閲覧、評価、ありがとうございます。
どのくらいまでかこうかな……。
「俺は、戦闘において絶対に
そう啖呵を切る轟君だったけれど、その息は白く、体は震えていた。
全体的な体の動きも鈍く、もう暫くすれば氷の個性を持つとはいえ致命的な事柄が起きるかもしれない。
まぁ……その前に審判から物言いが入るとは思うけど。
ちら、と現在審判を行っているミッドナイトのほうへと視線を移す。
正直僕からすればもうこの戦いは無駄、ただのなぶり殺しになるだけなんだけど……。
「…………」
ミッドナイトは無言で首を振った。
まぁ……先が見えてるとはいえ轟君が勝つ可能性が僅かにでも存在しているうちに止める事は出来ない、か。
雄英体育祭、最終種目2回戦、轟焦凍君と対戦する事になった僕は、内心困り果てていた。
「凍れ!」
そうこうしているうちに、離れた位置から轟君の氷結が僕に襲い掛かるけれど……。
「よっ、と」
僕が30%くらいで裏拳を放てば、その氷は粉々に砕け散った。
……正直、相性だ。
確かに僕は本気を出していないし出す事もない。
けれど、轟君が本気で……それこそ
だけど彼は頑なに
もしも相手が爆豪君だったなら、それも相性は悪くない。
戦い方によっては十分勝ち目があるだろう。
けれど、相手はこの僕だ。
超パワーという事にしている個性、これを使えば例え全身凍らされても体を内側から振動させる事で砕けるし、そもそも氷に包まれる事もない。
彼は、ちゃんと近接も鍛えてるようで、鍛練の跡が見える。
けど増強系の中でも頭一つ出て強い僕を押さえ込める程強い訳でもない。
つまり……今のままの彼では僕を倒す事は出来ない。
砕けた氷の破片が宙を舞い、日の光を受けてキラキラと輝いていた。
「無駄だよ。確かに僕の超パワーだって限界がある。
君の氷を砕くのに負担がない訳じゃない。
……それでも、もう震え始めている君程じゃない。
具体的な数字でも出そうか?君は後何回その規模の凍結が使える?
僕はこの距離ならその規模の凍結を、片手の振りだけであと軽く十回は動かずに退けられる」
「く……!」
轟君は苦々しく顔を歪めた。
もしこのまま轟君が
だから僕は轟君から距離を取る。
隙あらば風圧を飛ばして吹き飛ばそうとは試みているけれど、氷で防がれたり足元を固めていたりで、そう上手くは行かなかった。
とはいえ、だ。
「このままじゃ君に勝ちの目はないよ。
クラスメイトをこうやっていたぶる趣味はないから……出来れば降参して欲しいな」
「……!ふざけんな!誰がするかよ!
俺は!
……はぁ、やれやれだ。
事前に、轟君の抱える事情は軽く聞いていた。
端的に言えば、『個性婚』で産まれた最高傑作が轟焦凍、という少年。
NO2ヒーローエンデヴァーが、自身の夢を託した存在。
そして、自身への過剰とも言えるトレーニングと、それに伴って加速した家族間の歪みが、母親へのストレスという形で蓄積し……轟君の左顔面へとぶつけられた訳だ。
そんな過酷な幼少期の経験からの、痛み、苦しみの全てが父親のせいであると刻み込まれた轟君は、
「そう……じゃあ仕方ないね。もう少し負担かけてあげよう」
僕は風圧を少し強めに押し出して、轟君への負担を強めていく。
「ちっ……!」
素の体が無個性である僕からしたら、実に羨ましい事なんだけどね。
自身の個性を十二分に発揮出来る、元々強力な個性持ちで優秀な両親の元、優秀な個性を二つも宿しておきながら、たかが超パワーしか使っていない僕を詰める事が出来ない体たらく。
落胆するのも仕方ないだろう。
実際観客席からはあれがエンデヴァーの息子か、と落胆交じりの呟きが聞こえてくる。
はぁ、それにしても、何もかも不愉快だなぁ。
轟君はさっきの麗日さんの試合を見てなかったんだろうか?
