志村転弧:アナザー   作:如月SQ

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途切れず続いていくモノ

 片手を天高く掲げたオールマイト。

 それは勝利宣言。

 先程まで弱った体を隠す力すらなかった姿が嘘のように、ボロボロながらも威厳と力強さに満ちた姿。

 それは、その姿はまさに……平和の象徴。

 そしてそれは、NO1ヒーローとしての、最後の姿……。

 相対していた凶悪なヴィランを市民を守り通し、倒しきったその姿は、直接、または映像を通し、見ている全ての者の目に焼き付いた。

 

 ……けれど、限界だったのだろう、途端にその体は萎み、ガリガリの骨と皮の姿へと変貌してしまう。

 だらりと手を下げ、ピンと伸ばしていた背筋も曲がってしまう。

 それでも倒れず立ったままの姿に、ヒーローの矜持を感じずにはいられなかった。

 

パチパチパチパチパチ……

 

 そんな姿を称賛……いや、嘲笑うかのように拍手が響いた。

 

「いやぁ……凄いなぁ、まさか先生をまた倒しちゃうなんて、やりますね、オールマイト」

 

 それは、荼毘が放った蒼炎から聞こえた。

 その声は、先程蒼い炎に包まれた死柄木の声のようだった。

 

「何……?直撃した筈……」

 

 荼毘の眉がピクリと震える。

 自分が放った炎は確かに死柄木を捉えた筈だと。

 充満していた煙が晴れた時、そこにはあちこちが焼き焦げた死柄木と……死柄木を守るように立ち塞がる見慣れない男の姿があった。

 

「……やれやれ、間一髪だったようだね、少年」

 

「助かったよ、ジェントル。念の為に貴方を後詰めに呼んでおいて正解だった」

 

 それは、燕尾服を着て髭を生やした、まるで絵に描いた紳士のような男だった。

 そんな男が突然現れた事、何よりも自分の蒼炎から無傷で現れた事に、荼毘は少なくない衝撃を受けた。

 

「どうなってやがる……?ちっ、NO1ヒーローの幕引きに水を差しやがって、無粋な奴が!」

 

 手の中で炎をうねらせ、荼毘が吼える。

 そうして再度炎が放たれるも……。

 

「効かんよ」

 

 その蒼い炎はジェントル、と呼ばれた男の前で何か壁に当たっているかのように防がれ、二人へと届く事はなかった。

 荼毘と転弧の顔がそれぞれ怒りと驚愕で歪む。

 荼毘の、轟燈矢の火力の高さは折り紙つきだ。

 それこそ、瞬間火力だけで言えばエンデヴァーに勝る。

 そんな炎が防がれた事実に、少なくない衝撃が二人に走った。

 

「あっ……!思い出しました!あの人、ジェントルです!

 ジェントル・クリミナル!」

 

「「知ってるのかトガ!」」

 

 そんな中、被身子の声が響いた。

 喉のつっかえが取れたと言いたげな声色で、ジェントルを指差して口を開いていた。

 荼毘と転弧の二人の視線は自然と被身子へと向けられた。

 

 自分を知っている様子の被身子に、ジェントルは満更でもない様子で不敵な笑みを浮かべる。

 

「ほほう、そちらのお嬢さんはご存知の様子……では改めて紹介させていだこう!

 私は救世たる義賊の紳士!ジェントル――――」

 

「義賊と言い張って、迷惑行為を繰り返して、迷惑動画を投稿し続ける、クラスでも何度か話題になった、はた迷惑な紳士のコスプレしたヴィランのおじさんです!」

 

「――クリミ……ナ、ル……」

 

 だが、被身子の予想外の、思ったよりも厳しい言葉にガクリと肩を落とした。

 

 ジェントル・クリミナル。被身子……ひいては雄英高校の一部ではそこそこの知名度を誇る、悪い意味で有名なヴィランだ。

 被身子の言葉通り義賊と言い張り、コンビニや個人商店などの小さな店を狙い、表示偽装などといった小さな不正を暴き、金銭を要求する……といった行為を繰り返し、その様子を動画サイトに投稿し続ける……。

