志村転弧:アナザー   作:如月SQ

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じわじわ続いてる
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デク

 死柄木と向かい合った転弧は、それぞれ今現在の気配の位置を探った。

 今自分の知覚範囲内にいる生徒は背後にいる三人だけ。

 13号は傷つき倒れ、自身の養父である相澤消太は異様な雰囲気を持つ脳ミソが剥き出しの大男に押さえ込まれている。

 その周囲には如何にもチンピラといった風貌の男達が倒れ、無事に立っている者はいない。

 目の前の緑色の服に身を包んだ、推定黒い紐を操る個性持ちの男と、黒い靄の人型……。

 

「先生!そっちの黒い靄の人に気を付けて下さい!包まれるとワープします!それで皆何処かに飛ばされたみたいで!

 緑の人の黒い紐は、僕が簡単にふりほどけない程に強固でした!それに()()()()の爆破攻撃を簡単に凌いでました!」

 

「成程……簡潔で正確な情報助かるぞ緑谷。後は任せろ」

 

「っ……!気を付けて下さい!」

 

 厄介だ、と転弧は内心で呟く。

 そこらに散らばっているチンピラも、ここへの侵入も黒い靄の仕業だろう。

 油断は出来ない。

 更に緑の男、このクラスにおいて戦闘センスが抜群で、個性も優秀な爆豪を凌いだ。

 ついでに全力を出せば体を壊すものの、トップクラスのパワー持ちの緑谷が振りほどけない拘束……。

 それでいて此方は自分一人……分が悪いなんてものじゃない。

 

「だが……諦める理由にはならない」

 

 ピンチな時程笑う。

 そしてどんな困難も打ち破る。

 それがヒーローだ。

 

『ふむ……確か、崩壊ヒーローテンコだったかな。

 初めまして。僕達はヴィラン連合、僕は死柄木弔……。

 君の個性は知ってるよ?5本の指が触れたものを問答無用で崩壊させる、恐るべき個性だ。

 ……まるでヴィランみたいな個性だよね』

 

「そんな事は言われ慣れてるんだよ。くだらない事言ってないで、大人しくしてろ。もう間も無く応援もくる」

 

『うーん、そうだね、雄英に詰めてるプロヒーローが皆来れば流石に分が悪い。

 だからこそ君の背後にいる生徒や、そこで倒れてるヒーロー辺りだけ潰して帰るとこだったんだよね。

 ……でも間も無く応援が来るのは嘘でしょ?』

 

 ぴく、と転弧の眉が動いた。

 

『あ、やっぱり。なら君まで潰しておこうか。

 ヒーローは一人でも潰しておくが吉。後々の為にね』

 

「何を考えてこんなくだらない事を企んだんだ……」

 

『そんなくだらない襲撃で先生二人は倒れてるけどね。

 まぁ、ちらっと教えてあげよう。僕はね、オールマイトがいなくなった社会が見たいんだ』

 

 両手を広げ、何でもない事のように死柄木は言葉を紡ぐ。

 

『ヒーロー飽和社会、平和の象徴オールマイト。

 そんな世界の芯が、なんてことないポッと出のヴィランにやられたら、きっと日本が世界がガッタガタになる』

 

 ケラケラ、ケラケラと楽しそうに。

 

『そんな世界、楽しそうでしょ?』

 

 両手の先から黒い紐が伸び、バチンッと地面を叩いた。

 転弧は、その頭巾の奥、楽しそうな笑い声とは反した空虚な視線を感じ……一つの事を諦めた。

 

「そうかよ……理解の外だ。腕の一本くらいは覚悟しろよ」

 

 無傷で、または軽傷で捕らえる事を。

 そんな手加減が出来る相手ではないと直感していた。

 ヒーローとしてはまだまだ未熟な身ではあるが、それは確信だった。

 

『ははっ良いねぇ。僕を殺す覚悟すらしてる……。

 そこらのヒーローじゃ考えられない切り替えの早さだ。

 うーん、ねぇ、そっち(ヒーロー)止めてこっち(ヴィラン)に来ないかい?

