平常
店を出ると、高かった日がすっかり傾いていた。
入る前は閑散としていた通りも、それらしい女性や欲に塗れた男たちでまばらながら。
人通りも増えて来る。
あの頃、まだ娼館で働いていた時代なら丸々一晩買っていたのだろうけど。
彼女も今や一国一城の主。
本業を放置してって訳にもいかないのだろう。
それでも予定外に時間を消費したが、お店の開店前に解散となった。
帰る前にこの辺りでもう一飲み、そう行きたい所ではあるが。
いかんせん、財布が軽い。
これまでなんだかんだと浪費して来てはいた。
しかし、酒屋で土産を買った段階ではまだそれなりに残っていたはず。
それが何故か。
別に彼女の体に使った訳ではないのだ。
偽りなくサービスであったし。
健全な消費活動の結果。
ただ、空腹は最高のスパイスと言いますか。
なるほど、試着だなんだと言って彼女が身に付けてるのを見ると。
その姿で誘われてしまうと。
全てが無性に良く見えてしまって。
進められるがまま、金の許す限り商品を買い続けてしまった。
気付けば持ち金もすっからかんである。
流石。
王都に1人出て来て、女手1人で店やってるだけあるわ。
商売上手らしい。
正直、そこらの店で女の子一晩買い切る方が全然安かったとは思う。
王都の方が相場が上とはいえ。
だとしても、高いぐらいの買い物をしてしまった。
ま、後悔はしてないけどね。
もちろん、進められた商品が良かったってのもそうだけど。
出来る女。
これを抱いてたと思うと。
終わった後。
軽くなった財布を持ちながらでも十分なまでの充実感を感じる。
それに、今回の事だけではなく。
温泉街の店では気に入って何度も指名していたのだ。
あの記憶が。
より素晴らしい物になった。
飲み歩く金も無いし、大人しく帰宅。
ノアの家に帰るってのも、我ながらどうかと思うけど。
金がないのだから仕方がない。
これまで昨日を除いて一応ホテル泊まってたんだけどね。
ま、拒否られることもないだろうし。
好意に甘えるとしよう。
フィオナからのヒモ発言。
昨日言われた時は、否定も出来ない程度に思っていたが。
もはや、真に的を得てる気すらして来た。
家には俺1人。
ノアもフィオナも多分忙しいのだろう。
ってか。
フィオナは普通に自宅帰るか。
……明日、王都を出る。
そう思うとここも中々名残惜しいな。
散々酷い目にも会ったけど。
それだけでなく他にも色々あったし。
総じて、いい思い出だ。
〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜
「……ください。ロルフ先輩、起きてください」
「ん?」
「なんでこんな所で寝てるんですか?」
目を開けると、ノアの顔がすぐ側にあった。
いつの間にか眠っていたらしい。
酒飲んでヤることヤって、そりゃ眠くもなるか。
寝返りを打とうとして。
ふと、ベッドがやたら硬い事実に気づく。
あれ?
昨日寝た時は、もっと柔らかかった様な。
などと思案し。
すぐ側に机の足を発見。
ここから導き出される答え。
どうやら、床で眠ってしまっていたらしい。
危ない危ない。
俺はもういい歳のおっさんなのだ。
チートボディーじゃ無かったら。
この体。
しばらくは使い物にならなくなってた所。
眠気まなこを擦りつつ、窓の外に視線を移す。
かなり暗い。
数時間程度は寝てたのだろうか?
かなりの継続ダメージ。
1週間とか。
そのぐらいは引きずりかねない。
もう、大怪我と言っても差し支えないレベルだ。
「ごめんごめん、ちゃんとベッド行くから」
「いや、そんな暇無いですよ」
「へ?」
「フィオナさんがドラゴン便用意してくれてるんで」
「もう?」
「はい。ほら、早く行きましょ」
早くね?
明日とか何とか言ってなかったっけ?
それがその日の夜とか。
よくもまぁ、そんなスピード感で話を通せたな。
まだ半日経ったかどうか……
あぁ、そう言う事。
「ちなみ、聞きたい事あるんだけど」
「どうかしましたか?」
「今って夜だよね」
「分類的には早朝です。ほら、もうすぐ朝日も上りますよ」
などと言いながら、窓の外を指差すノア。
外が暗いの、夜が更けて来てるのではなく早朝だかららしい。
なるほどなるほど。
まぁ、これまでの疲れもあるし。
今日。
じゃなくて昨日か。
なんだかんだ体力消費したからね。
寝落ちしてぐっすり、床上で一夜を越してしまったと。
ドラゴン便がこんな時間なのは。
無理やり用意してくれたからだろうな。
ってか、ノアも今帰って来たって事か。
こんな所で寝てるの見つけたら、ベッドまで移動させてくれそうだし。
そう言うことだろう。
多分。
暴動の件で、諸々あったのだろう。
表情を見ると。
確かに、疲れが見える気がする。
何と言うか、遅くまでお仕事お疲れ様です。
なんて事を考え、うだうだしてたせいか。
無理やり抱き起こされてしまった。
予想だが、あまり時間の余裕もないのだろう。
無理やり取ってもらった形だしね。
時間的に、日が落ちる前にねたはずで。
睡眠時間はバッチリのはずなんだけど。
暗いせいか。
どうも、あまり目が覚めないのだ。
「……ん? あの〜、ロルフ先輩?」
「はい」
「昨日、僕が忙しくしてる間。何してました?」
ノアにジト目送られた。
なぜ急に?
昨日は、普通に飲み歩いてその後は昔馴染みの相手とよろしく……
うん。
口は開かない方がいいな。
あ、なるほど。
俺抱き起こすために密着したから、それで気づいたのか。
ま、床で寝落ちしてたぐらいだもんな。
そりゃ匂いも残ってるか。
しかし、言い訳もしない。
ノープログレム。
王都に来てから色々迷惑はかけたが、清算したからね。
釣り合ってるとは思わないけど。
まぁ、向こうがお仕置きと称してやってくれた訳だし?
それで一先ず解決。
無駄に引きずり過ぎて関係ギクシャクするのも。
それはそれで良く無いかなって。
弱みがなければ、俺は無敵なのだ。
俗に言う無敵の人である。
開き直り?
無敵の人にそんな正論は通用しない。
「……黙秘で」
って訳で、これで突き通す。
「ま、先輩ってそういう人ですもんね」
「そゆこと」
「別に褒めてはないですからね!」
半分引きずられながら、家の外へ。
馬車が停まっていた。
そのまま、乗り込む。
どうやら王都の外まで運んでくれるらしい。
実に、至れりつくせりである。
しかし、この馬車貴族用だろうか?
港町までの間、乗っていた物とは全くの別物。
椅子が柔らかいのは当然として。
サスペンションでも取り付けられているのか。
馬車自体が全く揺れない。
道が整備されている影響も当然あるだろうが。
とにかく。
乗り心地が、同じ乗り物とは思えない。