 人を無闇に傷付けたり暴れたりするような行為はしないものの、はた迷惑な存在でありつつ、やってる事のスケールが小さい為に、知名度も好感度も高くない、かれこれ数年は活動しているそんな小悪党なヴィランである。

 

 そんな緊迫した雰囲気だった今に似つかわしくない簡易な情報と当人のコミカルな反応に、僅かに荼毘と転弧の気が緩む。

 

「……けど、気を付けてください。数年間ヒーローや警察から逃げおおせて、同じ活動を続けられているとも言えます。

 お髭が似合う、ダンディーなだけのおじさんではないと思います」

 

 けれど続いて小さく呟かれた言葉に、二人は気を引き締め直した。

 そもそもヴィラン連合への想定外の援軍だ、警戒しない選択肢はない。

 二人は死柄木とジェントルへと改めて警戒心を高めた。

 

「……やれやれ、我輩の活動が実を結ぶのはまだ時期尚早という事なのだろうね……。

 では刮目するがいい!これより始まる怪傑浪漫!NO1ヒーローが墜ちた今だからこそ――――」

 

「ジェントル」

 

 額に手を当て首を横に振ったジェントルが、両手を広げて高らかに話し出したところを、死柄木が止めた。

 きょとんとした顔で振り向くジェントルへと、死柄木は絞り出すように告げた。

 

「あまり余裕がない」

 

 よくよく見れば、死柄木の額には脂汗が浮かび、顔色も悪い。

 口から垂れた血は真新しく、左手がだらんと力なく揺れた。

 それも当然か、オールマイトと二度に渡り衝突した死柄木の体は、表面はそれほどでなくとも、中身はボロボロだ。

 身体中の骨に細かい皹がはいっていて、身動ぎする度……呼吸する度に身体中が悲鳴をあげていた。

 

 死柄木のそんな様子に気付いたのか、ジェントルは数瞬迷いを見せた後口を引き結ぶと、力強く頷いた。

 そして、死柄木の体を抱えるとジェントルはピンク色の光を纏い即座にその場を離脱したのだった。

 

「っ……逃がすか!」

 

 荼毘は即座に蒼炎をスピード重視の火球としていくつも放つが、その悉くが同じように壁に当たったかのように潰れて霧散していってしまう。

 

「ちっ!透明な壁の設置か?厄介な個性だなおい!

 だったら、直接ぶちこんでやる!」

 

「あっ!待ちなさい!逃がしませんよー!」

 

 拳に炎を灯らせた荼毘と、ナイフを構えた被身子がジェントルを追って駆け出す。

 転弧も、それに続こうとしていた。

 だが、ゴーグルに僅かに反射したキラリとした光、遠くのビルの屋上に一瞬だけ見えた光に、転弧は確信は持てずとも、気付けば叫んでいた。

 

「トガ!轟!頭下げろぉ!」

 

 その転弧の必死な言葉に、二人は考えるより先に、その身を伏せていた。

 

ッチュンッ!

 

 瞬間、二人の頭があったところを通り、飛来した何かが地面を穿った。

 パサリ……被身子の片方のお団子がほどけ、切れた髪がパラパラと無数に地面に落ちていった。

 

「あっちだ!あのビルから狙撃してきてる!身を隠すぞ!」

 

「あわわわ……!」

 

 荼毘と被身子はその言葉に従い、あるゆる行動を中断した。

 そして言われるがままに、転弧の指差したビルから射線が通らない位置に移動していった。

 

チュンッ

 

チュンッ

 

