馬車が止まり、目的地に到着したのだろう。
肩を揺すられ目が覚めた。
元々眠かったのもあり。
これとは別物と感じていた安馬車ですら寝落ちしていたのだ。
それほど距離がある訳でも無かったが。
まぁ、落ちない訳もなく。
すやすやと、心地よくこの隙間時間を満喫。
昨日からずっと忙しかったであろう。
ノアから、俺への何か言いたげな視線は感じつつ。
眠かったのだ。
これも仕方ないと内心で自己弁護を図る。
「あ、ロルフくん! おはようございます」
気怠げな体を動かし、下車。
すると、フィオナがテンション高めに迎えてくれた。
詳しい場所は知らないが。
わざわざ馬車で移動するぐらいだ。
おそらくは王都の外れ。
ドラゴン便の用意だけではなく。
フィオナ本人が、お見送りに来てくれるとは。
表情を見ると、やはり疲れが見える。
ノアと同じ。
昨日からほぼ寝ていないのだろう。
そりゃ、そうだ。
学園で講師をやってるノアでそれだけ忙しいのだから。
学園理事。
その上で王宮魔術師も兼任して。
騒動を解決したって部分ではノアもフィオナも同条件。
少し考えれば分かることだ。
諸々の処理の量も多くなるだろう。
ここから更に。
俺のドラゴン便の用意までお願いしちゃって。
忙しくもなるのも当然。
経歴の時点で、仕事の出来る人間だと察してはいたが。
これ、想像以上だな。
少し無理させ過ぎてしまっただろうか?
でも、ドラゴン便云々に関しては向こうが言い出した事だからなぁ。
既に済んだ事だし。
ありがたく受け取るのが一番か。
多分、その方がフィオナとしても気持ちがいいだろう。
「わざわざ、ありがとね」
「いえ。ほんのお礼ですから」
ドラゴン便に関しても、もう到着済みらしく。
少し奥。
開けた場所で休んでる飛竜が目に入った。
俺が挨拶されてるのを見てか、御者らしき人も頭を下げる。
フィオナがお偉いさんだからね。
常識的に考えてそれが安牌。
まさか、ただの下級冒険者に頭下げてるとは思うまい。
とは言え相手は客だし。
身分関係無く露骨に雑な対応する訳にも行かないだろうが。
にしても、予想外ではあるだろうなぁと。
どちらも、こんな朝早くからご苦労な事で。
今日はフル回転の予定なのだろう。
ここから休みなく一日中稼働。
稼ぎ時だ。
ま、嬉しい悲鳴って奴かね。
飛竜に関しては。
全然嬉しくもない、ただの悲鳴をあげることになるかもしれないけど。
おそらく、時間としてもそこまで余裕って事もないだろう。
ただでさえ無理言ってもらってる訳だし。
馬車から降りた流れで、そのまま乗り込もうとして。
あ、そうだ!
一つ、やり忘れてた物を思い出した。
乗り込む前に。
これ、帰る前に渡しとかないと。
次に王都来るのいつになるか分からないし。
せめてものお礼。
……としてはどうかと思うが。
まぁ、2人とも喜びそうな性格ではある。
「これ、帰る前に渡しとこうと思って」
「え、ありがとうございます」
フィオナが素直に喜んでくれてるけど。
そういう物じゃない。
渡すの、このタイミングじゃ無かったな。
と言っても。
ここ以外選択肢も無かったのだが。
仮に、昨日渡せるような時間的余裕があったとしても。
その時渡してたかどうか。
今日までに一晩ある訳で。
淫魔のことが頭をよぎり躊躇っていた可能性。
なら渡すなって話なんだが……
2人に責められたのも、なんだかんだで楽しかったのは楽しかったのだ。
ただ、連続じゃ体持たないってだけで。
故の先延ばし。
それこそ。
今度会った時に着て見せてほしい。
「勿論ノアにもね」
「……先輩、そんなマメな性格してたんですね」
フィオナとは反対に、意外とでも言いたげ。
失礼な反応である。
しかし、多分中身的にこっちの方が正しいのがなんとも。
2人に渡すもの渡したし。
これで全部かな?
