ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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蛇足
春風


 この世界に転生して、早36年。

 特にこれと言った出来事があった訳でもないのだけれど。

 何だかんだ。

 前世で死んだ年齢も超え。

 最早、異世界での生活がこれまでの人生の過半数を占めた。

 ここまで来たら、俺も立派な異世界の住人である。

 

 そんな記念すべき?日からしばらくが過ぎ。

 これまで36年間特筆すべきこともなかったのだ。

 突然何かが起こるはずもなく。

 良く言えば平穏に。

 悪く言えば淡々と月日が経過して行った。

 

「んっ、っ、んんん~~」

 

 ぼんやりと目を開けると見慣れた天井。

 まぁ、自宅なので当然である。

 

 寝惚け眼を擦りつつ、上半身をのそりと起こす。

 ここ最近は、目覚めた後もベッドでぬくぬくと惰眠を貪る事の多くなっていた俺だが。

 今日は不思議とすんなり起きれそうな予感。

 特に予定がある訳でもないのに。

 軽く深呼吸してみて直ぐに察しが付いた。

 息が白くない。

 水蒸気が水滴に変わる季節は終わったらしい。

 出るのは少しCO2とH2O多めなだけの一見透明な空気ばかり。

 いつの間にか冬は明け、春の息吹を感じる時期になった。

 

 ベッドから降り、窓の外を眺める。

 建物の屋根に積もっていたはずの雪は消え、それどころか一帯を見回しても陰になっている部分に少し残っている程度。

 街全体を白銀に染め上げていたインクはいつの間にか飛んで行ってしまったらしい。

 道の脇。

 ちょっとした芽が姿を表し、街の景色に緑の差し色を加える。

 息吹を感じると言うよりもうすっかり春だ。

 

 仕事なんてのモノは憂鬱でしかないのだが。

 こう変化を肌で感じられるとなると、出勤の足も多少は軽くなる。

 少なくともその道中は。

 まぁ、目的地につけば結局テンションは下がるのだけど。

 我ながら贅沢な悩みだ。

 俺がやってる仕事なんて大した労力も掛からないと言うのに。

 前世からの刷り込みか、もしくは俺が怠け者なのか。

 

 ……

 

 何事も答えを求めるのは野暮って物だ。

 あやふや。

 それでいいじゃないか。

 うん。

 決して、不都合な事実をから目を背けたいと言う訳ではない。

 

 寝巻きから着替えつつ、自然と視線がベッドの方へ向く。

 枕が左側に寄って置いてある。

 どことなくさっきまで俺が寝ていたであろう跡もその直列上に残っていた。

 このベッドはシングル。

 しかも、昨日は俺1人で寝ていたのだが。

 変な癖がついてしまったらしい。

 ま、そう悪い物でもないか。

 睡眠に何か支障をきたしてる訳でもあるまいし。

 チートボディーのおかげか、多少のことで腰を痛める事も無いのだ。

 前世でもこの能力があればどれだけ楽だった事か。

 

 部屋着を脱ぎ捨て、適当に普段着を身に纏う。

 外に出た。

 雲ひとつない青空。

 風も暖かく、春風(しゅんぷう)という奴だろうか?

 実に、気持ちのいい天気だ。

 

 空気が美味い。

 別段、田舎やら森林に来た訳でもなく。

 俺は基本この街で生活しているのだが。

 素直にそう感じる。

 

 特に急ぐ必要も無い。

 のんびりと、冒険者ギルドへと足を進めた。




祝、書籍化決定!

第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞しました。
読者の皆様、ご愛読ありがとうございます。

本日より『ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者』更新を再開します。
と言っても、主に蛇足的なお話なので過度な期待はご容赦ください。
もうしばらく続く予定なので、変わらずのご支援よろしくお願い致します。
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