志村転弧:アナザー   作:如月SQ

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神野の悪夢

「小僧ォ!そこで、何をしとる!」

 

ドンッ!

 

 不敵な笑みを浮かべる死柄木へと、グラントリノが飛び込んだ。

 勢い良く放たれた蹴撃を、死柄木は緑色の閃光の走る左手のみで受け止めていた。

 

「こんばんは、グラントリノ。先日はお世話になりましたね」

 

「ちっ……!」

 

 グラントリノは舌打ち一つ残すと、個性を全力で起動し、高速で飛び回り始めた。

 そしてチラリと確認した二人、オールマイトとテンコの様子に再度舌打ちを鳴らした。

 その思いが、動揺してしまう気持ちがグラントリノには充分に理解できてしまったから。

 

「貴方は優秀な指導者ですね」

 

「今更おべっかか!?」

 

 グラントリノは動きを緩めずに蹴撃を繰り返すも、死柄木は片腕だけで受け、いなし、かわして見せる。

 職場体験の時とは段違いの動きに、グラントリノの顔が歪んだ。

 

「これだけ出来て……!俊典を、俺達を弄んだのか!?」

 

 悲痛な声が響いても、死柄木には響かない。

 へらへらとした笑みに反して、その瞳には何の感情も浮かんでいない。

 

「弄ぶなんてそんな。本心ですよ。

 O・F・A(ワン・フォー・オール)の出力の制限以外、僕は全力で取り組んできました。

 貴方との短いやりとりで、『緑谷デク』は明らかに一つステージを駆け上がった……。それは紛れもない事実だ。

 誇って良いですよ、貴方は本当に優れた指導者だ。そこで踞っているオールマイトなんかより、ずっとね」

 

「嬉しかねぇ褒め言葉だな!」

 

「うぐっ」

 

 呻き声を漏らすオールマイトに、グラントリノは内心でのみ叱咤する。

 今、最も立たなければいけないと思っているのは、当人なのだから。

 同時に無理もないと思った。

 自分ですら見抜けない程に、緑谷デクというヒーローの卵の擬態は完璧だった。

 既に頭角を表しているが、ヒーローの矜持と輝きを持ち、やがて花開くだろう素晴らしい少年だと感じていた。

 接した時間の短い自分ですらこうなのだ、奴を後継者として見出だしたオールマイトの精神的衝撃は、計り知れない。

 

 それでも、例えどれだけ打ちのめされようと、オールマイトは立ち上がる。

 グラントリノはそう信じている。

 だからこそ、今はこの老骨に鞭をうち、少しでも時間を稼ぐ。

 余計な追撃はさせない……古傷が開いた様子のオールマイトを、恐らく活動限界すら近付いているオールマイトを、ほんの少しで良い、休ませ、決着をつける時を少しでも万全な状態で迎えさせる為に……。

 

「小僧!儂の期待を無下にした罪は重ェぞ!」

 

「はは、勝手に期待したのはそっちでしょうに、ひどい言い掛かりだ」

 

「その軽薄な態度が素か!?随分と『デク』とは違ェじゃねえか!」

 

「別に僕に素なんてありませんよ」

 

ドガッ!

 

シュルンッ

 

「しまっ」

 

 グラントリノのフェイントを織り混ぜた蹴撃、顔面を狙うと見せかけての、背後からの攻撃。

 それを後ろ手に防がれた瞬間、死柄木の手から伸びた黒鞭がグラントリノの脚を捕えた。

 

「捕まえた」

 

「むぉっ」

 

 即座に足裏から空気を放出し離脱しようとするも、それよりも先に力任せに引っ張られ、グラントリノの体は体勢を崩した。

 そしてそのまま、死柄木の頭上を越えて、地面へと叩き付けられた。

 

ズドンッ!