 きっと君はその方が自由に生きれる。今なら――』

 

「ないな」

 

 キッパリ、転弧はその提案を切って捨てた。

 ヴィランのような個性、恐ろしい個性。

 自分の内に秘められた、壊したいという破滅欲求。

 自覚している、わかっている。

 その上で転弧は既に決めている。

 

「俺はヒーローだ。くだらねぇ事言ってないで、かかってこいよヴィラン。

 こんな木っ端ヒーローすらヤれなくて、オールマイトをヤれると思うなよ?」

 

 笑う。凄惨な笑みを浮かべて。

 目をかっ開いたその笑顔は、とてもヒーローらしくはない。

 昔から、転弧の悩みの一つでもあった。

 だが、それを見た黒い靄が多少たじろいだのを感じて、少しでも効果があるならそれでいいと、転弧はその笑みを深めた。

 

 それを死柄木は……その笑みを眩しいものを見るように、頭巾の中で目を細めた。

 そして、鼻を鳴らしてから自分も笑みを浮かべるのだった。

 

『なら、試してみようか、ヒーロー!』

 

 笑みを浮かべた二人が、衝突する。

 その様子を……身を伏せながらも峰田と蛙吹はハラハラとした表情で見守り……緑谷は、無の表情で眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が、来た」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オールマイトが到着してからは早かった。

 死柄木と転弧の戦いは決着がつく事はなく、オールマイトが現れた事でその場の全員の意識はオールマイトへと向けられたのだった。

 

 結果だけを記すならば、対平和の象徴として作られた改造人間脳無は、その役目を果たす事なく、オールマイトによって天高く吹き飛ばされる事となった。

 USJの天井を貫いていった脳無を見上げて、死柄木は思わず拍手をしていた。

 

パチパチパチパチ

 

『凄い。まさにプルスウルトラ。

 理論上はあれでオールマイトを完封出来る筈なのに……。

 これが本物のヒーローって奴か……』

 

「大人しく、お縄につくんだ。そうすればこれ以上手荒な真似をする気はない」

 

『ただ、どうも消耗は激しかったように感じる。

 投降の呼び掛けも何処かおざなりというか、余裕がない……。

 弱って、消耗しているのは確かかもしれない。

 もしかすると、千載一遇のチャンスかな?

 ただ、プロヒーローの増援は怖い……仕方ないか』

 

 ブツブツ、ブツブツと自分の世界で情報を精査した死柄木は、静かに俯く。

 そして、ゆらりと、死柄木の体が揺れた。

 

ドンッ!

 

 その瞬間、死柄木の姿はかき消え、オールマイトの目の前で右腕を振りかぶっていた。

 

「む!」

 

 緑色の閃光を身に纏う死柄木に、オールマイトは咄嗟に同じように右腕を振りかぶった。

 

SMASH

 

SMASH!

 

ズドンッ!

 

 二人の拳は衝突し、轟音が響き、一瞬遅れて凄まじい風が二人を中心として吹き荒れた。

 

ブワァッ!

 

「うわぁああああ!」

 

「峰田君!蛙吹さん!捕まって!」

 

「とんでもないパワーのぶつかり合いだわ……梅雨ちゃんと呼んで」

 

「い、意外と余裕あるね……」

 

「あのエセマイト、オールマイトと互角に渡り合ってやがる……!」

 

「あ゛ぁ゛!?目ぇ腐ってんのか半分野郎ォ!