使えるものは全て使い、客観的に見て圧倒的格上である爆豪君に抗った麗日さんの姿は輝いていた。
まさにプルスウルトラ……この校訓は結構好きだ。
それを彼にも、轟君にも期待したいけれど……。
「はぁ……!はぁ……!」
憎しみにまみれてるにしては、吹っ切れていない、中途半端な今の彼じゃ、仮に
「じゃあ、もう良いか……」
誰にも聞こえないくらいに小さく呟く。
向かってくる凍結を軽く砕き、歪む轟君の顔を眺めながら、無感情に思った。
ぐ、と右足に力を込め、ガクガクと寒さに震える轟君の膝が揺れたその瞬間、僕は飛び出した。
「なっ!?」
きっと轟君には気付けば目の前にいたくらいの感覚だろうか。
それでも即座に凍結を放とうとするのは流石の反応速度だけれど……。
もう、遅い。
「CLAP」
ッパァンッ!
僕の渾身の……50%の拍手が氷を砕き、轟君の意識を奪った。
「SMASH」
ズドンッ!
その隙を逃さなかった僕の拳が轟君を捉え、彼はあえなく場外へと吹き飛んでいったのだった。
……さて、下準備はこんなものかな。
歓声に手をあげて応えながら、僕はそんな思考をしていた。
「クソッ!」
控室への通路で、壁に拳を打ち付けた。
緑谷との戦い……俺は終始何も出来なかった。
母さんの氷だけであがっていく……そう決めた筈なのに。
「ク、ソォッ……!」
俺の氷はまったく通用しなかった。
あいつ相手に近接戦が出来るとも思えなかった。
でも、勝たなければいけなかった。
壁に押し付けた拳がみし、と音をたてる。
かじかんだ指先がひどく痛かった。
そこで漸く、忘れかけていた自分の体が寒さに震えているままだという事に気付く。
あまりにも悔しくて頭から抜けていたが、体は寒さを訴え続けていた。
かじかみ冷えきった体は、未だに息が白い。
戦闘は終わったのだし、仕方なくという思いで右に炎を灯そうとした、その時だった。
「焦凍」
強い熱気と共に、聞きなれた忌々しい声が俺の耳をうった。
「……エンデヴァー」
一番、今一番会いたくない奴に会っちまった。
自然と顔が歪む。
「……悪かったな、あんたの顔に泥を塗っちまってよ」
心にもない言葉を返して、エンデヴァー、俺の親父から視線を反らして壁から手を離した。
顔を見上げる気も起きず、そのまま横を通り過ぎようと足を動かしていく。
「緑谷君……と言ったか。彼は強いな。純粋な肉体強化だが、よく個性を使いこなしている」
「…………」
その後に続く言葉が容易に想像が出来て、目が自然と細くなっていった。
「それに対して、なんだお前のザマは?お前が十全に力を発揮すれば、もっとまともな戦いになっただろうに。
彼も可哀想に、あれではヒーロー達への印象も悪い。まるで弱い者苛めではないか」
ギリ……
うるせぇ……。
「焦凍、お前にはNO1ヒーローになる義務がある。
そうなるだけの才能もある、なれるだけの教育も施した。
にも関わらず炎を使わず、呆気なく敗北……情けない」
ギリリ……
……うるせぇ……!
「だがこれで
これからはその子供染みたこだわりは捨てろ。
職場体験は俺の事務所から指名を送る。その鈍りきった
ギリ、ギリ……
うるせぇ……!
「お前は俺の、最高傑作なんだ!」
バキッ!
うるせぇ!
パキンッ!
「むっ!」
そのクソみてえな面に氷をぶちかまして、俺は走り出した。
ジュワッ!
一瞬で溶かされけど、それももうどうでもいい!
これ以上こいつと一緒の空間にいたら、頭がおかしくなっちまう!
こんな俺を道具としか見てねえ、クソみたいな奴と、これ以上、会話してられねぇ。
「焦凍ォオオオオ!」
クソオヤジの雄叫びを後目に、俺は控室へと駆け込んだのだった。
轟君、不思議に思った事はない?
