなら俺達教師達もです。情報統制に力を入れすぎる余り、いざという警備が疎かになっていた……そう思います」

 

 さっき会った校長にもそう言われていた。

 判断を誤ったと謝罪された。

 ……それがまた、申し訳なかった。

 

 そもそもマンダレイを怪我する前に助けられたかもしれない、死柄木弔を手早く倒せていれば、生徒達も助けられたかもしれない。

 あの対応を間違っていたとは思わない、結果的に分身だったようだが、戦闘力は本物。

 死柄木弔に出会った時点で、放置する選択はとれなかった。

 それでも、いや、だからこそ、自分の力の無さが悔しかった。

 

 俯いてそれ以上何も言えず、ただ立ち竦んでいた。

 すると、マンダレイが突然口を開き、何かを話し始めた。

 

「……私はね、実のところちょっとだけみんなに引け目があったりしたのよ」

 

「……?」

 

 疑問に思いながらも止める理由もなく、黙って聞く事にした。

 

「ほら、私の個性テレパスは後方でこそ輝くじゃない?

 メインは山岳救助だけど、(ヴィラン)との戦闘がない訳じゃない……そんな時、どうしてもピクシーボブや虎に任せっきりになっちゃうのが、ね……。

 別にそこらの(ヴィラン)に遅れを取るような柔な鍛え方はしてないし、雑多な相手に負ける気はない。……でも、それこそあの時、私が貴方の目の前で宙に吊り上げられちゃった時、ピクシーボブや虎ならどうにか出来た……とか思っちゃうじゃない?」

 

「それは……」

 

 それこそもしもでしかないだろう、そうは思っても言葉には出来なかった。

 代わりにマンダレイには優秀な個性があり、そのおかげで生徒達に個性による戦闘使用許可を伝えられた。

 それによって被害は相当押さえられた事実はあるが……マンダレイの避難に時間を相当食ってしまった俺が、そう理解しているマンダレイに対して何を言っても皮肉になりそうで、何も言えなかった。

 

「……悔しいけどね、私の『テレパス』じゃ対応出来る範囲にはどうしても限りがある……私単体じゃ勝てない相手、対応出来ない事態、いくらでもある。……でもね」

 

 マンダレイはそこでニッと無邪気な笑みを見せた。

 

「それは私一人なら、ってこと!みんなと一緒なら、『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』のみんなと一緒なら、どんな(ヴィラン)」だってどんな困難だって切り抜けられる!

 ヒーローは助け合いよ、転弧君。一人だけで出来ないことなんてこの世にごまんとある」

 

 そっと俺の手に手を伸ばすマンダレイに、俺は一瞬体をビクつかせるも、ちゃんとグローブをしている事を思い出して、力を抜いた。

 ゆっくりと俺の手に触れたマンダレイは、じっと俺の顔を見上げて言葉を続ける。

 

「だからあまり、自分を責めないで?今回の事態は、貴方だけのせいじゃない。

 プロヒーローとして私達『プッシーキャッツ』も、みんな不甲斐なかった……そう思う。

 でもまだ、最悪の事態じゃない。拐われた生徒とラグドールを取り戻しさえすれば、丸く収まるわ」

 

 マンダレイはそう言うが、事態はそう簡単じゃない。

 まだまだ庇護するべき学生を拐われたんだ。

 雄英も『プッシーキャッツ』も、今回の失態で少なからず悪評が拡がり、バッシングを受けることは避けられない。

 それを彼女だってわかっているだろうに、そんなことは尾首にも出さなかった。

 その強さに……こんな状態になってもヒーローとして、先達として、俺を奮い立たせ、慰めようとしてくれる姿が、ひどく輝いていた。

 

「それに少なくとも、私は貴方に救われたわ。

 貴方のおかげで今、私はこうして生きてる……。

 転弧君、改めて言わせて。助けてくれて、ありがとう」

 

 その優しい笑みに、触れた手の温もりに……少なくとも俺が守れた一人の命を感じて……心が震えた。

 

「……こちらこそ、ありがとうございます」

 

 ……こんな俺でも、少なくとも、一つ、守ることは出来たんだ。

 

 そうだ、俺達はまだ負けてない。

 取り返しのつかない事態じゃない。

 俺は、そう思い直した。

 まだ、何か出来るかもしれない。

 

「えと……それでね……いろいろごたごた終わったら、後で、個人的なお礼をしたいからー……その、連絡先とか教えてくれると……」

 

「それじゃあ、俺はこのへんで!お大事に!」

 

 こうしちゃいられない!

 膝を折ってくよくよしている時間はないな!

