ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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春風 6

「おーい。鑑定、終わりましたよ」

 

 ん?

 

 どうも変な方向に思考が逸れた。

 机に視線を落とす。

 書類と、金。

 いつの間にか受付嬢の作業も終わってたらしい。

 にしても、本当に手際いいな。

 

「あんがとさん」

「ぼーっとして、何か考え事ですか?」

「いや」

 

 パワハラだとか、アルハラだとか。

 頭の中で受付嬢の事を好き勝手言ってた訳だが。

 そもそも、口に出してはないからね。

 ここは黙秘。

 わざわざ自白する奴も居まい。

 

 シュレディンガーの猫ってやつ?

 バレたら怒られるのが分かり切ってるのだ。

 俺もそこまでアホじゃない。

 証拠不十分にて無罪放免である。

 

 目が合った。

 見慣れたジト目を向けられる。

 ……何故バレたし。

 

「おじさんは相変わらずですね」

「違うって」

 

 一応形だけ否定はしてみたものの。

 信じては貰えてなさそう。

 まぁ、普段の言動からしてこんなんだからね。

 何考えてたのかはともかく。

 その方向性は、察しもつくだろう。

 

 俺って分かりやすいらしいし?

 受付嬢に限らず。

 ノアやら嬢やら色んな相手に筒抜けな気がする。

 俺のプライバシーが……

 

「なら、別の依頼受けようか考えてたとでも?」

「んな訳」

 

 絶対気づいてるくせに。

 騙されたフリして、ちくちく攻めて来やがって。

 

 そもそも、何故そうまでして俺に討伐依頼を受けさせたいんだか。

 疑問でしかない。

 以前までの受付嬢ならギリ分からなくもない。

 担当の俺がランクアップでもすれば多少の評価に繋がったかもしれないし。

 ただ、もう出世コースに乗ったのだ。

 担当してる冒険者のランクがDからCになったところで、ねぇ。

 どの程度影響があると言うのか。

 もはや、あまり受付もやらなくなったぐらいである。

 

「残念です。ついに養ってくれる気になったのかと思ったのですが」

「養うって誰を!?」

「それはもちろん私をです」

「お前、十分稼いでるだろ」

「おじさんは女心が全然分かってません」

「何が?」

「いいですか、女の子は皆んな誰かに養って欲しいと思ってるのです」

「……いや、それは女心じゃないと思うぞ?」

 

 つまり俺に討伐依頼を受けさせて。

 収入増やして。

 養ってもらおうと。

 その腹つもりで押してたって事らしい。

 

 そんな恐ろしい計画があったとは……

 初耳である。

 

 確かに、人養うなら薬草採取だけじゃ無理だわな。

 一般論から考えて。

 俺なら多分可能。

 1日の労働時間が増えるか休日が減るかって影響はありそうだが。

 言い換えればその程度である。

 じゃあ養うかと聞かれれば、それはNoだけど。

 

 俺も養って貰えるなら養って欲しい側だし。

 全然Win-Winじゃない。

 まぁ、実際の所それはそれで面倒事増えそうでもあるから。

 いざそのチャンスがあっても断る様な気もするが。

 自由も好きだからね。

 金は欲しいけど拘束は嫌いなのだ。

 労働と変わらない。

 なら、最低限自分で稼ぐのが一番合ってはいる。

 

 ってか、そもそもこの話も冗談半分なのだろう。

 ずっと担当してるのだ。

 別に薬草採取だけで人養えるぐらい稼げるの受付嬢も分かってるだろうし。

 養って欲しいからと討伐依頼を勧める必要も無く。

 圧倒的に安定してる側の彼女がわざわざ俺に養ってもらう理由もない。

 どう考えても、ねぇ。

 給与面やら待遇面を含めて受付嬢の方が高いはずで。

 しかも出世街道真っ只中である。

 今更、人に養って貰おうとか。

 少なくとも、そんな思考の人間の行動ではないな。

 

 これが平のギルド職員だったら。

 討伐依頼を複数こなし、冒険者がcランクに昇級したとして。

 不安定ではありつつもある程度余裕も持てる様になり。

 そこでプロポーズとか。

 なんて事も成立するのかもしれない。

 

