志村転弧:アナザー   作:如月SQ

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神野事件の後

「轟は兎も角、渡我は良いのか帰んなくて」

 

 瓦礫を慎重にどかしながら、周辺の片付けを手伝ってくれる二人に、今更ながら問い掛けた。

 

 死柄木がこの場を離れた後、狙撃を警戒して暫くは動けなかったが、どうやらチカチカと光っていたのはフェイクだったようだ。

 別動隊が屋上に駆け付けた時には既に誰もおらず、鏡だけが放置されていたとの事だった。

 なんとも用意周到な事だ……死柄木……いや、緑谷らしい。

 気持ちの整理自体はついてねぇが、納得はした。

 そして、雄英が相当な情報を抜かれているだろう事に目眩がする。

 ヴィランが生徒に紛れ込んでいたこと、それが体育祭準優勝者であること、今の今まで気付けなかったこと……まだまだこの後考え、対処しなきゃいけない。

 だがまず、神野の後片付けだ。

 今は、破壊され瓦礫の山となった場所に本当に人がいないか捜索しつつ、片付けをしているところだった。

 無事だったヒーロー総出で行われているこの作業に、本来は参加していなかった轟と渡我も手伝ってくれていた。

 

 ちなみに、オールマイトと爆豪、そしてオールマイトが守った女性は既に病院に搬送されている。

 他の要救助者の捜索、その最終確認ってところだ。

 

「いーんですよ。まだ仮免ですけど、ここで何もせず帰れませんよ。それに……転弧クンのことも心配です」

 

 ポイ、と何もないところに瓦礫を放り投げて、渡我が真っ直ぐ此方を見つめた。

 その瞳に浮かぶ心配の色に、思わず顔をしかめた。

 

「まぁ……正直平気じゃねえな……」

 

「そりゃあなぁ。そもそも林間合宿を襲撃されて生徒を傷つけられて誘拐……からの生徒の一人が主犯……よっ、と。

 そっから今夜の出来事だ、まぁ、やってられねぇよな」

 

「けど、だからこそ今は兎に角やれることをやろうと思う。

 立ち止まっちまったら、そのまま座り込んで立てなくなるかもしれない。

 先生としてヒーローとして……今はあんま深く考えず、体を動かしていたいんだ」

 

 今はただ、それだけで。

 現実逃避かもしれんが、今はまだ、向き合いきれない。

 

「志村……」

 

「転弧クン……」

 

 心配そうに此方を見る二人に申し訳無くなり、俺は意識して笑みを浮かべた。

 

「ま、それに肉体的にはピンピンしてるからな!

 ここで動かないで、何処で動くって話だ。……よし、次はあっちだな」

 

 意識して明るく振る舞って、俺は次の瓦礫を退かすべく動き出す。

 きっと痛々しく見えただろうに、二人はそれ以上言及する事なく、ただ俺と同じ空間で作業を続けてくれた。

 それだけの事が、心底ありがたかった。

 

「ま、一段落したら飯でも行こうぜ。食わねえと力も出ねえ。奢ってやるよ」

 

「ハイ! 私パンケーキが良いです!」

 

 これからヒーロー側は厳しい状況に立たされるだろう。

 平和の象徴が事実上倒れ、悪の芽は摘むことが出来なかった。

 おまけに雄英高校の大不祥事、既にマスコミに叩かれているのに、今回の件で更なる追及は免れないだろう。

 

 それでも、俺達は折れてはいけない。

 どれだく辛くても折れてなんていられない。

 最後まで立ち続けたオールマイトの勇姿を見届けた一人として、俺は折れない。

 

 俺は、誓ったんだから。

 ヒーローになるって。

 思い描いた、夢に見た、最高のヒーローになるって。

 俺にとって最高のヒーローに貰ったこのスカーフに、誓ったんだ。

 

 それに……。

 

「志村?」

 

「転弧クン?」

 

「ああ、悪い悪い。甘ったるいモンくらいが今は丁度良いんじゃねえかな。異議なし」

 

 俺には、側にいて支えてくれる、お節介焼きな友人がいる。

 俺は一人じゃない。

 そう心に刻んで、俺は瓦礫に改めて手を伸ばした。

 

 まぁまずは、目先の事をコツコツと、だな。

 それが今は精神的にマシだし、何より合理的だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、ジェントル、ナガン。改めて助かったよ」

 

