志村転弧:アナザー   作:如月SQ

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神野事件

 本来俺は雄英高校の謝罪会見に出る筈だった。

 林間合宿の引率の一人として、それが義務だからだ。

 ……でも、それが我慢ならなかった。

 マンダレイにはああ言われたが、やっぱり俺の責任というのは重い。

 個性も破壊力があり迂闊には使えないものの、もっと俺が上手くやれていれば生徒達はあそこまで怪我をしなかったかもしれないし、爆豪も守れたかもしれない。

 そう思ってしまったら、もうダメだった。

 判明したヴィラン連合拠点への突入班に、いれてもらえるよう頼み込んだ。

 校長も警察も……なんならオールマイトも難色を示したが……意外にも助け船をを出したのは父さんだった。

 

『……気が済むまで好きに動け。俺の分までな。

 大人としての責務は、俺が代わりに果たしておいてやる。

 合理的な判断じゃないが……俺がお前を信じてやる』

 

 背中を叩かれて言われた言葉は、じんと心の芯に響いた。

 万人の応援にも勝る、とても心強い言葉だった。

 

『っ……!はいっ!』

 

 そうして俺は、ヴィラン連合アジト強襲班に組み込まれ、オールマイトがぶち抜いた壁から共に突入していた。

 ……しかし改めて隣に立つとしみじみ思うな、この人のパワーは本当にとんでもないなと。

 

「ウルシ鎖牢!」

 

 それはそれとして、壁をぶちぬいた瞬間、即座にシンリンカムイの必殺技が炸裂した。

 目の前でヴィラン連合の面々が、次々に木の根に拘束されていく。

 

「ぐっ」

 

「うぉっ!?」

 

「なめンな!こんくれェ……!」

 

 その中で一際大きな男……確か指名手配中の(ヴィラン)、マスキュラーの腕の筋肉が、不気味に隆起した。

 赤黒い筋繊維そのものが荒れ狂い、流石のシンリンカムイの拘束もバキリ、と悲鳴をあげた。

 その瞬間。

 

「逸んなよ」

 

バキィッ!

 

「ぐがっ……」

 

 グラントリノと名乗った老人の蹴りが、マスキュラーの延髄を鋭く穿った。

 ガクンとマスキュラーの頭は垂れ、筋肉の隆起と脈動はそこで止まる。

 抵抗らしい抵抗はそこまで。他の面々も逃れようともがくが、それを許す程先手をとったシンリンカムイの拘束は優しくない。

 やがてヴィラン連合の面々は、あっという間に部屋にいた全員が拘束されたのだった。

 

 見事な手際だった。

 あの死柄木がろくな抵抗も出来ずに拘束されたことに違和感はあるが……まずは俺の出来ることをしなければいけない。

 椅子に縛り付けられたままの教え子、爆豪勝己へと俺は駆け寄っていた。

 

「もう大丈夫だぞ、爆豪!無事か!?」

 

「っ……先生……当たり前だ!こんくれぇ屁でもねぇよ!」

 

 いつも通り……に見えるが多少表情に強張りが見てとれた。

 流石の爆豪もキツかったか……そりゃそうだ。

 むしろまだこれだけ啖呵切れるだけ大したもんだ。

 そんな可愛い教え子を縛り付ける縄を崩壊させつつ、縛られているヴィラン連合の面々を見渡した。

 

 生徒達と捕らえたヴィランの証言を警察のデータベースで照らし合わせ、本名も含めて全て明らかになっている。

 死柄木弔と黒霧は素顔が見えてないから流石に素性はわかっていないが……他は……ん?

 一人特徴が当てはまらない妙な奴がいるな……?

 確か熱を操る個性持ちの存在が示唆されてたか……通信設備がドロドロに熔けていたとか……あいつか?

 ならシンリンカムイの拘束に無抵抗なのは違和感があるが……自発的には発動出来ないタイプか?

