騒動
「先輩、大丈夫でしたか?」
あれやこれやと思考を巡らしていると。
ノアが駆け寄ってきた。
忙しいだろうに。
仕事ほっぽり出して来てたりはしないだろうな?
いや、してそうだな。
このタイミングで暇にはならないだろうし。
まったく。
想いを向けられてるのは嬉しいんだが。
ちょっとばかし重い。
まぁ、贅沢な悩みではあるのだけど。
「何があったんだ?」
一応、何も分かってませんよというポーズ。
把握してたら可笑しいからね。
実力の方は、なんだかんだで多少バレてしまってるところはあるが。
それでも一部だけ。
魔法が使えることとか多少強めの事とか。
それで把握できるのは、魔力が一時この空間に溢れてた事ぐらい。
それじゃ多少時間を置けばそれで終わりだからね。
問題なく再会できる。
こういう騒ぎにはならないはずだ。
「実は、暴徒が……」
ざっと説明してくれたが、想像通り。
街中でデカい魔法がブッパされたらしい。
被害も相当だとか。
でも、魔眼で見た程ではない。
やはりと言うべきか。
結構な数の魔結晶が不発だったのだろう。
そして、数発の打ち切りだからね。
制圧も今の所は順調と。
やはり、同じ王都の中の事だからだろうか。
それほど時間が経っていないのに。
かなりの情報が集まってる様子。
まぁ、学園だからってのもあるのかもしれない。
独自の情報網とかありそうだし。
貴族も子供預けてるからね。
色々なルートから入って来るのだろう。
「じゃあ、学園祭は?」
「延期ですね」
「……まぁそうだよね」
悲しそうだ。
頑張ってたのにな。
って、延期?
「延期するのか? 中止じゃなくって」
「はい。王国の未来を背負ってく子供達の行事ですから」
「はぁ」
「国の威信が掛かってるんです。暴徒如きで中止はあり得ません」
「そ、そうか」
ここの学園祭ってそんな感じだったのね。
まぁ、国営の学校だし。
通ってるのも貴族や有力な商人の子供。
そうなれば国家の行事ごとと言えなくも無いのか。
貴族社会。
メンツが命だからね。
そりゃ、暴徒如きで中止にする訳には行かない。
むしろ、延期になった事こそ。
せめてもの冷静な判断か。
無駄に危険に晒す訳にも行かないからね。
それまでに解決しようと。
国はそういう腹づもりらしい。
なるほどね。
じゃあそんな悲しまなくても、とはならないか。
今日まで準備してきたんだもんな。
ケチがつくのは、喜ばしい事では無い。
色々と頑張って来たんだもんな。
それを邪魔されたら。
まぁ、控えめに言って最悪。
しかも、教え子が決勝行ってたんだし。
そこに水を刺されたのだ。
想像しただけで不快極まりない。
あ、そういえば。
「延期って言ってたけど、トーナメントは?」
「それはもちろん続きからです!」
鼻息が荒い。
当然とでも言いたげ。
まぁ、そりゃそうか。
やり直しはね。
可哀想だし。
メスガキは良かったな。
優勝のチャンスはまだあるらしい。
と言うか。
杖、あれどうしようかな。
ここで回収するのは。
決勝で使えなくなっちゃうし。
流石にどうかと。
でも、なぁ。
ゴタゴタしてきたし。
今持ってるの。
良くない気がする。
有用性を示してしまったのだ。
しかも、魔力の制御を外付けできる杖。
今回の犯人。
喉から手が出るほど欲しいんじゃないか?
これがあれば。
量産できれば。
不発弾の混じる魔力結晶を安定運用し。
平民で作った魔術師の軍隊。
そんなのも夢物語ではなくなる。
今は誰も気づいて無いだろうけど。
普通の杖にしか見えていない。
でも、誰が気づくか。
見ただけではわからなくても。
それなりの魔術師なら触れれば気がつくかも。
やっぱり、危ないよな。
「そういや、あの娘が使ってた杖なんだけどさ」
「あの銀色の」
「そう。あれ、回収しといてくれない?」
「え?」
「俺のなんだよね」
「そうだったんですか?」
「うん、この前教えた時に練習用に貸したんだけど。返してもらうの忘れてて」
「……なるほど」
俺の話に相槌を打つ。
意味深な視線。
「言っとくけど別にズルとかしてた訳じゃないよ?」
「分かってます。そもそも事前にそれぐらいはチェック入りますから」
「そっか」
「でも、どうして」
「今持ってたら、ちょっと危険な様な気がして」
「危険?」
「ズルじゃ無いって話と矛盾するかもしれないけど。想像以上に有用だって分かったから」
「そんなすごい杖なんですか?」
「そうは思ってなかったけどね。多分狙われる気がする」
「……まぁ、わかりました」
納得してくれた。
俺が言っても話拗れる気しかしないしな。
ただでさえややこしいことになってるし。
任せよう。
あれだな、これ。
犯人についてある程度事情把握してますって。
そんな自白をしてるようなものだ。
初めに惚けた意味が無い。
まぁ、ノア相手だしな。
つい話しすぎてしまっった。
だからだろうか。
ジト目。
ノアからの視線が痛い。
「えっと、何か?」
「まだまだ色々と隠していそうだなって」
「あはは」
そりゃ、勘付かれますよね。
何も知らないにしては言動がおかしいし。
自覚はしています。
……あれ?
このまま質問漬けに合うかと思ったけど。
これ以上聞いてこない。
それどころか、ジト目が笑顔に戻って。
なんで?
逆に怖いんだけど。
「えっと……、ノアさん?」
「ん?」
「気にならないの?」
「そりゃ、気になりますけど」
「けど?」
「先輩から話してくれるの待とうかなって」
「どうして」
「僕を受け入れてくれて」
「まぁ、」
「王都までわざわざ来てくれて」
「呼ばれたからね」
「とっても嬉しかったので」
健気だ。
洗いざらい話してしまおうか。
そう心が傾く。
魔性っぷりに磨きが掛かってる気がする。
まぁ、どっちにしろ落ち着いてからだな。
ノアは忙しいだろうし。
「じゃあ、俺は大丈夫だから」
「はい」
「色々忙しいだろ?」
「ですね」
「大変だと思うが、頑張って」
あまり拘束するのもあれだしね。
トラブルでイレギュラー対応の嵐だろうな。
地獄である。
ちなみに俺はどうした物か。
学園祭終わったら帰る予定だったんだが。
この有様。
まぁ、ノアの話を鵜呑みにするなら。
中止ではなく延期になったらしいし。
次の開催まで。
ゆっくりしてもいいかな。
つまり、暇である。
事態の解決?
そんなの兵士に任せとけばいいのだ。
なんのために税金払ってると思ってるのか。
俺の場合。
大して納めても居ないが。
金も貰ってないのに働く気にはならん。
火の粉を振り払うだけならともかく。
それ以上はね。
お賃金が欲しい。
それに、俺が何もしなくても。
多分なんとかなるでしょ。
「え、ロルフ君!?」
不意に名前を呼ばれた。
ノアの声じゃない。
そもそも君付けなんてされないし。
振り返る。
……こいつ、誰だ??