「転弧先生が」
「二人……!?」
生徒達の目線は教室の外にいる転弧先生と、隅にいる転弧教諭を行ったり来たり。
そんな様子をビッグ3の三人は何も言わず、ただ眺めていた。
「二人! 転弧先生が二人いるよ! 不思議だよね! でも私知ってるよ、あのね! ひ――モガモガ」
「今は俺達の出番じゃないんだよね! ちょっと静かにしてよう!」
……ちょっとしたやりとりの後、静かに眺めていた。
そしてそんな生徒達の視線が集まる中、教室の隅にいた転弧教諭が、足を教壇へと向けた。
弧を描いた口元のまま、くるりと回転して――
ッパァンッ
教壇に立ち此方を向いた瞬間、小さな破裂音と共に、その顔面が弾け飛んだ。
「「「先生ーッ!?」」」
教室に悲鳴が轟き……教壇に立つ転弧教諭だった人物の素顔が露となる。
頬が裂けたような特徴的な笑みを浮かべた、片方だけをお団子にした少女……。
「初めまして! 雄英高校3年A組の渡我被身子です! 今回ミリオクン達と一緒にお話しにきました! 転弧クンに化けてたのはちょっとしたサプライズです。驚きましたか?」
笑みを浮かべたまま渡我被身子は、片手でピースを作りパチンとウインクをした。
その可憐で可愛らしい仕草に、何人かの男子が頬を染めた。
「私に気付けてた子は……お、爆豪クンはちょっとだけ違和感覚えてたですかね? 他は……気付いてなかったですか……。うん、今日はよろしくおねがいしますね!」
「ちっ……」
驚きに目を見開く生徒達と、一人だけ眉間に皺を寄せて腕を組む爆豪。
そんな教室の様子を眺め、ミリオは気を取り直すように口を開いた。
「ゴホン。渡我さんも僕達に次いで優秀でね、人によっては合わせてビッグ4……ならぬファンタスティック4なんて呼ぶ人も――」
「ミリオ、それはまずい」
「ねえ知ってた? 一番呼ばれてるのは、『雄英の吸血姫』なんだよ!
「ねじれちゃんならすぐにカァイイお名前つけて貰えますよ! ……それにしても、光栄ではあるんですけど、私雄英卒業したら何の吸血姫になるんでしょうね……?」
「さて、それじゃそろそろ準備しようか、先に行くからね」
がやがやと、仲の良さが垣間見えるやりとりをしつつも、彼等は教壇から降りていった。
そんな先輩達の行動に疑問符を浮かべたままの生徒達に、教室の外にいる転弧は目を細めた。
「通形と戦うんだろ? 体育館の使用許可はとってる。着替える時間もあるんだ、急げよ」
「「「は、はい!」」」
その言葉に我を取り戻したように、1-Aの生徒達はガタガタと音をたて席から立ち上がった。
忙しなく動き、着替えようと教室を勢いよく飛び出していく。
やがてあっという間に誰もいなく教室で、転弧は呆れたようにため息を吐いた。
「色々とチグハグになっちまってるな……やりたい事、やらなきゃいけない事、目的と現実の剥離、目測の甘さ……実力はあるだけに勿体無い……いや、生徒達のせいにするのは酷か……」
ガリガリと頭をかき、疲れた表情で再度ため息を吐いた。
「俺に化けたトガに気付けなかったのはまだ良いが……まぁ、それも含めて揉まれる事だな……トガの個性は戦闘向きじゃねえが……」
顔をあげ、ニヤリと笑う。
「ステゴロじゃ四人の中で一番強いからな」
得意気な笑みを浮かべて、誰もいない教室を後にした。
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どうも!トガです!
今日は新入生の子達に
私達三年生は皆
ですが、転弧クンや相澤先生の話では、どちらかというとプロの世界の厳しさを思い知らせて欲しいとの事……。
一年生の頃なんてまだまだ甘えさせてれば良いと私は思うんですけど……昨今の
何より、彼等は当事者になりたがっている、と……。
私も少しだけ顔を出した神野事件……
転弧クンも危惧していたように、『危うさ』が垣間見える気がします。
本来ならば様々な形になってその『危うさ』は本人に苦汁を舐めさせ、それを経て学校生活の中でゆっくりと成長していく筈なのですが……。
「速すぎる!」
「くそっ! どんな強個性だよ!」
「俺は、そんな簡単にやられていられねぇんだよ!」
どうにも……気持ちだけが先走りしてしまっているようです。
責任感、罪悪感、怒りに悲しみ、そして強い焦燥……足許を掬われる要素がいっぱいです。
それでも前に進もうとする姿は立派ですが、
私にもまったく気付けていませんでしたし。
そんな体たらくでは……甘ったれではプロの世界には通用しません。
「POWER!」
加えて、ミリオクン一人にクラス総出で負けるようでは……とてもとても。
お腹を押さえて踞る、1年A組の皆さん。
それぞれミリオクンに腹パン一発でダウンです。
当然の結果、というにはあんまりな内容でした。
遠距離近距離の役割分担程度はありましたが、ただただミリオクンの個性に翻弄されただけ。
誰一人一矢報いる事も出来ず倒れる彼等は、仮免をとったとはいえまだまだ有精卵……おや?
「ま、まだだ……透過野郎……! 俺は、まだ負けてねぇ……!」
「おおっと……? 僕とした事が、力加減をミスっちゃったかな?」
「……あはっ」
良いガッツです!