 許可が出るかはわからないが、一先ず相談してみよう。

 いてもたってもいられなくて、俺はその場を足早に立ち去るのだった。

 

「あっ……連絡先……」

 

 部屋の扉を閉める時、マンダレイの残念そうな声が聞こえた気がしたが、俺に気にする余裕はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やぁ、爆豪勝己君、お目覚めかな?』

 

「んーっ!」

 

ギロリ

 

 そんな音がするような鋭さで眦を吊り上げた彼は、此方を睨み付けていた。

 

 薄暗いバーで、僕達ヴィラン連合は、ひとまずの作戦の成功に酔いしれていた。

 トゥワイスにマグネとスピナー、それとマスキュラーは祝いの食事中。

 黒霧はそれのお世話、椅子に縛り付けられた爆豪君の背後にはコンプレスとハイドレートの、拘束に適した二人を待機させている。

 ガッチガチに固めているとはいえ、彼はヒーローの卵、雄英体育祭の優勝者……手加減していたとはいえ、僕を真正面から打ち破った強者だ。

 備えるに越したことはないね。

 

『さて、改めて自己紹介といこうか。

 僕達はヴィラン連合、そして僕はその首魁の死柄木弔。

 よろしくね、雄英高校1年A組、爆豪勝己君』

 

「……むぐ……」

 

 口も縛ってるから話すことは出来ないんだけど。

 一応勧誘目的だけど……どーせ彼は頷かないからなぁ。

 短いながらも一緒に過ごした僕には、彼がどう反応するか大体予想できる。

 でもまぁ、流石にそのまま拘束だけして衰弱するまで放置じゃ可哀想だ。

 一縷の望みにかけて、こっちに靡かないか説得してみるのも悪くない。

 

 まぁ、人を殺せそうな目でずっと睨んでるから、望み薄だけど。

 

『君をこうやって誘拐させて貰ったのは、君に是非、ここヴィラン連合で力を奮って貰いたいからなんだ』

 

「……ふんっ……!」

 

 鼻息荒く返された。

 答えはまぁ、明らかにNO!だね。

 

『まぁまぁ、結論を急くこともないでしょ。

 僕達の目的、それを聞いてからでも遅くないんじゃない?』

 

 彼の反応を特に気にすることなく、僕は言葉を続ける。

 

『僕達の目的、それは今の超人社会の破壊さ。

 不思議に思ったことはない?自分の個性を自由に扱えない、この社会のことを。

 君は天才だけど、努力を怠るタイプじゃないでしょ?

 でも個性の無断使用は厳禁……君のような優秀な個性持ちは有望な未来と未来の脅威とで表裏一体……周囲の目は期待と不安の入り交じったいやーな視線だったんじゃない?

 そんな中でそれだけ個性を鍛え上げた……雄英体育祭での優勝は、同年代で君に敵う存在はいないということの証左……。

 けど、そこまで鍛え上げるのに、所詮一般家庭出身である君はどれだけ周囲に気を遣っていたんだい?』

 

 それは彼の過去を改変する言葉。

 過去は彼自身のものだ、彼以外にわからない。

 当然僕は彼の過去なんざ微塵も知らないし、どうでもいい。

 それでもこうも自信満々に面と向かって言われれば、『もしかして……?』という疑念が生まれてしまうものだ。

 

『大変だっただろうね、苦労しただろうね……。

 それでもそんなに強くなったんだから、素晴らしいことさ。

 でももしも……個性を発現した時から好きなだけ鍛えることが出来たなら君はきっと、雄英1年どころか雄英内最強……いや、プロヒーローとでも渡り合えるような、そんなヒーローになれていたかもしれない。

 でも、そうはならなかった。なり得なかった。

 雄英高校1年生最強……軽い称号じゃない、けど……そう重くもない、そう感じてるんじゃない?』

 

 ピクリ、爆豪君の眉が動いた。

 

『凄いことなのは間違いない、だけどもしかしたら、もっと時間があれば、機会があれば、鍛える場所があれば……もっと高みに登れたんじゃないか、そう思ったこと、あるでしょ?

 同じ学年の推薦入試の二人……お金持ちな親とプロヒーローの親……そんな子供と一般家庭出身の子が、同じスタートラインだと思う?

 可哀想に、そんなことは有り得ない。思うがままに個性を使える環境、個性を鍛え成長させる指導、潤沢な資金による教育……人は産まれながらに不公平さ、だけど持って産まれた個性すら抑圧されなければいけないなんて道理が何処にある?』

 

 さあ歪め歪め、自分の過去を歪めてしまえ。

 

『君はもっと、思うがままに力を奮って良いんだ。

 ヒーローへの憧れもあるだろうから、今の社会を壊した後は、僕達と敵対したって良い。

 その過程で君も好きなだけ、思う存分個性を使えるだろうから、どんどん成長していくことだろう。

 なんなら、鍛練の相手になっても良いよ、互いに高めあっていこうよ。

 君の思い描く未来は、本当にこの超人社会の先にあるのかな?

