ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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死闘 4

 森に入ってしばらくの時が経った。

 獣っ娘の様子を見守りつつ、木々の合間を縫いながら少しずつ森の奥地へと進む。

 

 同じとこで延々とやっててもね、獲物はそうぽんぽんと獲れる物じゃない。

 小動物だってそこまで考えなしではないのだ。

 近くに捕食者の気配を感じればそこから逃げるぐらいの行動はするし、周りの同族が逃走すればそれに同調する個体も多い。

 だから、数匹狩ると必然的に狩場を移す必要が出てくる。

 

 もっとも、それで森の奥へと来たのは俺個人の都合だが。

 別にね。

 この理由だけなら、森の浅いとこをぐるっと回ってるだけでも何の問題ない訳で。

 

 目的は、源泉周りの鉱物採掘である。

 今日は時間に余裕もあるし、せっかく森に入るならついでにと思いまして。

 

 ただ、あの辺りは地下から有害な噴出物が出てたりもするから。

 周囲の植物が枯れちゃってたりとか、その影響で他の生き物もあまり近寄らない環境らしく。

 進むたびに獲物の気配が減って行った。

 

「……」

 

 獣っ娘と目が合う。

 中々に気まずい思いをした。

 

 文句こそ言われなかったものの、かなり不満げにされてしまい。

 数分だけと。

 時間を貰ってお目当ての鉱物の採掘を済ませた。

 

 いや、すまんね。

 

 狩の為にこの森に来たのだ。

 その目的を無視して、わざわざ採掘の為に生き物の少ないエリアに行った俺が悪いのはその通り。

 でも、これ温泉街に来たときは毎回やってて。

 俺ってめんどくさがりだからさ。

 この為にもう一回森に入るのが面倒でついでに出来るならとやっちゃったんだよね。

 

 そんな個人的な寄り道も終え。

 今は帰り道。

 

 来たルートを戻ってもいいのだが。

 この短時間で、逃げた獲物が戻って来てるか分からないからな。

 別ルートでの帰宅である。

 

 帰り道がまるまる空振りました、とか。

 もしそんなことになれば、悲しいったらないからね。

 別に、俺への不満を少しでも逸らしたいなんて。

 そんなことは全く考えてないよ?

 

 これ、普通は絶対辞めた方がいいんだけどね。

 開拓も何もされてない。

 人の手がほぼ入っていない森の中。

 道らしい道は皆無。

 あるとすれば何が通ったのかも分からない、痕跡程度の獣道ぐらいだ。

 

 こんな行動、遭難させてくれと言ってるようなものである。

 

 ま、俺の場合いざとなれば転移でも何でもあるからね。

 そこまでせずとも、魔眼の範囲広げれば普通に温泉街まで効果範囲に入るだろうし。

 迷う心配は皆無なのだが。

 

 安心して、荒れていない新しい狩場を得られるという。

 この方法のメリットのみを享受しに行けるってわけだ。

 

 ……ん?

 

 一応、警戒にと。

 森に入ってから発動しっぱなしにしていた魔眼。

 そこに少し大きめの魔力反応が引っかかった。

 

 と言っても、それだけ。

 俺たちの進行ルート的に途中でかち合う訳でもないし、向こうから接近してくる様子もない。

 そもそもこちらの存在に気づいてすらいないのだろう。

 だから、特に何をするつもりも無かったのだけど。

 

「! ご主人様。少し待ってください」

「どうした?」

「向こうに、強そうな生き物の気配がします」

 

 獣っ娘がその存在を察知したらしい。

 

 嗅覚なのか。

 それとも、他に獣人特有の感覚でもあるのか。

 どちらにしろよく気づくものだ。

 

 昨日まで、狩の経験なんてほぼ皆無な童貞卒業したての新米のくせに。

 この分野に限ってはレンジャー顔負けじゃないか?

 

 獣っ娘って、耳やら尻尾やらかなり猫っぽいもんな。

 この世界で前世の常識をそのまま適用して良いのかは少し微妙なところだが。

 猫科といえば。

 前世じゃ肉食獣の代名詞みたいなとこあった。

 

 虎やらライオンは勿論のこと。

 猫も立派な狩人。

 ペットが野生化した個体が問題になって、世界の侵略的外来種とかにランクインしてるのを見た覚えがある。

 

 根っからのハンターってこった。

 

 本人の経験不足を補うどころか。

 それを有り余って、人との比較に限らず獣人としても優れた能力を発揮しても不思議ではない。

 

 どうする?

 と、聞こうと思ったのだが……

 それまでもないな。

 

 やる気満々。

 闘争本能に火がついてしまったらしい。

 

 勝ちたい!

 

 小動物を一方的に狩るだけ、それでも十分楽しそうにしてたけど。

 それだけじゃ不十分だったご様子。

 獣としての闘争を求める本能がこれでは満たされなかったと。

 

 あんまり危険な事はして欲しくないんだけどね。

 でも、やりたい事はなるべく叶えてあげたい。

 強い存在に挑戦したい?

 結構な事じゃないか。

 それに、いざとなればなんとかなるという自信もある。

 

 何、ドラゴンやらオーガを相手にする訳じゃないんだ。

 魔力だけで判断するのは危険だが。

 ゴブリンよりはよっぽど強いが、オークとどっこいとかそれぐらい。

 

 この森の魔物にしてはかなり魔力が大きいのだけど。

 それだけと言ってしまえば、そう。

 無論、初心者が相手するには荷が重いが。

 Cランク冒険者程度まで行けばなんとか対処出来なくもない相手だ。

 

 ……ま、問題ないかな。

 

 勝てるかどうかは怪しいところだけど。

 希望が無いわけじゃない。

 そんなにやりたいなら、やらせてやってもいいだろう。

 

 俺が無言で頷くと、獣っ娘は迷いなく魔物の元へ向かう。

 その少し後をついて進む。

 

「っ、」

 

 順調に魔力の発生源の側へと到着した獣っ娘。

 息を飲み、全身の筋肉を強張らせる様にして固まる。

 

 見えた。

 

 まだ数十メートルほど距離がある。

 森の中だから視界も良くない。

 でも、苦労する事なく見つける事が出来た。

 

 豚とか猪に似た魔物だ。

 風格あるな。

 魔力とかそういう問題じゃなくて、存在感があると言うか。

 おそらく、この一帯の支配者なのだろう。

 

 鼻息荒くこちらを威嚇している。

 ナワバリを犯した侵入者への怒りで頭が一杯といった様子。

 向こうもやる気らしい。

 

 こっわ……

 

 猪ですらたまに人死出るってのに。

 こいつの体高。

 俺と同じとは言わないが、獣っ娘よりは大きいんじゃないか?

 

 四つ足でこのサイズだ。

 体重差は数倍、下手したら十倍近いかもしれない。

 

 チラッと獣っ娘の様子を確認するが。

 若干気圧されてはいるものの、引くつもりはないらしい。

 凄いな。

 

 チート能力も無いってのに、よくこんな化け物相手に身一つで立ち向かう気になる物だ。

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