ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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死闘 6

 巨大猪の側から動く様子はない。

 その必要がないとでも言うように、どっしりと地面を踏み締め敵を見据えている。

 

 獣っ娘は、ナイフの切先を向けたままジリジリと距離を詰める。

 ただ、正面は避けたいらしい。

 先の攻防で軍配が上がったのは獣っ娘の方ではあるが、突進の威力を見て肝も冷えたのだろう。

 

 間合いの管理。

 

 お互いに探りつつ。

 己が有利になる立ち位置を求めて、睨み合いが続く。

 

 さっき、初めてこの巨大猪を見た時に感じたその身に宿る魔力以上の存在感。

 この睨み合いが成立している理由がそれか。

 ここら一帯の支配者であり、相応に生きてると見た。

 

 かなりの長寿。

 下手したら、転生前含めた俺よりずっと長くこの森で生きてきた可能性もある。

 

 まぁ、これはただの想像だが。

 どちらにしても、ただの獣じゃないってことは確かだ。

 そこそこ賢いらしい。

 

 最初、獣っ娘相手に単に突っ込んできたのも。

 それが一番手っ取り早いから。

 策を弄せない訳じゃない。

 細かいこと考えるより、圧倒的な力でねじ伏せるほうが効率がいいってだけ。

 

 張り詰めた空気。

 

 それを壊し、先に動いたのは獣っ娘。

 巨大猪の側面を狙うように地面を蹴って一気に加速する。

 

 そして、待っていたかの様に巨大猪が応じた。

 簡単に回り込ませるつもりはない。

 巨体に似合わない身軽さで敵を自身の射程に収め、同じく地面を蹴って迎え撃つ姿勢。

 

 ただ、獣っ娘の動きに少し違和感を覚える。

 彼女にしては動きが鈍い様な。

 昨日今日と経験にないことを続けて疲れが出たと言われればそうなのかもしれないが。

 その手の物とは少し違うような気が……

 

 それを抜きにしても、だ。

 このままぶつかればどちらが不利かは明白。

 

 ただでさえ質量差が大きい両者なのだ。

 そこに、速度まで加わった状態となれば恐ろしいことになる。

 獣っ娘も先の攻防でそこは十分理解してるはず。

 

 ……と、なれば。

 

 その上でこの行動を取る理由。

 狙いはその応用か?

 フェイント。

 おそらく、巨大猪とぶつかる直前で左右のどちらかに跳ぶつもりなのだ。

 

 上手く行けば先の再現になりうる。

 そして、あの失敗を踏まえた上で次は確実に仕留めるつもりなのだろう。

 でも、ただの獣相手ならともかくこの巨大猪相手となると。

 

 両者がぶつかる直前。

 巨大猪が蹄を思いっきり地面に突き立てた。

 

 足の動きをただ止めるのとは違う。

 地面に突き刺さった蹄が杭の役割をして。

 急停止。

 慣性を殺しきる。

 

 やはり、読まれていたか。

 その巨体を力づくで止めるとなれば自身にすらかなりのダメージがありそうな物だが。

 それを承知で仕掛けて来た。

 

 これじゃ左右のどちらに跳んでもフェイントにならない。

 隙を晒すだけ。

 

 だが、力で劣る相手に正面からぶつかる訳にもいかないし。

 後ろ下がるにはスピードを出しすぎた。

 嵌められたな。

 

 巨大猪の行動。

 リスクのある行為だが、それに見合うだけのリターンはあったってことだ。

 

 咄嗟に、獣っ娘は上に逃げる。

 

 読まれていたことを悟ったのだろう。

 左右のどちらもダメとなれば上。

 間違ってはいない。

 実際、巨大猪も不意を突かれたように一瞬反応が遅れた。

 

 ……でも、それだけだ。

 

 空中じゃ動けない。

 反応が遅れても対応できるから選択肢から外していただけ。

 こりゃ、獣っ娘の負けだな。

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