 オールマイトは助走も予備動作もほぼなかっただろうが!比べるまでもねぇよ!」

 

「い、いや、普通はそれとすら張り合えねぇんだよ……!」

 

 ざわざわと子供達が騒がしくする中、生徒達を守りながら事態の推移を見守っていた転弧だけが気付いた。

 オールマイトの笑顔、その額に冷や汗が浮かんでいたのを。

 稼働限界……その言葉が頭を過り……気付けば転弧は駆け出していた。

 凄まじい風圧で髪を乱しながら、視線は一点だけを見つめて。

 

 ぶつかりあい、オールマイトと競り合いをしている死柄木の拳、その手首を躊躇いなく掴んだのだった。

 

「転弧君っ!?」

 

『うっ……!?』

 

 瞬間、死柄木の拳は崩壊を始め、二人の競り合いは一気にオールマイトが有利になり、更には痛みでか、死柄木の体勢が崩れた。

 

「っ……!SMASH!

 

 オールマイトはその隙を見逃さず、渾身の拳を死柄木へと叩き込んだ。

 

「やった!」

 

「いいや、浅い!」

 

 その感触の弱さ、手応えの無さに、オールマイトは顔をしかめる。

 恐らくは寸前で身を翻した……加えてその左腕から背後へと伸ばされた黒い紐で移動もしたのだろう。

 宙に浮いていた死柄木は直ぐ様体勢を立て直すと、平気な顔をですたりと着地する。

 こきり、こきりと首を捻ると、中程まで崩れてしまった右腕を見下ろし、肩を掴んで……。

 

『やれやれ、危なかった……』

 

 ブチリ、と右腕の肩から先を引きちぎっていた。

 

「ひぃいっ!何してんだよあいつぅ!」

 

「……む!」

 

 途端に悲鳴が上がるが、その断面を目にしたオールマイトは眉をひそめた。

 木製か鉄製か、明らかに血の通っていない断面……。

 

『あ、安心しなよ。僕の右腕は義手だから、CERO:A、良い子が見ても大丈夫だよ』

 

ポイッ

 

グシャッ!

 

 全体の半分になってしまった義手を足元に放り投げ、そのまま踏み潰した。

 

「ちっ……だが、腕がなくなった事には変わらない。投降しろ」

 

 その様子に転弧は舌打ちする。

 とはいえ、死柄木の戦闘力が半減した事には変わりないと思い直し、再度投降を促した。

 側に立つオールマイトの息が荒い事に、多少の焦りもあった。

 

『いやぁ、それにしても容赦ないねえ、僕の右腕が生身だったら、大怪我だよ。

 いや、ショックで死んじゃってたかもね!

 危うく人殺しになる所だよ、それでもヒーローかい?

 ……ねぇ、テンコくん。他人の未来を奪って得た今の立ち位置は、居心地良いかい?』

 

「…………!」

 

 転弧の瞳が見開かれる。

 動揺を最小限にするので精一杯だった。

 

 元より、転弧は個性を暴走させ、家族を殺した十字架を背負って生きている。

 それでも今、こうしてヒーローに、雄英の副担任になれているのは、保護者にイレイザーヘッドがいて、校長があらゆる根回しをし、個性の使用に制限がかけられているからだ。

 そうで無ければ、ヴィラン扱いで拘束されていてもおかしくない危険人物……それが志村転弧だ。

 

 だが、それらの事は秘匿されている。

 彼はあくまでも相澤消太を義父に持つ、崩壊ヒーローテンコであり、雄英の1のA副担任相澤転弧でしかない筈。

 なのに死柄木は、まるで全てを知っているかのようだった。

 

「何処で……それを」

 

 表情の凍りついた転弧を、死柄木は嘲笑う。

 

『ははっ、笑顔はどうしたヒーロー!笑ってみなよ!』

 

 戸惑う転弧とオールマイトへと、死柄木は駆け出そうと身を屈め……。

 

バンッ!

 

 その瞬間響いた扉が開く音にその動きを止めた。

 

「1-Aクラス委員長飯田天哉!ただいま戻りました!!」

 

 そうして現れた無数のプロヒーローの姿に、死柄木は即座に判断を下す。

 ゆらりと体を起こして、つまらなそうに息を吐く。

 

『はぁ、ゲームオーバーだ。黒霧、帰るよ』

 

「逃げられると――」

 

ブワァッ!