オールマイトってさ……不自然だよね?
ナチュラルボーンヒーロー、そう言うけれど、彼は不自然なくらいに個性の詳細が明らかになってない。
学生時代の逸話も聞かないし、雄英だったにしては……あまりにも不透明、そうは思わない?
君がさ、僕とオールマイトが似てるって言った時、少しドキッとしたんだよね。
オールマイトもさ、個性の事聞かれると妙に焦ってたでしょ?
それには、理由があるんだよ。
同じ……?ああ違う違う。
個性婚とはまた違う話だよ。
そうだな、その昔……人の個性を奪う、なんていう都市伝説があったの、知ってるかな?
ああ知ってる?怖いよね。
それと……僕が雄英高校入学の一年前くらいまで無個性だったって言ったの覚えてる?
うん、そうそう。
結果的に言うと僕は、幼少期には何の噂もなく、突然雄英高校に現れ……自分で言うのもあれだけど、体育祭でも優秀な結果をおさめている……。
ああ、ごめんね、気に障ったよね。
でもさ、ここまで整理して……なんか、気にならない?
まるでさ……何か見えない力が働いてるように見えない?
僕はまだ個性を持って間もない。
それでも、エンデヴァーの息子という優秀な血筋で、幼少期から鍛え続けた君を撃ち破る程強くなった……。
なんだか、サクセスストーリー染みてると思わない?
……ここだけの話だよ?
僕のこの個性は、貰ったんだよ、オールマイトに。
そして……オールマイトも元々無個性だったんだ。
そう、君の勘は正しかった。
僕とオールマイトにはそういう、繋がりがあった。
個性の譲渡された師弟関係……というね。
じゃあ何故僕なのか?
そもそもオールマイトは何故そんな個性を持っているのか?
……最高のヒーロー、平和の象徴、それがもし。
もし意図的に作られたモノだとしたら……?
オールマイトの次が、僕なのだとしたら……?
……そうだね、君達からしたらふざけた話だ。
そうだとしたら、君達は僕の当て馬……。
特に、君だ。
NO2ヒーローの息子、ハイブリット個性で、エリート。
そんな君と切磋琢磨し、今のオールマイトとエンデヴァーのようになれと言っているのかもしれない。
……そう、結局君は、君のこれまでの境遇の全ては、どうあっても報われないんだよ。
ぐっ!
そう、そうだよね、仕方ない。
何発か殴られたって、仕方ない立場かもしれない。
でも僕は言いたい、そんなのは糞食らえだって。
そもそも、僕はオールマイトがね、大嫌いなんだよ。
僕が無個性だった頃、僕はオールマイトに問い掛けた事がある。
無個性でもヒーローになれますかって、貴方のような立派なヒーローになれますかって。
……答え?無個性じゃ、無理だってハッキリ言われたよ。
軽々しく出来るなんて口には出来ない、なんて予防線の張った言い方してきてさ。
その口で、僕が無個性で
笑っちゃうよね?ひどい話だよね?
あまりの事に泣いちゃったよ、怒りで歪む顔を隠すのが大変だったよ。
だから僕は、このまま言われるがままに上り詰めて……オールマイトに、この世界に復讐するのさ。
ねえ、もしかしてエンデヴァーもこれを知ってるんじゃない?
新たな平和の象徴のライバルとして、相応しい相手として、君を産み出したんじゃない?
だって、彼の長男は蒼炎ヒーロー荼毘として大活躍してるじゃないか。
個性婚だからと言って、あれだけ優秀なヒーローがいれば安泰じゃないか。
なのに、君を産んだ、作り出した。
新たな平和の象徴と、高校時代から切磋琢磨し続けた、未来のNO2ヒーローとして……なんて。
そうだよね、辛いよね?
君の全てが否定されたみたいに感じるよね?
