志村転弧:アナザー   作:如月SQ

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保須市襲撃事件

『お互いに落ち着こうよ先輩、貴方もヴィランでしょ?』

 

「ハァ……一緒にするな」

 

『……つまり僕達に協力する気はないって事で良いのかな?』

 

「いや……」

 

 ステインは、僕の首元に添えていた刃をゆっくりと退けた。

 それを確認した僕も、ステインの首に巻き付けていた黒鞭をほどいてやった。

 

「今の歪んだ世を壊すという一点でのみ、俺と貴様の思想は一致している。

 だからこそ、暫し貴様を処分するのは見送ってやろう。

 その若さでそれだけの実力を持ちながら歪みきったその思想……行く末を見たくなった」

 

『……オッケーオッケー。利用してやろうって事ね。こっちもそう思ってる訳だし、丁度良いよ。

 いいよいいよ同じオールマイトのフォロワーとして仲良くしようじゃないか、先輩』

 

「社会のゴミめ、馴れ馴れしくするな」

 

『手厳しー……。まぁいいや、黒霧、先輩をお送りしてあげて。

 保須だったかな?まだあそこでやるつもりでしょ?』

 

「……よくわかったな。やはり貴様は……油断出来ん」

 

『じゃ、またね先輩』

 

 ステインが黒霧のワープゲートを通るのを笑顔で見送って、僕は大きくため息をついた。

 辺りを見渡せば、砕けたテーブルや椅子、割れた酒ビンの破片が散らばり、酒精の香りが立ち込めていた。

 短時間ステインとやりあった訳だけど……どうしてなかなか。

 個性に仮にランク付けをするならば、僕の持つ個性は間違いなくSランク。

 一方でステインは甘く見てもBランクだ。

 それだけの格差があっても、対人の経験値だけで危うく首が飛ぶところだった。

 

「めちゃくちゃクレイジーな奴だったな!良い奴っぽかったぜ!」

 

 そんな滅茶苦茶になったバーの影から、少し震えた声がした。

 まぁ、正直この僕の首が飛ぼうとどうでも良いんだけどね。

 

『分倍河原さん、無事で何よりだよ』

 

「マイネームイズトゥワイス!いい加減頼むぜ!今まで通りな!」

 

 全身タイツを身につけた彼さえ無事なら、ね。

 さて、保須市にはヒーローが集まってるような情報もあるし……余計なお世話かもしれないけど……ちょっと先輩を援護してみよっかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒーローネーム、ショート、だったか。

 改めて、俺は荼毘。本来俺の持ち場は九州なんだが、最近世間を騒がせてるヒーロー殺し、それをとっちめる為に今回の職場体験はここ保須市周辺で行う事になる」

 

「わかった、燈矢兄」

 

「荼毘な。っつっても相手は複数のヒーローを殺した連続殺人犯だ、もし単独で遭遇したら戦わずに全力で逃げて、プロヒーローの到着を待て。

 まぁ、基本的に一緒に行動してりゃ大丈夫だろうけどな。

 とはいえ、狙いはヒーロー殺しだが、ヒーローってのはそもそも奉仕活動が基本、人助けを重視していくぞ」

 

「わかった」

 

「よし、んじゃまずはパトロールだ。ヒーローの基本はこれだ、足で稼ぐ。臨時で事務所も借りてるから、もし万が一はぐれたら仮事務所に集合な」

 

「……そんなガキじゃねぇよ燈矢兄」

 

「荼毘な。氷の個性は傷付けずに犯人確保出来るから有難いぜ。

 俺だとたまに焼きすぎちまってな……。

 それはそれとして、炎の訓練もすんだろう?」

 

「ああ……まだ割り切れてねぇけど……いざ使えるのと使えないのじゃ雲泥の差があると、クラスメイトに言われて……燈矢兄、頼む」

 

「荼毘な。任せろよ、お前よりは炎を使えるつもりだ。

 ま、とりあえず今日は初パトロールだし、昼は美味い蕎麦食いにいくぞ。だからはりきって頑張ってくれ」

 

「蕎麦……!蕎麦、好物だ」

 

「お、そりゃ良かった。俺も好きなんだよ蕎麦。遠慮しないで食えよな」

 

「ありがとう燈矢兄」

 

