「仮免全員合格、か。例年通り雄英潰しがあっただろうに、よくやったな」
義父さんが感心したように、仮免試験の結果を纏めた資料をパラパラと捲った。
正直実力面としては心配していなかったが、精神面や個性が雄英体育祭で多くが割れている事で例年通り雄英潰しが行われ、更には級友の離脱と不安要素が多々ある中で、よくやったと手放して褒めてやりたかった。
……だが、内情というか、本人達の心情はあまり良い状態じゃないと個人的には思っている。
「緑谷の離脱に皆思う所があったみたいでさ、よく言えばがむしゃらに、悪く言えば……向こう見ずに。要救助者や一般人への態度が心配だった爆豪も、どうにもずっと意気消沈してる感じで……クラス全体の雰囲気が、なんともなぁ……」
腕を組んでううんと唸った。
生徒達は皆折り合いをつけている様子はある。
だがやはりそれを踏まえても、必死過ぎるというべきか……。
……上手く言語化出来ないな。
「……体を壊すとか無茶をするとかじゃないんだが……いざという時に取り返しのつかない事態を引き起こしそうで、ちょっと怖えな……」
はぁ、と疲れたように息を吐く俺の頭に、義父さんの手が乗せられた。
「それをケアするのが俺達の仕事だ。気張れよ、今までは仮免に受かって浮かれる奴等もいたが……その様子じゃ浮かれるような奴はいなそうだが……」
その手を甘んじて受け入れつつ……けれど俺の表情は優れない。
「慢心……ともちょっと違う……具体的に言うと、
具体的に俺が危惧している事を口にすれば、義父さんも表情を難しいものに変えた。
確かにそんな感じで発破かけた俺も悪かったかもしれんが、もう少し落ち着いて欲しいと感じている。
「……成程な、良くも悪くも緑谷の影響はでかかったって訳か。あいつらの気持ちがわからないでもないが……
義父さんは俺の頭から手を下ろし、暫し考え込んだ。
生徒達ならいずれ、という気持ちはあるものの、今はまだ間違いなく早い。
感情ではあいつら自身もわかってるかもしれないが、仮免試験を合格した……ヒーローとしての一歩を踏み出せた、認められたという意識は、力量差を見えなくさせるかもしれん。
……仕方ない。
「……そうだな、予定通り、身近な
その義父さんの言葉に、俺は深く頷いた。
雄英が誇るあの
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「皆、仮免試験お疲れ様。全員合格という事で、先生としても鼻が高い。これからは仮ではあるもののヒーローとして活動を許される立場となる……有精卵からプロヒーローの卵になったって事だな。改めて気を引き締めるように」
教壇に立つ白髪の男、雄英高校1-A副担任である相澤転弧教諭の声が、教室に響いた。
それを聞いた生徒達の反応は様々、口を引き結び深く頷く者、笑みを浮かべて何度か頷く者、手を高くあげて元気よく返事を返す者、何かを考えるように俯く者……。
それらの反応を眺め、転弧教諭は目を細めた。
そうして暫し何かを考えるようにした後、ゆっくりと頷き、視線を廊下側へと移した。
「……まぁ、それはそれとして、今日は特別授業だ。……入っていいぞ」
ガラッ
その言葉と共に教室に入ってきたのは、三人の男女だった。
彼等は堂々とした態度で教室を闊歩し、転弧教諭と入れ替わるように教壇に立つ。
先頭を歩くガタイの良い男は、何処か作画の違う顔でニコッと笑みを浮かべた。
「先頭が通形ミリオ、続いて波動ねじれに、天喰環……」
続いて歩く少女はひらひらと手を振り、一番最後の男は目線を誰と合わせる事なく小さく頷いた。
それを見て転弧教諭は満足そうに口を開いた。
「現雄英生の中でもトップに君臨する三名……通称ビッグ3の皆だ。……ミリオ君から紹介を頼む」