「ロルフ先生!」
「ん?」
少し遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。
視線をやると、一台の馬車。
誰かと思ったらそこから顔を出すメスガキが見えた。
急がせたのか。
馬車の癖に珍しく激しめな鞭を入れられている。
可哀想なお馬さん。
「ギリギリ間に合った!」
「何か用事でも?」
「えっと……。ロルフ先生に、ちゃんとお礼言えてなかったと思って」
「お礼?」
「先生のお陰で決勝まで残れたし」
「あ、そうか」
「本当にありがとうございます」
色々と恩を感じてくれてるらしい。
この場所は。
多分、ノアかフィオナ辺りが教えたのだろう。
ギリギリなのも。
寝坊。
ってより、直前まで迷ってたのかもな。
わざわざお礼言うためにこんな時間に馬車走らせて。
律儀なやつだ。
確かに、なんかノアとの関係バレたりそっから俺が捕まったりで。
ちゃんと話せて無かったもんな。
教わったからって。
メスガキ、俺のせいでかなり散々な目に遭ってた気がするが。
それでも。
見送りに来てくれるらしい。
ってか、先生呼びに戻って?
いつの間にか、間男呼びから元に戻ってるし。
前の先生呼びも。
ほぼ、ノアに言われたから変えてただけで。
今は誰も何も言わないのに。
それだけ感謝してくれてるってことか。
結構ひどい状態だったっぽいしな。
詳しくは知らない。
そもそも、原因も放置したままなんだけど。
表情を見るに。
因果が逆になってしまったが。
多少、吹っ切れたのかもしれない。
「残り、決勝も頑張れよ」
「はい!」
混乱した王都で、本当にやるのかは知らないが。
ノアの言い分からして。
王国がテロに屈したと見られる訳にも行かないだろうし。
多少時間かかっても。
ま、おそらく開催はするのだろう。
ミスリルの杖を取り上げてしまった状態。
ここからどこまで伸ばせるか。
トラウマが消えたとは言っても、現状ではマイナスが減っただけ。
経験値は少ないのだ。
ここまでの勝ち上がりも装備で下駄はいた訳だし。
今のメスガキがどこまで通用するのか。
まぁ、頑張るしかないか。
いい表情をしている。
悪くない。
仮に負けても、前ほど腐ることもないだろう。
勝ちたい事情があるらしいが。
いざとなれば、ノアもフィオナも助けてくれる。
変に気負う必要は無い。
俺も。
頼られればやぶさかでもない。
「ロルフくん、これって……」
「……先輩??」
てっきり、今のやり取り見て。
教師らしく感動でもしてくれてるのかと思ったら。
何やら違いそう。
フィオナが手に何かを持って、困惑している。
まだ早朝。
薄暗いながら、キラリと光るソレ。
俺とメスガキのやり取りに暇だったのか。
いつの間にか、フィオナが渡した物を開封していて。
中身はセクシーなランジェリー。
困惑。
当然ノアも横で見て、現状に至ると。
「えっと、」
「ロルフ先生?」
俺と、ノアとフィオナの目が会い。
やっちゃったって感じ。
後から開けられて、呆れられてもいいやぐらいの物だったのだが。
まさかここで開封されるとは。
メスガキの反応。
一瞬、何か分からなかったのかキョトンとしていたが。
ぱっと見、キラキラしているし。
ジュエリーとかそっち系に見えなくもない。
分からない方に掛けるも。
どうも、そこまで純真無垢では無いらしく。
視線が痛い。
「この浮気者!!」
フィオナが持ってたのが不味かった。
この状況で、視線からしても俺が渡したのは確定。
これがノアだったら。
壁一枚挟んで散々やってしまったし。
呆れられるレベルで済んだかも知れないのだが。
多少回復していた株。
今回の件で、盛大に暴落したらしい。
間男と浮気者ってどっちが上なのだろうか?
そんなどうでもいい思考が浮かぶ。
最後の最後にちょっとしたトラブルはありつつも。
ま、それも俺らしいか。
逃げるようにドラゴン便に乗り込む。
「じゃあ、また今度」
全員から、白い目を向けられつつ。
ふわりと。
軽い浮遊感を感じる。
行きと同じ、飛ぶ瞬間ですらほぼ揺れを感じない。
流石、バカ高いだけあるな。
下を見ると、ノアとフィオナが手を振ってくれていた。
呆れられてはいるんだろうが。
何度目だよって話だしな。
2人とも、既に慣れっこなのだろう。
ソレもどうかと思うが。
そもそも、一夜を共にした仲である。
この場にふさわしくなかっただけで、物自体に文句はないはずだ
問題のメスガキは、そっぽを向いていた。
チラチラと見てはいる様だが、2人のように笑顔で見送る気にはならないと。
そんな様子。
まぁ、これは全面的に俺が悪いかもしれない。
大きく手を振り返す。
3人が豆粒になり、王都全体を空から見下ろす。
今回の暴動。
その傷跡のいくつかも確認出来る。
外の景色を眺めながら、昨日買い溜めた酒を軽く一杯。
うん、実に贅沢なひと時だ。