 

 オールマイトが一歩踏み出したその時、死柄木を中心として煙が勢いよく噴出した。

 その範囲はオールマイトや転弧だけではなく、生徒達も包み込んだ。

 

「くっ……!」

 

 即座にその煙はオールマイトが腕を振って晴らしたものの、その後に残っていたのは気絶したチンピラ軍団だけ。

 死柄木と黒霧の姿は何処にもなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果的に襲撃によっての死亡者等はゼロ。

 ただし、負傷者が数人出たうえに、首謀者と雄英に容易く侵入を果たした厄介な個性持ちは取り逃してしまった。

 

 痛恨の思いで俯く転弧の元へと、心配そうに表情を歪めた緑谷が駆け寄っていった。

 

「転弧先生!さっきは助かりました!

 先生が来てくれなかったら、僕達は無事じゃすみませんでした。

 改めてお礼を言わせてください!」

 

 そう言って頭を下げる緑谷に対して、転弧は静かに向き直った。

 

「いや、先生として当然の事をしただけ。礼を言われるような事じゃないよ。

 むしろ、怖い思いさせてごめんね。

 不甲斐ない姿も見せちゃったし……いつかこの汚名を灌げるように精進させてもらうよ」

 

 ちら、と転弧は緑谷の右腕を見る。

 しっかりと繋がった、筋肉の程よくついた健康そうな右腕。

 内心で自分を納得させながら、転弧はそれから視線を外した。

 

 幼い自分の心を救ったヒーロー、ミドリヤイズク。

 そんな彼と似た、素晴らしい精神性を持った少年、緑谷出久(デク)

 ヒーローが好きだという彼の尊敬の眼差しは少しこそばゆいものの、彼の期待に応えようというやる気にも繋がっている気がした。

 

「はい!先生、僕も頑張ります!」

 

 むん、と気合いをいれるその姿を、転弧は目を細めて微笑ましく眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どけっ!クソナード!」

 

「ダメだよ()()()!僕達の中で一番重傷なんだから、ちゃんと治療受けなきゃ!」

 

「こんなもん唾つけときゃ治るわ!」

 

「普通は治らないよ!」

 

「はぁ゛!?治すわ!クソデクが、なめてんじゃねぇそ!」

 

「本当に君は僕に当たり強いね!でも副委員長として、そのままの帰宅は認められないよ!」

 

「チ゛ィ゛ッ゛!!!」

 

「でっけー舌打ち……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

「おや、おかえりなさい。学校はどうでしたか?」

 

「うん、今日も面白かったよ。襲撃もあったし」

 

 薄暗いバーで、その場に似つかわしくない、制服姿の少年がいた。

 緑谷出久(デク)と呼ばれていた少年は、目の前の黒い靄、黒霧と、緑の頭巾を被った男、死柄木弔を見つめる。

 

『新衣裳の御披露目と腕試しに脳無の稼働実験……色々兼ねてみたけどまぁまぁな成果だったね』

 

 死柄木はおもむろにその顔を隠していた頭巾とマスクを取り払う。

 そこから現れた顔は……緑谷出久(デク)とまったく同じ顔だった。

 

「それじゃあ今日の反省会だ。先生ももうすぐ……ああ、きた」

 

 出久(デク)と同じ声色で、楽しそうに笑う死柄木は、ニヤニヤと笑みを深めていた。

 やがて……ブツリと音を鳴らしてから、一つのテレビから砂嵐と共に声が聞こえてくる。

 

『おかえり弔。調子はどうかな?』

 

 同時に、どろりと死柄木の姿が崩れていく。

 突然の事だったが、誰も何も言う事も驚く事もない。

 そして、崩れた死柄木が座っていた椅子に、出久(デク)がひょいと飛び乗った。

 

「絶好調ですよ、先生」

 

 緑谷出久(デク)は、死柄木弔は、光のない瞳で空虚に笑った。

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