 

「がっ……は」

 

 グラントリノの全身を貫く凄まじい衝撃。

 叩き付けられた地面に、蜘蛛の巣状のヒビが走った。

 ゴホリとグラントリノの口から血が溢れ、そのユニフォームを濡らした。

 そんなグラントリノを、死柄木は見下ろして……引っ張りあげた。

 

ブンッ

 

ズドンッ!

 

 ピクリともしないグラントリノは、再度死柄木の頭上を舞い、反対の地面へと叩き付けられた。

 

ドンッ!

 

ドンッ!

 

ドンッ!

 

ドガンッ!

 

 そのまま連続して4回程繰り返され、ズタボロになった老人を、死柄木は引っ張りあげた反動のまま、空高く放り投げた。

 

「グラントリノ、貴方との職場体験……本当に大変でした。

 勘の良い貴方にバレないよう、細心の注意を払って、『デク』らしさを演出し続けるのは、今までで一番苦労しました」

 

 くるくると力無く宙を舞うグラントリノを見上げながら、死柄木は左腕を大きく振りかぶった。

 左腕には緑の閃光が灯り、バチバチと稲光を走らせていた。

 

「これは、『お礼』です。遠慮無く受け取ってください」

 

 溜めた力が、目に見えない圧となって周囲の空間すら軋ませる。

 もしもそれを無防備に食らえば、グラントリノはひとたまりもないだろう。

 

 そして……それを彼が許容出来る筈もなかった。

 

緑谷、少年ッ!

 

「……ははっ、DETROIT……」

 

DETROIT!

 

 グラントリノが落ちるより先に、オールマイトの拳が振るわれる。

 応じるように放たれる死柄木の拳が、オールマイトの拳と正面からぶつかりあった。

 

「「SMASH!」」

 

ドンッ!

 

 その衝撃は凄まじく、落ちてきていたグラントリノは勿論、呆然と立ち竦んでいたテンコも……そして、渾身の力を込めた死柄木とオールマイトをも吹き飛ばした。

 

「くっ」

 

「ぬぅっ!」

 

「っ……!」

 

 その様子をA・F・O(オール・フォー・ワン)だけが微動だにする事なく、愉しげに眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 流石はオールマイト、まだ力を絞り出せるか。

 先程の衝突で変な方向に折れた左手の指を眺めながら、その強さに辟易していた。

 まったく、今のは丁寧に溜めた発勁を込めた一撃だってのに、残り火しかないオールマイトに相殺以上に持ってかれるんだから堪らないよ。

 

 ……けど、流石に本当に限界なんじゃないかな?

 今ので踏ん張れなかったオールマイトを見ると、さっきの脇腹への一撃が随分と効いているようだ。

 僕も余裕がある訳じゃないけれど……後は先生に任せても大丈夫だろう。

 

「お疲れ様、弔。そろそろあちらも限界のようだ。

 美味しいところを持っていくようで悪いけれど、後は僕に任せて君達はゆっくり休むと良い」

 

 その僕の考えを裏付けるように、先生は黒霧へと手を伸ばす。

 倒れたままの黒霧に突き刺さる先生から伸びたそれは、黒霧の個性を強制的に発動させた。

 僕を始めとしたヴィラン連合のみんなにまとわりついていく黒い靄。

 トゥワイスなんかは既に目を回していたし、まぁ彼等はここらが潮時だろう。

 僕達がいなくなれば、先生も全力を出せる。

 

 まぁとりあえず、これでオールマイトは終わりだ。

 後はオールマイトがいなくなってグダグダになった世界を、どう動いていくか……考えていくとしよう。

 そう思考しながら黒い靄に身を任せて目を細めた。

 

 その瞬間、転送が完了する直前だった。

 

「ちょっ!」

 

ボンッ!

 

 Mr.コンプレスの困惑した声と爆音が響き、僕の周りの黒い靄が、突然かききえた。

 そして、目の前に降り立った彼は目を吊り上げ、人を殺せそうな形相で僕を睨み付けていた。

 

「てめェ……ワケを言えやデクゥ!やっぱりてめェがデクだったのか!ずっと騙してやがったのか!?

