ヴィラン連合の拠点だったバーで脳無の無力化に成功した俺は、エッジショットとシンリンカムイにその場を任せて、グラントリノと共にその場を後にした。
足裏から空気を放ち凄まじい速さで移動するグラントリノに多少遅れつつも、オールマイトがいるだろう現場にたどり着いた時……そこはもう更地となっていた。
事前の話では工場があったらしいその場所には何もなく、今も何かと何かがぶつかりあい、轟音と共に凄まじい衝撃が空気を震わせていた。
周囲に散らばる瓦礫を踏みつけたグラントリノは、迷うことなくその中心地へと飛び出していった。
「ちょっ」
「俊典!気張れ!ここが正念場だぞ!」
オールマイトと、頭を全てマスクで覆った怪しい人物との戦いに割って入るグラントリノに、俺は頭をかきむしった。
あのオールマイトと互角に殴りあってる奴相手に躊躇なくいくとか、イカれてんのか!?あの爺さん!
……けどまぁ、アレが死柄木達ヴィラン連合の背後にいる奴だった……ってんなら納得だ。
オールマイト相手に有利に立ち回っているようにすら見えるマスク男は、明らかに異常。
ヴィラン連合の奴等もいるようだが戦いにはついていけてないようだし……これは好機か。
首に巻いているスカーフを口元を隠すように引き上げ、額のゴーグルを装着する。
本気で戦う時のルーティーン……集中力が高まるのがわかる。
どれだけ役にたてるかわからないが……俺はやれることをやるだけだ。
そして、その戦いに俺も割って入るのだった。
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転弧が戦いに参加し始めた時、マスクの男、
オールマイトの激しい攻撃の嵐、グラントリノの素早いヒットアンドアウェイの蹴撃、それらをいなしながらテンコの崩壊を警戒し避け続ける……簡単ではないが、難しいことではない。
ただし、
教え子の弔及びワープの出来る黒霧、オールマイトに対抗出来る可能性のあるマスキュラー達は気絶、他のヴィラン連合のメンバーはこの戦いに割って入れはしない。
つまり、
ただ人質となる爆豪勝己を確保しているのは良い、これでヒーロー達の動きにも制限が出来る。
現にオールマイトがその気になれば辺り一帯を吹き飛ばせるだろうに、そうしないのは爆豪勝己がヴィラン連合に捕まっているからだ。
それを理解している
オールマイトが既に
ならばその残り火での足掻きを、いなし、受け流し、燃え尽きるまで待つ、つまり時間を稼げば良いだけ。
そして……時間稼ぎのお話が出来る役者は揃った。
ドンッ!
オールマイトとの幾度かの衝突の後、隙を狙うグラントリノとテンコへと強めの衝撃波を放つ。
予備動作なしで唐突に放たれた衝撃波は、空中のグラントリノを吹き飛ばし、テンコを弾き飛ばした。
「がっ!」
「ぐっ!」
グラントリノはきりもみしながら瓦礫へと突っ込み、テンコも体勢を崩して地面を転がった。
「老体があまり無理をするものじゃあないよ」
「グラントリノ!テンコ!」
そんな二人へと
オールマイトがそうすれば庇うように動くとわかっての行動。
思惑通り遮るように立ちはだかるオールマイトに対して、
「……衰えたねオールマイト。ここまでの移動時間からもわかっていたけど、追撃を止める為にわざわざ立ちはだかるなんてね。
以前の君なら、僕が意識を反らした瞬間に殴り飛ばせていただろうに。
やはりもう、君の中に
「っ……!何故それを」
オールマイトは歯噛みする。
気付かれていたこともそうだが、思わず反応してしまった自分の迂闊さに。
「雄英体育祭楽しませて貰ったよ。緑谷デク、だっけ。
彼は惜しかったね?強力過ぎる個性をもて甘しつつも、それなりに使いこなしていたようだったし」
「貴様ッ……!」
更にはオールマイトの反応で改めて確定させたことだろう。
オールマイトは、改めてここでこの巨悪を討つ事を心に決める。
例えここで命尽きようと、次代を託した者達の為に、全てを燃やし尽くすことを決めた。
そんな覚悟のもと筋肉を更に脈動させるオールマイトへと、
「君も次代を作り始めた訳だ。初めて君に親近感がわいたよ。
僕も次の僕として弔を育てていてね……いやはや、なかなかどうして……成長を見守るというのはもどかしく、面白いものじゃないか。
先代
「ッ……!貴様が言うか!」
激昂するように言葉を選んでいる事を理解しているオールマイトは、迂闊に飛び込むことはない。
ないが、感情は別だ。
固く握り締められた拳は、ギチギチと音をたて、奴を殴り飛ばす時を今か今かと待っている。
そんなオールマイトに、
「どうかしたかな、オールマイト……ああ、それにしてもそこのテンコ、だったかな。その子もその若さにしてはなかなかやるじゃないか。