 その間も時折地面がはぜ、 いくつもの穴が空く中、三人はどうにか安全そうな瓦礫陰に身を隠すのだった。

 ハッとなりオールマイトのほうを確認するも、幸いにもビルからは建物が陰になって狙えるようには見えなかった。

 どうにか安全を確保し身を隠しながらも、三人は忌々しそうにビルの屋上を睨み付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これで後は、自分達でどうにか出来るでしょ」

 

 とあるビルの屋上で女性の声が響く。

 

「私もさっさと撤収しよう。見つかる訳にはいかない」

 

 黒いマントに身を包んでいた女性は手早く、露出していた右腕を仕舞いこみ……鏡だけを残してその場を立ち去るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビルから狙撃主が消えたにも関わらず、それに気付ける筈もない三人が四苦八苦している間に、死柄木はオールマイトの、倒れ伏すA・F・O(オール・フォー・ワン)の前に立った。

 

「……緑谷、少年」

 

「こんばんは、オールマイト……いや、もうそろそろおはようございます、ですかね?」

 

 ちら、と見た遥か遠くの空が僅かに明るくなっているのが見えて、死柄木は目を細めた。

 

「流石にもう力は残っていないでしょう?

 とはいえ僕も限界が近い。先生を運ばなければいけませんし、残念ながら貴方を殺す程の余裕はない……。

 先生を倒したのは流石でしたが、もう貴方は終わりだ。

 貴方の最後の姿はヒーロー達に人々に希望をもたらしたでしょうが、同時に(ヴィラン)は勢い付くでしょうね。

 貴方が終わったからですよ、オールマイト。

 ふふふ……これからこの国がどうなるのか、楽しみで――」

 

「次は、君だ」

 

 ピシ、と指を差され、死柄木は表情を歪めた。

 不愉快さを隠そうともせず、眉をしかめた。

 

「……はぁ?今までの事、聞いていましたか?僕が、現実が見えていますか?

 僕は確かに緑谷出久でしたが、今は死柄木弔なんですよ?」

 

 侮蔑と言ってもいいだろう、この期に及んで寝惚けた言葉を紡ぐオールマイトを、気味の悪いものを見るような目で見下している。

 それでもオールマイトは……O・F・A(ワン・フォー・オール)八代目継承者八木俊典は、自らが選んだ少年を真っ直ぐ見つめた。

 

「いいや……私は、信じてる……」

 

 打ち倒した巨悪を背負い、濁った瞳で此方を見る少年は、あの時見出だした輝きを失っていないと。

 緑谷デクと名乗った少年を、信じていると。

 

「…………くだらないな。まぁ、良いです、寝惚けた言葉だろうと、今夜の勝者は貴方だ。敗者は黙って去るとしましょう」

 

 目を反らした死柄木はくるりと踵を返し、その足に力を込めた。

 信じられているからなんだというのだろうか、既に手を汚した事すらある、(ヴィラン)である自分を信じているからなんだというのだろうか?

 

「君を、O・F・A(ワン・フォー・オール)を、そして私自身を……信じている。君はきっと……やり直せる」

 

 背へとぶつけられた言葉に、死柄木は一瞬だけ動きを止めた。

 けれど振り返ることはなく、ゴホリと小さく咳き込んだ。

 

「…………次に出会った時、それが貴方の本当の最期の時です。それまで精々、苦しむことですね」

 

 ビチャリと足元に血を溢しながら、そう言い残して死柄木はその場から跳び立っていった。

 それを支えるように並び立つ仲間の姿を見て、だらん、とオールマイトの手が力なく垂れ下がった。

 

「どんな形でも……君はきっと……どこでも……誰かを救わずにはいられないのだろうね……。

 だからこそ……私は……信じるよ、君を……最期まで」

 

 そう呟いて目を細め……オールマイトはそのまま、立ったまま気絶するのだった。

 きっと、どうにかなると……根拠はない想いを胸に刻んで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平和の象徴の最後、勝利とも言えぬ、なんの成果もあげられなかった夜を越えて……新たな世が時を刻み始める。

 その先にある未来は、秩序か、混沌か――。




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