ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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春風 8

「あ、ロルフさん。お久しぶりです」

 

 ん?

 

 おばちゃんに呆れられつつ、軽い小言を貰い。

 いつも通りギルドの隅で飲んだくれてた所に声を掛けられた。

 視線を向けると若い男。

 誰?

 と言うか、俺に何の用だろうか。

 

「……お、おう」

 

 まぁ、おそらく知り合いのはず。

 親しげに話しかけてきたし。

 何より、思いっきり久しぶりって言ってるからな。

 ただ……

 俺の記憶力はやはり残念な事になってるらしい。

 

「もしかして、忘れられちゃいました?」

「いや」

 

 ちょっと待て。

 今、思い出すから。

 

 心当たりがない訳ではない。

 見覚えはあるのだ。

 名前こそ今のとこ思い浮かんでいないが。

 すぐそこ。

 喉元まで出掛かってる気もする。

 

 それに、ノアの一件で俺の事を一方的に認知してる人間こそ増えた。

 が、交友関係の狭さは相変わらず。

 何年も前のことを引きずってるなんて一部例外を除けば、多少考えれば分かる範囲だと思うのだけど。

 この世界に転生してきて36年も経ってこれかと。

 少々悲しい事実を再認識。

 しかし。

 今はそんな話はしていないと、一旦その現状からは目を逸らす。

 

 現実逃避?

 うっさい。

 せっかく気持ちよく酒を飲んでいるのだから。

 考えたくない事は考えない方針なのだ。

 

 男の格好から見て、おそらくは冒険者なのだろう。

 そもそもここギルドだし。

 他の選択肢なんて。

 それこそ、ギルドの職員か依頼出しに来た人ぐらいしかないし。

 その手の人間には見えない。

 とは言っても、だ。

 俺は普段パーティーも組まずにソロで薬草採取に明け暮れ。

 冒険者の知り合いもノア以外ほぼ皆無なのだが。

 

 ……

 

 あ、あぁ。

 あいつか。

 

「馬車の護衛やってた」

「え、本当に覚えててくれたんすか!?」

「まぁな」

 

 ギリギリセーフ。

 思い出せた。

 

 俺の頭もまだまだ捨てたもんじゃないな。

 あの時の青年。

 ギルドで軽く絡まれて。

 その後、死にかけてた所にポーション飲ませて盗賊と戦わせた奴だ。

 なんかこれだけ羅列するとアレだな。

 意趣返しにやったみたいな。

 一応、あの時は彼と気づかなかったから関係はないのだけど。

 

 しかし、名前が出てこないのも当然である。

 だって知らねぇし。

 いや、一回冒険者カード見せてもらった気もするが。

 あの時はランクアップしたか何かで。

 チラッと見ただけ。

 それで覚えられるなら苦労はしない。

 

 普通なら出てこないレベルの関係値。

 俺の狭い交友関係、彼は別にその内側に居る人間じゃ無い。

 話したのも数回とかそれぐらい。

 ただ、青年からの好感度は一方的に高いらしい。

 覚えていたのもそのせいと言うか。

 後ろの危機。

 いつかギルドで会った時、ノアの代わりとか言い出したアホ。

 あの一件のせいもあって記憶に残っていた。

 

 手には依頼書らしき物。

 どうやら、長蛇の列に並んで依頼を受注し。

 まっすぐ出ればいいのに。

 俺を見つけて声を掛けに来たらしい。

 変わった奴め。

 相変わらず慕ってくれてる様子。

 

 覚えてたのが嬉しかったのか。

 なんなら、さらに好感度上がってそう。

 

 ……ってか、マズくね?

 悪寒が。

 あの時と違って攻略済みの城。

 防御力ガタ落ちである。

 

「ちょっ、なんでここでどっか行こうとするんですか」

 

 咄嗟に席を立ちこの場を離れようとするも。

 回り込まれてしまった。

 ま、酒片手にのそりと立ち上がればそりゃそうなるわ。

 相手は仮にも冒険者である。

 

「そのつもりは無いからな!」

「??」

 

 一応、牽制してみたものの。

 分かってなさそう。

 頭にハテナを浮かべ、キョトンとした反応。

 

 そもそもの話。

 別に青年自体はそういう趣味でもないのだろう。

 うん。

 俺への好感度が高かったから。

 噂を聞いて。

 命の恩人だから何でもしますよと。

 そう言うことだ。

 

 おそらく。

 多分。

 きっと。

 

 エロ同人でしか聞かない理屈である。

 これが女の子のセリフだったら万々歳だったのだが。

 残念な事に青年である。

 彼がTS。

 いや、せめて男の娘になってくれたら……

 

 何か、アレだな。

 我ながら毒されてる自覚はある。

 ノアのせいだ。

 性癖の幅がガバガバに。

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