全身に風を感じつつ、あっという間にギルドへ到着。
1週間前とは比べ物にならない人だかり。
最近徐々に増えてきてはいたが、ついに今日爆発したかって感じ。
ここ数日で一気に暖かくなったからね。
そりゃ、こうなるか。
多分、この時期が年間で一番ギルドの利用者が多い気がする。
冬の間。
これまでの蓄えを切り崩しながらギリギリで暮らしてた冒険者もかなりの数居るだろうし。
雪解けとなれば真っ先に仕事に向かう人ばかり。
きっと働きたくて仕方なかったのだろう。
俺には縁の無い感情。
まぁ、流石に縁は無くとも容易に想像ぐらいつくが。
別に冬の間も一切仕事が無い訳では無いのだ。
職場を選ばなければ。
街の中でも、建築やら道の整備などの力仕事は一年中求人を出してるのを見るし。
冬真っ只中は雪かきみたいな仕事もある。
この街はそこまで雪がひどい訳じゃないけど、降る時は降るからね。
貴族やら商人の家の屋根の雪かき。
押し潰されたら困るじゃん?
命を守るお仕事である。
ただし、人の生き死にには代償が付き物。
業務としては落ちれば大怪我、最悪亡くなる様な高所で自分の足場を崩すって内容。
作業中の事故件数はお察し。
命の価値が平等では無いので問題になる事も無い。
そんなこんなで、なんとか街の中で稼ごうとはしていたと思うけど。
それで生活できるならねぇ。
鼻っから冒険者などやってないって人間がほとんどだろう。
生活の足しにはなっても、蓄えを増やすほどの所までは行かない。
結局ジリ貧である。
それに、そんな人間が増えるからか。
冬はどう考えても労働環境悪化するのに日当据え置きが多いのだとか。
THE、悪循環。
需要と供給が経済の原則とはいえ。
流石に可哀想な気もする。
後は、スラムの人間なんかもいるか。
厳しい冬を乗り越え冒険者以上に困窮してるのは想像に難くない。
今の時期。
雪に埋まってたお陰で人目につかず成長した薬草。
それが草原に顔を出してる唯一の期間。
危険な森に入る必要もない、特になんのスキルもなくても稼げる。
正に、書き入れ時なのだ。
戦闘はできないが、この時のためだけにF級の冒険者カード持ってる人間も多いだろう。
いや、別に個人で売り捌いても良いのだけど。
知識ないと危ないからね。
平気でカモられたりとかしょっちゅうである。
そりゃ、上手く出来るならその方が中抜き減って儲けは増えるのだろうが。
そんな人間は初めから商人でもやって暮らしていける。
多少手数料取られるとしても、知識の無い人間はギルドにまとめて渡すのが安牌。
その結果、この有様である。
珍しく受付に列まで作って、何十分待ちだ?
大した規模の街じゃないからね。
普段は無縁なのだけど。
ま、この時期ばかりは仕方ないわな。
「あ、おじさん!」
列に並ぼうと最後尾を探してギルド内を少し彷徨っていた所。
声を掛けられた。
誰かと思えば、受付嬢である。
駆け寄ってきた。
おいおい、自分の持ち場を離れて良いんか?
普段と違う。
この惨状だ。
1人欠けるだけで大事な気も……
「仕事はどうした、仕事は」
「おじさんの中での私の評価どうなってるんです? ちゃんと真面目に働いてますからね!」
受付を思いっきり離れてるように見えるが。
彼女の言い分では今も仕事中との事。
確かに、よくよくみてみれば受付は他の職員で埋まっている。
流石にこんな混雑してる状況で離れたりはしないか。
別の仕事やってるらしい。
まぁ、そこそこ偉いらしいからな。
この前も受付達に指示出してリーダー的な事やってたし?
忙しい時期だからこそ。
現場以外での仕事をこなしてるって感じか。
はえ〜。
ノアなんかは分かりやすかったけど。
受付嬢も。
どうやら、俺の周りの人間は順調に出世して行っているらしい。
俺だけ何も変わらず。
また、同じような一年を過ごすのだろうか……
ちょっと寂しい様な。
恥ずかしい様な。
複雑な心境だ。
ま、足を引っ張るほど落ちぶれちゃいない。
そして今更改善する予定も無い。
「はい、これ」
「え?」
「いいから、さっさとサインしてください」
「あ、あぁ」
そんな事を考えていると。
さっと、何やら見覚えのある用紙を差し出された。
薬草採取の依頼書である。
俺のサインする部分だけが残され。
他は既に記入済の書類。
「列飛ばして、こんな事していいのか?」
「おじさんだけ特別です」
「Dランクを特別扱いねぇ」
「何ですか?」
「周囲から見たらいろいろな意図を妄想されそうな行為だなぁ〜と」
「……うるさいです!」
怒られてしまった。
静かに怒鳴るという高等技術。
ノアとは違い、そこそこ羞恥心はあるらしい。
アイツは自分が英雄視されてる街で突然女装までやったからな。
レベルが違う。
とは言え、恥ずかしいのにこういう事はしちゃうのが。
まぁ、受付嬢らしいと言えばらしいか。
一応愛情表現なのだろうな。
なんと言うか、愛情が狡い。
泥棒が盗んだ指輪でプロポーズするのに近い感覚。
「そんな事言うおじさんにはもうあげませんよ?」
「ごめんって、冗談だって」
「はいはい」
「本当、ありがとね」
んで、なんだかんだ言いつつ受け取るのが俺である。
ありがたくはあるしな。
列に並ぶ時間をスキップできる。
大幅な時間短縮である。
空いた時間で何する訳でもないのだが。
仕事に関係する時間、これは短ければ短いほど良いのだ。
「おじさんって、いっつも依頼書読み込んでますよね」
「癖だからね」
「ふーん」
「……別にお前の事疑ってる訳じゃないよ?」
「分かってますって」
「そう?」
「まぁ、私もどちらかと言えば読み込むたちですし」
流石に、結構長い付き合いである。
受付嬢の事は信頼しているのだがいくらでも方法はあるからね。
……いや、受付嬢の事も信用はしてないかもしれない。
信頼はしてるのだ。
信頼した上で、信用ならんと思っている。
平気で連帯保証人とかにしてきそうな。
そんな嫌なリアルさがある。
魔法とか関係なく、いつかえげつない契約結ばされそう。
もはや2人で一緒だからいいよね的な感じで。
うん、全然あり得るな。
2人の共同財布的な価値観である。
完全な言いがかりであるが。
この妄想に現実味が出てしまう所。
受付嬢の持ち味だ。
書類の問題ないことを確認し、サイン。
受付嬢も軽く目を通し、特に問題なかったのだろう。
そのまま受注証明の用紙を渡してくれた。
冒険者が受注後に書く書類もあったはずだが。
どう言う訳か。
すでに記入済みのものが出てきた。
いいのかそれ?
ま、バレなきゃ犯罪じゃないって言うしな。
「一応、気をつけてくださいね」
「あいよ〜」
ただの挨拶と化してる心配の言葉に。
適当な返事をして、半サウナ状態と化したギルドを抜け出す。
春だからまだマシだったけど。
夏だったら、オタク雲みたいなの出来てた説。