ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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春風 9

「ってか、何か用事あったんじゃないの?」

「あ、そうでした」

 

 話が変な方向に行きかけたが、修正。

 俺の方からおかしな方向に突っ走った説もあるけど。

 まぁね。

 これ以上続いても困る。

 

 そもそも、くだらない想像。

 話通じてなかったし。

 ただの被害妄想でしかなさそうなので。

 そんなことはなかった。

 って事で解決。

 ノアは端っから例外なのだ。

 

 これで用事なんてないとか言われたら黄色信号灯っていた気もするが。

 実際、それ自体はあったらしいし。

 セーフ。

 俺の当てにならない直感も、たまには正解を引けるらしい。

 

「これ、見てください!」

 

 何やら見せたい物があった様子。

 ……なるほど?

 

 手に持っていた依頼書。

 そんなのを俺に見せてどうするのかと一瞬思ったが。

 オーガの文字。

 はぇ〜。

 この街から少し離れた村での目撃情報ね。

 

 暖かくなってきたし。

 冬の間、大人しくなっていた魔物の動きも。

 徐々に活発化して来たって所か。

 

 とりあえず、薬草採取では無いと。

 俺予備軍の連中とは違うらしい。

 ま、だとしたら。

 それこそこんな所で油売ってる余裕ないからな。

 完全に時間との勝負だし。

 

 にしても、オーガってあのオーガだよな。

 その強さはゲームやらアニメによってマチマチだけど。

 この世界では結構強い。

 ドラゴン相手には数段落ちるが。

 それでも、上級冒険者が相手にする獲物だ。

 

 こいつ上級だったっけ?

 違った気がする。

 確か、この前会った時はCランクになったとか何とかで。

 自慢気に冒険者カード見せてきてたし。

 

 この依頼を受けるって事は……

 

「ランクアップまで、もう一息なんです!」

「いや凄いな」

「へへ、頑張って来た甲斐がありました」

 

 嬉しそう。

 

 わざわざ俺に見せに来たのも納得。

 そりゃ、知り合い見かけたら見せたくもなるだろう。

 改めて依頼書を見るとどうも指名依頼らしい。

 それも期間が普通より長め。

 なるほどね。

 この依頼、いわゆる見極めって奴か。

 

 この世界の冒険者、別にランクアップの為の試験とかある訳じゃないのだ。

 俺がそんなの受けるはずないし。

 なのに、Dランクやってることから分かるように。

 ただ依頼をこなしてるだけで。

 向こうが相応しいと認めたら勝手に上がる。

 とは言え、上級冒険者となるとそう簡単にぽんぽん上げるわけにはいかないからね。

 俺みたいな下級とは違うのだ。

 信用も影響力も。

 下手な奴を上級冒険者にすると今後のギルドの威信に関わってくる。

 

 言っちゃえば、実質的な試験。

 その者が上級冒険者に相応しいかの確認のため。

 上のランクの依頼が指名依頼で来るのだ。

 断ってもいいが。

 その場合は当然ランクアップ不可。

 これが冒険者達の間で見極めと呼ばれている。

 

 凄いな、この依頼を達成すれば青年もBランクか。

 一個違いだが。

 CランクととBランクの差はデカい。

 いや、CランクとDランクの差もデカいのだが。

 そことは意味が違うと言うか。

 Cランクってのは冒険者として一人前。

 生活にも困らないし、家族だって養える。

 ただ、Bランクとなると。

 冒険者って枠を一つ個飛び越えた存在になるのだ。

 

 ここのギルド長が元Bランクだからね。

 そういう事だ。

 ただの冒険者ではなくなる。

 貴族並みとは言わないまでも。

 かなりの、社会的なステータスまで獲得する。

 

 順調に夢への道を進んでるらしい。

 英雄への道を。

 仲間の死を乗り越えて。

 

