志村転弧:アナザー   作:如月SQ

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雄英襲撃

「転弧くん!」

 

「ん、校長。どうかしましたか」

 

「いや、実はね!オールマイトが無理しちゃったようでね!」

 

「はぁ、またあの人は……確か今日義父さん達とUSJで実習じゃありませんでした?」

 

「HAHAHA!そうなんだよね!だから代わりに君に行って貰いたくてさ!」

 

「構いませんけど……」

 

「それに、USJで学ぶのは災害対応のみにあらず!

 個性の恐ろしさを学ぶという意味では、君と13号先生の個性を体験しておくべきだと思うのさ!」

 

「はぁ……そういうもんですかね」

 

「君の個性使用の許可はとってあるから、存分に有精卵達を怖がらせてあげてくれたまえ!」

 

「わかりました。相澤転弧、授業の補佐につかせて貰います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『USJ(ウソの災害や事故ルーム)

 雄英の施設の一つ、様々な災害や事故現場を擬似的に再現した場所で、それらの対応を学ぶ施設。

 そこで今初めて、1年A組の面々がそれらを学ぶべく訪れていた。

 先日は初めての戦闘訓練を終え、自らの個性を戦闘に用いて戦った。

 

「今回は心機一転!」

 

 この施設の創設者であるプロヒーローでもある13号。

 全てを吸い込み塵にする、危険な個性ブラック・ホールを持つ彼女は語る。

 自分の個性と向き合い、戦いだけじゃない、人を助ける方法を学んでいこうと。

 全ては使い方である、と。

 生徒達の表情が浮かれたものから引き締まったのを感じて、担任である相澤消太、プロヒーローイレイザーヘッドも満足そうに頷いていた。

 

 そんな時だった。

 突如として目の前に黒い靄が現れ、そこから無数の見知らぬ人間達が顔を出してくる。

 もう訓練は始まってるのか、とざわめく生徒達だったが、それは担任である相澤消太がイレイザーヘッドとして生徒達の前に立ちはだかった事で否定された。

 

「全員動くな!」

 

 やがて、黒い靄から最後に現れた二つの大小の人影……両手両足がガントレットとグローブに覆われた、全身緑色の服に身を包んだ小さな人物。

 脳ミソが剥き出しになった、明らかにまともではない人型。

 それらの存在が放つ圧に、イレイザーヘッドの額に汗が滲んだ。

 

「あれは……ヴィランだ」

 

 知らず、生徒達の喉が鳴る。

 突然の襲撃、まだ入学して日が浅い生徒達の間に動揺が広がっていった。

 

『あれ?オールマイトいないんだ。おかしいな、いるって聞いてたんだけど……』

 

 そんな中、いっそ気楽な声が響く。

 何かで変えているのか、機械的な声の主は緑色の服の人物……。

 素顔は見えず、二又に別れたフードを目深に被り、口元には鉄製のマスクがつけられている。

 笑顔を浮かべているようにも見えるマスクは、身に付けているのがヴィランという事を加味するとより不気味に感じた。

 その頭部は、見るものが見れば、かのトップヒーロー、オールマイトを模したものだと気付くかもしれない。

 実際に何人かそれを察したのか、眉をひそめていた。

 

『あ、これ?いいでしょ。実は僕オールマイトのフォロワーでね。

 カッコいいよね、オールマイト。スマッシュ!ってぶん殴ればぜーんぶ解決!』

 

 ぶん、と宙を殴る素振りを見せる男はけらけらと嘲笑いながら言葉を紡ぐ。

 

『今までなに一つ取り零した事がないような顔して、こーんな風に笑いながら、ね』

 

 両手の人差し指を立てて、頬を吊り上げるようなジェスチャーをして。

 

『反吐が出るなぁ』

 

 突如ブラン、と両の手が垂れ下がり、異様な雰囲気に包まれる。

 

『何処だよオールマイト……生徒達を殺せば、出てくるかな?』

 

じろり

 

ゾワァッ

 

 その男の視線に捉えられた、そう感じた瞬間生徒達の背筋に寒気が走った。

 今まで感じた事のない、不気味な雰囲気に悲鳴すら漏れていた。

 

