ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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親子 6

 俺の腰をがっちりホールドし、拘束してくる獣っ娘。

 動けそうにない。

 って言うか、逃さないと言わんばかりだ。

 

 視線を落とせば満面の笑みを浮かべていて、上目遣いの瞳と目が合った。

 ……可愛い。

 

 思わず、獣っ娘の頭に手が伸びる。

 一瞬ビクッと震えて。

 腰に回した腕に力が籠り、目を瞑ってしまったが。

 なで始めるとそれも弛緩した。

 

 耳がぴくぴくと動き、尻尾もゆらゆらと揺れて。

 見るからに嬉しそう……

 感情ダダ漏れで微笑ましい限りである。

 

「久しぶりだな、元気にしてたか?」

 

 見るからに元気そうではあるが。

 まぁ、久々に会った相手には定番の挨拶みたいなものだ。

 特に深い意図もなく。

 なんとなしに口に出した言葉ではあったのだけど。

 どうやら獣っ娘的には地雷だったらしい。

 

「……」

「?」

 

 一瞬黙ったかと思ったら、何かにハッとした様子で。

 分かりやすく表情が変わった。

 

 つい先程まで満面の笑みを浮かべていたのが。

 頬をぷくっと膨らませ。

 私、怒ってますと。

 これまた、感情全開で訴えてくる。

 

 しかし、再会して数分も経っていない。

 何か怒らせるような事でもしてしまっただろうか?

 勝手になでたのが良く無かったとか?

 

「遅いです!」

 

 色々な思考が脳内を駆け巡ったものの、その答えは実にシンプル。

 

 そうか、遅かったか。

 今日温泉街に来たのって、唐突に思いついて弾丸で来たから。

 これでも予定よりは早めに来てはいるんだけどね。

 真正面から苦情を言われてしまった。

 

 口を開いて、頬に溜めていた空気も一度解放されてしまった訳だが。

 また頬をぷくりと膨らませ。

 私怒ってますよと再度のアピールを欠かさない。

 

 その姿がまた愛らしくはあるのだけど。

 って、ここで揶揄うのは良くないよな。

 

「ごめん、待たせちゃったかな?」

「すぐ来るって言ったのに」

「一応、これでも早めに来たつもりだったんだけどね」

「ご主人様の嘘つき!」

 

 ちょっとだけ、こちらの頑張りも主張してみたのだが。

 更に怒られてしまった。

 ただの言い訳とも取れるし当然か。

 

 いやまぁ、頭をなでる手が振り払われることもないし。

 ちゃんと怒ってはいそうだけど。

 別に、キレてるってほどでもないのだろう。

 なでなでは別腹と。

 この獣っ娘、本当に可愛らしい生き物である。

 

 確かに、改めて考えると長いか。

 俺にとってはたかが数ヶ月って感覚だけど、獣っ娘からすれば数ヶ月もって事だ。

 ジャネーの法則だっけ?

 歳をとると時間が過ぎるのが早く感じると言う。

 

 生まれたばかりの赤ん坊にとって、一年は人生の全てだ。

 それが、小学校に入学する頃には人生の6分の1。

 成人する頃には人生の20分の1にまで体感時間が短くなる。

 俺の一年は36分の1。

 前世も合わせれば71分の1だ。

 獣っ娘の歳は知らないが、まず間違えなく10代だろうし。

 一年の長さがここまで異なる以上。

 そりゃ、俺と獣っ娘じゃ時間に対する感覚が違うわな。

 

 無論、これはあくまで単純計算したらの話。

 同じ様な日々を繰り返していれば時間は早く進み、逆に新鮮な日々を過ごしていれば遅く感じるとか。

 

 獣っ娘の場合、その影響もあるのかもな。

 環境が大きく変わったから。

 いつから奴隷だったのかとかそれ以前の環境とか詳しく知らないけど、変化したことだけは確かで。

 それもあって、余計に遅く感じたのだろう。

 

 俺も前世で働き始めた時。

 初めの数ヶ月。

 いや、まず1週間がかなり長かった記憶がある。

 

「多分、嘘は言ってないんじゃないかな?」

「本当ですか?」

「ロルフ様って普段冬しかこの街に来ないらしいからね」

「……え!?」

 

 俺と獣っ娘のやりとりを見かねたのか。

 スタッフの娘が助け舟を出してくれた。

 

 彼女の話に獣っ娘が驚いている。

 あれ?