 ずっとギルドで飲んだくれてると偶に聞く話だ。

 こなせば昇級という依頼。

 この依頼から帰ったらその時は結婚しようと職員に告白してるヤツ。

 死亡フラグにしか聞こえない台詞回し。

 実際、死亡フラグでしかない。

 試験も兼ねた一個上のランク向けの依頼。

 ただでさえ危険なのに。

 こんなこと言った以上失敗はあり得ない。

 結果、無理して死亡率も跳ね上がる。

 愚かだと思うが。

 一種の憧れのような語りかたをしてる職員も見かけた事あるし。

 共通認識なのだろう。

 ギルド職員、冒険者共に。

 まぁ、受付嬢がそんなロマンチストな訳ないと思

 

 ……うん。

 

「?」

 

 ふと、受付嬢と目があった。

 首を傾げられる。

 

 やめだやめだ。

 気にしたところで、そもそもそんな甲斐性のある人間でも無いのだ。

 どうにもならない事はどうにもならない。

 それが全てだ。

 

 それに、多分今更だしな。

 向こうももうそんなつもりはないのだろう。

 仕事ぶりから言ってもそうだし。

 ノアの事も知ってるし。

 俺がそんなタイプじゃない事も理解してるだろうし。

 関係を持った後。

 完全に酒の勢だったとはいえ。

 あれをダシに使って色々迫る事も出来たろうに。

 そうする事も無かった。

 だからまぁ。

 気にするのは自意識過剰だ。

 

 鑑定も終わってるのに長いこと受付占領するのも悪い。

 さっさと金を回収して。

 今日もぱーっと、飲むとしますか。

 

 あれ?

 

 やっぱり、想定より金が多い。

 いや、そんなびっくりするほど多いわけじゃないのだけど。

 採取して来た量に比べて。

 落ちてないのか?

 これ、先週と変わらないぐらいで買い取ってる?

 例年より高いな。

 毎年、冬が高くて。

 春になると金額が落ちる物なのだが。

 何故今年に限って例外に……

 

 需要と供給の話だ。

 あれだけ大量に人がいたらね。

 そりゃ供給過多にもなるし。

 当然、買取は落ちる。

 

 薬草はかなり保存の効く方だけど。

 そもそも、冷蔵やら冷凍技術含め保存技術が未発達なのだ。

 魔法で維持は可能だが。

 維持費かかるし。

 ポーションに加工してもそれは同じ。

 ゲームじゃないんだ。

 無限には持たない。

 むしろ、消費期限が短くなる場合も。

 

「おじさん、どうかしましたか?」

「いや、なんか薬草の買取がこの時期にしては高いなと」

「あ、気づいたんですね」

「……何その含みのある言い方」

 

 意外とでも言いたげな。

 こちとら、薬草採取しかしてないんだから。

 気づくに決まってんだろ!

 

 俺のイメージは大体分かった。

 酷い物である。

 まぁ、鈍いことは今更否定も出来ないけどさ。

 仮にも結構体重ねてる訳なのだが。

 それでいいのだろうか?

 ちょっとした疑問ではある。

 

「どこかの貴族様が大量に買い込んでるみたいで」

「へぇ、戦争でも起きるんかね」

「……」

「え、何?」

「多分おじさんのせいだと思いますけどね」

 

 俺のせい?

 貴族が薬草を大量に?

 

 何の話だ。

 

「もう忘れたんですか?」

 

 ……あ、そゆこと。

 そういえば応接間で話した事あったわ。

 例のポーション。

 あれを探すために兵士を動かしてて。

 街の外だしな。

 となれば薬草は必須か。

 

 そりゃ、相場も上がりますわ。

 

 にしても酷いな。

 何でこれがすぐに出てこないのか。

 受付嬢の俺へのイメージ。

 完全にその通りだわ。

 

「本当、おじさんって適当に生きてますよね」

「羨ましいか?」

「一緒にいるとこっちまで気が抜けちゃいます」

「それ褒めてるの?」

「さぁ。でもまぁ、これでこそおじさんです」

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