ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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死闘 8

 力なく横たわった巨体。

 

 忘れないうちに、首に刺さったナイフを抜き取る。

 回収完了。

 王都じゃメスガキに貸したまま忘れてて、気づいたらそれ使って大会出ちゃってたなんて事もあったからね。

 

 あれ、騒ぎにはならなかったけど。

 周囲にバレたらヤバいことになった可能性高い。

 

 ただでさえ、捕まったりなんだりと散々な目に遭ったのに。

 そこからもうひと波乱なんて……

 全部面倒くさくなった結果、いつの間にか王都が更地と化しててもおかしくない。

 

 いや、マジで。

 

「……あ」

 

 俺がナイフをしまうと、悲しそうな顔をする獣っ娘。

 どうも一度使っただけでかなり気に入った様子。

 

 ミスリル製だからね。

 高級品だ。

 切れ味抜群で使い勝手も良かったのだろう。

 

 魔力と親和性が高いって性質も。

 獣っ娘自体は魔法こそ使えないが、別に魔力がない訳じゃない。

 元々高い親度に加え。

 俺が作ったミスリルって通り道が出来るのかより魔力を通しやすくなるらしく。

 本能的に、心地よく感じたりするのかもしれない。

 

 まぁ、あくまで貸しただけだ。

 向こうもそれを理解してるから悲しそうな顔をするだけ。

 

 ふと、獣っ娘の視線が巨大猪に戻る。

 

「この魔物って、二人で仕留めたって事でいいんですよね?」

「ん? そうだな」

「って事は、売れたお金って私も貰えたりとか……」

「いいぞ。主に戦ってたのはお前だし、なんなら多めにあげようか?」

 

 急にどうした?

 

「……」

 

 俺の言葉に何かを考え込む獣っ娘。

 金が欲しいのか?

 いまいち話が見えない。

 

「あの! ご主人様、さっきのナイフ買いたいんですけど」

 

 あー、なるほど。

 そんなに気に入ったのか。

 

「無理だな」

 

 ミスリルのナイフなんて持ってたら目立ってしょうがない。

 トラブルにしかならん。

 これもある。

 ただ、それ以前の問題としてだ。

 

 そもそも金額が全然足りない。

 

 このナイフ、表面をコーティングしてあるとかじゃないからね。

 ナイフ全体が純粋なミスリルで作られている。

 

 剣とかに比べれば、そりゃ量は少ないけどさ。

 それでもかなりずっしりとした重さ。

 多分、然るべき場所に持っていけば目の飛び出る様な値がつくはず。

 

「今まで貯めたお金も……」

「無理だって」

 

 変に希望持たせても仕方ないしときっぱり断ると、見るからに落ち込んでしまった。

 

「すまんね」

「いえ。そんな貴重なもの貸していただいて、ありがとうございます」

 

 ……ダメっぽいな。

 別に駄々をこねる気は無いようだけど、明らかに気落ちしている。

 

「そんなに気に入ったの?」

「それもありますけど、初めての命懸けの狩だったので」

「なるほど」

 

 そういう事ね。

 

 マサイ族なんかじゃ、成人への通過儀礼としてライオンを狩る文化があったとか。

 今はやってないとかいう話も聞いたけど。

 それはどうでもよくって。

 もしかしたら、この世界の獣人にも同じような伝統があるのかもな。

 

 そして、その儀式を共に戦い抜いた相棒。

 気に入ったとか以前に手元に置いておきたい気持ちも分からなくはない。

 

「こっちならいいよ」

「え?」

 

 巨大猪の腹に刺さっていたナイフ、それを引き抜き手渡した。

 

「性能は落ちるけど、記念品にはなるんじゃない?」

 

 じっと見つめて、少し頬が緩んだ。

 嬉しそう。

 

「二人で勝ったんですもんね」

「そゆこと」

 

 これぐらいなら別に良いだろう。

 普通のナイフだし。

 一本、護身用に持たせておくのも悪くない。

 

 宿屋でもなんだかんだ上手くやってるみたいだし。

 変なトラブルを起こしたりはしない、はず。

 多分。

 

 適当にアイテムボックスから投げたナイフではあるが。

 持った感じそれなりの品だ。

 武器を買うことなんて滅多にない以上、どこかで拾った物だろうけど。

 例の盗賊団とかだろうか?

 あそこ、結構規模デカかったしな。

 

 金は使い切ったものの、武器なんかはそのまま残っているのだ。

 盗品とか混じってそうだし。

 売って面倒ごとになっても困るからね。

 完全に、アイテムボックスで肥やしと化していた。

 

 それ渡して良いのかって話だけど、距離あるし大丈夫でしょ。

 そもそも、本当にそこで拾った物かどうかも不明だしな。

 

「でも、武器持ったからって一人で森入っちゃダメだからね」

「はい!」

「あの猪より強い魔物も出るかもしれないし」

「……はい」

 

 俺の言葉に少し想像したのだろう。

 さっきの巨大猪と、一人で相対する姿を。

 

 武器の性能も劣る。

 俺が手を出さなきゃ、間違いなく突き上げも喰らってただろうし。

 吹き飛ばされ。

 いや、肉体が耐えきれず即肉片になっていた可能性も。

 

 ま、居ないと思うけどね。

 

 ただの脅しだ。

 あんなレベルの魔物が跋扈してたら、こんな街作れる訳ない。

 誰がそんな場所に観光しにくるんだって話。

 

 ふと、魔眼に一つ大きめの反応が映る。

 いちいち魔物ごとの魔力の反応を覚えてたりなんてしないが、今さっきまで見てたからね。

 十中八九、同種であろう。

 

 フラグかな?

 

 向こうがこちらを認識するより早く。

 遠距離から、魔力の刃で真っ二つにしてやった。

 

 戦闘音に反応したのか。

 それとも、最後の鳴き声を聞き助けにでも来たのか。

 運が悪かったな。

 

 せっかくの勝利の余韻、水差すのもなんだしね。

 獣っ娘に気づかれないよう処理を済ませた。

 

 しかし、やはりと言うべきか。

 先の個体より魔力が少ない。

 それ以上に、威圧感と言えるような雰囲気もなかった。

 同種であっても明らかに格が違う。

 

 こいつなら、あのフェイントも通用してたかもな。

 運が悪かったのは獣っ娘も同じらしい。

 

「何かありました?」

「いや、なんでもない。一応ポーション飲んどきな」

「あ、ありがとうございます」

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