 女将さんから俺の話を聞いてた的な事言っていたが、獣っ娘は初耳なのか。

 まぁ、別に常に話してる訳でもないだろうからな。

 スタッフの娘の方がこの職場長いし、不自然な事は無い。

 

 しかし……

 すぐ呼びに行くぐらいには会いたがってたっぽくて。

 把握してたなら、教えてあげそうなものだけど。

 

「その、冬まで来ないかもと伝えるのはあまりに可哀想だったので」

 

 あぁ、なるほどね。

 俺が疑問に思ってるのを察してくれたのか。

 聞くまでもなく。

 スタッフの娘が教えてくれた。

 

 この話を聞いて、ちょっとしゅんとなってしまった獣っ娘の頭をなでつつ。

 確かにこんな娘に残酷な真実を告げるのは可哀想だ。

 

 部屋入ってきた時は元気に見えたけど。

 その実、この数ヶ月間は結構寂しかったりしたのかもな。

 ドアがノックされてから獣っ娘が入ってくるまで若干のタイムラグがあったのも。

 これ、もしかしたら。

 気持ちの整理的な時間が必要だったのかもしれない。

 

 獣っ娘は奴隷なのだ。

 まだ若く。

 しかも、売れ残って寒空の下外気に晒されていた。

 

 奴隷に堕ちるまでの経験も、堕ちた後の経験も。

 その傷はそう簡単に消える物じゃない。

 

 不安にもなるか。

 また捨てられるかもしれないって。

 今度こそ死んじゃうかも、と。

 

 さっき、頭をなでようとした時。

 一瞬震えていた。

 俺の腰に回した腕にも力が入っていた、アレ。

 これも。

 その時のトラウマが刺激されたのか。

 

 それでも、一応は元気そうに振る舞えているのは。

 このスタッフの娘とか。

 女将さんとか。

 その他の宿のスタッフの方々にも感謝しないとだな。

 

 俺が別荘やら屋敷とか持ってなくて良かった。

 メイドとして、そこに1人で置いてたらと思うと。

 悪化してたかもしれない。

 

 この宿、獣っ娘を預けるには最適な場所だったのかもな。

 随分と自分勝手な話だと自覚してるけど。

 

「ご主人様、抱っこしてください!」

「おう」

 

 スタッフの娘の話のおかげか、獣っ娘も怒りを収めてくれることにしたらしい。

 俺の努力は認められた。

 いや、転移使えるんだからいつでも来れたじゃんと言われればその通りなのだが。

 それは言わないお約束である。

 

 腕を広げると、軽くジャンプして首に手を回される。

 抱っこしてるってより、しがみつかれてる感じだ。

 

 本当に懐いてるなぁ。

 死にそうなとこから助け出したから、あの時懐いてたのはまだ分かるけど。

 数ヶ月経ってもそのままなのか。

 

 この宿で働き始めて。

 女将さんやら、スタッフの娘やら。

 知り合いも増え。

 頼れる相手も出来たはずなのだが。

 

 スタッフの娘が俺を部屋に案内するなりすぐ呼びに行ったのを見るに、この数ヶ月ずっと会いたがってたっぽいんだよな。

 何でそんなに懐いてるんだか。

 

 こういうの刷り込みって言うんかね?

 いくら若いとは言っても、生まれたてって訳でもないし。

 そもそも、見た目からして鳥じゃなくて猫とか。

 それ系の獣人のはずなんだけど。

 

 ……猫にも刷り込みってあったりするのだろうか?

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