ただでさえ冷たかった視線が、氷点下まで低下した気がする。
マズい。
今、拷問室の中だからね。
ほら、ここで長居するものアレじゃん?
そこは理解してくれた様子。
セーフ。
後が怖いが。
これまでもなんだかんだ適当に生きてこれた訳だし。
そういうのは考えない方が幸せに生きれる。
現実逃避?
……否定はしない。
取り敢えず、一旦外に出たい所。
しかし、当然ながら扉の向こうには兵士が相当数。
これ以上面倒ごとは増やしたくない。
すでに違和感だらけだろうが。
俺の身に、これ以上罪が増えるのは避けたいのだ。
我ながら酷い保身である。
殺すのは、別に出来なくはないのだ。
皆殺しにして仕舞えば。
一旦、目の前の問題に関しては解決ではある。
しかし、ノア達の手前あまりその選択肢はあまりとりたくない。
ただでさえ白い目で見られてる自覚があるのだ。
んな事をすれば……
この視線がより強化される予感しかしない。
ノアも隊長の首斬り飛ばしてた気がするけど。
アレは緊急事態だったからと言うか。
俺を殺されたと勘違いしての行動であって、事情が違う。
2人とも、基本は善人なのだ。
さっき言った理由。
保身で兵士皆殺しはアウトでしかない。
じゃあどうするのかって話になるが。
幸い、貴族様が一緒にいる。
俺とノアだけじゃ力づく以外の選択肢が取りにくかっただろう。
Aランクと言っても。
直接的な権力がある訳じゃないしね。
あくまで、力があるという事実によって周囲が配慮する形。
女教師に頼るしかないか。
ノアもそうしてここまで入って来たわけだし。
どうにかして誤魔化して貰おう!
詰所への強制的な立ち入りを許可する書類用意してたのとか。
本部の兵士も引っ張ってこれてるし。
それもかなり短時間の間に。
詳しく知らないが、かなりの強権を使えるっぽい。
多分、なんとかなるでしょ。
……え、なんとかなるよね?
ならないってなると。
これ、本格的にマズいんだけど。
「という事で、どうですかね」
「えーっと……」
感情が追いついてないらしい。
そりゃそうだ。
昔、同級生が退学になって。
救えなかったとずっと後悔してたその人にたまたま出会い。
目の前で冤罪で捕まり。
今度こそはと、強引にでも助けに来たら。
死んでて。
でも、やっぱり生きてて。
当然だとは思う。
しかし、頼れる相手が彼女しかいないのだ。
いや、チートフル活用すれば。
穏便な方法でどうにかできる方法もあるかもしれないが。
それは危険。
ここまで全く上手くいっていないし。
自分に期待するのは辞めた。
俺はただの飲んだくれのおっさんなのだ。
根本的に、平凡である。
こういうのには向いていない。
とは言っても、流石に唐突が過ぎたか。
「やっぱ無茶振りですかね?」
「まぁ」
「……うっ、どうすれば」
「でも……」
「へ?」
「無茶振りされてあげます!」
「いいんですか?」
「だって、どのみち出なきゃダメですもんね」
「……さすが先生!」
ちょっと困りつつも、受け入れてくれた。
なんか、良心に付け込んでる様な気がしないでもないが。
どうしようもないのは本当だし。
頼るしかない。
突貫なのは変わらないけど。
少なくとも、俺が色々こねくり回すよりはましだろう。
と思ったら、躊躇なく扉を開け放った。
え!?
視線が集中するのを感じる。
当然だ。
兵士の1人が突然隊長の首を切り飛ばして。
拷問官が応戦して。
2人まとめて拷問室に消えて行ったのだ。
出て来たのは、先に中にいた貴族と兵士。
そして。
応戦していた拷問官ではなく、拷問されてたはずの容疑者。
そりゃ、視線も集めるって物だ。
これ、大丈夫なんか?
本部の連中からの視線はもちろん。
衛兵に関しては特に。
隊長は生首になってしまったが、他にも俺の報告を聞いたやつはいるはずで。
容疑者を拷問中に殺してしまったと。
なんか儀式でもして死者蘇生して。
拷問官はその生贄に。
冤罪どころか、教会の連中から異端認定まで受けそうな気が……
いや、それは飛躍しすぎか?