未だに激痛が走り、呼吸すらろくに出来ないでしょうに立ち上がるなんて!
あの場にいただけはあります!
ミリオクンの個性を透過だと見破り……もしかしたら対策すら考えているのかもしれません。
……それだけに、あまりにも追い詰められている様子は……端から見てて可哀想です。
「俺は! こんな所で躓いていられねえんだよ! 俺がやるんだよ、俺が、俺がぁあああああ!」
吠える爆豪クンの形相はあまりにも切羽詰まっていました。
対峙するミリオクンはその迫力に圧されこそしないものの……どう扱って良いか困っている様子です。
……ボロボロになっても必死に足掻く様は、少し前の転弧クンを思い出します。
今こそ多少余裕を取り戻していますが、一時期は本当に疲弊していましたからね……。
そんな転弧クンと似たような……追い詰められたような爆豪クンを放ってはおけませんね。
彼の思いの全てを察する事は出来ませんが、あまり良くない状況なのはわかります。
すぅっ……
私は息を潜め、無造作に、静かに踏み出しました。
人の意識を縫うように、警戒されないように、視界に入ろうとも気付かれないように……。
一歩、一歩。
誰にも気付かれる事なく、するりと爆豪クンの背後に立ちました。
ゆっくりと、爆豪クンの右肩から手を伸ばし、首を通り、左の首筋へと、手を沿えます。
ひたり
「もう少し落ち着いたらどうですか?」
「!???」
驚き、振り返ろうとする爆豪クンの頭を左手で押さえ、力を込めようとした膝を蹴り、その動きの一切を止めます。
む、膝をつきませんか、体幹もしっかり鍛えられていますね。
「私の接近にも、急所に触れられた事にも気付かないようでは、いくらやっても無駄です。この手にナイフを持っていたら、もうキミ、死んでますよ?」
「ッ……!!!」
ギリィッ!
ビキビキと額に青筋を浮かべ、音をたてて歯ぎしりしてますね……。
表情の全てはうかがい知れませんが、怒っているのは確かなようです。
「何の、個性だ女ぁ……! 何しやがった……! いつの間に俺の後ろに……!」
「……? 私の個性、ですかぁ?」
その言葉に、私は思わず目を丸くしてしまいました。
先程見せた筈なのに忘れてしまったのでしょうか……?
まぁ、良いです。
するりと手をほどき、素早く身を翻します。
ボオンッ!
瞬間私へと振り返り、躊躇いなく手を爆発させながら振り切る爆豪クンから離れる為に一気に跳躍し、くるりと宙で一回転してから身を低くして着地しました。
「なんて身のこなし……まるで猫……」
誰かの呟きが聞こえます。
猫!そうですね、私の動きに取り入れたイメージの一つではありますね。
何者にも囚われない、意識の隙間を縫うように舞う……カックイイでしょう?
まぁ、それは置いておいて、此方を睨み付ける爆豪クンに応えるとしましょうか。
「個性なんて使ってませんよ。私の個性は、先程転弧クンに化けていたように他人の姿を写しとる、ただそれだけの個性です。君に気付かれずに近付いたのは……ただの技術ですよ」
ゆっくりと体を起こしながら、静かに言葉を続けます。
「君達はまだまだ何もかもが足りてません。仮免を獲得しても君達はまだまだ有精卵……ミリオクンに容易く蹴散らされてしまったように、認識も考えもまだまだ甘いんですよ」
おもむろにポケットから取り出したのは、小さなカプセル。
この中には先日採取しておいたある液体が入ってます。
「ミリオクンにやられてもまだ考えを改めないのなら、戦闘に個性を用いる事すら出来ない、実質無個性な私がお相手してあげます」
ペロリとそのカプセルを口に放り込み、爆豪クンの様子を伺います。
今にも爆発しそうな激情……良いでしょう。
その激情、私が受け流してあげます。
プチュッ
口の中のカプセルが弾け、トロリとした鉄の味が口に広がります。
少しだけ薬くさい赤い液体……あの日神野で採取した彼の血液……。
緑谷デク、死柄木弔の血液。
今私の姿は、みるみるうちに彼の姿となっていっている事でしょう。
緑のボサボサの髪にそばかす、そんな少年の姿に。
「っ……! みど――!」
踞る幾人かの生徒達の息を飲む音が嫌に響き、そこかしこで動揺のざわめきが聞こえます。
当然でしょう、そもそも彼等の現状の原因の一つが……緑谷クンの離脱なのでしょうから。
そんな最中、相対する爆豪クンは――。
「…………デェエエエエエクゥウウウウウウ!!!」
目を鋭く吊り上げ、その声に怒りを込め……けれどその表情には喜色を浮かべ、此方を見据えていました。
……いえ、私を通して、死柄木弔を見ているよう、ですね。
一体どんな関係だったのか、どんな因縁があったのか、私には全てをはかり知る事は出来ませんね……。
「俺を! 見下すんじゃねぇええええええええええええええええええええ!!!」
爆豪クンの叫びに込められたのは強い、とても強い感情……。
行き場のない思いが激情となって溢れだしているようでした。
そんな彼に、私は不敵な笑みを浮かべて返します。
「……見下してなんかいないけど……良いよやろう、爆豪君。体育祭のリベンジマッチだ」
ボオンッ!
その瞬間爆発音が響き渡り、爆豪クンは私のほうに飛び込んだのでした。
……さあ、カァイイ後輩の為に、一肌脱ぎますか!
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