「おじさん、お待たせしました」
すぐギルド出るのに、待ち時間にもう一杯飲むのもどうかと思い。
席を立ったまま。
出入り口の近くでボケーっと待ちぼうけ。
数分もしない内に受付嬢が戻ってきた。
ワンチャン、ギルド長に捕まって戻ってこないかと思ったが。
そんな事はなく。
ただ、息がちょっと荒い。
走ったのか?
別に急かしたつもりはなかったんだけど。
「にしても、ちゃんと待っててくれたんですね」
「いや、置いてく訳ないだろ」
「どうでしょうか」
「お前は俺を何だと思ってるんだ」
「……」
「俺があの状況で人のこと置いてく様な人間に見えるか?」
「それは、もちろんです!」
当然かのように肯定されてしまった。
もしかしてだけど。
急いで戻ってきたのって、それが理由?
だとしたら不本意極まりない。
頭をよぎらなかったとは言わないが。
選択肢として。
無いと即断する程度には、実態から離れているのだ。
不当な評価である。
即刻、イメージの改善を求めたい所。
「そんな目で見られましても、自分の行動を振り返ってください」
が、俺のこの無言の訴えは。
無情にもあっさり切り捨てられてしまった。
信用が無い。
過去の行い……ねぇ。
正直、抗議出来るほどの自信は無い。
まぁ、お互い様か。
俺も受付嬢の事は信頼しているが信用はしてないからね。
だからこそ。
関係が長くもってるところもあるのだろうな。
そんなこんなで、チクチクと言葉のナイフで刺されつつ。
行く気満々。
準備も万端といった様子。
このままボロボロにはなりたくないし。
「んじゃ、行くか」
「はい!」
ギルドを出て、大通りを少し進み。
そこから裏路地へと入る。
本来、受付嬢みたいな人間が来るところではないのだが。
ついてくるって言うんだから仕方がない。
個人経営の飲み屋が何軒か並ぶ。
他は、おそらく連れ込み用であろう宿屋もいくつか。
沈みかけで薄暗くなったそらも相まって。
ギルド周辺とは一転。
かなりアンダーグラウンドな色が強い。
そのまま通りを進み、奥まった所。
既にいくつか過ぎたのとほぼほぼ同じような宿が一つ。
ここだ。
一見、何の変哲もない。
地味な店構え。
俺が日頃お世話になっている娼館である。
「やってる?」
「いらっしゃいませ」
見慣れた扉をくぐり。
店内へ。
娼館に女連れで入るのもどうかと思うが。
今更。
別に初めてって訳でもないのだ。
中に入ると、いつも通り黒服が出迎え。
にしても相変わらずだな。
外観と内装は本当にただの宿屋って感じなのに。
黒服の格好だけ。
やたらと良い生地の服着てやがる。
「いつものでよろしいでしょうか?」
「あぁ。ただ、連れが1人……」
「はい?」
俺の言葉に黒服が首を傾げる。
まぁ、普段の俺ならいつも通りとだけ言って。
そのまま。
鍵受け受け取って、部屋行っちゃうからね。
常連で、指名も基本固定だし。
他に話す事もないのだ。
「私とおじさん、2名の利用でお願いします」
後ろから、ひょっこりと顔を出す受付嬢。
おそらく黒服からは見えてなかったのだろう。
少しばかり驚き。
そして、顔を見て苦笑いである。
まぁ、何も言ってはこないのだが。
複数人プレイ。
ちゃんとそういうオプション自体はあるからね。
いや、基本はNGだし。
嬢も俺相手以外にはNG出しているらしいけど。
受付嬢のため。
ってか、元はノアの為だろうな。
ともかくその分金払うし。
メニューにある以上特に問題もない。
苦笑いは俺のせいだろうな。
ほら、常連だから。
いつものとか言われるぐらいだし。
顔も覚えられているのだ。
今までずっと1人で来てたのに。
それが、ノアやら受付嬢やら連れてくるようになって。
そりゃ困惑もするだろう。
ノアから数えれば、それなりの回数になる気もするが。
なんだかんだ1人で来ることも多いから。
間が開くせいもあってか、黒服はまだあまり慣れていないらしい。
初めは違和感も覚えるだろうけど。
そのうち慣れるさ。
まだこの反応なのは受付嬢ほど図太く無いからか。
いやまぁ、ここまで図太い人間もそう滅多にいないだろうし。
期待するのは酷だな。
とりあえず、ちゃんと接客はしてくれるし文句はない。
「えっと、ご指名の嬢は」
「勿論お姉様で!」
おい、受付嬢よ。
黒服相手に身内の略称を使うんじゃない。
しかもだ。
まだ数回しか来てない店で。
「いつもの娘です」
「……あ、はい。承知致しました」
混乱していたのか若干のタイムラグがあったものの。
無事処理された様子。
ちなみに、娼館の代金だが。
奢りはしない。
受付嬢に風俗奢るとか、ねぇ。
意味分からないし。
以前まで飲みの誘いをこれ理由に断ってた気もするが。
まぁ、風俗に受付嬢連れてきてる時点でお察し。
そもそもノアとの噂広まった時点で手遅れだった気もするけど。
ともかく。
今の俺に守るようなメンツなんて存在しないのだ。
後は、金理由に断ってくれるならね。
それで良かったんだけど。
残念。
受付嬢、そこそこ貰ってるから。
あまり負担には思ってなさそうな様子。
それに、割り勘じゃないしね。
いや、流石に。
俺が行きたくて着いてきてるって形だから。
増える分だけ。
追加料金だけ払ってもらってる。
ヒモになりたい訳じゃないのだ。
着いてくるのは良いけど、その分だけは負担してね。
今の所そんな感じで落ち着いている。
「迷惑かけてすいません」
「いえ、代金は頂いてますので」
「あはは」
この店には日頃お世話になっていて。
常連である。
いい関係築けてるのだ。
オプションに有る、メニュー通りの物とはいえ。
多少はイレギュラー。
別に迷惑をかけたい訳ではない。
「それに……」
「?」
「あの子も楽しみにしてるみたいで」
「なら、良かったです」
ま、お姉様とか呼んでるぐらいだしな。
仲は良好なのだろう。
こう言うお店って。
女の子のメンタル管理が一番重要だったりするし。
仲良い内は。
そこまで邪険にされる事もないか。