 一度何もかもぶっ壊した先に、君が君のまま、思うがままに力を奮える未来があるんじゃないのかな?』

 

 こっちに来た先にあるのが、君の求める未来だよ、と。

 さぁ。

 

『ほら、テレビを見てみなよ、雄英高校謝罪会見だってさ。

 へぇー、イレイザーヘッドの正装初めて見た。

 今回の襲撃を防げなかった件で謝罪、だって。

 おかしいよね?悪いのは襲撃した僕達ヴィラン連合だ。

 なのに、まるで雄英高校が事件を引き起こしたかのような騒ぎよう……』

 

 テレビから響く音は、聞くに耐えない罵詈雑言。

 安全な場所から、好き勝手にほざく記者達の雄英高校を責め続ける言葉。

 

『ヒーローは人を守って当たり前、守るのが当然、守れなかったらヒーローが悪い……おかしいよね?

 もうこの社会は破綻してるのさ。

 ヒーロー飽和社会とはよく言ったものだよ。誰が言い出したんだかわからないけれど、とても的確に表していると思わない?』

 

「むー……」

 

 爆豪君はじっと僕を見つめている。

 鋭い目付きのまま、何かを言いたそうに。

 

『僕達はこの社会に警鐘を鳴らしてるのさ。このままじゃダメだと、こんな社会はおかしいんだと。

 そうやって今のこの社会を壊し尽くして、どんな人間もどんな人種も好きなように生きられる、そんな社会を作り上げる。

 そうすれば……僕達はみ出し者も受け止めてくれる、そんな素晴らしい世界になる筈さ。

 そんな世界を作り出す為のお手伝いを、君にして貰いたいんだ』

 

 そう言って僕は爆豪君に手を伸ばし、ハイドレートに合図を送った。

 口枷だけ外せの合図……一度答えを聞いてみるとしよう。

 ハイドレートは此方を一度見返してきたけれど、小さく頷いてやれば素直に爆豪君の口枷を外した。

 

 口が自由になった爆豪君は一度首を大きく振ると、口許を吊り上げた。

 

「寝言は寝て死ね」

 

 凄惨な笑みを浮かべて放たれた言葉は、否定の言葉。

 僕はそれにさして驚くこともなく、ゆっくりと首を横に振った。

 

『……言うと思った』

 

「くだんねぇことをゴチャゴチャ抜かしやがって!

 自由に個性使えねえことと、ヒーローが責められちまうことが間違ってる、だから社会をぶっ壊して自由に生きる?

 因果関係が滅茶苦茶で支離滅裂なんだよ!バァカ!

 煙に巻いて体よく利用しようって魂胆が見え見えなんだわ!」

 

 ……はぁ、天才ってのはこれだから。

 普通なら、こんな絶体絶命の状況で正常な判断なんかできないってのに……。

 

「俺は、ヒーローが徹底的に勝つ姿に憧れて、ヒーローを目指してんだよ!

 制限が多かろうが苦労しようが関係ねぇ!

 俺は諦めねえ。今のままで、登り詰めてやる!

 てめえのような負け組の僻みに、付き合ってる暇はねえんだよ!

 わかったかよ、エセマイト!」

 

「言うね~若いねぇ~」

 

 コンプレスが感嘆の声を漏らした。

 まあ(ヴィラン)に拐われて拘束されて、これだけの言葉を吐けるんだから……凄いか。

 見習いたいとは思わないけどね。

 

『ふうー……そうかい、残念だ。

 まあでも、まだ暫くは説得させて貰うよ。

 幸い、時間はまだまだたっぷりあるから―――』

 

ピンポーン

 

 そこで突然、インターホンが鳴った。

 そうして扉の向こうから響く、呑気な声。

 

「どーもォ。ピザーラ神野店ですー」

 

 ……やれやれ、良いところだったのに。

 ピザの配達か、まったく間の悪い……。

 トゥワイス達が頼んだのかなと思い、絶賛食事中の面々の様子を伺えば……全員惚けた顔をしていた。

 ……誰も知らない?

 

 ……………………やっ、ばっ……!

 

ドガァアアアアン!

 

 気付くのに遅れた、そう後悔する間も無く、僕達ヴィラン連合の最大の危機が訪れた。

 文字通り、ね……このタイミングで訪ねてくるなんて、ね。

 はは、流石に想定外だ……。

 

「我々が、来た!」

 

「オールマイトォ!」

 

『オールマイト……!』

 

 意外とやるなぁ、雄英高校に、ヒーロー達に……オールマイト……!

 

ギリィッ

 

 目の前に立つヒーロー達の姿を見て……笑みを浮かべるオールマイトの姿を見て、頭巾の中で僕は、強く、強く……奥歯を噛み締めていた。




誤字報告ありがとうございます。
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