「荼毘な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うし、いっちゃんたけぇやつ頼んでいいぞ」

 

「本当?じゃあ……上天ざるを……」

 

「…………ちょっと待て、お前ざる派?」

 

「…………まさか燈矢兄、温そば……?」

 

「「………………………………」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、大丈夫?飯田君」

 

「緑谷……君……?」

 

 ……なんだか、凄く変なタイミングで出会っちゃったな。

 職場体験、僕はオールマイトのススメで、彼の師匠だというグラントリノというヒーローの元に行く事になった。

 どうやらオールマイトは師匠であるグラントリノをひどく恐れているようなので、師としてあまり役に立っていない事を告げ口すれば、オールマイトがどうなるか……想像に難しくなかった。

 後々のオールマイトの苦悩を楽しみに思いながら、近所のパトロールに赴いたりしていた。

 

 そんな最中、僕の実力をある程度認めてくれたらしいグラントリノの提案で、もっとトラブルの溢れた場所へと向かう事に決められた。

 まぁ……実際グラントリノの事務所があったのは割りと長閑な地域だったので、歯応えという面ではあんまりだった。

 故にその提案は渡りに船……だったんだけど……。

 

「助けに来たよ」

 

「ハァ……新手か……」

 

 まさか噂のヒーロー殺しと遭遇するとは、ね。

 確かに黒霧がコンタクトを試みているとは聞いていたけれど……脳無を放って保須市を混乱に陥れるなんてのは聞いていないんだけどね……?

 

 本来は渋谷に向かう筈の電車を、空を飛ぶ脳無が襲撃してきた。

 そして……そこは保須市の近く。

 体育祭の時、自身の兄、ヒーローインゲニウムを再起不能にされた飯田君は、保須市のヒーロー事務所へと職場体験に……。

 そして、保須市付近での脳無の襲撃、一度被害者を出すと近場で複数回事を起こすヒーロー殺しの特徴……それらを加味してしまうと……。

 『クラスメイト思いの優しい出久(デク)君』は飯田天哉というクラスメイトを助けに行ってしまうだろう……。

 

「君は関係ないだろう!」

 

 なんか喚いている飯田君はどうでもいい。

 まぁ、個人的にも実際彼の生死に興味はない。

 個性自体は、体育祭で直接戦った時に見せた『レシプロバースト』。

 あれはなかなか悪くなかったけど、それだけだ。

 

「君の事情は加味しないよ。なんせ、余計なお世話はヒーローの本質だからね」

 

 後ろ手にクラスメイト達にこの路地裏の位置を送ったけれど、事情を理解してプロヒーローを連れてきてくれる人、いるかなぁ……。

 ニヤリと笑ってヒーロー殺しに向かって拳を構えた。

 ヒーロー殺しは値踏みするように目を細めて、此方を見つめていた。

 

「助けに来た……感動的な言葉だが……」

 

 グラントリノは空飛ぶ脳無を追って行ってしまって、僕は一応探すかーくらいの気持ちだったのに、決定的な場面に遭遇してしまった。

 奥で壁にもたれかかっているのは、プロヒーローのネイティブ……ステインの足元で押さえつけられている飯田君。

 なんとも間の悪い……いや、ヒーロー的にはナイスタイミングなんだろうけど……ああ、面倒だな。

 

 ギロリ、その鋭い視線が僕を射ぬいた。

 ……強い、意志のこもった、冷たい視線だ。

 うーん、なんだか見透かされてる気がするなぁ。

 

「俺はこいつらを殺す義務がある。互いに譲れないのならばぶつかり合うしかなく……そうした場合弱いほうが淘汰される訳だが……」

 

 さて、力を制限した僕で果たして、こいつ相手に抗う事が出来るのかどうか……なんでか脳無もいるって事は協力を取り付けたと思っていいのか……なんで本体の僕に連絡が何も来てないんだよ。

 

「さぁ、どうする……ハァ」

 

 はぁ、まぁ、いざとなればこいつら全員殺してしまおう。

 雄英に戻れなくなる可能性もあるけど、なんかもう面倒だ。

 ただでさえグラントリノに見透かされないように気を張っていた後でこれだ、まったく嫌になる。

 

「勿論、飯田君も助けて、ネイティブさんも助けて、お前は捕まえて、罪を償わせるさ」

 

 そう宣言して地面を蹴った僕を、ステインは目を細めて見つめている。

 振りかぶって突き出した拳を、ヒラリと避けたステインは、耳元でボソリと呟いた。

 

「何故、()()()にいる、死柄木弔……!」

 

 ああ、バレてら。

 めんどっくせぇなぁ!

