志村転弧:アナザー   作:如月SQ

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悪夢の終わり

「なんてザマだオールマイト。

 かつての君の姿が見る影もない……みすぼらしい姿だ。

 可哀想に……君が見出だした後継者にしてやられた気分はどうだい?」

 

「っ……悪趣味な!

 これも貴様の仕込みか!緑谷少年を、貴様が!」

 

「おっと、それは勘違いだよ。

 僕に怒りを向けるのはお門違いさ。何せ……逆なんだから」

 

「逆だと?」

 

「そもそも緑谷デクはもう、死柄木弔だったんだ。

 君に出会うより、ずっと前からね。

 次の僕として育てていた弔を、君が勝手に自分の後継者として見出だした……ただそれだけの話なんだ。僕は何もしていないよ」

 

「くっ……!」

 

「オールマイト、君の目が節穴で助かるよ。

 僕にトドメを刺さず、次の僕を次代のO・F・A(ワン・フォー・オール)継承者として選び、素敵なプレゼントまでしてくれた。

 ええと、なんだったかな?『君はヒーローになれる』って?

 良かったねオールマイト。その言葉通り、彼は素晴らしいヒーローになってくれたよ。

 この僕の為に尽くす最高のヒーローに、ね」

 

「ッ…………」

 

「おや、どうしたんだいオールマイト?いつもの笑顔は?

 笑いなよ、君の見出だした継承者が、O・F・A(ワン・フォー・オール)を使いこなしているんだよ?

 ほーら、今も……級友を君から貰った個性で、手にかけようとしている……。

 ……おいおい、それすら止められないのかい?平和の象徴が、聞いて呆れるよ!

 後は君をここで惨たらしく殺せば、それで終わりだ。その後は僕達……(ヴィラン)の時代―――」

 

「……私は、信じている」

 

「……………………はぁ?何をだい?」

 

「ヒーローの力を、ヒーローは最後には必ず勝つと!

 あまりヒーローをなめるな!」

 

「……まだ吠えるか」

 

「既に次代の種は芽吹いている!

 例え私がここで倒れようと、悪を疎み、憎む心を持つ人々がいる限り、決して悪は栄えない!」

 

「もう、O・F・A(ワン・フォー・オール)はないのに、かい?」

 

「受け継がれてきたものは個性だけじゃない!

 悪に怯まず挑み続けた思いもまた続いている!

 そしてその思いは、他のヒーロー達にも受け継がれている!」

 

「……戯れ言だ。誰もが君のように奮い立てる訳じゃない。

 僕に膝を折るヒーローがどれだけいたか、君は知っている筈だ。君がいなくなれば超人社会の平和は崩壊する」

 

いいや、私は信じている!

 ヒーローは負けない!決して!

 そして私も諦めない!緑谷少年が悪に堕ちているならば、引っ張りあげるだけだ!

 

「……くだらない。無意味な幻想を抱くのは勝手だが、無駄な期待をかけられる弔が哀れだ……。

 そのくだらない希望、ここで君ごと粉微塵に打ち砕いてやろう、オールマイト」

 

受けて立とう、A・F・O(オール・フォー・ワン)!今度こそ、全てのケリをつける!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 駆け出した俺はその勢いのまま緑谷の……いや死柄木の拳が放たれる直前、爆豪に覆い被さるように押し倒した。

 

ブオンッ!

 

 その直後、頭の上を凄まじい勢いで死柄木の拳が唸り、通り過ぎた。

 俺はそのまま爆豪を五指が触れないように抱き締めながら、その勢いのまま地面を転がっていった。

 ギリギリ……間一髪だった。

 後少し遅れていれば、爆豪の頭は粉々に砕けていた……。

 遅れてバクバクと心臓が痛いくらいに暴れ出した。

 腕の中で虚ろな瞳で身動ぎしない爆豪の姿に、安堵と申し訳なさが募る。

 

 改めて目の前のこいつは雄英1年A組の『緑谷デク』じゃなく、ヴィラン連合の首魁『死柄木弔』なんだと、突き付けられた気がした。

 こっちを見下ろす感情のない瞳に、ギリ、と奥歯が鳴った。

 

「級友に向ける……ハァ、威力じゃねぇな緑谷……ハァ……」

 

 息を切らせながら、戦闘訓練の時とは逆の立場だな、と皮肉ってやるが、死柄木は淡々とした反応で目を細めるだけだった。

 

「……ふぅん……動けるなんて意外だ。未練がましく身に付けてるスカーフを見るに、『緑谷出久』を殺した事は彼にとって重要なウエイトを占めていると思っていたのだけど……。

 もうしばらくはそのまま罪悪感に苛まれて立てないと思ってた。

 いや、そんな罪悪感よりも生徒を守らなければいけないっていう先生としての矜持が上回ったのかな?

 成る程、イレイザーヘッドは親としても先生としても相当に優秀らしい。正直もう少し彼の下で学んでいたかったなぁ……」

 

 ブツブツ、ブツブツと誰に話すでもなく呟く死柄木は大きく息を吐き出して、肩を落とす。

 左腕だけがダランと垂れ下がり、垂れた血が地面を濡らした。

 

 いやに年相応なその仕草に、一瞬だけ呆気に取られてしまった。

 目の前にいるのは、(ヴィラン)なのに……まだ心のどこかで否定している自分がいた。

 その瞬間を、死柄木は見逃さなかった。

 気付けば俺の目の前で、拳を振りかぶっていた。

 

「まぁ、いいか。まとめて打ち砕けば」

 

「しまっ……!」

 

 間抜けな自分に顔を歪ませ、せめてもの抵抗に爆豪を抱え込んだ。

 せめて、せめて爆豪だけは助かるように、と。

 

「これで今度こ―――!」

 

ゴオオオッ!