 他の面子は腕が動かなければろくに個性を扱えない筈だ……あの赤青仮面には注意しておくべきか。

 

『はは……こりゃキツイ。……仕方ない黒霧、脳無をありったけ頼むよ』

 

 死柄木がそう言った瞬間、黒霧がおおきく振りかぶって揺らめいた。

 拘束は成っていて身動きは取れない筈だが、ワープゲートは使えるのか……!?

 思わず身構えるが……それ以上何も起こらなかった。

 

「……すみません、死柄木弔、どうやら先手をうたれてしまっているようです。所定の場所に、一体たりともおりません」

 

 俺達ヒーローの顔に笑みが浮かぶ。

 どうやら……上手くいったみたいだ。

 

『なん……だって……!?』

 

「ピザーラ神野店は……俺達だけじゃない」

 

 エッジショットの言葉と共に開け放たれた扉から、武装した警官隊が雪崩れ込んでくる。

 ……その言葉通り、俺達には別動隊がいる、

 ベストジーニストをリーダーに脳無が保管されていると思わしき場所へ対処の為に派遣されていた。

 そして……死柄木と黒霧の動揺を見るに、それは上手くいったようだ。

 

 これも全てはヒーローと警察の意地と執念……たゆまぬ地道な捜査が実を結んだ結果だ。

 

『ちっ……そうなるとここは逃げの一手しか――』

 

シュンッ!

 

 死柄木がそう呟いた時、黒霧が少しそのモヤを膨らませた瞬間、エッジショットは既に事を終えていた。

 

「がっ……」

 

「忍法千枚通し……この男は最も厄介……眠っててもらう」

 

 黒霧の頭らしき部分がガクンと折れた。

 流石仕事が早い……感心するとともに、解放した爆豪を背に隠し、一歩前に出た。

 爆豪からは不服そうな雰囲気を感じるが、流石に空気を読んで口をつぐんでくれているようだった。

 

 兎に角、これで無力化は完了。

 先制が見事に決まり、かなり少ない労力で終える事が出来たと言っていいだろう。

 

「世間を騒がせたヴィラン連合も、これで終わりだ」

 

「君達は我々ヒーローと警察の執念を嘗めた……。

 終わりだ、ヴィラン連合。大人しくお縄につくんだ」

 

 オールマイトの宣言にまだ意識のあるヴィラン連合の面々は肩を落とした。

 諦観が感じられる態度にほんの少し、安堵を感じた。

 

『くくく……』

 

 その時、俯いていた死柄木の肩が震えだした。

 突然のくぐもった笑い声に、少しだけ弛緩していた場の空気が引き締まる。

 

『いやぁ、すごい。まさかあの憧れのシンリンカムイのウルシ鎖牢をこの身で受けることになるなんてね……』

 

「ふん……(ヴィラン)がヒーローのファンだとでも言うつもりか?」

 

 鼻で笑うシンリンカムイだが、死柄木はさも喜んでいるかのように声のトーンをあげた。

 

『この見た目を見てもわからない?ほら、これでも僕はオールマイトのファンボーイなんだ。ヒーローは大好きさ!

 そんな大好きなヒーローの活躍、必殺技をこの目で見れて感動しているよ!エッジショットの千枚通しもカッコ良かったね!

 オールマイトも壁を一撃でここまで壊すなんて、流石の一言だよ!

 見たことない空飛ぶお爺ちゃんもすごいし、大興奮さ!』

 

 はたから聞いていれば、声色は興奮しているように聞こえるが……。

 

「……なんだ、こいつ……」

 

 背に隠した爆豪が、堪らずと言った様子で呟いた。

 それは、きっと今ここにいるヒーロー達と同じ思いだっただろう。

 

「なんでこんなにうすら寒く感じるんだ……?」

 

 死柄木の言葉は、何処までいってもうすら寒く、薄っぺらい。

 何故かそう感じてしまう、空虚さを醸し出していた。

 

 天を仰ぎ、肩を揺らしていた死柄木を気味悪そうに囲む警官隊とヒーロー達。

 暫しの沈黙の後……突然死柄木の首が素早く動き、此方を見据えた。

 

『でも、僕がこうして何もされていない事が不思議だ。

 僕はヴィラン連合の首魁だよ?