『っと、ごめんごめん、自己紹介がまだだったね。

 このデカブツは脳無、こっちの黒いもやもやが黒霧』

 

 重々しい雰囲気の中、男はその圧を突然霧散させて、近くの大男と、隣の黒い人型の靄をそれぞれ指し示す。

 微動だにしない大男に対して、黒い靄、黒霧と呼ばれた人型はペコリと白い目のついた頭のような部位を下げた。

 

『そしてこれらが……えー、チンピラ軍団の皆さま』

 

「ひでぇ紹介の仕方じゃねえかボス」

 

「間違っちゃねぇけど」

 

「ぎゃははははははは!」

 

 ゲラゲラと、何が楽しいのかチンピラ達はそう言って体をいからせる。

 本当にそこらにいるチンピラにしか見えないものの、そこそこの数がいる為に多少の圧があった。

 

『そんなこの集まり……えー、名前……そうだね、ヴィラン仲良し連合とかどう?』

 

「流石に仲良しはやめませんか?」

 

『そう?じゃあ……僕達は【ヴィラン連合】。平和の象徴オールマイトを殺しにきて、ついでに新芽を摘みに来たんだ。

 だからほら、大人しく殺されてくれると助か―――』

 

ボンッ!

 

 男が話してる途中、そんな爆発音が聞こえたと思った瞬間、チンピラ達の一歩前に立っていた男の前に、一人の生徒が拳を振りかぶって飛び込んでいた。

 

「爆豪!」

 

 イレイザーヘッドが咎めるように叫ぶ。

 勝手な真似、危険な行動。

 それでもその生徒、爆豪勝己は止まらなかった。

 

「代わりにぶっ飛ばされるとは考えなかったのかよ!クソヴィラン!」

 

 そのまま拳を振り切り、その個性、爆破によって、嘗めた態度の男の顔面を吹き飛ばしてやる……そのつもりだった。

 

ボォンッ!

 

 爆音が響き、爆煙が男を包んだ。

 突然の凶行に生徒達やチンピラ達からそれぞれ声があがった。

 

「ふ、普通いきなりやるかよ」

 

「問答無用かよ!こいつ本当にヒーローの卵か!?」

 

 ドン引いたような声が響く中、その当人爆豪だけは顔を歪めていた。

 

「ヂィッ!」

 

 爆豪は強く舌打ちを鳴らす。

 爆煙の中から手を引き抜こうとするも……その腕はびくとも動かなかった。

 

バチッ、バチッ

 

 爆煙の中から緑色の閃光が走り、その煙が突如として晴れる。

 そこから現れた男には傷ひとつなく、服に多少焦げが見られるだけだった。

 突き出されている爆豪の右腕は手首を掴まれ、その場に縫い止められてしまっていた。

 

『あ、そうだった。僕は、死柄木弔。このヴィラン連合のリーダーだ』

 

「離しやがれ!」

 

 何の痛痒も感じないような態度の男、死柄木の態度に生来の短気である爆豪の額に青筋が走った。

 掴まれているのと逆の手を振りかぶり、男を爆破しようとしたその時。

 

『よろしくね!』

 

ゴキンッ!

 

「ッ……!!!」

 

「……ん?」

 

 嫌な音をたて、爆豪の右手首が本来曲がらない方向へと折り曲げられた。

 突然の激痛に爆豪の動きは止まり、たたらを踏んだ。

 

「爆豪ォッ!」

 

「ッ!ラァアアアッ!!!」

 

 だが、そこで立ち止まらず、無理矢理体を動かした爆豪は、左腕で男の眼前に爆破を叩き込んだ。

 

『わっ』

 

 光を放つ事を意識したその爆破により、突然の光に死柄木は流石に怯む。

 その隙に右手を引き抜いた爆豪は、即座にその場から撤退するのだった。

 

「爆豪!無茶をするな!」

 

 即座にイレイザーヘッドから叱責が飛ぶ。

 当然だろう、勝手な行動をした結果、手傷の一つ与えられずに逃げ帰ってきたのだから。

 爆豪は小さく俯いて、ギリ、と奥歯を噛み締めた。

 

「死柄木弔、大丈夫ですか?」

 

『ああ、大丈夫大丈夫』

 

