ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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親子 9

 獣っ娘を見送ったまま。

 視線を固定。

 開きっぱなしになっているドアから、何もない廊下を眺める。

 

 にしても、親子みたいか……

 この間宿に泊まった時。

 確か、2人が並んで気持ちよさそうに寝てる姿を見て。

 その時も似たような事考えてたんだっけ。

 

 ……

 

 ってな感じに、すでに懐かしさすら覚える記憶を思い起こしつつ。

 横から突き刺さる女将さんの視線を気づかないふりしてやり過ごそうとしていたのだが。

 

 まぁ、そんな真似が許されるはずもなく。

 一言で言えば無駄な足掻き。

 目が合った。

 どうやら、くるっと正面に回り込まれてしまったらしい。

 こんなの避けようが無いじゃんね。

 

 意図的に目を逸らしたりしたら、どうなるか分かったもんじゃ無いし。

 一度合ってしまったものは仕方がない。

 嫌な予感しかしないが……、諦めて大人しく女将さんの言葉を待つ。

 

「……はぁ」

 

 お互い、しばらく見つめ合って。

 ため息をつく女将さん。

 

 はて?

 

 従業員2人を拘束して一緒になって遊んでた件で、何か言われるんじゃないかと身構えていたのだが。

 そんなことはなかった。

 ま、常識的に考えれば客の俺が怒られることでもないのだけど。

 俺って一応獣っ娘の保護者だし?

 丸投げして、たまに帰ってきたと思ったら仕事の邪魔してたとか怒られても全くおかしくない。

 

 よかった、よかった。

 一安心である。

 いや、これ本当に喜んでいいのか?

 

 今の女将さんのため息。

 それに、俺みたいな奴に流される様じゃってさっきの言葉からして。

 株が下がった結果。

 俺への期待も相対的に下がってるだけなんじゃ……

 

 女将さんの顔をまじまじと見つめてみるも。

 うむ。

 相変わらず、俺に表情から人の真意を読み取るなんて芸当は不可能。

 嫌な予感こそするが。

 何考えてるかなんて事は結局分からないのだし。

 分からない物は無いも同じである。

 

「それにしても珍しいですよね。ロルフ様がこの時期にいらっしゃるなんて」

「……ちょっと、あの娘の様子を見に来ようと思って」

「あら、そうだったのですね」

 

 何を言われるのかと、一瞬身構えたものの。

 なんて事ない。

 視線から感じていた圧も消え、柔らかな雰囲気だ。

 いつもの女将さんに戻ったっぽい。

 

 逃げるように、考えることを放棄していた訳だが。

 結局、許されたらしい。

 諦められたとも言うかもしれないけど。

 

 まぁ、下手に掘り返して藪蛇をつつく気はない。

 

「この街までは馬車でお越しに?」

「そ、昨日から乗りっぱ」

「道中いかがでしたか、なにぶん数日前までこの辺りは雪に包まれておりましたので」

「全然。むしろ、滅多にないレベルで平和だったかな」

 

 本当に何もなかった。

 盗賊どころか、魔物も出なかったし。

 

 ってか、何の話?

 

「及第点。という事にしてあげましょう」

「女将さん?」

「もし、今年の冬までいらっしゃらないとか。そんな愚かな行動を取っていれば容赦なく出禁にしていた所ですが……」

 

 !?

 

 消えていた圧が一瞬復活。

 すぐ霧散する。

 

 スタッフの娘が知ってたんだもんな。

 親子に似た関係性。

 獣っ娘、女将さんの事をちょっと怖がりつつもかなり懐いていそうだったし。

 生活の面倒も見て貰っているのだ。

 ずっと会いたがってたのとか、知らない方がおかしいわな。

 

 俺に懐いてくれているのは嬉しいのだけど。

 まさか、出禁の危機だったとは。

 恐ろしや。

 変な汗が出てきた。

 

 2人と遊んでたどうこうとか、関係なかったんだな。

 あのジト目。

 獣っ娘を置き去りにして悲しませたから、と。

 

 もしくは、預かったはいいが。

 後になって冷静に考えた時に丸投げされた事への怒りが湧いてきたのかもしれない。

 

「……色々と迷惑かけてすいません」

「そう思うんだったら、初めからあんな馬鹿な真似はしない事ですね」

「いや、ちょっと衝動的に」

「反省してます?」

「無論」

「ま、ロルフ様はそういうお人ですよね」

 

 しょうがない人、とでも言わんばかり。

 間違いなく馬鹿にされているが。

 やらかした事実がある以上、まるで否定出来ない。

 

 そもそも、俺の馬鹿な行動の結果。

 獣っ娘の面倒をここで見て貰うなんて事になった訳だからね。

 うん。

 頭が上がらなくなるのも当然ではある。

 

「あの娘、仕事はどんな感じに?」

「心配なさらなくても、よく働いてくれていますよ」

「良かった……」

 

 スタッフの娘との様子から。

 何となく、予想は出来ていたのだけれど。

 女将さんにそう言われると安心する。

 

 獣っ娘がちゃんと働けてることもそうだし。

 仕事の邪魔になってなさそうな事も。

 

 奴隷買ってきて、それを丸投げするっていう。

 ただでさえ迷惑かけちゃってるからね。

 同じ土俵ではないとはいえ。

 人件費は維持費ぐらいしかかからず、それなら多少仕事出来なくても宿にもプラスがあるだろうからって目論見もあって世話をお願い出来ているのだ。

 多少が全くになると、その前提条件が崩れてしまう。

 

 ……流石に、ね?

 何のメリットもないことをお願いは出来なっていうか。

 女将さんには散々世話になっているのだ。

 そういう事はしたくは無い。

 

「給料の要らない労働力っていいものですよね」

「あ、そのことですが」

「?」

「ちゃんとお支払いする事にしました」

 

 え、そうだったん?

 律儀な。

 払わなかったところで、誰も文句言わないだろうに。

 

 しかし、そうなると大丈夫か?

 どの程度の金額を払ってるのかは知らないけど。

 

 給料払って雇ってる時点で。

 俺の理論は破綻。

 他の従業員と同じような土俵で比較されることになるんじゃ。

 

 獣っ娘って……

 別に仕事で生きる技能を持ってる訳でもないし。

 いや、正確には持ってるか知らないってだけだが。

 見た目で買ったからね。

 詳しくないのだ。

 

 夢の労働力だって前提があったから心置きなく預けてられたのだけど。

 こうなると、途端に罪悪感が。

 

「あのー、生活費とかって渡した方がいいですかね?」

「大丈夫ですよ。まだ始めて短いので徐々にですが、従業員としてしっかり働いてくれてますから」

 

 なら、セーフか。

 

「そういえば、次回泊まりに来る時はあの娘のことロルフ様に付けるってお話だったのに申し訳ありません」

「……?」

 

 あ、そうだっけ。

 そういや、そんな話もあった気がする。

 

 獣っ娘、俺が来たときは優先的につけてくれるとは言ってたけど。

 すでに任せてる仕事もあるだろうからな。

 流石にぶん投げは困る、と。

 良いことなんじゃないか?

 つまりは、ちゃんとこの宿の戦力になってるって証明である。

 

 別に予約した訳でも無いし。

 それも、普段来ない様な時期に来て。

 文句を言うつもりはない。

 

 女将さんの言い方的に、任せてる仕事終わらせたら回してくれそうだしね。

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