黄昏てるうちに、いつの間にか結構な時間が経過していたらしい。
気づけば窓の外の日も落ち始め。
春になり青々とした景色に赤い光が差し色を入れる。
こんこん
ドアがノックされた。
もうそろそろかなと思っていた所に、ちょうどドンピシャ。
「はいはい、どうぞー」
開けると、そこには獣っ娘。
そういえば泊まりに来た時は彼女の事を俺の担当スタッフにしてくれるって話だったもんな。
実際の所、俺が急に来たもんだから。
獣っ娘には他の仕事を色々と任せていて言葉通りにもいかないと謝られて。
別に、その判断に何か不満があった訳でも文句を言った訳でもないのだけれど。
女将さんなりに最大限尊重はしてくれるつもりっぽい。
「ご主人様、失礼します」
制服に身を包み、仕事モードの彼女。
俺を見つけるなり取り敢えず突撃してきたのとはまるで別人である。
いや、あの時も一応仕事中だったと思うのだが。
そこら辺はどうなのだろうか?
少なくとも、今は澄ました顔して真面目なスタッフの仮面を外すつもりは無いご様子。
毎回突撃されるのも困り物だけど。
無いなら無いで少し寂しい。
それに、真面目に働いてる獣っ娘を見てちょっとした好奇心が刺激されていたり?
まぁ、流石にね。
仕事の邪魔をするつもりはないが。
どうやら夕食を運んできてくれたらしい。
良い香りが室内に漂う。
なんだかんだ、今日はまともに食事をとっていないからね。
この匂いだけで食欲が刺激される。
……腹が鳴った。
結構大きめに。
体内の振動だけでなく、音が空気を震わせ改めて自分の耳から聞こえるレベル。
獣っ娘からの視線を感じる気がする。
ニヤニヤと。
さっきまでの、真面目なスタッフの仮面はどこへ行ったのだろうか。
別に、乙女でもあるまいし……
腹の音を聞かれたところで本来どうでもいい事ではあるのだが。
何故か。
獣っ娘相手だと思うと普通にちょっと恥ずい。
慕われ方の問題かね、謎に見栄を張りたくなってしまう。
そんなわけで、絶妙に羞恥心を刺激されつつ。
獣っ娘も仕事の手を止めてまで俺の事を揶揄ってくるつもりは無いらしい。
テーブルの上に順調に食事が用意されていく。
……あれ?
一人前にしては量が多い気がする。
何より置き方が不自然だし。
対面にもうひとセット。
これ、俺だけの飯じゃなくて獣っ娘のもって事だよな。
「自分の分も持って来たのかい?」
「はい! ……あの、ダメだったでしょうか」
俺の問いに嬉しそうに返事をした後。
急に不安になったらしい。
上目遣いで、多少声を震わせながらお伺いをたててきた。
そんな震えなくても、別にその様な意図は無かったのだが。
でも獣っ娘の気持ちは分かる。
貴族とかは同じ場で食事を取らないっていうしな。
奴隷相手はもちろん、使用人なんかでもそうだったはず。
ただ、俺は貴族じゃないし。
そもそも獣っ娘って一応奴隷だけど、そんなはっきりした関係でも無いからね。
気にするつもりはない。
「全然。一緒に食べよう」
「ご主人様、ありがとうございます!」
声色も明るいが、それ以上に耳がぴょこぴょこと動いている。
やっぱり獣人って分かりやすくていいな。
不安が解消されて準備に戻った獣っ娘ではあるが。
背中を向け作業する姿に目が惹かれる。
耳だけじゃなくて、制服から出している尻尾もふりふりと左右に揺れていた。
見るからに楽しそうだ。
「でも、仕事の方は大丈夫なのか?」
「終わりました」
「そっか。よく頑張ったな」
自慢げに宣言したと思ったら。
俺の側までとてとてと寄って来て、頭を差し出してきた。
?
俺が頭にハテナを浮かべていると。
差し出していた頭が、俺の腹の方にぐりぐりと押し付けられて……
やめてくれ。
ただでさえ腹が減ってるのに。
あぁ、なるほど。
頭をなでてやると満足気な表情を浮かべた。
可愛い奴め。
俺と一緒に夕食を食べたくて。
多少、無理して終わらせてきたのかもしれない。
お疲れ様だ。
この手の接客業って、頑張ったからと言って早く終わる物でも無い気もするが。
そこは女将さんも気を遣ってくれたのだろう。
……
これ、女将さんにもの凄い迷惑かけてないか?
ちょっと不安なんだけど。
獣っ娘に視線を向ける。
ニコニコと、嬉しそうな笑みを浮かべて作業をしている。
目が合いコテっと首を傾がられた。
彼女が普段から頑張ってることを願おう。
奴隷の手柄は主人の手柄である。
迷惑をかけてる分以上に働いてくれてれば、収支はプラスという事で。
色々と多めに見てくれるかもしれない。
まぁ、女将さん相手には通用しなさそう理屈だけど。
それなら、頑張った獣っ娘へのご褒美ってことで。
こっちなら通用しそう。
そもそも女将さんの言動的に、始めからこのつもりな気もするが。