「あ、ロルフさん。お久しぶりです」
ん?
おばちゃんに呆れられつつ、軽い小言を貰い。
いつも通りギルドの隅で飲んだくれてた所に声を掛けられた。
視線を向けると若い男。
誰?
と言うか、俺に何の用だろうか。
「……お、おう」
まぁ、おそらく知り合いのはず。
親しげに話しかけてきたし。
何より、思いっきり久しぶりって言ってるからな。
ただ……
俺の記憶力はやはり残念な事になってるらしい。
「もしかして、忘れられちゃいました?」
「いや」
ちょっと待て。
今、思い出すから。
心当たりがない訳ではない。
見覚えはあるのだ。
名前こそ今のとこ思い浮かんでいないが。
すぐそこ。
喉元まで出掛かってる気もする。
それに、ノアの一件で俺の事を一方的に認知してる人間こそ増えた。
が、交友関係の狭さは相変わらず。
何年も前のことを引きずってるなんて一部例外を除けば、多少考えれば分かる範囲だと思うのだけど。
この世界に転生してきて36年も経ってこれかと。
少々悲しい事実を再認識。
しかし。
今はそんな話はしていないと、一旦その現状からは目を逸らす。
現実逃避?
うっさい。
せっかく気持ちよく酒を飲んでいるのだから。
考えたくない事は考えない方針なのだ。
男の格好から見て、おそらくは冒険者なのだろう。
そもそもここギルドだし。
他の選択肢なんて。
それこそ、ギルドの職員か依頼出しに来た人ぐらいしかないし。
その手の人間には見えない。
とは言っても、だ。
俺は普段パーティーも組まずにソロで薬草採取に明け暮れ。
冒険者の知り合いもノア以外ほぼ皆無なのだが。
……
あ、あぁ。
あいつか。
「馬車の護衛やってた」
「え、本当に覚えててくれたんすか!?」
「まぁな」
ギリギリセーフ。
思い出せた。
俺の頭もまだまだ捨てたもんじゃないな。
あの時の青年。
ギルドで軽く絡まれて。
その後、死にかけてた所にポーション飲ませて盗賊と戦わせた奴だ。
なんかこれだけ羅列するとアレだな。
意趣返しにやったみたいな。
一応、あの時は彼と気づかなかったから関係はないのだけど。
しかし、名前が出てこないのも当然である。
だって知らねぇし。
いや、一回冒険者カード見せてもらった気もするが。
あの時はランクアップしたか何かで。
チラッと見ただけ。
それで覚えられるなら苦労はしない。
普通なら出てこないレベルの関係値。
俺の狭い交友関係、彼は別にその内側に居る人間じゃ無い。
話したのも数回とかそれぐらい。
ただ、青年からの好感度は一方的に高いらしい。
覚えていたのもそのせいと言うか。
後ろの危機。
いつかギルドで会った時、ノアの代わりとか言い出したアホ。
あの一件のせいもあって記憶に残っていた。
手には依頼書らしき物。
どうやら、長蛇の列に並んで依頼を受注し。
まっすぐ出ればいいのに。
俺を見つけて声を掛けに来たらしい。
変わった奴め。
相変わらず慕ってくれてる様子。
覚えてたのが嬉しかったのか。
なんなら、さらに好感度上がってそう。
……ってか、マズくね?
悪寒が。
あの時と違って攻略済みの城。
防御力ガタ落ちである。
「ちょっ、なんでここでどっか行こうとするんですか」
咄嗟に席を立ちこの場を離れようとするも。
回り込まれてしまった。
ま、酒片手にのそりと立ち上がればそりゃそうなるわ。
相手は仮にも冒険者である。
「そのつもりは無いからな!」
「??」
一応、牽制してみたものの。
分かってなさそう。
頭にハテナを浮かべ、キョトンとした反応。
そもそもの話。
別に青年自体はそういう趣味でもないのだろう。
うん。
俺への好感度が高かったから。
噂を聞いて。
命の恩人だから何でもしますよと。
そう言うことだ。
おそらく。
多分。
きっと。
エロ同人でしか聞かない理屈である。
これが女の子のセリフだったら万々歳だったのだが。
残念な事に青年である。
彼がTS。
いや、せめて男の娘になってくれたら……
何か、アレだな。
我ながら毒されてる自覚はある。
ノアのせいだ。
性癖の幅がガバガバに。