「やあ! ご紹介に預かった、僕が通形ミリオ! 雄英高校3年B組! 君達の噂は予々聞いているよ、入学早々
ビシリと手を挙げた通形ミリオはそこで一度口を閉じ、そのまま笑みを引っ込め真面目な表情を作った。
「級友に
悪意なく放たれた言葉に、1年A組の生徒達の表情は強張り、教室中が静まり返――。
「あれ? なんで皆怖い顔してるの? 今折角通形が労ってるのに。ねえねえなんでなんで?」
「やめよう波動さん……そういうデリケートな問題にわざわざ首突っ込まない方が良い……いやもう手遅れ、もう嫌だ、じゃがいもの視線が痛い……」
「? じゃがいも? 天喰君、良く聞こえないよ、こっち向いて喋って?」
不思議そうに首を傾げる水色のロングヘアーの少女、波動ねじれ。
そんな波動ねじれに苦言を呈しつつも、天喰環は視線は一度たりとも向ける事なく、むしろ黒板にめり込むかのように額を押し付けていた。
冷や汗を流しプルプルと震えて、目線から逃れるようにその背の高い体を精一杯に縮める様子は、とても雄英高校のトップの一人とは思えない姿だった。
「つまり君達は今……前途ー?」
そこで突然、通形はそう言い放ち耳に手を沿えて、生徒達の反応を伺った。
得意気な表情で突然向けられたなんらかの反応を待つポーズ。
それをわかってても生徒達は呆気に取られるだけで何の反応もすることが出来なかった。
反応がない事に残念に思いながらも、通形ミリオは気を取り直して口を引き結び、笑みを浮かべながら照れ臭そうに後頭部をかいた。
「多難! っつってね! はっはっはっはっ! ツカミは大失敗だ! 慰めにもなってないしね! はっはっはっはっはっはっ!」
「私は波動ねじれ! こっちは天喰環! そんな事より、ねぇねぇ芦戸さんのその角ってどうなってるの? 折れたら生えてくるの? 峰田くんのボールみたいな頭は? それって髪の毛なの? 散髪どうしてるの? 蛙吹さんはアマガエルなのかな、ヒキガエルなのかな? 皆気になる所がいっぱい! 不思議!」
「……出た、ミリオの……よくわかんないギャグ……波動さんもフリーダムだし……早く帰りたいっ……!」
笑い飛ばす通形ミリオ、我関せずと言った様子で好きに話す波動ねじれ、背中を向けてビクともしない天喰環……。
三者三様のあまりにも自由過ぎる様子に、教室になんとも言えない空気が満ち始める。
良く言えば親しみやすい、悪く言えば――
「……三人とも変だよな。ビッグ3という割にはなんか……」
「風格が感じられん……」
何処か侮りの雰囲気すら漂い始め、そこで漸く通形ミリオは笑うのを止めた。
スン、とした無表情で、淡々と言葉を紡いでいく。
「まぁ、何が何やらって顔してるよね。いきなり三年生が教室に押し掛けてこんな有り様だしわけもないよね。うーん……色々言いたい事や本題があるんだけど……君達、一度僕と模擬戦してみよう!」
「「「模擬戦……?」」」
通形ミリオの突然の提案に、1-Aの面々は呆けた声を漏らした。
「百聞は一見にしかず! まずは一回やってみよう! 元々、相澤先生達にはそう頼まれていたからね!」
「先生が……?」
端に身を寄せている転弧教諭へと、自然とその視線は集まっていく。
どういい意図なのだろうか、という意味の込められた視線を向けつつ……何人かが違和感に気付いた。
先生達に頼まれたから、と告げた通形ミリオの視線が、扉の向こうに向けられていたのだ。
なんで、と問いかけるよりも事態は動き始めた。
ガララッ
突然、何の前触れもなく教室の扉が開いたのだ。
「おう、話終わったか?」
そこから現れたのは、教室の隅に佇んでいた筈の転弧教諭、まさにその人だった。
ざわりと教室中がざわつき……転弧教諭の口元が弧を描いた。
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