 こっちに気を遣ってるって事は、協力関係になってるみたいだし!

 ほうれんそうしっかりしろよ黒霧!

 

 そんな八つ当たりをしながら、僕はステインとの戦闘を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ステインに一当てして飯田とネイティブを担ぎ離脱するのつもりの緑谷だったが、すれ違った時に頬を切りつけられていて、その血を舐められた事でステインの個性の発動を許してしまった。

 個性、凝血。

 対象の血液を摂取する事で、対象の動きを一定時間封じる個性。

 それによって緑谷は身動きが取れなくなり、放り出されたネイティブと飯田は地面を転がっていった。

 

 そして、凶刃が振り下ろされようとした、その時だった。

 

ゴォオオオオオオオ!

 

ピキピキピキピキッ!

 

 蒼い炎と氷が、ステインを襲った。

 ステインは即座に離脱を選び、バックステップで距離をとる。

 刀を構えたステインの視線の先には、顔の半分が火傷で覆われた男が、笑顔で立ちはだかっていた。

 

「よう、ヒーロー殺し……会いたかったぜ?」

 

 ニヤリと笑みを浮かべた、蒼炎ヒーロー荼毘は、両手にその名の通りの炎を灯し、ステインと対峙する。

 

「緑谷……用件もかくべきだぞ。少し、判断に迷った」

 

「轟君まで……!」

 

 緑谷は一気に状況が良くなったと判断し、その中で再度悪化するの可能性を潰すべく、プロヒーローへステインの個性を伝える。

 

「っ……!ヒーロー殺しの個性は恐らく、血を舐めた相手の動きを止めるものです!気を付けてください!」

 

 その的確な判断と言葉に、荼毘は内心で舌を巻く。

 焦凍に勝ったのはまぐれじゃないらしい、そう考えながら、更に炎を燃え上がらせた。

 

「成る程な……よくもまぁ俺の後輩達を虐めてくれたもんだ。

 水ぶくれだけで済むと思うなよ!ショート!」

 

「ああ……わかってる!」

 

 炎を放つ荼毘からの言葉を受け、轟は氷でステインと身動きの取れない者達を分断し、その身をステインから引き剥がしていく。

 

「エンデヴァーの息子……贋物が……!」

 

 荼毘とステインの戦い。

 如何にステインが強くとも、所詮間合いは徒手空拳の延長線上。

 遠距離、中距離を特に得意とする荼毘とは、相性が悪すぎた。

 ステインの身のこなしは個性を使っていないとは思えない程に素早く、身軽で鋭い。

 しかし、対する相手もプロヒーロー、ステインは少しずつ追い詰められていた。

 

 更にはステインの個性の効果が切れて緑谷が、更に時間を置いて飯田も自由となり参戦。

 飯田のレシプロバーストが決め手となり、ステインを倒す事に成功したのだった。

 

「……おい、お前ら、手伝って貰って……終わってから言うのあれだけどよ……個性使用許可貰ってんだよな……?」

 

 肩を震わせた緑谷と飯田は、気まずそうに視線を交わし合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正さねば……!誰かが血に染まらねば……!英雄を取り戻さねば……!

 殺してみろ……俺を殺して良いのは、オールマイトだけだ!」

 

 一人の人間が放ったとは思えない、ボロボロの男から放たれたとは思えない。

 執念、尋常ではないその圧力に、その場の誰もが圧倒された。

 ただ、一人を除いて。

 

 一歩、ヒーロー達のほうへと踏み出したステインを。

 

「は?知るかよ」

 

 蒼の豪炎が飲み込んだ。

 

 荼毘は、明らかに不愉快な表情を浮かべ、口から熱気を吐き出す。

 

「お父さんの事何も知らねえ社会のゴミが、バカにすんじゃねぇ」

 

 ゲホ、と黒煙を吐いたステインは真っ黒焦げとなった姿でその場に崩れ落ちた。

 誰もがその様子を、黙して見つめていた。

 

 そうして、保須襲撃事件は終結したのだった。




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