ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

124 / 267
清算 7

 2人からの攻撃が止み、戦闘が完全に停止した。

 

 側から見て、明らかに不自然な行動。

 周囲がにわかに騒がしくなる。

 決着がついたわけでも無いのに。

 間合いを図るでもなく、互いに戦意どころか武器すら納めてしまったのだから。

 違和感は必至。

 

 厄介ごとを増やす訳にもいかない。

 ノア相手にこれ以上誤魔化すのは不可能だとして。

 知られる人間は抑えたい所。

 

 拷問官殺して乗っ取ったとか、明確な犯罪行為だし。

 冤罪は解けたけど別件で逮捕ね、は。

 ごめんだ。

 余計なちょっかいが入る前に、距離を詰める。

 勘違いをされたくはない。

 ゆっくりと歩いて。

 向こうも攻撃するつもりはなさげ、部屋に入り取り敢えず扉を閉めた。

 

 拷問部屋に俺とノアと女教師の3人きり。

 先生はさっきの言葉を聞きつつも、まだ警戒が抜けない様子。

 

 反対に、ノアは俺だと確信してるのだろう。

 警戒心を全く感じない。

 それどころか兜すら脱いで。

 素顔を晒して見せる。

 ただし。

 表情は笑顔ではなく、何か言いたげな視線を感じる。

 

 バレちゃったからには仕方がない、か。

 ここから誤魔化すとか不可能だし。

 いや、厳密にいえば無理では無いのだけど。

 例えば全員殺して逃げるとか?

 

 本末転倒も良いところだ。

 ノアとの関係も含めて、現状を捨てたくないから。

 現状を気に入ってるからこそ。

 上手いこと逃れようと悪戦苦闘していた訳で。

 俺はそこまで終わっていない。

 これを捨てるなら。

 普通に、ただ逃げてれば良かったのだ。

 

 詰所どころか、王都ごと全て吹き飛ばして。

 全部なかったことにしたい。

 そんな気分。

 それは否定しないが。

 流石に、ここから逃げ出す訳にも行くまい。

 

 我ながら結構上手く変装出来たと思ったんだけどね。

 顔だけじゃダメか。

 

 そもそも、言動からしてトレース出来てなかったのだ。

 変装ではなくただのコスプレでしかなかった。

 隊長とか上手く騙せてたのも。

 振り返ってみれば、運が良かっただけ。

 正直、いつバレてもおかしくなかった様な気がする。

 

 ましてやノア相手。

 俺以上に俺の体に詳しそうな奴を騙すのに。

 コスプレ程度で押し通せると思う方がおかしいわな。

 

 首の辺りを探って手を掛ける。

 そこから、薄皮一枚。

 内側に指を入れ。

 ビリビリと、レザーマスクを破く。

 

「ひっ」

 

 女教師の怯えるような表情。

 ご馳走様です。

 って、そんな事言ってられる状況では無いのだが。

 

「じゃーん、実は生きてました!」

 

 ……

 

 沈黙。

 きつい。

 

 女教師はただただ驚いている。

 元々、死体が俺じゃないってのも半信半疑だったろうし。

 本当だったのかと。

 そして。

 ノアは相変わらずジト目のまま。

 

 いたたまれない空気。

 これは、一言目をちょっと間違えたかもしれない。

 今になって後悔が……

 

 一拍置いて、ノアが突っ込んでくる。

 咄嗟に身構えるも、剣に手を掛ける様子も無い。

 手ぶら。

 そのまま、抱きついてきた。

 

 痛い。

 

 別に攻撃された訳ではないのだが。

 相手はフルアーマー。

 それがかなりのスピードで突っ込んでくればね。

 金属の塊に突撃されたも同義だ。

 当然である。

 

 俺の反応に悪い笑みを浮かべる。

 これ、多分わざとだな。

 いいけどね。

 文句を言える立場でも無いし。

 

 それに、俺のために本気で怒ってくれてたみたいだから。

 流石の俺でも罪悪感ぐらい覚える。

 

「心配、したんですよ」

 

 抱きつかれたまま、耳元で。

 半分泣いてるような声。

 そこまでか。

 いや、偽物とはいえ死体まで見ちゃったんだもんな。

 

「……ごめん」

 

 腕を背中に回す。

 

 カビ臭く、他にも不快な匂いが漂う拷問室。

 伝わって来る感触も鎧の硬い物。

 でも。

 どこか暖かい。

 ふと、後ろから柔らかいものが。

 女教師か。

 ノアごと俺の事を抱きしめてるらしい。

 

「生きてて良かったです」

 

 震える言葉に何処か安堵した様な声色が混ざる。

 そこまで気にされてたとはな。

 いや、ここまでのやり取りでなんとなく分かってはいたのだが。

 こう抱きしめられると。

 その想いが直に伝わってくるような感覚。

 

 さっきも思ったが。

 俺にとっては今日で会ったばかりの相手。

 当時の事なんてほぼ何も覚えてないし。

 初対面みたいなものだ。

 

 ホテルの約束こそしたけど、直前で捕まって。

 別に肌を重ねたわけでもない。

 だから、そんな相手にこうされるのは不思議な気分。

 

 3人で抱き合って。

 なんか、感動的な雰囲気すら漂う。

 

「……で、先輩は何でこんな事したんですか?」

 

 しばらく抱き合っていたのだが。

 少し間を置いて。

 ノアに正面から見つめられ、そんなことを言われた。

 指の先には死体。

 変身魔法掛けて俺に似せたやつだ。

 

 このままなぁなぁで流せたりとか……

 そんな、淡い期待を抱いてたりした訳だけど。

 ま、無理ですよね。

 

 ノアの視線が逃さないと言わんばかりに俺を射抜く。

 

「……え、えっとですね」

 

 突然、衛兵に冤罪でとっ捕まって。

 罪を認める訳にもいかず。

 かと言って、拷問とかされたくなかったし。

 自力で脱獄しようと考え。

 ただ、そのまま脱獄しても支障が出るから。

 一旦俺は死んだことにして。

 拷問官に変装。

 穏便に脱獄して。

 ほとぼりが冷めた所で生き返ろうかなって。

 一応、そういう計画だったのだけど。

 

 色々説明足らずだが。

 喋るたびにノアからの視線がキツくなっていくのだ。

 全部話すと。

 これ、とんでもなく怒られるんじゃって気がして。

 大体こんな感じって事で。

 

 一通り話し終えるもノアは無言のまま。

 沈黙が流れる。

 

 怒られないのはいいが、無反応ってのも。

 それはそれで怖いって言うか。

 雰囲気的に。

 ノアにも女教師にも、かなり呆れられてそうな予感。

 

「あ、あの……」

「ん? まだ、何か言い足りない事があるんですか。先輩」

「こうなったのも、ですね」

「はい」

「全部、暴動を起こした犯人が悪いと思うんですよ!」

 

 冷めた視線を感じる。

 

 別に言い訳しようって訳じゃなくて。

 いや、本当に。

 

 国民としてまず目の前の暴動を解決しないとでしょ?

 これのせいで冤罪被った訳だし。

 個人的な被害も受けたのだ。

 冤罪で捕まらなきゃ、当然こんな事にもならなかった訳で。

 

 奴らが悪い。

 だから、諸悪の根源を捕らえて。

 それで丸く収まるって事で、……どう?

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。