2人からの攻撃が止み、戦闘が完全に停止した。
側から見て、明らかに不自然な行動。
周囲がにわかに騒がしくなる。
決着がついたわけでも無いのに。
間合いを図るでもなく、互いに戦意どころか武器すら納めてしまったのだから。
違和感は必至。
厄介ごとを増やす訳にもいかない。
ノア相手にこれ以上誤魔化すのは不可能だとして。
知られる人間は抑えたい所。
拷問官殺して乗っ取ったとか、明確な犯罪行為だし。
冤罪は解けたけど別件で逮捕ね、は。
ごめんだ。
余計なちょっかいが入る前に、距離を詰める。
勘違いをされたくはない。
ゆっくりと歩いて。
向こうも攻撃するつもりはなさげ、部屋に入り取り敢えず扉を閉めた。
拷問部屋に俺とノアと女教師の3人きり。
先生はさっきの言葉を聞きつつも、まだ警戒が抜けない様子。
反対に、ノアは俺だと確信してるのだろう。
警戒心を全く感じない。
それどころか兜すら脱いで。
素顔を晒して見せる。
ただし。
表情は笑顔ではなく、何か言いたげな視線を感じる。
バレちゃったからには仕方がない、か。
ここから誤魔化すとか不可能だし。
いや、厳密にいえば無理では無いのだけど。
例えば全員殺して逃げるとか?
本末転倒も良いところだ。
ノアとの関係も含めて、現状を捨てたくないから。
現状を気に入ってるからこそ。
上手いこと逃れようと悪戦苦闘していた訳で。
俺はそこまで終わっていない。
これを捨てるなら。
普通に、ただ逃げてれば良かったのだ。
詰所どころか、王都ごと全て吹き飛ばして。
全部なかったことにしたい。
そんな気分。
それは否定しないが。
流石に、ここから逃げ出す訳にも行くまい。
我ながら結構上手く変装出来たと思ったんだけどね。
顔だけじゃダメか。
そもそも、言動からしてトレース出来てなかったのだ。
変装ではなくただのコスプレでしかなかった。
隊長とか上手く騙せてたのも。
振り返ってみれば、運が良かっただけ。
正直、いつバレてもおかしくなかった様な気がする。
ましてやノア相手。
俺以上に俺の体に詳しそうな奴を騙すのに。
コスプレ程度で押し通せると思う方がおかしいわな。
首の辺りを探って手を掛ける。
そこから、薄皮一枚。
内側に指を入れ。
ビリビリと、レザーマスクを破く。
「ひっ」
女教師の怯えるような表情。
ご馳走様です。
って、そんな事言ってられる状況では無いのだが。
「じゃーん、実は生きてました!」
……
沈黙。
きつい。
女教師はただただ驚いている。
元々、死体が俺じゃないってのも半信半疑だったろうし。
本当だったのかと。
そして。
ノアは相変わらずジト目のまま。
いたたまれない空気。
これは、一言目をちょっと間違えたかもしれない。
今になって後悔が……
一拍置いて、ノアが突っ込んでくる。
咄嗟に身構えるも、剣に手を掛ける様子も無い。
手ぶら。
そのまま、抱きついてきた。
痛い。
別に攻撃された訳ではないのだが。
相手はフルアーマー。
それがかなりのスピードで突っ込んでくればね。
金属の塊に突撃されたも同義だ。
当然である。
俺の反応に悪い笑みを浮かべる。
これ、多分わざとだな。
いいけどね。
文句を言える立場でも無いし。
それに、俺のために本気で怒ってくれてたみたいだから。
流石の俺でも罪悪感ぐらい覚える。
「心配、したんですよ」
抱きつかれたまま、耳元で。
半分泣いてるような声。
そこまでか。
いや、偽物とはいえ死体まで見ちゃったんだもんな。
「……ごめん」
腕を背中に回す。
カビ臭く、他にも不快な匂いが漂う拷問室。
伝わって来る感触も鎧の硬い物。
でも。
どこか暖かい。
ふと、後ろから柔らかいものが。
女教師か。
ノアごと俺の事を抱きしめてるらしい。
「生きてて良かったです」
震える言葉に何処か安堵した様な声色が混ざる。
そこまで気にされてたとはな。
いや、ここまでのやり取りでなんとなく分かってはいたのだが。
こう抱きしめられると。
その想いが直に伝わってくるような感覚。
さっきも思ったが。
俺にとっては今日で会ったばかりの相手。
当時の事なんてほぼ何も覚えてないし。
初対面みたいなものだ。
ホテルの約束こそしたけど、直前で捕まって。
別に肌を重ねたわけでもない。
だから、そんな相手にこうされるのは不思議な気分。
3人で抱き合って。
なんか、感動的な雰囲気すら漂う。
「……で、先輩は何でこんな事したんですか?」
しばらく抱き合っていたのだが。
少し間を置いて。
ノアに正面から見つめられ、そんなことを言われた。
指の先には死体。
変身魔法掛けて俺に似せたやつだ。
このままなぁなぁで流せたりとか……
そんな、淡い期待を抱いてたりした訳だけど。
ま、無理ですよね。
ノアの視線が逃さないと言わんばかりに俺を射抜く。
「……え、えっとですね」
突然、衛兵に冤罪でとっ捕まって。
罪を認める訳にもいかず。
かと言って、拷問とかされたくなかったし。
自力で脱獄しようと考え。
ただ、そのまま脱獄しても支障が出るから。
一旦俺は死んだことにして。
拷問官に変装。
穏便に脱獄して。
ほとぼりが冷めた所で生き返ろうかなって。
一応、そういう計画だったのだけど。
色々説明足らずだが。
喋るたびにノアからの視線がキツくなっていくのだ。
全部話すと。
これ、とんでもなく怒られるんじゃって気がして。
大体こんな感じって事で。
一通り話し終えるもノアは無言のまま。
沈黙が流れる。
怒られないのはいいが、無反応ってのも。
それはそれで怖いって言うか。
雰囲気的に。
ノアにも女教師にも、かなり呆れられてそうな予感。
「あ、あの……」
「ん? まだ、何か言い足りない事があるんですか。先輩」
「こうなったのも、ですね」
「はい」
「全部、暴動を起こした犯人が悪いと思うんですよ!」
冷めた視線を感じる。
別に言い訳しようって訳じゃなくて。
いや、本当に。
国民としてまず目の前の暴動を解決しないとでしょ?
これのせいで冤罪被った訳だし。
個人的な被害も受けたのだ。
冤罪で捕まらなきゃ、当然こんな事にもならなかった訳で。
奴らが悪い。
だから、諸悪の根源を捕らえて。
それで丸く収まるって事で、……どう?