 影で嘲笑ってやがったのか!」

 

 このタイミングで、か。

 元気だね、爆豪君も……どんなタフネスしてるんだか。

 

「いや、別に騙して嗤うようなつもりはないけど……」

 

 ただ、いい加減ウザイなぁ。

 日頃から無駄に絡んできて、いつも怒ってるし……試験の時も本当に大変だった。

 ちょっと怖い思いをさせてやろうと誘拐してみたけど、こたえた素振りもないし、どうせこっち(ヴィラン)には来ないし。

 

「でも、君の事は内心ではバカにはしてたかな?

 井の中の蛙が大はしゃぎして、無駄に絡んでくるなぁ、って」

 

 そう考えた時、もう良いかと思えた。

 

「て、めぇ……!」

 

 怒りで震える爆豪君を眺めて、より気分が下がっていく。

 ここで僕の正体が明かされて、雄英に戻れなくなって、今までの苦労がパーになって、内心苛立ってるんだよね。

 あんなに苦労したのに、先生がこんなあっさり暴露しちゃってさ。

 だからまぁ、手頃な()()でもう少し憂さ晴らしさせて貰おうかな。

 グラントリノのトドメは不完全燃焼だったし……()()はもういらないし……。

 

デェクゥウウウウ!!!

 

ボォンッ!

 

俺を!見下してんじゃねェ!

 

 爆豪君は、憤怒の形相を浮かべて爆破で加速しながら、殴りかかってきた。

 オールマイトの一撃に比べれば……欠伸が出るような一撃だった。

 

ゴッ

 

 そんな右の大振りの一撃を紙一重でかわし、その無防備な鳩尾に膝を叩き込んだ。

 

「がっ……!」

 

 良い所に入った膝に、爆豪君は呆気なく膝をつき、無防備な頭は丁度殴りやすい位置に留まってくれる。

 

 ……もう面倒だからやっちゃおうか。

 変な方向に曲がっていた指を、力で無理矢理握り締める。

 バキバキと音をたてて拳になった左手の指は、あちこちが紫に腫れていたけど気にしない。

 そしてそのまま、力を込めた。

 

「君とのよくわからない因縁も、終わりかな」

 

 本当に面倒な輩だったと、それだけの感情を抱いて、溜めた力を解き放つ。

 後はそれでおしまいだ。

 

「いず……く……」

 

 その瞬間、爆豪君が何か言ってたようだったけど、僕の耳には届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ぐ……いてぇ、どうなった……?何が起きた……?

 目を覚ました時、身体中が痛み、視界は真っ暗だった。

 体を動かせば上に何か乗っている感覚がして、無理矢理体を起こせばガラリと音がして、瓦礫が横に転がり落ちた。

 

 ……そうか、オールマイトと死柄木がぶつかりあって、それで吹き飛ばされて……瓦礫に埋もれていたのか。

 色々と衝撃的な話もあって……くそ、呆け過ぎた。

 今、どうなってやがる……?状況は……?

 

 そう思って前を見た瞬間、俺の目に飛び込んできた光景に目を見開いた。

 死柄木弔が……緑谷出久が、拳を振りかぶり、爆豪へと放とうとしている、そんな決定的な瞬間。

 それを認識した瞬間、俺は走り出していた。

 

 感情の整理はまったく出来てない。

 胸が締め付けられる程に痛くて、罪悪感で押し潰されそうで。

 自分の愚かさ至らなさに吐き気まで感じるし、痒みは収まる気配がない。

 

 けど、それでも、目の前で生徒が害されようとしていて捨て置けるワケもない……なんて理由は後付けだ。

 考えるより先に飛び出していたんだ。

 勝手に、体が動いていた。

 爆豪を救うために、俺はただ手を伸ばした。

 

「爆豪ォ!」

 

 そして……死柄木の拳が、膝をついた爆豪へと振るわれた。




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