 

 その時突然、とんでもない熱気が俺を襲った。

 

「あっつ!?なんだっ!?」

 

 なんだと熱気の感じたほうを振り向けば……俺の視界いっぱいに青の業炎が撒き散らされていた。

 その炎の正体に、俺に背を向けて立つ男に、目を見開く。

 

「おい、お前緑谷だろ。こいつに、何してやがる」

 

「と、轟……!?お前、なんで……!」

 

「ちっ、何回助けが来るんだ、やってられないなぁ!」

 

 轟……蒼炎ヒーロー荼毘が放つ蒼い炎が、死柄木に容赦なく襲い掛かっていた。

 ひらりひらりと身を翻す死柄木は、一度大きくしゃがみこみ、一気に跳躍して蒼い炎から距離をとる。

 

 なんで轟……荼毘がここに。

 今回の作戦には参加してなかった筈だ。

 

「……俺()は、たまたま近くにいただけだ」

 

 九州が持ち場なのに、その言い分はおかし……いやちょっと待て。

 

「俺……()?」

 

 思わず呆けた声を漏らした俺に、荼毘の奴はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 またまともに決まらなかった。

 蒼い炎から距離をとって、舌打ちを一つ鳴らし、颯爽と現れた蒼炎ヒーロー荼毘を見つめる。

 

「まったく、ピンチに颯爽と助けにくるなんて、コミックの中だけにして欲しいなぁ。大体さ……」

 

 面倒だな……。

 それに、流石にこう何度も同じようなタイミングで邪魔をされれば腹も立つ。

 苛立ち交じりに愚痴りつつ、態勢を整えて……。

 

「「君の持ち場は九州……え?」」

 

 ……え?

 僕の口から飛び出した言葉と、まったく同じものが隣から聞こえてきた。

 驚いて左を向けば、そこには今の僕とまったく同じ姿をした僕が、驚いた顔をしてこっちを見つめていた。

 え、あれ?トゥワイスの分身……?今は作ってなかったような?

 トゥワイスが作った?いやそんなバカな、彼は目を回してた筈……。

 

 混乱する思考、呆けたのは僅かな時間。

 けれどそれが、決定的な隙になってしまった。

 

「っ……やば」

 

 僕がそれに気付き一旦距離を取ろうとした瞬間、口角を上げた目の前の僕は、もう動き出していた。

 

「くっ……!」

 

「はっ!」

 

 軽い身のこなしで身を翻すと、一瞬でその脚で僕の首を挟み込んだ。

 そのまま目の前の僕は地面に手をついて腰を捻り、それに引っ張られて僕の体が宙に舞う。

 呆けた隙を完璧につかれた僕は、そのまま宙に放り投げられてしまう。

 

 宙を舞いながらそれを成した僕へと視線を向けた。

 地面に手をつきながら、僕を睨み付けている彼……いや、()()

 

パシャっ

 

 僕の冴えない顔面が弾けるように剥がれ、その素顔が露になる。

 

「……転弧クンを苛めるキミは嫌いです。反省してください」

 

 むすりとした表情を見せる、お団子頭の女の子。

 やっと思い出した……彼女は雄英の吸血姫、渡我被身子。

 個性、吸血……他人の血を摂取するとその姿になれる、特筆する程強い訳ではない個性。

 だけどあの瞬間、僕に化けた数秒の細かな仕草や発言発音に至るまで、僕は違和感を抱けなかった。

 完璧に僕だった。

 だからこそああまで隙を晒してしまった。

 

 ……ああ、クソ、これは……。

 

「状況を完全に理解してる訳じゃねぇが……取り敢えず燃えとけ」

 

 宙に舞い、身動きが取れない。

 黒鞭も間に合わない、体勢が悪くて姿勢制御も儘ならない。

 そんな中荼毘から放たれる、視界いっぱいに広がる、蒼い炎。

 

 ついでに、視界の端で起きる、まさかの事態。

 

UNITED STATES OF SMASH!!!

 

ドゴォオオオオオン!!!

 

 先生はオールマイトに地面に叩き付けられ、自分には不可避の蒼い炎が放たれている。

 まさかまさかの先生の敗北、そして今、僕も……。

 

「ははっ」

 

 思わず笑いが込み上げてきた。

 これは、僕達の負けだ……ぐうの音も出ない敗北だ。

 

「志村を」

 

「転弧クンを」

 

「「傷付ける奴は許さない」です」

 

 真っ直ぐな瞳で僕を睨み付ける、テンコを助けにきた二人のヒーロー。

 そして……澱んでいた瞳に輝きが戻る、テンコ……志村転弧君。

 三人の間に感じる、揺るがない絆……。

 

「やるなぁ、ヒーロー」

 

 凄まじい熱気を感じながら僕はそう呟いた。

 そして、僕は蒼い炎に包まれた。




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