 一方で死柄木は先程まで爆豪の手首を握っていた手を見つめる。

 本来、あれはあの凶暴な生徒の手を千切るつもりだった。

 それに値する力を込めたつもりだった。

 今使用できる個性を加味して……。

 

 そこまで考えて、自然と死柄木の視線はイレイザーヘッドへと向けられた。

 同時に納得を得た。

 成る程、だから手首を折る程度しかパワーが出なかったのか、と。

 

 イレイザーヘッドの個性は、抹消。

 見ている相手の個性を使えなくする個性だ。

 非常に強力な個性であり、恐らく今この場で二番目に警戒すべき個性だろう。

 

『……やるねぇ、カッコいいなぁ。イレイザーヘッド。

 あの一瞬で僕が個性を使うと読んで……。

 しかもあのゴーグルのせいで視線が読めないし、そもそも彼は近接戦闘での特殊な布を使っての捕縛が本業……。

 数で押してもいけるかどうか難しいところ。

 おまけに隣には強個性のブラック・ホールを持つ13号……。

 適当に攻めても一掃されるのがオチか。

 いやぁ、雄英の教師陣は優秀だ。面白くなってきた』

 

 ブツブツ、ブツブツと呟く死柄木はじっと此方を見据えるプロヒーローの二人を眺めていた。

 マスクの中で忌々しそう(嬉しそう)に顔を歪めて、ここからどうするかを組み立てていく。

 

『黒霧、予定通りだ。チンピラ軍団、頼んだよ』

 

「はい」

 

「了解ー!」

 

「待ってました!」

 

「暴れんぞ~!」

 

「……来るか」

 

「生徒達はやらせない……!」

 

 この瞬間、ヴィラン連合との戦いが、始まってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隙をつかれ、黒霧の個性によって散り散りとなった1年A組の生徒達。

 USJ各所にバラバラに散らされたものの、相手は所詮はチンピラ。

 それぞれ恐怖を感じつつもどうにか倒す事に成功していた。

 場所によっては少し危うい所もあったが、それぞれの個性を上手く活用する事で切り抜けていた。

 

「チッ……」

 

「バクゴー、お前は早く治療してもらったほうが良いんじゃねえか?一先ずチンピラ共は片付けたんだしよ、どうにかここから脱出する事を考えたほうが」

 

「あ゛ぁ゛?片手使えねえぐらいで戦えねぇなんざ言ってられっかよ!嘗めんじゃねぇ!」

 

「つってもお前脂汗すげぇぞ……手首も紫色だしよ。

 動きも、いつものキレが全然ねぇ……そのまま適当にしてたら、よお……」

 

「…………チッ」

 

「おい、何処行くんだよ!」

 

「待ち伏せされてる可能性だってあんだろ。

 面倒くせえ、頭を潰しちまったほうが早い。

 逃げたきゃ逃げろ、俺はあのエセマイトの場所に戻る」

 

「なっ、誰が逃げるかよ!そんなの男らしくねぇ!」

 

 一部の生徒は、飛ばされる前の広場を目指し、集まり始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、イレイザーヘッドと13号の二人とヴィラン連合の戦いは……。

 

「がっ!」

 

 ヴィラン連合に軍配が上がっていた。

 既にチンピラ軍団はイレイザーヘッドが一掃したものの、13号は自身の個性を黒霧に逆に利用され負傷して倒れ伏していた。

 また、チンピラ軍団相手には無双の活躍を見せていたイレイザーヘッドだったが、脳無と呼ばれていた大男が動き出した事で形勢は逆転。

 個性を消した所で意味はなく、その圧倒的な身体能力に倒れ伏し地面に叩き付けられていた。

 

『うーん、流石イレイザーヘッド。チンピラ軍団じゃ相手にならなかったね。

 それでもやっぱり脳無相手は荷が重かったか。

 これでイレイザーヘッドは攻略完了……と』

 

 完全に地面に押し付けられて押さえ込まれているイレイザーヘッドを見下ろしていた死柄木の背後に、ふっと黒霧が姿を表した。

 

「死柄木弔」

 

『お疲れ様黒霧、生徒達はちゃんと散らしたかい?』

 

「いえ……申し訳ありません。生徒を一人逃しました。

 それに、飛ばす先も完璧に指示通りとは……」

 

『え、そっか。そりゃ残念……うーん、となるとそう間も無く応援がやってくるかな……?

