獣っ娘の事を眺めてるうちに用意が終わった様子。
ってか、仕事終えて業務時間外なら俺も手伝ったほうが良かったかもな。
今更だけど。
スープ、と言うよりはお鍋だろうか?
卓上にふたセット。
鍋と言えば複数人で一つの物をつつくイメージがあるが。
今日の夕飯は一人鍋らしい。
……少し懐かしいな。
複数人でつつくイメージがあるとか言いつつ、俺って一人暮らし長かったからね。
適当に材料入れて出来合いのスープで煮るだけのワンパン料理。
社畜時代は頻繁に作っていた記憶がある。
忙しい独り身の現代人の味方的な印象あったけど。
そういえば、江戸の頃にも一人鍋の流行があったとか聞いた事あるし。
この世界もそうなのかも?
もしくはなるべく備品を統一しておきたいって宿側の事情か。
ほら、この宿って1人で泊まる客もそれなりにいるから。
何にしても、美味しそうだ。
一人前って考えるとかなりの具沢山。
じゅるり。
早速、と思ったのだが……
「あ、ちょっと待っててください」
「……へ?」
直前でお預けをくらった。
目の前にこんなに美味そうなお鍋が並べられた状態での待てとか、生殺しである。
せっかくだし、温かいうちに食べたいのだけど。
冷めちゃうよ?
お鍋とか冷めたら良さ半減どころじゃない。
あのー……
実は、食事の準備任せて1人横でボケっとしてたの。
怒ってたりします?
いやいや。
そんな、カップルの喧嘩じゃないんだから。
お預けをくらい固まっていると。
俺を置いて、獣っ娘が1人部屋から出ていってしまった。
ごめんて。
……少し、奴隷相手だからって舐めてたかもしれません。
すいませんでした!
ほら、夕飯一緒に食べるって話だったじゃん?
冷めちゃうから。
などと脳内で1人あわあわしていたのだが、何でもないようにすぐ獣っ娘が戻ってきた。
「えっと……。ご主人様、どうしたんですか?」
俺の様子にハテナを浮かべる獣っ娘。
どうやら、単にまだ夕飯の用意が終わってなかっただけらしい。
……いや、本当どうしたんでしょうね。
完全な一人相撲である。
穴があったら入りたいとはまさにこの事。
持って来たのは、コンロかな?
と言ってもガスコンロとかそういう物では無い。
旅館とかで。
鍋の下に固形燃料が置いてある器あるじゃん。
おそらく、あの類の物だ。
まぁ、この世界に固形燃料なんて便利な物はない。
あるのかもしれないが。
少なくとも、俺が知る範囲には存在しない。
「外側、かなり熱くなるそうなので。なるべく触れないよう気をつけてください」
「了解」
どうやら炭火を使うらしい。
この為に、わざわざ客一人一人炭を用意するって……
流石。
食へのこだわりを感じる。
前世じゃ別段珍しい事でも無かったけど。
囲炉裏がある様な飲食店ならともかく、宿でこのタイプは滅多に見ないぞ。
本当に凄いな。
事前に火は通してあるっぽいし。
この炭は、あくまで温度を保つための物なのだろう。
「お待たせしちゃってごめんなさい」
「いや、全然。あまりに美味しそうだからついフライングしちゃって」
それでは、いただきます!