「いつ出るんだ?」

「街道に雪が残ってる場所も多いらしいんで、それでも数日中には」

「そうか」

 

 危険な依頼だ。

 以前は不幸で仲間が死んだが。

 今回は違う。

 端っから命懸け。

 

 冒険者の依頼なんて全て命懸けではあるのだけど。

 ランクが足りない状態での受注。

 普段の依頼とはまったくその意味が異なる。

 

「……あれだ、ちょっと飲むか?」

「へ?」

「昇級の前祝いだ。ま、大したものじゃなくて申し訳ないが」

「いえ、嬉しいっす。ありがとうございます!」

 

 これも何かの縁ってやつだ。

 

 ギルドの酒場で多少飲んだ所でね。

 大した額じゃない。

 俺の事を慕ってくれてる後輩。

 彼が、これから命懸けの依頼に行くのだ。

 ちょっとした景気付け。

 少しぐらい奢ってやってもいいだろう。

 

「おばちゃん、こいつにもちょうだい」

「はいよ」

 

 青年が酒を受け取る。

 乾杯。

 昼間っから2人して飲むのもどうかと思うけど。

 偶にはいいだろう。

 こんを詰めすぎても良くないしな。

 英雄。

 酒と女は付きものだ。

 

 いや、こいつが女遊びしてるのかは知らんが。

 Cランクの時点でモテるだろうし。

 今遊んでないなら、その気がないってだけだろう。

 下手なおせっかいを焼く必要は無い。

 

 ……うん。

 

 別に、ノアの一件を引きずってるとか。

 そんなことは無い。

 

「せっかくだし、お前らも飲もうぜ!」

 

 勢いよく一杯目を飲み干した青年。

 どこぞかに呼びかける。

 その方を見ると。

 少し離れた場所にパーティーメンバーが居たのだろう。

 さっきまでの様子を見守ってたらしい。

 

 ってか、仲間ほっといて俺の方来てたのかよ。

 その気持ちも分からんでもないが。

 

 呼ばれた彼らはどうも苦笑い。

 まぁ、この時間から酒のお誘いだしな。

 Bランクを目前にした。

 だらしない冒険者とは違うのだ。

 

 俺がきっかけ作っておいて何だけど。

 自分中心。

 そこは変わってないらしい。

 

 ま、英雄ってのはそんなもんか。

 得てして我の強い物だ。

 仲間が自分のせいで死んだと責めて。

 その上で自我が強い。

 いいじゃないか。

 英雄向きのメンタルである。

 

「はいはい」

「ったく、リーダは仕方ないんだから」

 

 呆れた顔を浮かべつつ。

 腰を下ろした。

 

 仲間に恵まれる才能もあるらしい。

 英雄の一つの条件だ。

 1人で出来ることには限界があるからね。

 本人だけで言えば。

 以前見た時、そこに届くかどうか怪しかったけど。

 けっこう期待してもいいのかもな。

 

 盗賊の方が英雄に近かったかもとか思ってたが。

 勘違いだった説。

 ま、俺に人を見る目なんてないしな。

 未来のAランク冒険者に酒代欲しさに詐欺働くような節穴である。

 信用に足る訳が無いのだ。

 

 ……

 

 ただ、にしても早い気もするけどね。

 この前冒険者カード見せてもらったのがCランクへのランクアップの時でしょ?

 そこから数ヶ月。

 しかも、活動しにくい冬を挟んでである。

 

 ミスリルの件盛大にやらかした訳だが。

 魔力の制御を外部ツールに任せられる事の意味、これを軽視していた。

 ポーション。

 これにももしかしたら付随した効果あったのかもしれない。

 先の世界。

 これを体験出来るのが、想像以上にデカいとか。

 

 鮮明に強い自分をイメージ出来る。

 足りない部分も、そして努力の先にある力も。

 確かに、ちょっと凄そうな気が……

 

 ま、二度と使わないのだから問題はあるまい。

 しーらね。

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