ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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死闘 12

 市場を後にし、少し歩いて大通りから一本奥へ入った。

 

 控えめな看板が一つ。

 無ければそこらの民家と区別がつかないような、本当になんてことない建物。

 ふと、見逃してしまいそうな外観である。

 

 隠れ家的とでも言うのだろうか?

 あまり商売っ気のない、やらしくない面構えのお店だ。

 

「やってる?」

「いらっしゃい! ……お、あんたはこの前の」

 

 扉を開けると、店主の威勢のいい声が響く。

 

 内装も外観に近い物を感じる。

 変に気取っていないと言うか、必要な設備こそ揃えているもののそれ以外の装飾的な要素は少ない。

 自然体って言葉が一番似合うかもしれない。

 

 にしても、この店主……

 どうやら俺のことを覚えていたらしい。

 

 一度来たっきりもう数ヶ月は経ってるはずだけど。

 前回が閑散期だったから、お客さんが比較的少ないのもあって印象に残りやすかったりしたのだろうか?

 あまり観光客をあてにしてるお店には見えないが。

 

 それよりは、例のおっちゃんに連れられて来たからって説のが有力か?

 既に常連みたいな感じになってたし。

 温泉街って冬は雪のせいで来るのも出るのも大変だからね、あの後もしばらくこの街で過ごしてたはず。

 ……うん。

 どっちかというとその影響の方が大きそうだな。

 

「よく俺のことなんて覚えてたな」

「まぁな。今日はお一人かい?」

「人おぶってるのぐらい見えてんだろ、2人だよ」

 

 適当な軽口をたたく店主。

 そういうや、この前来た時もおっちゃん相手にこんな感じで絡んでいた覚えがある。

 

 店の雰囲気にしては随分砕けた接客な気もするが。

 逆に、こういうお店だからこそなんだろうな。

 

 一種の内輪ノリってやつだ。

 観光客ってより地元の人に愛されるお店で、客層に常連が多いからこそ。

 自然と生まれるお約束みたいな物。

 

「女連れとは、あんちゃんの良い人かい?」

「黙秘で」

「んな取り調べじゃないんだから」

「ま、見たまんま。背中で寝落ちするぐらいの関係性って事で」

「情報を出し惜しみするとは、憎いねぇ」

 

 ニヤニヤとした笑みを浮かべる店主ではあるが、実際のとこどう思われてるかは不明だ。

 さっきの流れの延長だしね。

 

 俺と獣っ娘じゃ年齢の差も結構ある。

 親子に見えてもおかしくない。

 流石にそこまでじゃないって思いたくもあるけど、この世界って前世と違って若くして子供を産む人がかなり多いからね。

 普通に、それぐらいの年の差なのだ。

 

 俺も女将さんと獣っ娘並べて親子みたいとか言ってたしな。

 そんなもんだ。

 適当言ってるだけの可能性も高い。

 

 後は、獣っ娘が獣人だからってのも一つか。

 この辺りじゃそもそも見かけないから、どういう扱いかはちょっと不明瞭だけど。

 王国全体としては、概ね評判が良くない。

 

 戦争してたから仕方ないんだけどね。

 雇用が無いなんてのは序の口、娼館でもあまり客がつかないとかなんとか。

 そんな話を耳にする。

 無論どこにでも物好きな人間は居るし、獣っ娘ぐらい容姿がいいと話変わってくる気もするが。

 あくまで一般的なお話として。

 

 ……というか、

 

「そういや、確認もせずこいつ店に入れちゃったけど。問題だったりする?」

「ん?」

 

 向こうが気付いた上で触れていないのなら良いのだが。

 後でトラブルになっても困る。

 

 獣っ娘の方へ視線を向けると、白い布が目に入った。

 そういや、体拭いてそのまま髪をタオルで包んでたんだっけか。

 これじゃ十中八九分かってないな。

 

 頭に巻いていたタオルをずらすと、そこからケモ耳が顔をのぞかせる。

 

「いや、獣人なんだよね」

 

 店主は予想外だったらしく、驚いた表情。

 温泉街じゃほぼ居ないしね。

 にしても、やはり獣っ娘の事は気付いて無かったらしい。

 

「んなの、問題ねぇよ。客は客だ」

 

 驚かれこそしたが、拒否するつもりはない様子。

 ……良かった。

 

 正直、そこまで心配はしてなかったけど。

 普通の飲食店だからね。

 異世界だから和食ってのとはちょっと違うものの、前世で言う小料理屋みたいなものだ。

 ドレスコードのある様なレストランとは違う。

 

「獣人……、その娘って向こうの宿で働いてる子か?」

「こいつのこと知ってたのか?」

「見たのは初めてだけどな。この前、市場で女将さんと話した時よく働く良い子だって」

「へぇ」

「そんな子をいじめたってなったら、後々なんて言われるか」

「いや、本当よくしてもらってるみたいで」

 

 獣っ娘、本気で女将さんに気に入られてるよな。

 それに保険の意味もあるのだろう。

 

 獣人っていう、ただでさえ不利な立場にあるからこそ。

 評判を上げておかないと。

 いざって時、よく知らない“獣人”と良い噂を聞いた事のある”あの娘“じゃ心象が全然違う。

 

「会うたびに自慢げに話してくるもんだから、少し鬱陶しかったけどな」

「んな事言っていいのか?」

「おっと、今のは軽い冗談だ。内緒な」

「分かってるって」

 

 しかし、店主と女将さんが知り合いだったとは驚きだ。

 

 けど考えてみれば、温泉街ってのはそんな大きい街でもない。

 そこで同じく店を営んでいるのだ。

 形態こそ違うが。

 宿でも料理は出すし、女将さんのところは普通の宿より食事にこだわってるからね。

 仕入れ先も必然的にかぶってくるのだろう。

 

「ってえと、考えなしってのはあんちゃんの事か?」

「え?」

「なんでも突然獣人の娘を連れてきて、そのまま女将さんに押しつけていったとかで」

 

 ……

 

「いやー、ご飯楽しみだなー」

「おい!」

「今日のおすすめは?」

「ったく雑な話の逸らしかたしやがって。ま、誤魔化されてやるよ」

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