 プロヒーロー複数相手は流石に荷が重いかな。仕方ない』

 

 死柄木は残念そうに呟くと、肩をすくめた。

 はぁ、と深くタメ息をついて、申し訳なさそうに俯く黒霧に向き直る。

 

『今回は引こうか黒霧。チンピラ軍団も減っちゃったしね』

 

「……」

 

 黒霧は小さく頷くと、無言でその黒い靄を広げていく。

 その靄へと、死柄木は一歩足を進めて……。

 

『ただその前に、平和の象徴の矜持を、少しへし折って行こうか』

 

 何処からか感じた『安堵のタメ息』に向けて、死柄木の手から黒い紐のような物が、真っ直ぐに伸びていった。

 それは物陰に隠れ、様子を伺っていた生徒三人をあっという間に捕らえてしまった。

 一瞬の事で生徒達は反応する事すら出来ず、腕ごと胴体をグルグル巻きにされ、身動きを取る事が出来なくなってしまった。

 

「み、見つかってたのかよぉ!」

 

「ケロ……全くほどけないわ……」

 

「早すぎる……!全然見えなかった……!」

 

 頭に丸い葡萄のようなものがいくつもついた少年、峰田実。

 見た目蛙のような少女、蛙吹梅雨。

 地味なそばかす顔で緑髪の少年、緑谷出久(デク)

 

 三人は水難エリアでチンピラ達を倒した後、広場へと向かい……状況の悪さに様子を伺っていたのだった。

 今にも飛び出しそうだった緑谷を峰田と蛙吹の二人は止めて息を潜めていたのだが……死柄木は既に三人を捕捉していたのだった。

 

 伸ばした黒い紐がビン、と張り、死柄木は勢いよくそれを引っ張った。

 

グンッ

 

「ぎゃぁあああああ!」

 

「キャアッ!」

 

「くぅっ……!」

 

 三人は踏ん張るも、死柄木が緑の閃光を纏った瞬間に容易く宙を舞ってしまった。

 死柄木はふわりと宙を舞ったそれらに向けて拳を握り締めた。

 

バリッ……バリバリバリッ!

 

 死柄木を一際強い緑の閃光が包み込み、構えた腕が一回り肥大化する。

 それを見てしまった峰田は、泣きながら悲鳴をあげた。

 

「いやぁあああああ!」

 

『ヒーロー志望だろう?最期まであがいてみなよ、ヒーロー!』

 

 死柄木のその言葉が響いた、その瞬間だった。

 

 白い影が死柄木の三人の間を通りすぎた。

 

ダッ!

 

ぼろ……

 

『おっ……とっ……?』

 

 気づけば死柄木の腕から伸びた黒い紐は、白い影が通った辺りで崩壊していた。

 突然負荷の消えた死柄木はバランスを崩してたたらを踏み、その身を包んでいた緑の光も、いつの間にか消えている。

 

 そして、拘束していた黒い紐はそのまま形を崩し、三人は自由の身となる。

 ただし、未だに引っ張られる宙に浮いたままの状態で。

 

ドンッ

 

「いてっ!」

 

ぺたっ

 

「た、助かったのかしら」

 

すたっ

 

「せ、先生!」

 

 峰田は尻餅をつき、蛙吹は両手両足を使って、緑谷も危なげなく着地をし……。

 緑谷だけは現状を把握して、その闖入者の名を呼んだ。

 

「転弧先生!」

 

 その男は、死柄木を鋭い眼光で睨み付けた。

 雄英高校、1年A組副担任、相澤転弧。

 白いボサボサの髪を小指をたてて後ろへと撫で付け、三人の前に立ち、死柄木と向かい合った。

 

「……大丈夫だ皆」

 

 右手を開いて死柄木へと向け、転弧は静かに、けれど強く宣言する。

 憧れの一つ、平和の象徴の言葉を借りて、皆を安心させるように。

 今の自分は、彼等の副担任であり……ヒーローなのだから。

 

「俺が来た」

 

 そんな姿を死柄木は、面白そう(不愉快そう)に目を細めていた。




誤字報告ありがとうございます。
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