まぁ、死亡の確認とかはされてないし。
俺が報告をしただけ。
衛兵の奴らは。
その報告を聞きはしても、自分の目で見てはいない。
そう考えれば案外平気な説もある。
だから、女教師はそのまま扉を開け放った。
いちいち小細工する必要もないと。
そういう事?
まぁ、俺が色々したのも。
アレ結局墓穴掘るだけだったからね。
こういう思い切りも大切なのかもしれない。
一部、死亡を確認した人間もいるかもしれないけど。
居たとしても数人って所。
冷静に考えてみると、彼らが死んでたと主張したところでだ。
他の人間はそもそも死者蘇生とかそんなこと信じないか。
時間的にしっかり確認する間もなかったし。
仮にその証言が嘘じゃないと判断されたとしても、勘違いで片付けられるのが関の山。
俺の報告も同様。
非現実的なのだ。
そんな魔法、英雄譚の中のお話。
多分、俺以外に出来るやつもいない。
拷問が行きすぎて殺した。
そう思い込んでただけで実際は生きていた。
こういう理解になる可能性が高い。
そして、容疑者に用事があった貴族が訪れて。
強力な回復魔法。
もしくはそれに類する魔法道具を使用し、瀕死の状態から回復。
これぐらいなら、まぁ。
別に違和感のないストーリーか。
部屋の奥の方に転がってる死体。
これ、俺のままはおかしいな。
今のうちに魔法を解除しておこう。
偽装の為の傷はそのままだけど。
そもそも、さっき魔法で真っ二つにしちゃったし。
これぐらいは誤差みたいな物だ。
隊長が殺されて、その後の戦闘も見られてるし。
さっきの戦闘の結果殺された。
理由も。
容疑者を殺しかけた事の責任を取らされて、とか。
そういう判断で落ち着くはず。
もう後戻りもできないし、行くか。
ノアもいつの間にか兜を被り直していたらしい。
自然に彼女に付き従う。
やはり、中身は秘密なのだろう。
ゴタゴタに紛れて、女教師の強権で兵士に紛れ込んでるだけって感じ。
俺といえば。
一応容疑者ではあるからね。
ほとんど無意味ではあるが、ノアに拘束されてる形を取る。
周囲から視線こそ感じつつも、誰も話しかけてこない。
隊長殺されて。
拷問官殺されて。
そりゃ怖いか。
責任が自分の方まで飛んできても敵わんし。
そのまま、驚くほどすんなり詰所を出た。
むしろ、早く出て行けという圧すら感じたレベル。
兵士たちに護衛されて。
まるで貴族気分。
まぁ、実態としては連行なのだが。
どう思われてるのだろう。
重要参考人とか?
そういう感じだろうか。
だから、殺しかけた拷問官が殺されたし。
存在を隠そうとした隊長が首を刎ねられた。
結構無理やりな気もするが。
どれも、結局想像の域を出ない物だ。
俺もそうだが、女教師も。
あまり、よくは思われていない気がする。
推定無罪とかこの世界に無いだろうし。
ってか、前世でもほぼ機能していなかった。
強権まで使って。
わざわざ容疑者を連れてきた訳で。
彼女の評判に傷が……
申し訳ない。
こればっかりは仕方ないことではあるのだが。
どうしようもなかったし。
そもそも、助けに来てくれた時点でそれは免れなかっただろう。
でも、一応の罪悪感ぐらいはある。
ってか、改めて。
俺、余計なことしかしてないよな。
待ってれば全部解決したのに。
拷問官も普通に仕事してただけではある。
無論違法なのは本当で、グレーどころか真っ黒なのだけど。
公然の秘密ぐらいになってたからな。
殺して。
さらに顔の皮まで剥いで。
そこまでの悪人だったかってのは微妙な所だ。
隊長もノアに首切り飛ばされて。
助けに来てくれた2人の心にはダメージを与えて。
最後には。
女教師の評判すら下落させるという。
……我ながら酷いゴミムーブ。
考えなしで動くと碌なことにならんな。
今回の事でよく理解したわ。