そこの爆豪君といい緑谷君といい、優秀なのは良いことだ。ヒーローの先行きは明るいね。教師冥利に尽きるじゃないか、羨ましいよオールマイト」
くつくつと、
「そんな君に……君達に一つ……いや二つかな。
是非とも教えてあげたいことがあるんだよ」
まずは、と人差し指をピンと立てた。
「一つ、テンコ……相澤転弧、いや志村転弧君。
君が個性を暴走させ、家族を家ごと崩壊させた後……」
「ちっ……情報の出所はお前か」
こいつかとテンコは表情を歪めた。
死柄木が自分の過去を知っている事はわかっていた。
だが、何故という思いは拭いきれなかった。
自分の過去はある程度情報が
その出所が目の前の男であるのならば、忌々しいが納得出来てしまった。
明らかに只者じゃない存在感、悪意に満ちた雰囲気。
絵に描いたような悪ならば、自分の過去程度知っていて不思議ではなかったからだ。
だが……続いた言葉に、テンコは言葉を失った。
「絶望する君に手を差し伸べ、君が改めてヒーローへの道を目指すに至ったきっかけを与えた少年……。君に手を崩されてなお、手を差し伸べ続けた
「なっ……」
ガン、と頭を強く叩かれたような衝撃が走った。
ゴーグルの奥でテンコの……転弧の瞳が大きく揺れた。
口が渇き、身体中に寒気が走る。
転弧にとって決して忘れられない、罪の象徴であり恩人。
その恩人が生きていると言われ、転弧は平常心ではいられなかった。
「緑谷出久が……生きてる……?」
カラカラに乾いた口から思わず掠れた声が漏れる。
そんな、動揺を隠せない様子の転弧を眺めて、
「君もオールマイトも、良く知っている人物さ。
君達教師陣には他人の空似だと伝えられていたのだろうけど……ふふふ……そうとも、君達の想像の通りだ。
緑谷デク。彼と緑谷出久は同一人物さ。
とはいえ出久であった頃の記憶は忘れているがね」
二人の脳裏に浮かぶ、ヒーローとしての輝きをもった緑髪の少年。
つい先程も
「そう、か……緑谷が……」
転弧は苦虫を噛み潰したような表情で、けれどほんの僅かにだけ喜びを浮かべて、小さく呟いた。
「後で……謝らないとか。だが、まずはあんたを倒さないとな」
それが事実なら、仮に緑谷が忘れていようと一つの区切りとして謝らなければいけない。
だがその前に、目の前の男を倒して話を詳しく聞かなければいけない。
そう考えて身構える転弧は戦意を漲らせていた。
ゴーグルの向こうで、転弧の瞳がギラつくのを感じ……
「ふん……テンコの戦意を削ごうとしたのだろうが、残念だったな、
ただ此方の戦意が漲っただけ―――」
「二つ」
オールマイトの言葉を遮り、
「……死柄木弔の正体は」
その言葉の直後、風切り音が響いた。
ヒュンッ
そしてオールマイトの左脇腹へと、緑の閃光が走った。
「うぐぅううううう!??」
ズガンッ!
オールマイトの呻き声の後、凄まじい衝撃音が遅れて響いた。
鉄板でも穿ったような、そんな音だった。
左脇腹に突き刺さった緑の閃光……死柄木弔は、全力の蹴撃の結果を確かめるように着地する。
その右腕はなく、オールマイトを模した頭巾は真っ赤に濡れ、機械的なマスクは砕けて口元が露になっていた。
ニヤリと死柄木の口元が歪んだ。
「がはっ!」
数歩後退したオールマイトの口から、ボタボタと血が溢れる。
その尋常ではない様子に、テンコは二人の間に割って入り、その手を振りかざした。
「オールマイト!くそ、死柄木ィ!」
吠えたテンコへと笑みを浮かべたまま、死柄木は血濡れの頭巾に手をかける。
そのまま、躊躇いもなくその頭巾を脱ぎ去った。
そして露になる死柄木の素顔に……テンコは目を見開いた。
死柄木弔の目の前で手を伸ばしたまま動きを止めたテンコへと、膝をついて見上げたまま固まったオールマイトへと、
「緑谷出久、だ」
緑がかった癖毛にそばかすの、素朴な容姿の少年が、そこに立っていた。
ヒーローの情熱を宿していた筈の瞳はどろりと淀み、ヒーローへの憧れを口にしていた口元は邪悪に歪んで……二人を静かに眺めていた。
まるで現実味のない光景に、二人の体は硬直し、無意識に震えていた。
「こんばんは、転弧先生、オールマイト……」
死柄木のいつもの機械で変えられた声ではない、素の声。
幼さの残る、少年の声。
二人にとってとても聞き覚えのあるその声が、二人にこれは現実だと訴えているようだった。
「いい夜ですね」
死柄木弔は、緑谷出久は、呆気にとられる二人をただ嗤った。
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誤字報告ありがとうございます。
オールフォーワンはアフォって覚えてたのに、辞書登録でミスりました。
修正しました。