清算
事前に毒を飲んでいて、それで死んでしまった。
って事でどう?
隊長は、少し考えるような仕草をした後。
なんでも無いようにそう言い放った。
一瞬何のことか分からなかったが。
どうやら、カバーストーリーまで作ってくれるつもりの様だ。
俺が捕まったの。
少なくとも詰所の兵士は知ってるだろうからね。
これを共有するつもりなのだろう。
リーダーがどう言おうとミスである事に変わりはない。
それもかなり大きなミス。
辞めさせないだけではなく、拷問官の組織内での立場まで守ってくれるつもりとは。
本当甘いな。
腐ってやがる。
でも、中にいる分には相当居心地いいんだろうな。
「にしても、お前がそこまで真面目な奴だとは思わなかった」
「そうですか?」
「ずっとまともに喋らなかっただろ」
「ま、まぁ……」
「会話も本当に必要最低限って感じだったし」
案の定キャラが違ったらしい。
やっぱ、寡黙系のキャラだったか。
予想通りと言えばそう。
でも、辞職する都合上そういう訳にもいかないしな。
黙ってても話が進まない。
と言っても、これでも意識はしてたんだけどね。
これぐらいなら。
寡黙なやつでも喋るだろって予想の元。
下手から辞職を申し出たのだ。
常識で考えればその方が自然だろうと思って。
どうも、そんな必要すらない。
身内に駄々甘の組織だったらしいが。
ってか、こいつ。
俺を拷問してる時はどちらかと言えば饒舌だったんだけどね。
寡黙どころか、まともに喋らないって……
仕事人って感じでも無いんか。
外様だからな。
隊長は甘そうだし、兵士同士は中良さげだし。
実は、居心地悪かったのかもしれん。
それに、拷問なんて仕事をしているのだ。
日常的に、人体を痛めつける仕事。
そりゃ、おかしくもなる。
こいつにとって日常でも。
いや、日常になってるからこそスイッチが入るのだろう。
仕事中にキャラが変わるのも納得は出来る。
俺は全然トレース出来て無かった訳だが。
寡黙方向で助かったわ。
仕事に真面目だったけどミスしたから動揺した。
そういう事で。
これが逆だったらね。
少し喋っただけでバレてた説ある。
違和感は覚えられてる訳だが。
バレさえしなければ、全くもって問題は無いのだ。
「ま、なんだ。せっかくだし飲みにでも行くか?」
「……はい」
にしても、どうしたものか……
仕事辞められる気配がないんだけど。
それどころか別方向へ。
飲みとか。
むしろ以前の拷問官より仲が深まりかけてるんじゃ。
あれ?
このまま働く感じ?
案外いい職場説あるし、ありなのでは。
腐ってはいるけど。
中にいる分には、前世で働いていたブラック企業もびっくりの白さ。
まぁ、仕事内容が拷問ってのが玉に瑕だが。
……いやいや。
俺はもうまともな労働をするつもりはないのだ。
それに、絶対面倒なことになるって。
ここは誤魔化せても。
拷問官なんて他と繋がりあるだろうし。
マフィアとは限らないが、それに類する何か。
そっち方向で絶対バレる。
この場だけ適当に誤魔化して。
飛ぶのが吉か。
違和感やばいだろうが。
どうしたものか。
もともと行き当たりばったりだったからね。
色々と、完全に失敗した気がする。
「隊長、失礼します」
ドアがノックされ、兵士が入ってきた。
少し急いでるような。
焦ってるような。
どことなく、そんな雰囲気を感じる。
途中、俺の事が目に入ったのだろう。
一瞬固まっていた。
やっぱり。
この拷問官浮いてたらしい。
ここに居るのが珍しいとでも言いたげ。
しかし、それどころではなさそうだ。
すぐに視線を逸らす。
気にはなってはいそうだが。
もっと、大事な用件なのだろう。
「本部からお客様が」
「なに?」
隊長が予想外とでもいった反応。
「すまんが、部屋を開けてもらっていいか」
「あ、はい」
追い出されてしまった。
まぁ、ここだけやたら豪華だしな。
応接間も兼ねてるのかもしれない。
本部か……
兵士のって事かな?
俺のことをすでに報告してたのだろうか。
事件の情報を求めて。
にしては早い様な気もする。
自白も取れてない訳だし。
まぁ、現在進行形で大事件起こってる訳だからな。
他の用事で来ても。
別におかしいって事はないが。
お客様って言い方だと連絡とかとは違いそう。
考えても仕方ないか。
俺は未来のことを考えなければ。
部屋から出て、集団とすれ違った。
例のお客様だろう。
早くね?
今さっき、兵士から伝言来たばかりなのに。
すぐ外にいたらしい。
一目見て、装備のレベルが違う。
これが本部の兵士か。
へぇ。
予算とかもかなり潤沢なんだろうな。
……って、あれ?
一緒にいるのって例の女教師じゃね。