誠心誠意、しっかりと謝罪して。
どうにかお許しを得た。
「んじゃ、そろそろいい時間だし。また……」
「何逃げようとしてるんですか?」
「いや、待って。別に逃げてはない」
ちゃんと謝りはしたし。
うん。
あまり、人聞きの悪いことを言わないで欲しい。
ただでさえ俺の評判は良くないのだ。
ノアとの一件以来、俺の知名度はかなり上昇。
この街じゃちょっとした有名人。
ってな状態ではあるのだが。
その知名度のほとんどが悪名と言いますか。
まぁ、街の英雄相手にあんな形で噂になったのだ。
歓迎されるはずもなく。
まだ刺されてこそいないものの。
いつそうなってもおかしくない。
……実際問題として。
時折、危ない視線を感じることもあったりなかったり。
ここは隅の方とはいえギルド内。
別に個室なんかじゃないし、周囲から丸見え。
現在進行形で視線を感じる。
そりゃね。
春になって冒険者も増えたし。
ただ飲んでる時でさえ視線を集めがちなのだ。
受付嬢に怒られてたら。
当然の様に注目も集まっちゃうわな。
そんな状況での受付嬢の発言。
これ以上評判が悪化するのは本当にマズい。
冗談じゃなく刺される。
「ふーん、本当ですか?」
「本当だって。単にもういい時間だから帰ろうかなってだけで」
「なら、どこか一緒に飲みいきましょうよ」
「うぐ」
「逃げたい訳じゃないなら良いですよね」
何とか納得はしてくれたらしい。
納得してくれたのか?
まぁ、いいや。
俺側が無駄に疑っても良いことなんて無いのだ。
そして、飲みのお誘いである。
以前とは異なる関係。
なんだかんだ、飲む機会もずっと増えた気がする。
誘い自体はいいのだ。
いいんだけど。
ただ、今日は時間も時間だからなぁ。
「いや〜、先約が……」
そろそろ、娼館の方に顔出す時間なんよね。
予約してる訳でも無いけど。
ほら、毎回だし?
俺のルーティーンでもあると言いますか。
でも、謝った矢先である。
これ断るのは誠意がないと言われそうな気も。
「知ってますよ、お姉様の所ですよね?」
一応、ぼかしてはみたのだが。
一瞬でバレた。
ってか、何がお姉様だよ。
ノアといい。
いつの間に妹分になったのやら。
そもそも、受付嬢の場合はほぼ年齢差もないよな?
完全に悪ノリである。
街の英雄様と未来の副ギルド長候補。
そこ2人妹分にして。
どんな娼婦だ。
もしかしたらこの街、将来は彼女に支配される運命にあるのかもしれない。
とんでもない成り上がりである。
……いや、末恐ろしいな。
「私も行きます!」
「仕事は?」
「バッチリ、終わらせました」
軽く腕まくりし、力こぶを見せる受付嬢。
別に力仕事でもない。
しなやかな腕だ。
どことなく間抜けに見えるが、実際仕事は出来るのだろう。
責任ある立場だからな。
流石に適当な事は言ってないと思う。
多分。
飲みに行こうだ何だと言ってたしな。
うん。
まぁ、たまにギルド長に見つかってドナドナしてるから。
100%の信用は無いのだけど。
元々、飲みに誘われることはあった。
関係を持ってから、多少強引になった気がする。
遠慮がなくなったのもあるだろうけど。
パターンがバレたせい。
他の知人も少ないし。
俺が先約って言ったらそれぐらいだからな。
行き先なんて全部バレているのだ。
娼館か、行きつけの居酒屋数軒の内のどこかか。
あとは自宅である。
これを断って。
例えば転移なんかで受付嬢のこと巻いて逃げたたとして。
すぐ特定されるのがオチ。
それでも、娼館に行くって時だけは。
遠慮していたのだが。
よくよく考えてみたのだろう。
初めての時、あの飲み会の後のホテルで嬢とは一緒だったのだ。
今更恥ずかしくもないと。
向こうも拒否らないし。
そんなこんなで遠慮する理由も消えたらしい。
退勤するから待っててと言い残し何処かへ。
これを置いてくほど鬼ではない。
というか、後のことが怖い。
酒場のおばちゃんも、娼館の嬢も、当然ノアも。
みんな繋がっているのだ。
俺の人間関係の狭さの弊害がこんな所に……