 逃走を手伝ってくれた二人に、改めて礼を告げた。

 ここは先生のいくつもあるアジトの一つ。

 その中でも飛びっきり秘匿性の高いアジトだ。

 ヴィラン連合の面々は別のアジトで、黒霧が目を覚ましたらこっちに来て貰い、ドクターの所に先生を運ぶ手筈になっている。

 それまでは待機かな。

 

「私達の出番はないって大見得切った割には、危うかったじゃない?」

 

 壁に背を預け腕を組むナガンは、瞳を細めて僕を見つめてくる。

 

「不測の事態というのはどんな時でも有り得るものさレディ。とはいえ、少年にしては迂闊だったかもしれんな。危うく少年の丸焼きが出来てしまうところだ」

 

 まぁ、それらの言葉に対しては僕は反論も出来ない。

 ジェントル・クリミナルとレディ・ナガン。

 この二人は厳密にはヴィラン連合所属じゃない。

 あくまでも僕の個人的な協力者であり、そもそも二人ともヴィランに対して隠しきれない嫌悪感を持っている。

 ジェントルはヴィランだし、レディ・ナガンもヴィランとしてタルタロスに収監されていたというのに、とは思うけれど、それは二人の経歴に関係する話で……長くなるからまた後だ。

 

「いやぁ、面目ない。ヒーローを甘く見過ぎていたよ。君達に念の為にお願いしていて良かった……。そうだ、ラブラバ、監視カメラの映像は細工してくれた?」

 

『勿論よ!』

 

 ジェントルの懐からなんらかの通信機ごしであろう声が響く。

 

『面倒だったから一時的に殆どのカメラを使えなくしておいたから、その場所を特定するのはほぼ無理だと思うわ!』

 

「そっかそっか、なら大丈夫そうかな」

 

 この声はラブラバ、ジェントルの協力者というか、共犯者で、凄腕のハッカーだ。

 ただ行動原理がジェントルが中心だからあんまり都合良くは使えないのが残念。

 まぁでも、最低限やってくれるだけでも有難い。

 ヴィラン連合は電子方面クソ雑魚だからなぁ。

 引き込もってネットをやってたとかいう、ネットゲームや掲示板でレスバトルしてたらしいスピナーが一番マシとかいうレベルだ、どうしようもない。

 それが追跡を誤魔化せるくらいになったんだから、大した進歩だ。

 

「……そんな調子で、本当に大丈夫なのか?」

 

「……はは、ちょっと不安にさせちゃったかな。大丈夫大丈夫。ナガン、ジェントル、二人の望みは叶うさ。僕の目的の先に、君達の望みはある。だから、やんわりとで良いからこれからも手助けを頼むよ。今日みたいにね」

 

 へらりと笑ってそう返す。

 じとりとした目で見てくるナガンへと、態度は軽薄に……目だけは真剣に。

 やがて根負けしてくれたナガンが視線を外した頃、目の前に黒い靄が現れた。

 

「死柄木弔!」

 

「やれやれ、やっと目を覚ましたか……」

 

 案の定姿を現す黒霧は、少し焦った様子だった。

 目を覚ましたばかりだからか体をふらつかせているけど、とりあえず大丈夫そうだ。

 僕は先生の容態をチラリ、と確認する。

 ……ボロボロだ、目を覚ます様子もない。

 そんな先生を慎重に抱き上げ、黒霧に顔を向けた。

 目覚めたばかりだろう黒霧には悪いけど、さっさと繋げて貰おう。

 

「黒霧、ドクターの所に頼むよ」

 

「ハッ……わかりました」

 

 さて、それじゃあジェントルとナガンとはまたお別れかな。

 

「二人とも、今日はありがとう。本当に助かったよ。持つべきものは、優秀な協力者だね」

 

「はははっ! 任せたまえよ少年! 我が名を歴史に刻む為に、君が成すであろう偉業を影ながら支えさせて貰おう!」

 

「……名を刻むとか偉業だとかはどうでも良い。私との約束を守ってくれるのなら、協力は惜しまないさ」

 

 二人の返答に笑みを返しつつ頷いた。

 この二人にはまた世話になることだろう。

 その時にはまた力を思う存分奮って貰いたいものだね。

 

 テンションの高まったジェントルがまだ何か言っていたけれど、僕は気にすることなく黒霧のワープゲートを潜った。

 それにしても先生は治るんだろうか?

 ま、どっちでも良いか……。

 

 さあて、次は何をしようかな。

 まずは……戦力拡大かな?




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