ヒドイ話だよ、君はこんなに苦しんでるのに、世界はそれを容易く見捨てる、見ない振りをする。
君のような世界に犠牲を強いられている人間は、これまでも何人もいたんだと思う。
……これを、続けちゃいけないんだ。
轟君、僕の手を取って欲しい。
君は今深く絶望してると思う。
何をしたいかも、何をしていいのかも、何もわからなくなってると思う。
でも、もう大丈夫。
僕がいる。
君の苦しみも背負って、僕が全て壊してあげるよ。
君が苦しんでる原点はなんだった?
何が君の苦しみの始まりだった?
迷った時はそれを思い出すんだ。
君の、オリジンを。
「俺は……――――――――――」
轟君の言葉に、僕は満面の笑みを浮かべた。
憎しみに濁りきった瞳に、心から笑みが溢れた。
ああ……雄英体育祭……素晴らしい、イベントだった。
控室から出た僕を待っていたのは、麗日さん。
扉の前で人払いをしてくれていた麗日さんに、改めてお礼を伝えた。
「ありがとう、麗日さん、おかげで轟君とゆっくりお話出来たよ」
「良かったデク君!デク君は優しいんやね……」
「轟君は、ずっと苦しそうだったからね……放っておけなかっただけだよ」
「ううん、そういうの、良いと思う」
そう言って朗らかに微笑む麗日さんと並んで歩きながら、僕はこれからの事を朧気に考えていた。
正直決勝戦はほぼ間違いなく爆豪君が来る。
それを何処までやるか、少し決めあぐねていた。
そりゃ本気でやればどうにでもなるけれど……。
「ま、いっか。適当で」
ただ、轟君との会話で頭を使ったからか、そんな楽天的な考えしか出てこなかった。
まぁ、上限だけ設定して、その範囲で本気でやればいいか。
負けるかもしれないけれど……それはその時。
終わった後にオールマイトに土下座でもすれば、彼はまた苦しむだろうからね。
それはそれで悪くない。
どう転んでも、まぁ、僕としては悪くない結末になるだろう。
なら、適当にやっていこう。
今回の最も大きな目的は、果たしたのだから。
「どしたん?デク君」
っと、顔に少し出てたかな。
「いや、なんでもないよ。戻ろっか」
キョトンとした顔で見つめてくる麗日さんに微笑みを返して、僕は歩き出すのだった。
雄英体育祭第三種目決勝戦。
ヒーロー科1のA緑谷出久と、爆豪勝己の戦い。
双方一歩も譲らぬ激しい戦いの後、二人の渾身の一撃がぶつかりあった。
閃光と爆煙、凄まじい衝撃波の後、吹き飛び壁にぶち当たる人影と、立ち尽くす人影が見えた。
『こ、こいつは……!』
「け、決着!」
吹き飛んだ人影はズルズルと壁に伝いに倒れこんでいった。
その体はズタボロで、所々が焦げていた。
そんな緑谷の姿に会場中が息を飲み、やがて視線は立っている人影へと注がれる。
立っていた人影は、爆豪勝己、だった。
「勝者、爆豪勝己君!」
ボロボロで白目を向き、だらりと垂れた腕、今にも倒れそうな状態だった。
なのにその宣言が響いた時、その手は高く、掲げられていた。
『優勝は、爆豪だぁああああああああ!!!』
ワァアアアアアアアアアアアアアア!!!
パチパチパチパチパチパチ!
溢れんばかりの歓声と惜しみ無い拍手が、爆豪へと注がれる。
それが聞こえたのか、爆豪の顔に穏やかな笑みが浮かび……その次の瞬間には顔面から倒れこんだのだった。
二人がそのまま運ばれていっても、会場の拍手は暫く鳴り止む事はなかった。
素晴らしい試合を見せてくれた二人に、未来の希望に、未来のヒーロー達にこの称賛の思いよ届けとばかりに。
「さあ皆さんご一緒に!」
『『『プルスウルトラ!!!』』』
「お疲れ様でした!」
「そりゃないでしょオールマイト」
オールマイトの少しズレた挨拶を最後に、雄英体育祭は幕を閉じたのだった。