 それがさぁ、拘束だけで攻撃もそれ以上加えてこないで……。

 まるで僕が脅威じゃないみたいじゃないか。

 まるで僕が何も出来ないみたいじゃないか。

 まるで僕が……役立たずのデクの棒みたいじゃないか』

 

ゾワッ

 

 その温度のない声色に、寒気が走った。

 あまりにも不気味で、あまりにも異質。

 まるで底の見えない穴を覗き込んでしまったような、そんな恐怖。

 頭巾の向こうで、こいつ……どんな顔をしてやがる……?

 その異質な雰囲気に、ヴィラン連合の意識のある連中すら顔を青くしていた。

 

 だが、拘束されていることには変わりない……そしてその底知れない様子にこれ以上意識があるのは許容出来ない、そう判断したヒーロー達の動きは早かった。

 

「だったら貴様も寝ていろ……!」

 

「お望み通りにしてやる!」

 

「仕方ないっ!」

 

 エッジショットが、グラントリノが、そしてオールマイトが。

 即座に動き出した三人が死柄木弔へと殺到していた。

 全員が確かな必殺の意思を持って技を奮おうとしたその時、死柄木の体が一際大きく震えた。

 

ブパッ!

 

 その瞬間、死柄木の頭巾の隙間から、黒い液体が噴き出した。

 

「なっ!?」

 

 死柄木の奴、まだ個性を!?

 いや、違うか!?他のヴィラン連合の奴等からも黒い液体が!?

 

「ごはっ!?」

 

「爆豪!?」

 

 苦しそうな声が聞こえ思わず振り返れば、爆豪の口も同様の液体が噴き出していた。

 事態の突然の変化に動揺した俺達を正気に戻したのは、皮肉にも死柄木の呟きだった。

 

『あー……先生ってば、意外と過保護だよね』

 

 黒い液体に包まれていくヴィラン連合の面々と、爆豪。

 そして入れ替わるように現れる、脳ミソが剥き出しの怪人達……!

 

「くそっ……!?ここで脳無だと!?」

 

 ベストジーニストの班が対処に成功したんじゃ……!?

 というか、この黒い液体もワープ能力があるのか!?

 なら、まさか……!?

 

 最悪の考えが頭に過りヴィラン連合の奴等見渡せば、誰も彼もが黒い液体に包まれ見えなくなっていた。

 そしてそれは、俺のすぐ後ろにいた爆豪も、同様だった。

 手を伸ばして黒い液体を晴らすも、そこには何も残っていなかった。

 

「消えた……!?傾聴!捕縛していたヴィラン連合のメンバーの消失を確認!黒い液体には転移能力、または類似能力が備わっていると見て良い!」

 

 シンリンカムイの言葉に、緊張が走る。

 くそ、折角黒霧をエッジショットが無力化した、絶好の機会だっていうのに……!

 ヴィラン連合を逃がして、爆豪も助けられなかった……!

 

「先生……!待て、死柄木弔!先生とは、まさか!」

 

『さぁて……。答え合わせは後でしましょうオールマイト』

 

 最後に残っていた死柄木のその言葉を最後に、この場にヴィラン連合のメンバーは誰一人残っておらず、人質の救出にも失敗し……俺達は残された怪人脳無を対処せざるを得なくなってしまった。

 

SHIT!

 

 脳無を殴り飛ばしたオールマイトの声が、その場に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベストジーニストに同行していた班はどうした!?」

 

「連絡、とれません!」

 

「くそっ!こいつらいくら撃っても堪えない!牽制に留めろ!」

 

「……オールマイト!

 ここは俺達に任せて、貴方は行ってください!」

 

「なっ……しかしっ」

 

「この程度対処出来ねばヒーローの名が廃るというもの……お任せあれ」

 

「……わかった!ここは任せたよ!」

 

「その期待、必ず応えてみせましょう」

 

「俊典!……最悪を想定しておけよ。ここは、任せろ!」

 

「っ……!はいっ!お願いしますっ!」

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