ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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親子 2

 宿の前で立ち止まって、なんとなしに下から全体を見上げる。

 

 周囲と比較して少し大きめな木構造の建築物。

 宿泊施設に温泉が付随してる形になってるからね。

 なんだかんだ、結構デカい。

 街で一番って訳でもないが、有数の規模だ。

 

 ……いやまぁ、デカいとは言っても。

 前世の都会に並んでいたような高層ビルとは違う。

 背は低く横に広いタイプ。

 見上げて首が痛くなる様な事は無いし。

 威圧感もそれほど感じない。

 どちらかといえば、落ち着いた印象が強いか。

 

 やはり、見ていて懐かしさの様な物が込み上げてくる。

 俺が普段行くような所は石造りの建物が多く、ここ以外だとあまり見ない様式。

 それもあり飽きもせずに湧き上がってくるのだろう。

 

 温泉街の場合、ここ以外も結構木造建築が多いのだけど。

 不思議とこの宿が一番琴線に触れる。

 

 別段、ここが特別和風っぽいって訳でもないと思うんだけどね。

 何故だろうか。

 それでも前世の面影を強く感じるのだ。

 

 にしても、そうか……

 

 雪がなくてもこれは変わらないらしい。

 いや、温泉の要素も相まって。

 ただ木造建築ってだけで和を幻視してるんだろうなってのは。

 元々そう思っていたのだが。

 

 ほら、普段俺が見てる外観って雪で隠されてたし?

 それもあって。

 見えない部分を勝手に補い。

 結果、既視感を加速させてるのかもなんて事も想像したりしていたのだけど。

 建物丸々見てもこうって事はそれは関係ないと。

 

 木造ってだけで和風要素なんてないのに。

 そう理解した上で改めて見ても、……妙な気分だ。

 本当に、温泉の力ってすごいんだな。

 

 それほどまでに、俺の日本人としてのアイデンティティの中核。

 心に根ざしていたらしい。

 

 まぁ、温泉としても。

 前世とじゃ匂いからして別物なんだけどね。

 パブロフだっけ?

 条件付けはバカにできない。

 俺の中で。

 この匂いと温泉はすでにがっちりと繋がっているのだ。

 

 転生してからの方が長いこと考えると。

 もしかしたら、硫黄よりこっちの方が結びつき強かったり?

 

 なんならこの和風ですらない木造建築も。

 そのうち、分類され直し……

 いつか単体で見ても似たような感情を覚えるようになるかもしれない。

 

 ……

 

 いや、あれだな。

 うん。

 あまり深く考えるのは辞めておいた方が良さそうだ。

 

「やってます?」

 

 宿の前でいつまでも突っ立ってるのも迷惑だろう。

 今の時期は、普段俺が来てる時と違ってほぼ貸切状態って訳にもいかないしな。

 別に寒気がしたとかそんな事はない。

 俺のSAN値は傷一つなく真っさらなままである。

 

 真冬でも営業してる宿が今日に限って休みなんてこともないだろうが。

 これは挨拶みたいなもので深い意味は無い。

 

「いらっしゃいませ」

 

 中に入ると、先ほどまで掃除していたのか。

 手を止めて箒片手に頭を下げる娘。

 綺麗な所作だ。

 

 貴族でもない、特別な教育も受けてないであろう宿のスタッフが。

 これも女将さんの教育の賜物なのだろう。

 

「……って、え!? もしかしてロルフ様ですか?」

 

 そう感心していたら、俺の顔を見て急に所作が崩れた。

 いや、うん。

 教育ってそう簡単にはいかないもんね。

 

 にしても、反応からして俺のことを知ってるっぽいが誰だろうか。

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